潜入作戦決行
服を着て、鎧と外套を身に纏い、背中に大剣を背負う。
腰から下げた鞄には最低限の食料と水筒、止血薬などの薬品が入っている。
もちろん竜燈草の毒薬も常備する。俺達の生命線だ。
「……よし」
準備を終えると、扉を出た。
廊下には仲間達が待っていた。
「待ってたよ、日下部くん! 行こっか!」
「今日ですべてが終わる。勝つぞ」
「やってやりますにゃ! やってやるんですにゃ!」
「が、頑張りましょうね、日下部さん!」
結城さんは笑顔で、ニースは程よく緊張し、ディーネは少し気負っている。
莉依ちゃんは昨晩のことを引きずっているようだった。
俺も同じだ。でも今日は任務に集中しなくてはならない。
失敗は許されないのだから。
「じゃあ、行くぞ!」
四人を伴い、俺は外に出た。
訓練場にはすでに隊員達が並び、整列している。
それだけではない。
マルティス国王やテオバルト陛下。
ウルク将軍やその他、隊長や主要な大臣達。
使用人、兵士達。
彼等は並び、道を作ってくれていた。
剣を携え、姿勢を正している。
彼等の間を通って、俺は隊員達と並ぶ。
正面の壇上には国王、二人が立っている。
「すでに話はしておる。クサカベからも多くを学び、聞いているだろう。
儂等からの話は不要。最早、言うべき言葉はほとんどない」
「だが一つ。私達から一言だけ、そなた達に贈らせて欲しい」
国王二人は、軽く息を吸い、そして言った。
「人類を頼む」
一斉に、俺達は敬礼し、
「はっ!」
と返した。
鷹揚に頷いた二人は、俺は視線を送った。
俺は頷き返すと、全員に振り向くと叫ぶ。
「竜神城潜入部隊。潜入作戦開始!
ネコネ族の変装魔術完了後、即座に竜神城へ向かう!」
「はっ!」
即座に竜族の姿になった俺達は、城を出る。
街には国民達が道を開けて待ってくれていた。
みんな俺達を見送ってくれるようだ。
「た、頼むぞ!」
「勝ってくれ!」
「世界を救って!」
「竜族達を倒してくれ!」
「お、お願い、どうか」
祈りと声援、慟哭にも似た叫びも聞こえた。
誰もが俺達に期待している。
それを肌で感じたのか、隊員達の緊張が高まっていた。
程よい緊張は力を発揮させるが、過ぎると身体が固まる。
力を発揮できず、任務を失敗するだろう。
それを再三、みんなに教えてきた。
そして実践を繰り返し、全員が理解している。
緊張感はあった。自分で解す方法も知っていた。
だから声援があっても、みんなそれぞれ気を落ち着かせていた。
テオバルト陛下の目利きも満更でもないのかもしれない。
最初の時を思い出すと、なんて最低な奴らだと思ったものだが。
実際は優秀だったのかもな。
街を出ると走り始める。
ここからは時間との勝負だ。
道を通り、前線へ向かう。
竜燈草の煙を抜け、俺達はラスクのある丘を下り、竜族の大軍の横を通った。
「ギャガ、グギャ」
そこかしこで気味の悪い声を上げている連中ばかり。
視界ほとんどが竜族で埋まっており、叫びながらラスクに近づこうとしている。
だが竜燈草の煙がそれを阻害している。
この状況をずっと続けている中、やつらは打開策を持たない。
もちろん、空からの攻撃という手段もあるが、矢と攻城兵器の集中砲火を浴びてしまい、途中で墜落するのだ。
トッテルミシュアから移動していた時とは違う。
一所を拠点として、常に弓兵を配置している状況では、竜族も対処できないはずだ。
俺が危惧していたのは、竜将が出張ってくること。
他の竜族に竜燈草は効果がある。
だが竜騎士や竜将レベルに聞くかどうかはまだわからない。
もし奴らが来たらどうするか、とは思っていた。
しかしそれは杞憂に終わった。
奴らが出てくることはなかったのだ。
理由は判然としないが。
とにかく、人類は決行日まで生きながらえ、今もどうにかなっている。
レイラシャに大勢の人間が集まっているが、世界中を見れば、どこかに生き残りがいるだろう。
彼等のためにも、早くこの状況を打開しないといけない。
俺達は無言で竜軍の間を抜ける。
二時間ほど走ると、竜軍の塊を抜けたらしい。
