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11話

 

 というわけで、アルターさんに保護された俺は森の中を案内されて歩いた。

 ひとまずの目的地はアルターさんが現在住んでいる家である。森の中にあるらしい。集落のようなものはなく、アルターさんの一家が暮らすのみだと言う。食料や生活必需品はどうやって調達しているのだろうか。

 

 怪しいところだらけの人物ではあるが、今のところ俺は彼女を信用している。変人ではあるが、悪人ではない気がした。俺を騙す気があるならもっとまともな人間像を装うだろう。変に思える言動や見た目にも彼女なりのポリシーがあるみたいだし、ただ不器用な人なんだと思う。

 

 「着きました。ここです」

 

 木々が少し開けた場所に半壊したログハウスっぽい建造物が見えた。

 もう一回言うけど、半壊している。

 

 「先日、この場所で事故がおきまして」

 

 四日前、大規模な魔力変動とやらが起こった際、精霊暴走という現象が発生したらしい。魔法に関する詳しい知識がないのでよくわからないが、そのせいでアルターさんの魔法が暴発する事故につながってしまった。

 

 この世界にはいたるところに『精霊』という存在がおり、魔法と密接に関係している。アルターさんいわく、空気のような普遍的なものらしい。その精霊にも種類がいくつかあって、この森には『時精霊』という特殊な精霊が多く存在しているという。

 

 その時精霊が暴走した結果、予期せぬ形で『転移』の魔法が発生し、ログハウスの一部をどこかへ転送してしまったそうだ。その転送された範囲の中に、アルターさんの家族も含まれていたらしい。

 

 さすがにそんな話を聞かされて平静ではいられなかった。

 転移に巻き込まれたのはアルターさんの母親が一人。安否は定かではない。どこに飛ばされたのかもわからない。少なくともこの森の中にはいないということしか、現段階ではわからないそうだ。

 

 精霊暴走の原因は俺の召喚にあると考えるのが妥当だろう。この件に関して無関係ではない。いくら俺の責任ではないとは言っても気に病む部分はある。

 

 「何か知っているのですか?」

 

 そんな後ろめたい感情が顔に表れてしまったのか、アルターさんに尋ねられた。

 俺に知らぬ存ぜぬで通せるほどの厚顔さはなく、正直にこれまでのことを話した。ファーヴニルに異世界から魂だけ召喚されたことや、この体にヨルムンガンドが封じられていることも話した。最初は素性を隠して適当な話をでっち上げようかとも思ったのだが、怒るわけでもなく静かに俺の話に耳を傾けてくれたアルターさんを前に、気がつけばべらべらと本当のことをしゃべっていた。

 

 話を止められなかったと言った方が適切かもしれない。我慢していた憂さがこぼれるように口が動いた。自分で思っていた以上に話を取りつくろう余裕はなかったのだ。

 アルターさんは遮らず最後まで聞いてくれた。俺の話が異世界的にどれだけの信憑性を持った情報となるのか不明なのだが、特に疑われることはなかった。だからこそ包み隠さず話せたわけでもある。

 

 ただ、アルターさんも魔法にそこまで精通しているわけではないらしく、異世界召喚魔法やら古代竜がどうたらと言った話はさっぱりわからないようだ。異世界という概念すら知らなかったので、とても遠いところから呼び出されたと言っておいた。

 

 「……そうでしたか。事情はわかりました」

 

 「すみません。俺が召喚されたばっかりに……」

 

 「あなたが謝る必要はありません。事故の責任は私にあります」

 

 自分も大変であろうこの状況で、俺を責めるどころか保護までしてくれたアルターさん。変態扱いしてすみません。

 自分では結構、勇気ある秘密の告白をしたつもりだったが、アルターさんは特に動揺した様子もなかった。表情が全然変わらないので判断しづらいけれども、きっとそれだけ器の大きな人なんだろう。

 

 「今度から敬意の証として、アルター姉貴と呼ばせてください」

 

 「それはあまり好ましくありません」

 

 「あ、いや、冗談です。変なこと言ってすみま……」

 

 「アルターお姉さま、となら呼んでいただいて構いません」

 

 「……」

 

 やっぱ変なんだよなあ。

 とりあえず、家が目の前にあるのに立ち話も落ちつかないだろうという話になり、お邪魔させてもらうことになった。

 

 が、

 

 「止まってください」

 

 「へ?」

 

 その矢先に制止される。何事かとアルターさんの方を見れば、その手に持った弓に矢をつがえて、弦を引き絞っていた。

 

 「外敵が侵入しているようです」

 

 放たれた矢がログハウスの壊れた壁の穴へと突き進んでいく。ドフッともっさりした衝撃音が鳴り、家がわずかに揺れる。

 それに一拍遅れて続くように、赤茶色いモノがウゾウゾと出てきた。

 

 「うそやろ……」

 

 なんとその全てがGである。台所に潜む黒い悪魔である。翅が生えておらず、色も黒くないが、どう見てもGの幼体。その大きさは目測で50センチくらいだ。中途半端なデカさがまた違ったキモみを醸し出している。この大きさで幼体なのだから成体はどうなっちまうんだよ。

 

 雪崩れるように逃げだしていくG幼体の非難が完了するまで動けなかった。思わずアルターさんの背中に隠れてしまった。ごめんなさい。ちなみにアルターさんは表情一つ動かすことなく平然としていた。さすが姉貴。

 


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