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14話―仲間ができる

 

 「いやその、当然アルターさんが嫌なら無理にとは言いません。というか嫌ですよね。こんな素性のわからない人間を旅のお供になんて……」

 

 「そんなことはないです」

 

 なんか食い気味にアルターさんが否定してきた。意外と好感触だったりするのか。

 

 「ゴーダさんについて来てもらえるのなら……うれしい、です」

 

 ずっと機械のように無表情だったアルターさんが照れている……だと……!?

 そう言えばアルターさんは家族以外の人とふれあったことがないのだった。人探しのために、いざ森の外へと出ようと決意はすれど、やはり不安はあると思う。俺が逆の立場だったのなら、人付き合いはうまくできるだろうかとか色々考えるところだ。

 

 もし初めての一人旅、同行してくれる人がいたとしたらそれは心強い仲間だ。まあ、俺の頼りなさは俺自身がよく理解しているので心強いとまでは言えないかもしれないが、アルターさんのさみしさを少しは和らげる役くらい務まるだろう。そう思いたい。

 

 「そ、そういうことでしたら、い、一緒に頑張りましょう!」

 

 「はい。よろしくお願いいたします」

 

 なんかちょっと変な感じになったが、こうしてアルターさんと俺の旅が始まるのだ!

 

 * * *

 

 荷物をまとめた俺たちはすぐに拠点を出発した。

 アルターさんは旅の間、この家を放置するつもりのようだ。事実上の廃棄ともいう。魔物だらけのこの森である。すぐに荒らされて使い物にならなくなることは目に見えていたためしかたがない。

 

 ここで育ったアルターさんには思い出もあるのだろう。少しさびしがっているようにも感じられた。一応、母親がこの場所に帰還したときのために旅立ったことについての置手紙を用意した。置手紙というか、石板に文字彫ってますけど。紙だとすぐ紛失しそうだからね。

 

 アルターさんは町で換金できそうな貴重品をまとめて持ち出している。食糧がないので身軽である。野営道具もほとんどない。

 それに対し、俺は背中に大きな樽を背負うという少々間抜けな格好だ。この中には満杯の水が入っている。家にある一番大きな樽を用意してもらった。たぶん、お風呂一杯分くらいの量は軽くあると思う。普通なら持ち抱えることなど不可能だろうが、竜人パワーでなんとかなった。

 

 移動は快速に進んだ。アルターさんは目的地が見えているかのように道なき道をどんどん進んでいく。その歩くスピードは速いが置いて行かれることはなそうだ。大量の水を背負った状態でも今の俺の体力ならついて行くことは楽にできた。日本にいたころと比べれば、身体能力が化物じみたことになっている。むしろ早く町に着きたいのでもう少し速くてもいいくらいに感じる。

 

 ただ、あまりにも堂々と風を切って進むので少し心配もある。巨大昆虫どもに遭遇するのではないかと気が休まらない。まあ、昨日までの俺のようにコソコソしすぎても一向に移動が捗らないとは思うが。

 

 「その点は問題ありません。闘気で威嚇しているのでほとんどの魔物は近づいてこないはずです」

 

 「闘気?」

 

 何でも魔力を乗せた殺気のようなものを周囲に展開して魔物を遠ざけているらしい。なにそのバトル少年漫画みたいな熱い設定。俺もほしい。

 いかに巨大昆虫ひしめく魑魅魍魎の巣窟だろうと、常日頃、森を闊歩し、その生態系の上位に君臨するアルターさんにとっては庭のような場所だそうだ。強者としての縄張りを確立しており、その闘気を感じ取ればまず向かってくる命知らずはいないらしい。どこの武を極めし達人だ。

 でもすぐ隣にいる俺は何も感じないけど。

 

 「外側に向けて発していますから。……このようにある程度コントロールできます」

 

 「うほっ!?」

 

 なんか急にアルターさんの存在感が膨れ上がったように感じる。威圧感というかプレッシャーというか……あ、この感覚はなんか覚えがある。

 ファーヴニルと対峙したときの感覚と似ている。でも、ちょっと違うような気もする。さすがにあの時ほどの息苦しさはアルターさんにはない。単に手加減しているだけというのもあるだろうけれども、

 

 しかし、これがあればもう魔物を怖がる必要はない。闘気を発すること自体は別に体力を消耗することもないらしいので使いたい放題だ。仮に魔物が襲ってきたとしてもアルターさんの弓の腕前がある。森の最奥ともなればアルターさんでも苦戦する魔物もいるらしいが、外縁部の魔物は物の数ではないとか。

 

 「じゃあ、もうあのうっとおしいデカ蚊にも悩まされずに済むんですね!」

 

 「デカ蚊……? 吸臓蚊ですか? しかし、ゴーダさんなら倒せるのでは」

 

 いや、倒せるとか倒せないとかの問題ではないのだ。確かに木の棒が届く間合いに入ってくれば竜人の筋力にモノを言わせて叩き落とせるが、だからってもちろん戦いたい相手ではない。あの不快な羽音と鋭く尖った口吻が迫ってくるのはもう勘弁してほしい。

 そう言ったらアルターさんは、すっごく微妙な表情で俺を見てきた。なんかおかしいことを言っただろうか。

 


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