視界が開けて、ぽつぽつと竜族がいるだけになった。
今まではもう少し迂回していたので、普段とは違う景色だ。
さすがに何度も同じように走ると目立つからな。
訓練は別ルートを通ったりしていた。
さて、問題はこの先だ。
平原を抜け、高原に至る。
ここは視界が開けており、目立つ。
ここまで来ると竜神城が見えそうではあるが、森が邪魔をしてまだ見えない。
名もなき高山自体は見えるが、麓は木々で覆われている。
もう少し近づく必要がありそうだ。
とにかく走り続けなくては。
それから一時間走った。
時折、竜族達と遭遇するが、特に何も言われない。
このまま、竜神城までいけるかと思ったが、途中で別の竜軍の隊と遭遇してしまう。
今まではラスク近くの大軍か、小さな隊としかすれ違わなかった。
しかし目の前にいる隊は中隊程度。
千近くの竜族を率いている隊長らしき竜族が俺達を見つけてしまう。
何か言われるかもしれない。
緊張が走る。
だがここで足を止めたり、不審な行動をとれない。
走り抜けるしかない。
「オイ、キサマラ、ナニヲシテイル?」
竜族の大量らしき竜人が話しかけてきた。
先頭にいる俺に向かって、誰何しているらしい。
まずい。
予想通りでもあったが、最悪な状況だ。
だがここは練習していた台詞が役に立つだろう。
「オレ、コレカラ、シロニ、モドル。
ニンゲン、チカクニイル、ホウコクスル」
「ニンゲン? ドコニイル?」
「チカクノモリ。カクレ、スンデイタ」
竜族は思考を巡らせているようだった。
俺達の中で戸惑いが伝播する。
こいつ何をするつもりだ。
「アンナイシロ。ワレワレガ、シマツスル」
まずい。
こいつ自分の手柄にするつもりだ。
おかしな反応ではない。
むしろ近くに敵がいるのだから、討伐に向かう方が自然だ。
しかし、竜族の情報がない俺達には他にまともな返答は浮かばなかった。
適当に茶を濁せばよかったのかもしれないが、人間を襲っているという間違いない点に関連する内容にしたのが仇となったらしい。
どうする。
このまま無視をして先を進むか。
千体相手だとさすがに厳しい。
倒せても時間がかかるし、後続の竜族達がやってくる可能性がある。
ここで戦うのは危険だし、作戦が台無しになる。
どうにかこの場をやり過ごせないか。
俺は狼狽しながらも、答えを探そうとする。
「ドウシタ? アンナイシロ。ソレトモ、テガラヲ、ウバワレタクナイノカ?
……ワレワレハ、ゲンジュサマノ、ブタイダゾ。キサマ、ドコノブタイダ」
苛立ったように、言い放った。
部隊って言われても、竜族の名前なんて知らない。
ゲンジュなんて名前も初めて知ったし。
どうするかと悩んでいたら、ニースが前に出てきた。
「ラグナロサマノ、ブタイダ」
「……ラグナロサマカ。チッ、ワカッタ。サッサトイケ」
竜族は舌打ちをすると、俺達を素通りして、ラスクの方へ行ってしまった。
竜族達がいなくなると、俺はニースを見る。
「ラグナロ?」
「竜将の一体だ。他にはツェツィーリアとゲンジュがいる。もう一体は知らないが。
ラグナロはゲンジュと対立していて、仲が悪いらしい。
隙あらば、命を取り合うくらいには。まあ、そんなことは中々できないだろうが。
さっきの奴は無駄な問題を起こしたくないと思って、見過ごしたんだろう。
中隊長クラスなら多少は事情を知っている中間管理職だ。リスクを考えると思った。
それに今は戦争中だし、ラスクを目の前にしているからな」
「良く知ってるな……」
「一時、竜族に変装して情報収集をしていたりしてたからな。
まあ、知っている情報は少ない。他に知っていることはもうほとんどないくらいだ。
すまん、先に言えばよかったな」
そういえば、竜騎士のことをニースは知っていた。
俺も聞くのを忘れていたな。
色々とやることがありすぎて、足りない部分もあるかもしれない。
気をつけないと。
「とにかく、周辺には竜族はいない。このまま竜神城へ行くぞ。気を緩めるな」
みんなが頷くと、俺は再び移動を始める。
俺を先頭に、隊員達がついてきている。
