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真の覚醒

 言葉の意味がわかっても、受け入れたくなかった。

 これが元人間だって?

 リンネおばちゃんだって?

 醜い巨体の魔物が。

 唾液を漏らし、俺を見下ろすこの化け物が。

 あの優しかった女性なのか?

 メイガスは俺を見ながらニヤニヤと不快な笑みを浮かべるだけだった。

 俺は説明を求めるように皇帝を見上げる。

 無言を通すかと思ったが、皇帝シーズは得意げに語った。



「我が国は、他国に比べ軍力が低い。先の兵士を見たであろう。

 練度を高めようと、優秀な兵数は限られるのだ。

 そこで世界中に存在する魔物を使役する方法を考えた。

 だが、それは無為に終わった。

 しかし魔物の力を人間に与える方法を模索した。

 そして我々は『主導権を握った状態で人間を魔物に変貌させる』ことに成功した。

 さらに、死して間もない人間でも改造が可能になった。

 それが魔兵よ。

 必要とされない人間はどこにでもおる。実験体には事欠かなかった。

 村の近辺にある森は魔兵開発実験場として利用していた。

 エインツェル村の住人は知らぬままに近くで暮らしていたわけだ。

 最近、一体魔物が逃げたと報告を受けていたが、まさか貴様が件の村にいるとはな」



 村が壊滅したのも、生き残りを殺したのも、死人を弄んだのも。

 すべてこいつらのせいだった。

 ただただ憎しみが強くなる。

 ただただ怒りが強くなった。

 迷う必要はない。

 神にでもなったつもりか。

 人を殺し、利用し、心が痛まないのか?

 なぜ、こんなことをして平気でいられる。

 こいつらは本当に人間なのか?

 俺には人の皮を被った魔物にしか見えない。

 魔物なら。

 ただの魔物ならば。

 殺していい。

 殺すべき相手だ。


「おまえら、生きてる価値ねぇよ」

「ヒッ!」


 怒りのままに発した声は酷く低かった。

 どんな形相をしているのか。

 俺を見るメイガスが小さく悲鳴を上げた。


「こ、殺せ! こいつを殺せぇっ!」


 メイガスの命令を受け……トロール達が動き出した。

 二体は、確実に俺よりも強い。

 だが、そんなことは関係ない。

 ここで倒さなければ。

 殺してあげなければ。

 二人は魔物として戦わされ、人を殺す道具にされる。

 人の尊厳と権利を奪われ、生かされるなんて。

 あまりにも惨い。

 惨すぎる。

 奴らを許してはならない。

 生かしてはならない。

 俺の手で、この場で、殺さなければ。

 全身に力の脈動を感じる。

 純粋な怒り。

 純然たる憎しみ。

 ただ一つの殺意。

 それらがとぐろを巻き、胸中に渦巻く。

 濃密な負の感情に、俺の理性は吹き飛んだ。

 残ったのは、僅かな憐憫と強大な憤怒。

 視界が赤黒く染まる。

 尋常ではない感情の奔流に、俺は自我を忘れた。


 何かが膨れ上がる。


 内包していた何かが。


 抑えきれず。



 弾けた。



「ギィ、ギイィ! ガァッっッ、アぁぁァァッァ!」


 眩い光が内から埋もれ、それが闇に覆われる。

 白と赤が混じり、やがて、それは形を成す。

 うねり、舞い上がり粒子の塊は光子となり、物質へと形成される。

 肉体を覆い、徐々に形が固定された。


 それは鎧。


 防具であり、武器だった。

 赤黒く禍々しい。

 ごつごつとしており、おおよそ美しさとはかけ離れている。

 曲線と直線で出来た、不吉な何かを模している。

 手や足には鋭利な爪がついている。拳を握ってみると、意外に滑らかに動く。

 蛇腹剣を思わせる尻尾が揺らめく。それは俺の意思通りに動いた。

 ほぼ全身を鎧に覆われていた。顔だけが半分ほど露出している。


 何だこれは?

 何が起こっている?

 俺は理性の残滓を総動員してステータスを見た。



 New・称号:現世に顕現せし修羅の化身


・LV:111,111

・HP:11,111,111/11,111,111

・MP:11,111,111/11,111,111

・ST:11,111,111/11,111,111

・STR:9,999,999

・VIT:9,999,999

・DEX:1,111,111

・AGI:1,111,111

・MND:1,111,111

・INT:1,111,111

・LUC:1,111,111


●アクティブスキル

 New・羅刹・狂鬼兵装バーサーカー

   …限界に到達する憤怒の情動が発現した鎧型の兵装。

    発動すれば、憤怒の感情が尽きるまで止まらない。

    バーサーク状態になる。STRとVITが突出して向上する。


●バッドステータス

 New・赫怒の律動

   …怒りのままに理性を失う。ただし、バーサーク状態でのみ。



 スキルなのか。

 レベルもステータスも上がっている。

 これは一体。

 思考がまとまらない。

 止めどなく激情が溢れる。

 力が抑えきれない。


「ぐ、ググぐ、ぐぅ、ギッ!」


 理性が保てない。

 俺は何をしている。

 何を考えている。

 何を考える?

