16話
翌朝。
結局、アルターさんに不寝番を任せて俺は寝た。ありがたい。久々にとった充実の睡眠は格別だった。脳みそがリフレッシュする感じがする。
「お目覚めのところ申し訳ありませんが、すぐに出発しましょう。魔物に取り囲まれています」
モンスターに寝起きドッキリされるとか嫌すぎる。しかも、なんとその原因は俺にあるらしい。俺の立てたイビキがかなりうるさかったらしく、その音で周囲の魔物を刺激してしまったようだ。イビキくらいでカリカリすんなよ。
言われてみれば虫の脚がガチャガチャうごめく音がそこかしこから聞こえてくる。木や草の陰に隠れきれない存在感をアピールするバッタとかアリとか、とにかく大勢いらっしゃることがわかる。
今はアルターさんが闘気で牽制しているので包囲するだけにとどまっているようだが、いつこの膠着状態が崩れるかわからない。単体の強さはそこまでないザコばかりだそうだが、数に物を言わせて襲いかかってくる危険もあるという。
「では突破口を開きます。しかし、その一手で敵がなだれ込んでくる恐れがあります。対処してください」
「なんじゃと!?」
いくら弓の名手であるアルターさんでも、大量の魔物を一撃で制圧なんてできるはずもなく、いちいち俺を守ってはいられないらしい。なぜかアルターさんは俺を戦力として期待しているようで、自衛くらいはできると想定した上で話が進んでいく。
というか、これだけの敵の数を前にして逃げることもなくこの場所にとどまっていたのは、俺を起こさないようにするためのアルターさんの優しさだった。彼女にとっては巨大昆虫の団体さんより、俺の安眠を優先する程度の些事であるらしい。
俺のためを思って陥った状況となれば、泣きごとを言ってもいられない。俺は戦う覚悟を決めた。いやここはむしろ、アルターさんを守るくらいの気概を見せるべきところではなかろうか。弓使いとしての腕は確かなアルターさんだが、RPGで言えば後衛職。接近戦に持ち込まれると弱いかもしれない。
それに俺の装備は更新されているのだ。木の棒からランクアップし、巨大樽! そう、水を運ぶためにログハウスから持ってきた樽がある。その防御力は木の棒を遥かにしのぐだろう。ちなみに中の水は昨日のうちに飲みほして空っぽだ。
「アルターさんの背中は俺が守る!」
メイン盾きた! これでかつる!
アルターさんが弓を震わせ、強烈な矢の一撃を放った。それを開戦の合図に魔物たちの侵攻が始まる。
* * *
戦いは終わった。結果をRPG風にわかりやすく言い表せば、こうなる。
ゴーダたちは逃げ出した!
強い敵から逃げるのではなく、高レベル帯になった後で序盤のザコの戦闘を面倒臭がり逃げる感じ。この例えは逆にわかりにくくなってる……
アルターさんの八面六臂の活躍により、襲いかかる数多の魔物は蹴散らされた。矢というか、榴弾のような威力を放つ射撃を前に昆虫軍団はなすすべもなく、電子レンジでチンした卵みたいになった。
え? メイン盾の活躍はどうしたのかって?
アルターさんは背中に目がついているんじゃないか思うほどの察知能力で背後の敵をも葬り去ってくれたので俺の出番はなかった。戦果は何もなく、ただ矢を消耗しただけに終わりました。
「……」
アルターさんがジト目でこちらを見てくる。クールビューティーな彼女の魅力と相まってとてもかわいいが、とても心苦しい。
俺だって頑張ろうとはしたのだ。必死に樽フィールドを形成して敵を牽制したのだ。しかし、あの化け物たちの異様。特にバッタがヤバかった。すさまじい跳躍力を見せて上空から襲いかかってくるのだ。放物線を描きながら砲弾のような勢いで迫ってくる巨大バッタを前に、俺の戦意は完全にくじかれた。
「ごめん……虫系だけは勘弁してくださいホントもう生理的に駄目なんです……」
まだゾンビとかの方がマシだと思う。平謝りする俺に対して、アルターさんはふっと表情を和らげた。
「わかりました。戦闘は私にお任せください。全てこちらで処理します」
そうド直球に戦力外通知されるとそれはそれで心にくるものがある。たぶん、アルターさんは皮肉でもなんでもなく純粋に俺の負担を減らそうとして言ってくれているとわかる分、余計にやるせない。
アルターさんは慈愛に満ちた表情で俺に生温かい視線を送ってくる。まるでヒモ男にでもなった気分だ。これでは駄目だ。ただ依存しているだけの関係で終わってしまう!
「戦闘以外なら何でもしますから! 掃除、洗濯、炊事でも!」
「何でも……?」
あ、ヤバい。アルターさんの顔つきが変わった。獲物を狙う捕食者の目だ。食われる。主に性的な意味で。
「さあ! もう少しでこの森も抜けますね! 先を急ぎましょう!」
「何でも……?」
そうだな、今俺がおかれている状況をRPG風にわかりやすく表現するとすれば。
ゴーダは逃げ出した!
しかし回りこまれてしまった!




