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13話

 

 「じゅぼぼぼぼぼぼっ! じゅぼぼーっ!」

 

 ごめん、こんな汚い音たててごめん。だけどもう止められねえんだ。

 俺は無我夢中で水を飲んでいた。井戸から水の入った桶を引き上げ、それを飲み干し、また汲み上げる。何度その行動を繰り返しただろうか。覚えていない。

 渇ききった体に沁み渡る水のうまさ、言葉にできない。息をするのも忘れるほど一心不乱に飲みまくった。

 

 そして人心地つく。

 井戸のそばに腰をおろしたまま、緩やかな脱力感に身を任せていた。しばらく動きたくない。疲れとはまた違う、まどろみに似た虚脱感が心地よい。

 ついでに体も洗わせてもらい、久しぶりにサッパリした。今までサバイバルに必死で気にする余裕がなかったが、体は当然ながらかなり汚れていたのでこれもありがたかった。

 

 依然として腹は減ったままだが気力は持ち直したと言える。人間、多少の絶食には耐えられても水不足には勝てないものだ。今の俺は人間ではないけれども、やはり生物としてその枠組みからは逃れられない。森の中に水源なんて見つけられなかったので、ほとほと困っていたのだ。まさに生き返った気分である。

 

 ところで、人が人らしく生きるにあたって大事な三つの要素と言えば衣食住である。これまず頭に冠する文字は衣なのだ。現実社会において裸で人前に出ることは、もうそれだけで犯罪なのである。いかに衣服を着ることが大切かわかるだろう。

 

 当然にアルターさんからもその点を指摘された。いや、彼女からその言葉を聞かされるのは釈然としないところもあるが。俺もほぼ全裸だが、アルターさんも痴女スタイルだ。たぶん、この服装も母親に影響されているのだと思う。ユリバスだからな。

 そういうわけで服を一着譲ってもらえることになった。何から何までお世話になります。

 

 「どれが良いでしょうか。好きなものを選んでもらって構いません」

 

 「……」

 

 見たまえ。

 クローゼットの中身のラインナップはどれもこれも痴女御用達の品々だった。布面積が少なすぎてただの下着か水着である。

 

 「お気に召しませんか。もしや……ボディペイント派ですか?」

 

 「……」

 

 なんとかまともそうな服(エキゾチックな踊り子風衣装)を見つける。そしてみれば、同じような服がもう一着ある。

 

 「あの、アルターさんもこれを着ませんか?」

 

 今のアルターさんの痴女スタイルは目の毒だ。このまま放置するのは精神衛生上よろしくない。

 

 「わかりました」

 

 快く了承したアルターさんはスリングショットの肩ヒモ部分をグイーンと上にひっぱると、肩の外にはずして手を離した。スパァンと勢いよく音を立てて水着が床に叩きつけられる。

 

 「きゃあああああああああっ!?」

 

 惜しげもなく晒される全裸ボディ。彫刻家が魂を込めて作りあげた傑作のように美しいフォルムが見せつけられる。

 ちょっと、少しは恥じらいを持とう。いくらこの場には女の子しかいない(心は男)からって慎みがなさすぎる。まったくこれだから痴女は……

 

 チラッチラッ

 

 さて、アルターさんも着替え終え、これでようやく目先の問題はあらかた片づいたと言っていいだろう。俺たちはダイニングのテーブルに向かい合って座り、話し合いの場を整える。

 

 次はこれから先のことを考えたい。食料問題の件はあるが、現状ではどうしようもない。アルターさんは森での食糧の採り方を知らないようだし、家にあった酒やツマミなどの食べ物はアルターさんの母親がどこからか持ってきたものらしく、調達先は不明だった。

 しかし、その食糧問題が今後の最も重要な焦点となることもまた事実である。自分で手に入れられないのなら誰か他の人を頼るしかない。

 

 「森の外に行けば町があります。そこで食料も手に入るのではないでしょうか」

 

 「おお……!」

 

 アルターさんは行ったことがないらしいが、だいたいの場所はわかるとのことだった。

 

 「私が案内しましょう」

 

 「え、でも……」

 

 それが確実であることは間違いない。ここ数日森をさまよって実感したが、口頭で場所を教えてもらったところで自力でこの森を脱出できる自信は少しもなかった。コンパスはあるみたいなので多少はマシな探索ができるかもしれないが、地図がないことが致命的だった。

 

 だが、これだけ世話になった上に決して短くはない距離のある街まで案内させるのは、さすがに図々しすぎる気がした。何のお返しもできない身の上だというのにこれ以上甘えていいものかどうか。

 

 「それについては気にすることはありません。私もちょうど町へ向かおうと思っていたのです」

 

 先ほどの話にもあったが、アルターさんは魔法暴発事故によって行方不明となった母親を探している。この森の中にいないことは確からしい。そうなると捜索の手を森の外に広げることになるわけで、町などで情報収集を行うことも視野に入れて行動したいとのことだった。

 そこでふと思いつく。

 

 「あっ、俺も探すの手伝いますよ」

 

 今の俺にできる恩返しと言えばこのくらいである。元はと言えば俺が召喚されたことによって起きた事故でもあり、完全に無関係ではない。また、異世界に召喚されてしまった俺だが、特に魔王を倒さなければならない等の目的もない。しいて言えば元の世界に帰る方法を探したいが、そう簡単には見つからないだろう。もしそうならファーヴニルがあんなに必死になって、さも偉業を成し遂げたかのように語ったのが馬鹿みたいだ。

 

 「いえしかし、母上がどこいるのか見当もつかないのです。おそらくこの森に近い町にはいないでしょう。町から町を渡る旅になると思われます」

 

 一体いつまでかかるのか、そもそも見つけられるのかどうかもわからない。そんな旅になるかもしれない。一旦、ついて行くと決めたのならば、途中でやっぱりやめますと投げ出すのは不義理だろう。おりるなら今この時が最善だ。後腐れもない。アルターさんも案にそれを示唆しているのだと思う。

 

 しかし、メリットデメリットを考えたとき、俺にとってそんなに困ることはないようにも思う。つい先日この世界に出現した身であるから財産も身分も生活基盤すらない。既に根なし草のようなものだ。それに旅をしていればこの世界の様々な情報を得られるだろう。異世界召喚に関する情報も手に入るかもしれない。ファーヴニルの脅威から逃れる方法もみつかるかもしれない。少なくとも一つの町にとどまって細々と暮らしていくよりかは可能性があるだろう。

 

 ただ、本音を言うと旅をするということそのものにも興味がある。異世界で冒険。何度もその手の小説を読んできた手前、期待は大きい。それは辛いこともあるだろうが、同じくらい旅の楽しみというのもあるはずだ。

 

 しかもその旅をアルターさんと一緒にできるのだ。お世辞なんか全く必要ないレベルの美人であるアルターさんとである。健全な元男子高校生として興味がないはずがない。もちろん、アルターさんは命の恩人だから助けたいという気持ちが第一であるし、今の俺の体は女の子だからそんな、あれだ、一歩進んだ関係にはなれないだろうが、まあでも、友達以上の親密なね、もしかしたらそういう……

 

 そんな俺の下心が表情に表れていたのか、アルターさんがこっちをじっと見ている。

 


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