そして俺達は走って、竜神城を目指した。
●□●□
「――見えた、あれか」
ラスクがある丘を下り、森を抜け、更に平原を抜けた先、そこにある鬱蒼とした森を超えた場所。
そこにはさらに荒涼とした土地が広がり、奥の名もなき高山の麓には城が建っていた。
いや城ではない。
あれは要塞だ。
骨と岩と鉄。
それらが入り混じったような禍々しい外観。
相当な高さで、周辺を飛竜が飛び交っている。
近辺には無数の竜族達が哨戒していたり、見張りをしている。
厳重だ。見つかれば俺達なんて一瞬で殺されてしまう。
本拠地の竜神城だからか、下級竜族の姿はほとんどなく、今まで戦ったことがないような見た目の竜族が多かった。
巨大か無骨。
明らかに屈強で、上級あたりの竜族であろうことはわかった。
予想以上だ。
気を抜けない。
背後の緊張感が増している。
ここまで五時間程度かかっている。
あと一時間で変装魔術が解ける。
その前に、任務を完了するか、安全な場所へ移動しなければならない。
だがそれができるか?
内部の様子なんてわかるはずもないのに。
城周辺は岩場が多く、遮蔽物にはなりそうだ。
だがここは見晴らしがよすぎる。
ここで変装が解けたらまずい。
とにかく城へ行くしかない。
入れるかどうかは一か八かだが、それ以外に方法はなさそうだった。
しかし城への道は大型の竜や、中型の竜達が多い。
巨大兵器の合間を縫っての移動になる。
移動している竜軍の隊に紛れて移動する方がいいだろうが。
広すぎてどんな方向へ行けばいいのかわからない。
竜神城の周辺には駐屯地のような場所が無数にあり、そこから竜族達が出てきている。
順路を間違えば誰何されるかも。
さてどうする。
ここで迷っていると怪しまれる。
とにかく移動しないと。
『まったく見てられないわね』
声が聞こえた。
振り返るが、誰も俺のことを見ていない。
今のは、効き覚えがある声だったが。
『ミスカよ。姿は見えない。神域から話しかけてるから』
ミスカ? テレパシーみたいな感じか。
――このタイミングで話しかけてきたってことは、助けてくれるのか?
『あくまで竜神城内での案内だけ。今のまま潜入したら、迷うに決まってるもの。
いい? それだけだからね。それしか手伝わないから』
――それでいい。助かる。
『まったく、無策にもほどがあるわ……とにかく、まずは左の道を進みなさい。
そっちは下級兵達も通ってる道よ。あんた達が通っても問題ないはず』
――わかった。
俺はミスカの指示通りに左の道を進んだ。
城付近には基本的に不気味な素材でできた施設があるだけだ。
ある程度の間隔を空けて施設を建設しているため、おおまかな道ができているということだ。
特に舗装されていたり、区切られていたりするわけではない。
防壁らしきものはなく、入ろうと思えば簡単に入れる。
もちろん、ここに来るまでに普通は捕まるか殺されるだろうけど。
多分、竜族には守るという意識があまりないのだろう。
まさか潜入する人間がいるとは考えまい。
竜族は、圧倒的に強者だからだ。
竜族達に混じりながら俺達は進んだ。
今のところは問題なさそうだ。
近くを歩いている大型竜兵が恐ろしいが。
巨大兵器を配置している軍事施設みたいだ。
夜になったらライトが点いていそうな感じ。
そこかしこで竜族の声が聞こえ、不快感を煽る。
そんな中、俺達はただ歩みを進める。
『次の道を右。そのまま真っ直ぐ行って』
俺は胸中でミスカに了承の言葉を伝える。
そのままミスカの指示通りに進み、幾つかの道を超えると、三十分が経過した。
あくまで大体、だ。
頭の中で数えているだけなので、数分のズレはある。
――変装魔術が切れるまで三十分を切ってる。
『わかってるわよ。うるさいわね。そこ真っ直ぐ』
鬱陶しそうに言ったミスカだったが、俺の中には不安が広がる。
ミスカを信用しているかと言われたら、まだわからないと言うしかない。
彼女と俺は二度しか会ってないし、会話もほとんどしていない。
その大半は後ろ向きなものだったし、彼女が前向きになったという確証もない。
