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ドラゴンスレイヤーズ

 ――部屋の正面、扉から顔を覗かせた人物を見た瞬間にわかる。

 他の傭兵達とは比べるまでもなく、相当な実力者であることが。

 男は黒髪黒目で目鼻立ちがくっきりしている顔立ちをしている。

 四肢は俺の腰くらいの太さ。

 巨漢で所作に隙が一切ない。

 レベルは……グリュシュナでは始めて見る、これほどの男を。

 


・名前:シュルテン


・LV:15,320

・HP:2,787,014/3,455,221

・MP:650/800

・ST:1,557,099/1,557,099


・STR:159,987

・VIT:133,875

・DEX:120887

・AGI:140,036

・MND:100,035

・INT:88,235

・LUC:154,002


●特性

 歴戦の傭兵。傭兵団バルバトスの長。

 欠点がない優秀な存在。

 背中にある大剣の柄には太い鎖が繋がっており、特殊な戦い方をする。



 俺は少し見くびっていた。

 グリュシュナの人間は俺達異世界の人間に比べてレベルが低い。

 その上、上昇率も差がある、と思っていたのだ。

 だが、目の前の男はその事実を覆す。

 彼がそれだけの才があるのか、それとも俺の想像以上の鍛練を乗り越えたのか。

 俺は驚愕と共に、長机の前に移動する男に視線を奪われた。

 背中には大剣。

 およそ人に振るえるとは思えない巨大だ。

 柄には太い鎖が備えつけられ、それが刀身の付け根に巻きつけられている。


 ん?

 今、目があったような。

 気のせいか……?


「よく集まってくれた。俺は傭兵団バルバトスの団長、シュルテンだ。

 今回の招集は俺の立案だ。同時に、商人ギルドの支援の元、俺が主導することになっている。

 報酬は一人当たり白金貨百枚だ」


 破格の報酬だ。

 しかし、それだけ困難な内容だということでもある

 それをわかっているのか、驚きの波が広がるが、瞬時に収まった。

 次の言葉を待ち、そしてシュルテンが口を開く。


「中にはすでに事情を知っている奴もいるだろうが……」


 シュルテンは俺達を見回す。

 巨漢で粗暴そうに見えるのに、その瞳は理知的な火を灯していた。


「ドラゴンを討伐する」


 言葉を受けて、室内に喧噪が生まれる。

 しかし半分近くの傭兵は事情を知っていたらしく動揺していない。

 俺は仲間達に視線を移した。


「ドラゴンって、あの?」

「みたいだね……」


 朱夏は表情を険しくする。

 ドラゴン。

 ファンタジーでは強敵として描かれる場合が多いが、この世界にも存在していたのか。


「これは……危険だにゃ。

 ドラゴンは三等級から一等級の魔物だにゃ。

 三等級でも数百人程度必要なほどにゃ」


 ニースは朱夏に比べると幾分か軽い口調だった。

 しかし目は真剣そのものだ。

 魔物は等級で分かれる。

 下から、五等級、四等級、三等級、二等級、一等級、特一等級の順に序列がある。

 特一等級は過去類を見ないレベルの魔物、という意味で実際は存在を確認してない。


「……ドラゴンってのは頻繁に現れるのか?」

「いいや、それはないにゃ。ドラゴンは数が少ないのにゃ。

 つまり戦った経験がある人間もまた少ないにゃ。

 ドラゴンにも種類があるからにゃ、どれかによって討伐難易度も変わるにゃ」


 深く聞こうと思ったが、喧噪が静まるのを待っていたシュルテンが再び話し始める。


「対象はグリーンドラゴンだ」


 ざわつきが更に大きくなる。

 その情景で何となく察しはしたが、俺はニースを見た。


「……グリーンは二等級にゃ」


 その一言で、切迫した状況を教えてくれた。


「い、いくらなんでも国の力添えなしでグリーンドラゴン討伐は無茶だろ!」

「でも……近場なんだろ?」

「倒さないと、街に降りてくるかもしれないな……何人集まりそうなんだ?」


 傭兵達の中から意見が出始める。

 ドラゴンが近場に住み始めたのか? 


