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ランクアップから始まるのは

 数時間後、俺達はリーンガムに到着していた。

 ネコネ族の集落からはそれほど遠くない位置なので、こういう場合は助かる。

 ただ商業都市から離れていないということは、それだけ人の通りも多いということ。

 今までは見つからなかったらしいが、これからはどうかわからない。

 ネコネ族は人の文化と繋がる生活形態を維持しているから、仕方のないことなのかもしれない。

 さて、俺達はまず魔物の素材を換金するため、商人ギルドに来ていた。

 ニースは順番を待つのを渋ったが、時間がないので二手に別れるのは避けた。

 もうすぐ夜になるしな。

 数十分間待つと、見慣れた顔が迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。これはヘンリー様とトーラ様。

 本日は、素材の換金でよろしいでしょうか?」


 受付の女性がいつも通りの完璧な笑顔を浮かべた。

 見事な対応で、しかもきちんと名前も覚えてくれている。

 ただ所作が機械的なのでちょっと怖い時があるけど。


「ええ、お願いします。あのカードを」


 俺と朱夏でカードをそれぞれ持っている。

 朱夏のカードだけでいいかと思ったんだけど。

 念のため二枚あった方が、後々いいかと考えたからだ。

 ちなみに、俺も少しなら文字の読み書きができるようになっている。


「大変恐れ入ります。お預かりいたします。

 なんと、ゴーレムの核がおありなご様子。

 これならば本日の換金分でランクCに昇格するかと思います。

 たった数ヶ月で、素晴らしい功績ですね」

「お、そうですか」


 正直、ランクが上がってもあまり恩恵はない、と思っていた。

 各国から追われている俺達は、魔物討伐を本業にするつもりはないからだ。

 ただ各ギルドは各国で繋がっているらしく、カードも共通だ。

 各国間で冷静状態、軋轢が強いと聞いていたので意外だった。

 利益や資源の所持量や種類を鑑みれば、時給自足は非効率的。

 その上、グリュシュナ、ここでは大陸という意味合いだが、一大陸しか確認されておらず、五国は数か国ごとに隣接している。

 そのようなことから国交を完全に断絶するのは色々な意味で難しいようだ。

 入国は困難だが、通行止めではないらしい。


 とにかくギルド内でランクを上げておくと、他国に行った時は便利だろう。

 異世界人である俺達の収入は素材を換金するか、クエストギルドで依頼を受けることくらいしかない。

 なぜなら半日程度で変装が解けるということから、仕事が限られるからだ。

 そうなると自由な時間が多い仕事でなければいけない。

 その上、実入りがよく、俺達の能力で可能な生業となると魔物討伐が一番だ。


「おい、聞いたか数ヶ月でランクCだってよ」

「異例の昇格じゃねぇか」

「魔物討伐専門の傭兵団にでも入ってんじゃねえのか?

 ほら、最近噂のバルバトス、だっけか?」

「いや、見ろよ。子供ばっかりだぞ? しかもあんな小さいガキまでいる。

 さすがに傭兵団に入ってるってのはねぇだろ。ガキに換金を任せるバカはいねぇし」

「じゃあ……あの中の誰かが手練れなのか? そうは見えねえぞ」


 周りからは俺達のことを品定めするような視線が集まっている。

 もしかしてランクCって結構すごいんだろうか。


「現在、ランクC以降の方には少々お話をすることになっています。

 お手数ですが、換金が済みましたら、組合員の案内に従って頂けますでしょうか?」

「は、はぁ、わかりました」

 

 話? ランクが昇格した際に必要な説明、とかか?

 その割には、曖昧な表現のような気がする。

 よくわからないが、有無を言わさない雰囲気があった。

 俺達は不審に思いながらも馬車を進ませる。

 いつもの髭面のおじさんが荷物を降ろし査定をしてくれた。


「全部で白金貨十枚ですわ。

 各素材のポイントを加算しまして、それとランクCに昇格しますんで。

 説明と、別件の話がありますんで、一度馬車を停留所に置いて、ギルド内に来てもらえますかね?」

「……わかりました」


 受付で言われたことをそのまま言われた。

 やや剣呑とした空気が漂っている。

 何かあったんだろうか。

 まさか、俺達が異世界人であるとバレた、とか?

