17話―森を越えて
「あれは、出口……!?」
木々の間から光が差しているのが見える。今までにない光景だ。鬱蒼とした森の奥地では昼間でも薄暗かった。俺はたまらず走り出す。
だんだんと木々がまばらになり、外から入り込んでくる光が強さを増していく。ついに開けた草原が見えた。ようやくあの昆虫地獄の森から脱出できたのだ。
お日さまの光が気持ちいい。見晴らしのいい草原を見渡せば、遠くに建造物の群れが見えた。遠いと言っても目視できるほどの距離である。目的地の町は、この恐怖の森から意外と近くにあった。
ちゃんと道もある。舗装とかはされておらず、ただ草が生えてないだけの地面だが、確かに人の往来があることを示していた。
「おいっ! そこの女ども!」
いきなり声をかけられて驚いた。近くに人がいたことに気づかなかった。すがすがしく感じていた空気が一気に張りつめる。
見れば、5人くらいの男の集団が道の向こうからこちらに駆けて来る。全員が一緒の格好だった。皮製らしき長袖長ズボンの上に小さな鉄板をつなぎ合わせたような鎧を着ていた。頭には丈夫そうな皮の兜、手には槍。見るからに中世の兵士だった。
そんな威圧感たっぷりの男たちがこちらに向かって走ってくるのだから落ちついていられない。思わず逃げ出したくなったが、何とか踏みとどまる。
これが盗賊みたいな小汚い格好をした男たちだったら逃げていたかもしれないが、相手が兵士となるとそうもいかない。逃げたら何かやましいことがあるのではないかと思われて余計なトラブルに見舞われそうだ。
「ヤりますか?」
チャキッと、アルターさんが弓に手をかけかけたのを慌てて制する。いや、できれば穏便に済ませようよ。そう言えばアルターさんも森から出たことがないので異邦人みたいなものなんだよな。あんな恐怖の森で巨大昆虫相手にワイルドな生活を送ってきた彼女に常識的な対応を期待するべきではないのかもしれない。
「そこで止まれ! なんだその格好は……旅芸人か?」
そう言えば俺たちは露出度高めの踊り子衣装を身にまとっている。集団の先頭に立っていた偉そうな男が、俺たちにジロジロと観察するような視線を投げかける。
「今、『夜噛蟲の森』から出てきたようだが、何をしていた?」
町の人間はこの森のことを『夜噛蟲の森』と呼んでいるようだ。どうもこの兵士さんたちは見回りをしていたらしい。不審人物を見かけて声をかけてきただけのようだ。
「いやあ、森で迷ってしまいまして……」
「ふん、冒険者のまねごとでもしていたのか。そんな装備でよく生きてこの森から出て来られたものだ。特に今は森に異常な魔力変動が起きている。非常事態勧告が出され、許可なき者の森への侵入は固く禁止されているのだ」
その非常事態の原因の一端が俺にあるため恐縮してしまう。なんだか思った以上に各所に影響が出ているようだ。この人たちは魔力変動で危険な状態にある森に誰も入らないように見張っている。盗賊と同類に扱おうとするなんて失礼な話だった。
「わかっているのか? 貴様らのような力もなく、魔物の危険性も理解できない馬鹿どもが出歩いているおかげで我らは余計な仕事をしなくてはならない。男に媚を売って日銭を稼ぐしか能のない女芸人風情など、おとなしく町中で客に股でも開いていろ」
あれぇー? なんだか雲行きが……
「ふん……下品な体をしおって」
偉そうな兵士が俺とアルターさんの体を物色するように眺めてくる。後ろに控えている男たちもニヤニヤと笑うばかりで誰もとがめない。そして、先頭の男がおもむろに俺の胸の上に手を置いた。
「あっ」
ぱふん
片乳を揉まれる。まさかそんなことをされるとは露とも思わず、反応が遅れる。
まあ、別に何とも思わない。かく言う俺も、小学生の頃はクラスメイトの山下くんの乳をよく揉んだものだ。山下くんは地域の子ども相撲クラブに所属するほどのぽっちゃりである。その豊満な乳を、俺を含めたクラスの男子たちは奇声をあげながら揉みまくっていた。
山下くんもオーイエーと声をあげながら快く触らせてくれたものだが、やりすぎたときはちょっと嫌な顔をされた。今の俺の気分は、そのちょっと嫌な顔をしているときの山下くんである。
しかし、俺が乳を揉まれた瞬間、俺の隣から肌が焼けるような恐ろしい殺気が噴出した。
「おふっ!?」
ホントに焦げ付きそうなくらいチリチリと刺激を発する空気に思わずのけぞる。これはアルターさんの闘気か。しかし、森の中で彼女が発していた闘気とは強さが段違いだ。何しろ、殺意の対象となっていない俺にさえその威力が感じられる。
「ひいいっ!? な、なんだその闘気は……!」
俺でさえ感じとれるほどなのだから、それを直接向けられている兵士たちにはたまったものではないだろう。全員が泡を食ったように後ずさった。中には尻もちをついて腰を抜かした者もいる。
アルターさんは体中から放たれる闘気によってスーパーサ○ヤ人みたくなっている。いや、それはさすがに言いすぎだけど、体から放つ気だけで銀色の髪がわずかにふわりと浮きあがるほどだ。それだけの殺気を放ちながら無表情なのだから余計に恐ろしい。
「わ、我ら領主軍直属の兵士にそのような態度をとって! ただで済むとは思わないことだっ!」
捨て台詞を残して、兵士たちは一目散に町の方へと逃げ帰っていった。
「殺ります」
そして、その背中に向けて弓を構えようとするアルターさん。その字はまずい。
「落ち着いてください! 俺のために怒ってくれるのは嬉しいですけど、俺は平気ですから!」
「ふふ、ふふふ」
無表情で声だけ笑うのは本当に怖いのでやめてください。というか、俺の声が聞こえてないっぽい。このままではアルターさんの白魚のような手から殺人魔弾が放たれてしまう。
俺は仕方なく、アルターさんの手を取る。そして自分の片乳の上においた。
ぽふんっ
「オーイエー」
アルターさんの意識が乳を揉む方に傾いたのか、殺気は急速に鎮火された。ふう、危ないところだったぜ。