「ドラゴンの住処は『ララノア山』の頂上付近。渡り竜らしく、最近住み始めた。

 今のところ、下山する様子はないが、いつ気が変わるかわからん。

 集まる人数は……今のところ五百くらいだ」


 数字を聞くと多いように思えた。

 しかし、耳に入る言葉には落胆が浮かんでいる。

 それほどの敵、なのか?

 疑問が顔に出ていたのか、ニースが俺に聞こえる声量で話す。


「ドラゴンは青、赤、黄、緑、黒、白の順に強くなるにゃ。

 緑は『それなりに最悪』な相手だにゃ。

 中隊――千人は必要なレベルにゃ」

「……渡り竜ってのは?」

「外海から渡って来た竜のことにゃ。

 グリュシュナ大陸外、つまり海の外側には今の船舶技術ではいけないのにゃ。

 つまり、未知の領域から渡って来ている竜という意味合いにゃ。

 ドラゴンは獰猛で人間を敵視しているにゃ。緑なら……まだマシかにゃ。

 『言語を理解するほどの知能はない』からにゃ。

 ちなみにララノア山の頂上は片道三日程度かかる場所にゃ」


 それはつまり、黒、あるいは白は言語知能はある、ということになる。

 しかしグリーンドラゴンで千人必要なレベルとなると、黒と白はどれくらいなんだ。


「五百か……厳しいな」

「国軍は動かないのか? ロールハイム卿は?」


 傭兵達の質問に、シュルテンは首を横に振る。


「まだ問題じゃないと判断したらしくてな、国軍は動かねぇ。

 被害が出てない上に、今はそれどころじゃなさそうでな。取りつく島もなかった。

 ロールハイム卿も私兵を動かすつもりはない、と。

 むしろ危険を促すことになるから、事を荒立てるなとのことだった。

 まずは事実確認をするつもりらしいが、そんな時間はないと俺は思っている」


 俺が一瞥すると、ニースは説明してくれた。


「ロールハイムって言うのは、リーンガムを領地としている領主のことにゃ」

「なるほど……封建制度か」


 つまり国そのもの、領主さえも助力する気はない、と。

 どうなってる?

 領地での出来事だ。特にリーンガムは港町で交易が盛ん。

 大きな収益を生んでいる地のはず。

 それなのに、無視を決め込むのか。


「くそっ! あいつらはいつもこれだ!