 にわかに緊張が走る中、俺は馬車を駐留所に移動させた。

 馬車から降りながら、莉依ちゃん、朱夏と話す。


「どう思う?」

「何だか、変な空気でしたね……」

「いつもとは違ったね。何かあったと考えるのが妥当だけど」

「俺達の正体がバレたのかもしれない」

「どう、でしょうか。その割には、私達に対する敵愾心みたいなのはなかったような」

「というと?」

「ギルド全体が殺気立っている感じでした。

 もし私達のことがバレているのなら、わざわざこんな風にしないんじゃないでしょうか」


 確かに回りくどいやり方をしているように思える。

 となると、別の懸案がある、ということか?


「念のため、何かあった時には逃げられるようにしておこう」

「はい、わかりました」

「うん、わかったよ」


 真剣に話している三人だったが、後方では呑気にしている二人がいた。


「お腹が空いたにゃー」

「お腹が空いたねー」

「早く宿に行きたいにゃー」

「早く宿に行きたいねー」


 ニースと結城さんはだらっとしながら、まだ馬車の荷台に座っている。


「二人とも行くぞ」

「にゃー、行くにゃー」

「うんー、行くよー」


 緩慢に馬車から降りる二人を見ながら俺達は嘆息する。

 本当に大丈夫か、このメンバー。

 いざとなったら、俺が命を懸けてどうにかするしかない、か。

 死んでも生き返るのだから問題ない。

 そう軽く考えていた。


   ●□●□


 商人ギルド内は、入口付近に広い空間がある。

 そこに掲示板があり、様々な情報が張られている。

 片面には素材の換金額や魔物の生息場所。

 もう片面には一般的な商品の交易。

 室内には商人と傭兵とが混在している。

 クエストギルドでは依頼を受けるが、商人ギルドが発注元である場合、商人ギルドに依頼品を届けるのが基本だ。

 数が尋常ではないため、クエストギルド経由だとかなりの手間になるためである。

 そのため、商人ギルドには様々な人種が訪問することになる。

 そのせいで無用な軋轢を生むことにもなるが、黙認されている面も多い。


 魔物討伐に関する受付で話を聞くと、しばし待たれるように言われた。

 無骨で屈強な傭兵や戦士達の中、俺達は浮いていた。

 視線が痛いな……。

 なんとなくアナライズするとステータスは俺達の方が圧倒的に高い。

 メイガスやエシュト皇国の兵士のレベルを思い出すに、どうやら異世界人である俺達の方がレベルは上がりやすいようだ。

 基本能力が違う、ということらしい。

 現地人達はどれだけ屈強でも3000レベル程度だった。

 それでも皇国軍に比べると腕利きだ。

 やはり、皇国軍の練度はあまり高くないらしい。

 おかしなものだ。

 目の前の彼らは、俺達よりも体格もよく、腕前もありそう。

 歴戦の証拠に、身体に傷跡なんかもある。

 筋骨隆々で、使い古された武器や防具を身に着けているのに、俺達よりは弱いのだから。

 レベルですべては決まらない。

 だが、著しい差があれば腕前では埋められないのだ。


 理不尽だ、と思った。


「お待たせしました、こちらへ」


 髭面の組合員がやって来て、俺達を案内してくれた。

 建物の奥、通路を進むと幾つかの扉を素通りする。

 しばらく道なりに歩くと立ち止まった。


「ここですわ」


 両開きの扉を通ると、中はむせ返るような熱気で溢れていた。

 部屋には家具がほとんどない。

 正面に長机と椅子があるだけ。

 百人程の傭兵達がそこにはいた。

 剣、槍、己、弓矢それらを携えている。

 完全に戦闘に特化した人種達だった。

 その全員が、入室した俺達を睨みつける。


「な、なんか怖いですね」

「み、見てるよ、こっち」


 莉依ちゃんと結城さんが俺にしがみついて来る。

 ほんの少し震えていた。

 結城さんとニースに至っては、さっきまでの気怠さはどこかへ行ってしまったようだ。

 朱夏は平静を保っている。

 俺は散々、恐ろしい目にあっている経験のおかげで、物怖じしなかった。


「適当な場所でどうぞ」


 組合員に言われて、人が少ない壁際に移動した。


「何かの話し合い、かな?」

「見るに、そんな感じだな」


 人数を集め、何かを話すようだ。

 一体内容はなんだ?