だから不安だった。
けれど信用するしかなかった。
俺達人類は出たとこ勝負に賭けるしかなく、ミスカの助言なくして、竜神城に侵入することは困難だとわかっていたからだ。
それから十分が経過した。
まだ城へ到着しない。
真っ直ぐに行けばすでに到着していたのだが、ミスカの誘導に従うと、かなり迂回する経路を通ってしまう。
何度かこれでいいのか、と聞いたが、ミスカはうるさい、大丈夫だから、と言うだけだ。
更に十五分が経過した。
『動かないで。ここにいなさい』
建物の陰に隠れて制止した。
残りは五分を切っている。
いつ効果が切れてもおかしくはない。
後ろの隊員や仲間達も焦れて、明らかに不安そうだ。
城までもう少し。
城門が近くにある。
付近を竜族達が哨戒しているが、要塞自体は入り口が幾つもあるし、急いで近づけば侵入できるかもしれない。
もう行った方がいいのか。
ミスカは動くなと言ってから、ずっと押し黙っている。
信じるか、信じないか。
ギリギリまで待つしかない。
数分経過。
もう、限界だ。
そう思った時、脳内に声が響いた。
『今よ! 正面右方向に走って!』
言われて、俺は跳ねるように走った。
後方の連中が、慌ててついて来るのがわかる。
途中で変装が解けた。
最悪だ。
なぜこのタイミングだったのか。
それはすぐに理解できた。
大型の飛竜が飛び上がり、轟音と共に周囲を影で覆ったのだ。
けたたましい音と存在感で竜族達の視線を奪った大型飛竜のおかげで、俺達の姿に気づく竜族はいなかった。
影の中を走っているため、認識できていない。
俺達は要塞の外壁に到着した。
『そこの窓から侵入しなさい!』
五メートルはありそうな格子の窓から俺達は侵入した。
侵入を防ぐことを考えていない構造だ。
容易に侵入できた。
三百人。全員が無傷で、俺達は竜神城へと侵入した。
入った場所は広めの部屋。
巨大な透明の筒が、いくつも天井からぶら下がっている。
中に何か球状のものが入っている。
壁や天井や床は骨のような形で、不気味だった。
それ以外には特に目立ったものはない。
『城内には竜族が少ないみたいね。多くの竜兵をレイラシャへ派遣してるんだわ。
けれど注意して。見つかると外にいる竜兵達が押し寄せるわよ』
――わかってる。ありがとう。この後も頼めるか?
『しょうがないわね。けれど、ここからは慎重に。油断するんじゃないわよ』
――ああ、わかった。
俺は胸中でミスカと会話すると、部屋の奥へと向かう。
ここは一体何の部屋なんだろうか。
『孵化室ね。竜の卵を補完する部屋だわ。騒がなければ問題ない。
けれど慎重に通りなさい。孵化寸前の卵でもあれば、危険だわ。
絶対に、音を立てない。刺激を与えちゃダメよ』
俺は振り向くと、全員に音を立てないように合図を送る。
すでに多少のサインは決めてある。
話せない状況も多いだろうと考えてのことだった。
莉依ちゃん達や前方の隊員が頷く。
前方の隊員が後方の隊員達へ俺の指示を伝える。
よし、これで大丈夫だ。
うん? 今のは。
……気のせいか?
『どうかしたの?』
――いや、何でもない。
俺は頭を振り、慎重に進む。
部屋の左右にある透明の筒。
その間を進まなければならない。
気持ち悪いな、本当に。
ゆっくり進み、部屋の中央まで至る。
そのまま対面にある部屋の扉に向かおうとした時。
ピシッ。
何かが聞こえた。
俺は音の方に視線を流す。
透明の筒の中にある恐らくは卵らしき、球体が震えていた。
表面にヒビが入り、それが徐々に広がると、やがて卵は割れた。
中から不気味な生き物が這い出てくる。
すると筒全体が震え、繋がっている線も振動した。
天井に連なっている線から不快音が響き、部屋中に漂う。
『孵化したわ! 逃げて! 最悪のタイミングだわ!』
「走れ!」
俺が鋭く叫ぶと、隊員達も跳ねるように地を蹴った。
扉を出ると、足音が響いていた。
こちらへ向かっている。
――くそっ、バレたのか。
『わからない! とにかく隠れなさい!』
――この人数が隠れられる場所があるのか!?
