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18話―行列騒動

 

 アルターさんも落ちつきを取り戻したところで、意気揚々と町へ向かい歩き出す。森と違って魔物の姿はなく、のどかなものだった。

 

 威嚇されて逃げ帰った兵士たちが今後何かしてこないか気になったが、今となってはどうしようもない。だいたい無断で胸を触ってきたあちらの方が悪いのだし、不可抗力だ。許せ。

 

 道なりに進んでいくと町の入り口が見えてきた。検問みたいな関所が設置されているようで、多くの人が入場待ちの行列を作っていた。馬車が並んでいる列もある。

 

 俺は行列に並ぶのが嫌いだ。よく日本人は行列好きと言われるが、あえて並びたがる人の心理はどうにも理解できない。しかし、ここでわがままも言っていられないので、おとなしく最後尾に並ぶことにする。

 

 「なんだあの服装は……」

 

 「痴女か……?」

 

 「というかあの樽はなんだ?」

 

 ざわ… ざわ…

 

 気まずい。周囲の視線を独占状態。町に入ったら真っ先に、真っ当な服を調達したい。切実に。

 

 俺たちの前に並んでいる男性がこちらをチラチラ見ている。気まずさに耐えられず、こちらから声をかけてしまった。

 

 「こ、こんにちは! 今日はいい天気ですね!」

 

 「……ええ、まったくですなあ。こんな日に太陽の下で立たされ続けるのですからたまったものではありませんよ。はは」

 

 このおじさんは特に武装はしておらず、ゆったりとした服を着て、背中に大きなリュックらしきものを背負っていた。こういう感じの行商人風の身なりをした人は結構いる。中には普通に帯剣していたり槍を持っていたりする人もいる。

 

 「それにしても、なんと美しいお嬢さん方だ。まるで貴族のご令嬢、いやお姫様のように美しい……」

 

 おじさんのネットリした視線が、舐めまわすように俺たちに向けられる。特に胸や股間などを見られているのがわかる。女性の立場からすると、男の下心はこうもわかりやすいものだったのか。容姿を褒められたところで嬉しくは無い。

 

 もしかして前の世界で、俺もクラスの女子とかを見るとき、こんな視線をしてはいやしなかったと微妙に不安になる。

 

 「どうです、よろしければ今夜、酌のお相手でもしていただけませんかな? もちろん、それなりの心付けはいたしますぞ」

 

 「いえ、あの、すみません用事が……」

 

 踊り子衣装なんて着ているものだから、堂々と怪しい誘いまで切り出してくる始末だった。女性の旅芸人ってそういう扱いを受けるのだろうか。まさか話に乗るわけにもいかず、何とか断りを入れる。

 

 「そうですか。それは残念」

 

 おじさんは意外とあっさり諦めてくれた。最初に会った兵士たちの態度から、強引に迫られるのではないかと身構えていたが、そうでもなかった。あの兵士の対応が行き過ぎだけか。

 

 「……」

 

 アルターさんはちょっとだけ不機嫌そうな表情になっている気がする。しかし、さすがに見られただけで暴れ出すようなことはなさそうだ。

 

 「お二人はこの町へ来るのは初めてですか?」

 

 「はい、そうです。いつもこんな行列ができているのですか?」

 

 「いえ、少し前まではこんなことはなかったのですが……」

 

 おじさんの話によると最近、この地域の領主が代替わりしたという。正確にはまだ正式な引き継ぎが行われていないが、実質的な支配権が息子に移っているようだ。

 

 これが問題で、引き継ぎがうまくいかないうちに代替わりが行われている。どうも前領主と新領主との間にいざこざがあったらしい。噂によると、前領主は重い病に伏しており、その隙を突いて息子が実権を掌握したとか。息子による陰謀説もささやかれている。

 

 「前の領主様は、それなりに民のことも気にかけてくれたのですが……」

 

 息子の評判は悪い。短期間のうちに税の対象となる新項目がいくつも作られ、既存の税率も大幅に引き上げられたという。この入場待ち行列もその弊害だ。表向きは町の警備強化とされているが、実際は町を訪れる商人に荷税をかけて金を巻き上げるためだという。

 

 「帝国との本格的な戦端が開かれるのも時間の問題という不安定な情勢のさなか、この不安をあおる増税……挙句の果てには、『夜噛蟲の森』の異常。もう何が何やら。あなた方も聞きましたか?」

 

 「な、何をですか?」

 

 「数日前、森の奥から地を裂かんばかりの轟音が強大な『闘気』とともに響き渡りましてね。いやあ、あのときは生きた心地がしませんでしたよ。町中、大パニックに陥りましたからな。まるでおとぎ話に出て来るドラゴンの咆哮のようでした」

 

 「……すみません……」

 

 「なぜ謝るのです?」

 

 やべえよ。めちゃくちゃ迷惑かかってるよ。やはり、あの技は色んな意味で今後は封印する必要がある。

 

 「と、ところで! 町に入るのにお金がかかるんですか? 商人さんだけ?」

 

 「いえ、法が改正されて一般の人からも入場税を取るようになっています」

 

 「えっ」

 

 俺たちも例外ではないというわけか。これも新領主が強引に決定した新しいルールのようだ。しかし困った。

 

 「アルターさん、お金ある?」

 

 「現金の手持ちは少ないですが」

 

 この世界の通貨価値がわからないので足りるかどうかわからないが、なんか金貨みたいなのがあるから大丈夫ではないかと思う。さすがに入場税だけでそんなに取られることはないだろう。

 

 「では、こちらを」

 

 アルターさんは持ってきたお金や宝石類が入った袋を、無造作に俺に渡そうとしてきた。さすがにこれは受け取れない。入場税を立て替えてもらうのだって借りなのだ。特に金銭のやり取りはいくら仲間うちであってもなあなあにしたくはない。

 

 しかし、資金管理の全てをアルターさんに一任してもいいものかと考える。俺もまだこの世界に不慣れなところがあるが、アルターさんの金銭感覚にも全幅の信頼はおけない。俺にポンと財布を渡してくるぐらいだし。

 

 協議の末、資産は二人で分散管理することになった。一人で持つよりは何かあったときのリスクも減らせるだろう。

 

 「……お二方、あまり大きなお金をこのようなところで人目にさらさない方がよろしいかと。よからぬことを考える連中もおりますので……」

 

 「おいおいおいぃ! 随分、羽ぶりのよさそうな娼婦どもじゃねえか!」

 

 商人のおじさんがひそひそ声で忠告してくれたが一歩遅かった。俺たちの後ろからガラの悪そうな罵声が投げかけられる。振り返ると案の定、薄汚れた身なりのチンピラがいた。

 



入場税を「にょうじょうぜい」とタイプミスして「尿上税」に変換してしまう…

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