 ここにいる連中は全員ランクC以上なのだろうか。

 ちなみにレベルは最大で4000。

 これは、かなり高い方なんだろうか。

 莉依ちゃんと結城さんは、俺から離れる気配がない。

 ニースはマイペースながら時折、周りの様子を気にしている。


「おいおい、なんでガキがいるんだ?」


 近場にいた、頭の悪そうな男が俺達に近寄ってきた。

 頭髪が薄くなったのを誤魔化すためか、坊主頭にしている。

 眉毛がなく、厳つい。

 半年前に会ったら、多分目を逸らしていただろう。

 男の後方には仲間らしき男が二人いた。

 全身に重厚そうな鎧を装着し、これまた巨大な剣や斧を持っている。

 佇まいからそれなりに経験を積んでいることがわかった。

 ただ、態度は完全にチンピラだ。


「ここは託児所か孤児院だったか? なあ、おい」

「商人ギルドだったと思うぜ?

 まっさか、最近はギルドで子供を雇う風潮があんのかねぇ?」

「丁稚制度は職人だけで十分だぜ。

 こんなところに子供がいたら邪魔でしょうがねぇ。

 なあ? 邪魔だよなぁ!?」


 部屋中に響き渡る男の声に、呼応する声が僅かに上がる。

 蛇足だが、この男と後方の男達のレベルは3500程度である。

 ハゲの後ろにはモヒカンとツンツン頭の男がいた。

 男の大声に、莉依ちゃんと結城さんはびくりと肩を揺らした。


「大丈夫」


 俺は小声で二人に声をかける。

 余裕を見せるため、小さく笑った。

 それで少しは安堵したのか、捕まる力が緩まる。


「俺達は組合員に案内されて来たんだけど」

「あ? だったら、それは間違いだ。さっさと帰れよ。目障りだからよぉ」


 ふむ。この言動。

 どうやらこの男はこれからどんな話があるのか見当はついているようだ。

 その上で、邪魔な俺達を排除しようとしている。

 単純な感情による行動か?

 それとも……俺達を排除する事でメリットがある、とか?

 どちらにしてもこんな男の思い通りになってやる義理はない。


「今のところは、お断りだな」

「あんだと、てめぇっ! 誰に向かって言ってんのかわかってんのか?

 俺様は傭兵団バルバトスに所属してる、ディッツ様だぞ!」

「それがどれだけすごいか知らないし、どうでもいいんだけど」


 俺の言葉に、ディッツと名乗ったチンピラは青筋を立てた。

 俺は好戦的な性格じゃない。

 争うことを良しとしないし、できるだけ諍いは避けたい。

 けれど。

 俺の仲間を怯えさせたこいつに多少なりとも腹は立っている。

 こういう輩は自分が虐げられると思っていない。

 奪う側の人間であると確信している。

 根拠もなく。

 弱者を脅し、利を得ようとする。

 どこにでもいる。

 クソみたいな連中だ。


 居丈高になっているわけじゃない。

 強さを手に入れて驕っているわけでもない。

 ただ、敢えてへりくだる理由が浮かばない。

 ここで平身低頭してどうする。

 それこそが大人の態度だと自らを慰めるか?

 耐えることこそ正解だと、争いを避けてこそ正しいのだと思いこむか?