『ないわよ! 今から言う三ヶ所に分散させなさい!』
別れるしかない。
俺はミスカから聞いた通りの部屋へ、二十班ずつ移動するように指示した。
分断される場合のことも考えて、副隊長も任命している。
第一中隊は俺が隊長。
第二中隊はニースが隊長で、ディーネ、莉依ちゃん、結城さんはこの隊だ。
第三中隊は別の隊員が隊長になっている。
それで戦闘力を鑑みての配置だった。
百人ずつになる計算だ。
みんなすぐにやられるような奴らじゃない。
「死ぬなよ! 行け!」
隊員達は強く頷き、離れていった。
仲間達と目が合う。
特に莉依ちゃんは不安そうな顔をしていた。
大丈夫だ、きっと。
数秒だけの視線の交錯は不意に終わりを告げる。
俺は隊員達を連れて、廊下を走った。
孵化室を出ると、広い廊下が伸びており、隠れる場所はない。
そこかしこに気配がある。
感知型の剣で竜族の位置はわかるが、どこの部屋が隠れる場所に適しているのか調べる暇はない。
ミスカに頼るしかない。
『そこの部屋!』
ミスカの叫びに釣られ、俺は反射的に近くの部屋に入る。
そこは倉庫らしかった。
竜族達の武器防具やらよくわからない器具や道具がある。
廊下を移動する竜族達の足音が響く。
俺達は物陰に隠れて、じっと息をひそめる。
倉庫の中に竜族が入ってくる。
それでも俺達は身じろぎしない。
竜族は倉庫の中に入り、すぐに出て行った。
俺達を追っていたわけではなさそうだ。
近くに気配はない。
見つかったわけではないみたいだ。
俺はほっと胸を撫でおろす。
後方には百人近くの隊員達。
彼等は緊張した面持ちだった。
竜神城はかなり大きな造りで、百人で行動しても、大概は狭く感じない。
ただその分、隠れるには慎重に移動しなければならない。
不用意に動けば、逃げ場がなくなりそうだ。
莉依ちゃん達、他の隊員達は大丈夫だろうか。
心配だが、戻るのは危険だろう。
感知すると、竜族の気配がそこかしこにあるし、百人で移動すればまず間違いなく見つかる。
このまま、竜神のところへ向かった方がいい。
みんなもきっと後でついてくると信じて。
俺は心の中でミスカに聞いた。
――竜神はどこにいるんだ?
『最上階。階段で行くしかないわね』
外から見るに、かなりの高さがあった。
多分、高層ビル二十階分くらい。
ただし一つの階層が異常に高いので、六、七階くらいだと思うが。
俺は隊員達の表情を観察する。
大丈夫。気を張ってはいるが、怯えてはいない。
俺はみんなに対して頷き、扉の外の気配を探る。
いない。
――竜神のところへ案内してくれ。
『いいの? 仲間と合流しなくて』
――合流するのは危険だ。このままで行く。
元々、三百人全員で行動できるとは思っていない。
竜族全体に対して考えると三百は少ないが、潜入作戦を遂行するには多い。
だが、これくらいの人数がいないと、いざという時、どうしようもなくなる。
そのため、丁度いい人数だと俺は思っている。
三つに分かれて行動すれば、それぞれできることはあるだろうし。
『わかったわ。言っておくけど、ミスカはあんたとしか会話できないわよ。
夢で繋がったあんただから、こうして話せるんだから。
そもそも夢に繋げられたのもあんただけだけど』
ということは、他の中隊と連絡を取ることは不可能ということ。
分断された場合、合流よりも、竜神の下へ行くことを優先するように言ってはいる。
恐らく、最上階に敵はいると話していた。
もちろん、潜入してから調べるようには言っているが。
『とにかく、行きましょう。今なら移動できる』
俺は胸中で了承の意を伝えると、扉を出た。




