10話
「ホアッツ!?」
変な声出た。
てっきり「お前は何者だ! 名を名乗れ!」的なことを聞かれるとばかり思っていた俺は動揺を隠せない。
「お、女の子が、す、好き? それはえっと……まあ、はい、好きです」
「それは性的な意味で、つまり友人関係を越えた恋人の対象として同性を認めうる感情ですか?」
なにこの人……変態かな?
姿形のみならず発言までぶっ飛んでやがる。下手に美人であるところが余計に手に負えない。薄く張り付けたような微笑からは彼女の真意が読み取れない。俺は何と答えればいいんだ。
普通に考えればノーと答えるのが正解だろう。同性愛はマイノリティ。なんか潜在的には13人に1人くらいの割合でいるらしいけど、社会一般においてはまだ広く認められているとは言い難い。
しかし、であればこの状況下においてわざわざそんな当たり前のことを質問するだろうか。ここは日本ではなく異世界であるということも考慮しなければならない。同性愛も全然オッケーという世界である可能性もある。
つまりここはイエスと答えるのが正解か。その場合、どうなるんだ。俺とこの森の妖精♀さんは、故意にフォーリンダウンしまうとでもいうのか。別の意味で襲われてしまうのか。気になります。
少し冷静になろう。
彼女は俺がモンスターに襲われようとしていたところを助けてくれた恩人だ。そこにどういった意図があったのかわからないが、俺としては礼をもって真摯に応えたい。
だから選択肢付きの問題で「こっちの答えはひっかけぽいから、逆の答えを選ぼう」なんて打算的な行動は取りたくない。正直に自分の気持ちを伝えることにする。
今の俺の体は女だが、心は以前のまま。つまり普通の男子高校生の精神を持っている。男と女、どちらが好きかと問われれば考えるまでもなく即答できる。
「性的な意味で好きです!」
「結婚できますか?」
KEKKON!?
「できます!」
「赤ちゃんは産めますか?」
AKACHANG!?
「産め……産んでほしいです!」
「……」
「……」
沈黙が続く。どうすんだよこれもう収拾つかねえよ……
すると妖精さんは、しずしずとこちらに近づいてきた。そして手を差し出す。
「合格です」
「あ、ありがとうございます」
俺はその手をつかんだ。ひんやりすべすべ。
何に合格したのか、してしまったのか不明だが、どうやら敵意は持たれていないようである。
「私はアルターと言います。この森に住む人間です」
「あっ、俺は」
自己紹介しようとしたところでふと気づく。なんと名乗ろうか。日本にいたころの名前は郷田康夫である。ヤスオ・ゴーダ。女の子っぽさが微塵もない。今の俺の体には合わない。
「ゴーダです」
だが名乗る。
下手に偽名を使ってもどこかでボロが出そうな気がするし、本名が一番無難だろう。まさかヨルムンガンドですなんて言うわけにもいかない。
ちなみに発音は「ゴー↑ダ↑」にしてみた。
「それで、さっきの質問は一体何だったんでしょうか?」
ちょっと怖いが思いきって聞いてみることにした。純粋な疑問である。
「あなたの人間性を見定めるために質問させていただきました」
わぁお。あれで俺の人間性は見定められてしまったのか。
ちょっとこの人、話が通じない系の人かもしれない。話題を変えよう。
「えっと、それはそうと、さっきはありがとうございました。危ないところを助けてもらって。助かりました」
「いえ、礼にはおよびません」
「いやいや、アルターさんが通りががってくれなかったらどうなっていたことやら」
「昨日からずっとあなたのことを監視していましたから、対処は容易でした」
「……い、今、なんと……?」
話が通じない系どころか、ガチでヤバい系の人かもしれない。最初からそんな感じではあったけど。
心を許して安心しかけていた精神が一気に警戒心でいっぱいになる。
「先日、この森の深部において、大規模な魔力変動が観測されました。まず自然には起こり得ない規模です。なんらかの大規模魔法が行使された可能性があります。それに伴い、この森ではいくつかの魔力異常が発生しています」
それって、もしかしなくても俺が召喚されたせいなんじゃない? あの金ピカ竜も一世一代みたいな様子で使った異世界召喚魔法だったし、各所に影響が出ていてもおかしくないのでは。
「原因の調査を行っていた私は、森の深部の方角から移動する不審な人物を発見しました。それがあなたです」
全裸の女が一人で密林の奥地をお散歩である。ぐうの音も出ないほどの不審者である。
「即座に接触するのは危険と判断し、尾行および観察を試みました。その結果、あなたの取った行動から総合的に分析して『遭難者』であると推測するのですが、いかがですか?」
「は、はい、その通りです」
どこから俺のことを監視していたのだろうか。全く気づかなかった。結局、遭難者と判断されたことによって助けてもらえたわけだが、それでも怖すぎる。
そんな経緯があったわけだが、そうなるとがぜん不思議に思うことが出てくる。このアルターなる女性はその口調からもわかる通り理路整然とした人物であると思われるのだが、であればなぜ、出会いがしらの俺に向かってあんな珍妙な質問をしたのであろうか。
「あなたは女性であるにも関わらず女性が好きであると答えました」
「そうですね」
「ゆえに私はあなたが善人であると推測します」
「そ、その心は?」
「母上の教えです。『女の子が好きな女の子に悪い子はいない』と」
やっぱりこの人ちょっと、いやかなり変だよ。