 俺はおためごかしで相手を尊重したくはない。

 自ら泥をかぶりやり過ごす人を非難するつもりはない。

 そうするしかない場面もきっとあるだろう。

 ただ、俺とは考えが違う。

 俺は大事なもののために自分を貶めない。

 俺は大事なもののためにすべてを懸けて戦う。

 その違いだ。

 だから引くつもりはなかった。


「てめぇ……いい度胸じゃねぇか」

「殺されたいみたいだな」

「もういいだろ。こいつぶっ殺そうや」


 どうやらこれがこいつらの精一杯の脅しらしい。

 殺す殺すとバカの一つ覚えみたいに。

 俺は何度も死んでるというのに。

 とりあえず、一撃は受けよう。

 先に手を出すと、後で言い訳ができないしな。

 俺は莉依ちゃんと結城さんをやんわりと押しのけ、一歩前に進み出す。

 いつでも始められる。


「それくらいにしておいたら、どうだい?」


 声は、思わぬ方向から聞こえた。

 部屋の隅にいた、精悍な顔つきの青年が俺達の所に歩み寄ってくる。

 雰囲気はイケメンだ。雰囲気はね。

 他の連中に比べるとやや線が細いが、レベルはこの部屋で一番高い。

 かなりの手練れだ。

 だが、力量の差がわからないハゲ男はイラつきながら青年を睨む。


「ああ!? てめぇはなんだ?」

「僕を知らないのかな?」

「知るわけねぇだろ、なんだ、有名人気取りか?」


 ヤンキーさながらに顔を近づけるハゲ。

 シュールな光景であることに当事者達は気づいていない。

 青年は苦笑し、呟いた。


「一応、傭兵団バルバトスの副団長なんだけどな。

 ロルフって名前、聞いたことない?」

「……へ?」

「君、バルバトスのメンバーなんだよね? おかしいな、僕を知らないなんて……。

 傭兵団では争い事を無闇に起こしてはならないっていう規範があるんだけど。

 知らないのかい? それとも知っていてわざと規律を乱しているのかな?」


 鋭い視線がハゲを射抜く。

 どうやらハゲは知らなかったらしく、近づけていた顔を青年からゆっくりと離した。


「じょ、冗談だ……ですよ。な、なあ?」

「あ、ああ!」

「た、単なる悪ふざけっていうか」


 しどろもどろになりながら言い訳をしている姿は小物以外の何者でもなかった。


「じゃ、じゃあ、俺達はこれで」


 そそくさと去り、ハゲ達は俺達から最も離れた場所に移動した。

 壁際でこそこそと話し、こちらをちらちらと見ている。

 体格はいいのに、行動は情けない。


「大丈夫だったかい?」


 青年が爽やかな笑みを浮かべ、俺に声をかけてきた。

 手助けは必要なかったんだが、穏便に済まして貰ったのは有難い。

 争えばどうしても周りに影響を及ぼすからな。


「ありがとうございました。助かりました」

「いや、いいんだ。ああいう名前を騙る輩が最近増えていてね。

 目に余ったから諌めただけで、親切心じゃない。

 だから感謝はいらないよ。それに女性達が傷つくのは見ていられない」


 なんというスマートな人だ。

 俺は思わず感心してしまった。

 こういう、さりげなく物事を解決する能力は正直羨ましい。

 最後の言葉は気障でウザいけど。


「君も勇気があるのはいいけれど、相手を選んだ方がいい。

 どう見てもあの人達の方が手練れだ。君では勝てない。

 女性の前で格好をつけたいのはわかるけど、無理したら意味がないよ」


 あれ、思ったよりイヤな奴?

 青年は真剣な顔で俺に助言をしていた。

 あ、違う。

 これ本心で言っている。

 天然でウザいタイプだ。

 ちょっとスマートとか思ってしまったことを後悔してしまった。


「は、はあ、そうですか」

「うん。気を付けてね。次は助けてあげないよ。

 僕は男は助けない心情なんだ。女性は何歳でも助けるけどね」


 ウインクした。今、この男、ウインクしたぞ。

 青年の視線を受けた莉依ちゃんと結城さんは身震いしていた。

 ニースはそもそも青年を相手にしていない。

 俺とハゲ達が言い争っている間も、自分のペースを崩さなかった。

 信頼と取るか、単純に無関心なのか。

 青年の俺、格好いいだろ? みたいな視線は朱夏にも注がれていた。

 見た目、女の子に見えるもんな。

 いや……まだ、俺もどっちかわかんないんだけどさ。


「それじゃ、僕はこれで。素敵なレディ達、また会いましょう」

「え、ええ、それでは」


 俺は軽く一礼して、青年の姿を見送った。

 どうやら仲間がいるらしく何人かと話していた。

 傭兵団か。

 団というぐらいだから、人数も相当な数がいるんだろうか。


「なんだか……へ、変な人でしたね」

「あたし、ああいう人、本当無理っ!」


 莉依ちゃん結城さん組には大不評だった。

 俺も、かなり苦手な感じだ。

 ニースと朱夏に至っては完全に無視していたし。

 色んな人がいるな、と思った時、部屋正面の扉が開いた。


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