 何が?

 何もない。

 何も考えなくていい。

 そうだ。

 今はどうでもいい。

 どうでもいいから、殺そう。

 目の前のこいつをまずは殺そう。


「グォォォォ!」


 トロールが叫び、俺に手を伸ばした。

 掴んで握り潰すつもりらしい。

 俺は、トロールの腕に向けて、軽く右腕を振るった。

 トロールの腕が吹き飛んだ。


「ギャアアアアアア!」


 血が溢れる。周囲に散布された。

 俺の身体にも降るが気にしない。

 痛みにもんどりを打つ、トロールに近づく。

 俺の尾が蛇のように、空中を滑る。

 そのまま操作し、トロールの心臓を突き刺した。


「ガ、ガアア、ンガ」


 数瞬だけ痙攣したトロールは動きを止めた。

 眼の光は失われ、ドロっと濁っていた。


「眠れ」


 ほんの少し残っていた理性が、憐れみを生んだ。

 これで彼女もようやく死ねた。

 俺の中で微細な感情が揺れ動く。

 だが、それも一瞬。

 即座に黒いモノに塗りつぶされてしまった。

 俺はメイガスの近くにいるトロールの横に、移動した。

 それは瞬き程度の時間。


「な、え?」


 俺は即座に跳躍し、右手を突き出す。


「ヒガアアッ!」


 俺の腕はトロールの胸部にすんなりと埋もれた。

 そして心臓を掴むと、破壊した。

 巨体は倒れ、絶命した。

 人間だった魔物は事切れ、あの世へ逝った。

 彼も、ようやく休むことができただろう。

 残ったのは外道達だけ。

 ああ、爽快だ。

 最高に最低でクソみたいな心情だ。

 このままこいつらをぶっ殺せば、もう少しはマシな気分になりそうだ。


「全兵、彼奴を殺せ! 何をしても構わん、奴を屠れ!

 一度殺せば、牢に戻すことができる! さっさと殺せい!」


 皇帝が号令を発す。

 兵士達の戸惑いが空気を通じて伝わった。

 だが、君主たる皇帝の命に逆らうことはできない。


「う、うああああああ!」


 剣兵、槍兵が観客席から舞台に降りる。

 そのまま俺へと特攻する。

 魔術兵は魔術を行使し、弓兵は矢を穿つ。

 天空には無数の矢と火球と氷柱。

 それが俺へと降り注ぐ。

 俺は回避をせず、立ち尽くしていた。

 衝撃が落ちる。

 地面を抉り、弾く音が幾度も響く。

 砂煙と大火、砂礫は虚空に飛散し、生物の存在を許さない。

 トロールでも、無事では済まない攻撃だった。

 ほぼ全弾が俺に命中する。


「や、やったのか!?」


 メイガスの声音には期待が含まれていた。

 煙が晴れる。

 奴の姿が見えた。


「期待したか?」


 俺は露出していた顔部分だけを、尾で覆った。

 それ以外は何もしていない。

 その場から動いてもいないし、傷を負ってもいない。

 別に尻尾で防御する必要もなかった。

 単純に顔が汚れるのが気に入らなかっただけだ。


「な、何をやってる! こ、殺せ!」


 メイガ……なんだったか。

 見覚えがあるような顔が目の前にある。

 顔を見るだけではらわたが煮えくり返る。

 その男は唖然としていた兵士達に怒号を放った。

 俺は兵士達を一睨みする。

 それだけで、兵士達の動きは止まった。

 それでいい。

 襲い掛かって来たら、殺すしかない。

 勝てない戦をするのはただの馬鹿だ。

 俺は男に視線を移した。

 奴は、失禁していた。


「あ、ああ、ば、化け物、な、なん、へ、陛下! 陛下あああああ!

 お、お助け、ください! 陛下!」


 見ると皇帝は立ち上がり、逃げようとしている。

 それに皇妃よりも自分の安全を優先していた。

 兵士達を伴って、屋内へ向かおうとした。

 俺は男の首根っこを瞬時に掴んだ。


「がぶっ!」


 そのまま、五メートル程の高さにある、皇帝達がいた観覧場まで跳躍する。


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『マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-』

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