 何かあっても俺達にすべて任せる癖に、金だけはとりやがる!」

「……また問題が解決してから我が物顔で参入して来るぜ。

 ドラゴンの素材なんて高値で売れるからな、横取りするかもしれん」

「あり得るな……ちっ! ドラゴン討伐遠征なんて命が幾つあっても足りねぇ」


 どうやらエシュト皇国に対しての不満はそれぞれあるらしい。

 俺が見た感じ、魔物の討伐、環境整備などしっかりしている印象はあったのだが。

 それは表向きだったのか、それとも国民がそれに慣れてしまっているのか。

 ……まともだとは思わない。

 エインツェル村を襲い、民を魔物化する実験をしているような国だ。

 彼等とは違う意味で、俺は皇国を否定している。


「逃げる、か……?」


 ぽつりと誰か呟いた。

 小声だったにも関わらず、その瞬間喧噪が鳴り止む。


「リーンガムの人口は五千くらいだったか。

 戦えるのは五百程度しかいねぇってことか……厳しい、かもな」

「街を捨てるのも、一つの手、か」


 ドラゴンの猛威が振るわれる前に逃げる。

 そんな手段が即座に浮かぶほどに脅威らしい。

 二ヶ月。俺は港町リーンガムを頻繁に訪れた。

 活気があり、住み心地もいい。

 完全な平和はないが、それでもいい街だと思えるくらいには愛着がある。

 俺よりも彼等の方が長く住んでいるだろう。

 もしかしたら拠点は別の街かもしれないが……。

 傭兵連中は根無し草の人間が少なくない。

 別の街に移動するという考えは間違ってはいないだろう。


 ただ、この街で生まれ、住む人達はどうだ。

 仮に逃げても、五千の人間が住める街があるんだろうか。

 そしてドラゴンが近場に住処を作ったと知っても、逃げない人もいるだろう。

 この街はかなりの利益を生んでいる場所だ。

 断交しているわけでもなく、他国との交易も担っているだろう。

 その収益がなくなる。

 額は計り知れないはずだ。

 滞在期間が二ヶ月の俺にでも、長い時間をかけて発展していたことを窺い知れる。

 ……そも、どうして国は動かない?

 これだけの規模の街だ。

 危険が近づいているのならば即座に行動すべきだ。

 それ以上に重要なことがある、のか?

 それとも、傭兵達の言葉通り、こういうことは皇国では普通なのか?

 しかし。

 問題が起きてから行動する組織があることを俺は知っている。

 皇国がその態勢なのかはわからないが、違和感が強い。

 明らかに国益に影響が出るからだ。


「逃げても誰も責めねぇ。傭兵ってのは金のために命を張る人種だ。

 そして明らかに危険な戦場から逃れるのもまた傭兵の必須な能力だ。

 戦わなくても構わねぇ。だがよ、俺は戦うぜ。一人になっても、な」


 シュルテンの覚悟が伝わる。

 この男、どうやら中々に腹が据わっているらしい。


「俺ぁ、この街が好きだ。見捨てるなんてできねぇ。

 かといって、俺の無茶に付き合わせるつもりもねぇ。

 出立は明日の朝。現地集合で参加人数を決める。各自準備は怠らないでくれ。以上だ」


 シュルテンは言い終わると、部屋を出て行った。

 部屋では傭兵達が話し合いを始めていた。

 会話の内容は、どれも後ろ向きだ。

 この様子だと、参加人数は更に減るだろう。


「あの、どうします?」


 莉依ちゃんは不安そうにしていた。

 討伐隊の参加に前向きではない、というよりはこれからこの街はどうなるのかという不安のようだ。

 他のメンバーも同様だった。


「そう、だな……一旦、持ち帰って考えようか。

 先にアーガイルさんのところに行って、残りのお金も渡したいし」

「そうですね。時間もないですし」


 部屋を出ようと扉に向かう。


「やあ、君達は不参加かい?」


 ロルフが軽快な足取りで俺達に近づく。

 確か、バルバトスの副団長とか言っていたな。

 ということはロルフは参加決定なのだろうか。

 というか、なんで参加かい? じゃなくて不参加かい? なんだ。

 おまえ等じゃ役不足だから不参加に決まっている、と言いたげだ。

 俺は不快感を顔に出さず、鉄面皮を通した。


「いえ、まだ決めてませんね」

「そうかい? 若い内に見栄を張るのは仕方がないけど、死んだら元も子もない。

 無理をせず、逃げるのも時には大事だよ。

 まあ、僕がいれば問題は解決したようなものだから、気にしなくていいよ」


 ロルフは髪を掻き上げて、あからさまに格好をつけた。

 しかしその方向が間違っていることに彼は気づいていない。

 みんなの顔見てみよう、ね?


「男である君の顔をまた見たいとは思わないけど、他の御嬢さんは別だ。

 またどこかで……なんなら傭兵団バルバトスへの入団に口添えしてあげても」

「結構です」


 莉依ちゃんが余所行きの笑顔で答えた。

 最年少の女の子に、即座に断られるとは思わなかったのだろう。

 ロルフの爽やかな笑みが固まった。


「……そ、そうかい。残念だな。じゃ、じゃあ僕達は行くよ」


 逃げるようにロルフと団員らしき男達はそそくさと立ち去った。

 悪い人間じゃなさそうだけど、面倒なタイプだ。

 部屋にはハゲとモヒカンとツンツンがまだ残っていたが、俺達は無視して外に出る。

 睨まれたが無視した。

 そしてその足で、俺達はアーガイルさんの店へ向かった。


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『マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-』

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