戦う者達
莉依ちゃんが来なくなった日、俺は落ち着かなかった。
毎日のように来ていたのに、またいなくなってしまった。
また一人か。
慣れている。
問題ない。
けど、やはり思う。
莉依ちゃんはどうしたんだろうか、と。
話さなかったから、事情はまるでわからない。
俺が集落を出て一ヶ月程度経過している。
その間に、何かあったんだろうか。
「……もう俺には関係ない」
彼等が拒絶したのだ。
その上で、無理やり関わるほど、彼等に執着はない。
ただ、莉依ちゃんや結城さん達がどうなったのか気になる。
もし、竜族が襲って来ていたら。
俺は頭を振る。
もう、いいだろう。
気にしてもしょうがない。
俺は、俺のことだけを考えよう。
俺のことを待ってくれている人達がいる。
莉依ちゃん達が待っているのだ。
この世界の人達じゃない。
本当に俺のことを心配し、信頼してくれている人達が。
だから、もういいんだ。
俺は、何かする必要はない。
もう十分やっただろう。
「……一応ステータスを確認してみるか」
逐一見ていないので、どれだけ溜まったか楽しみだ。
・生命力 :100/100
・体力 :100/100
・筋力 :14 →19
・俊敏性 :16 →17
・精神力 :37 →40
・知力 :24 →27
・カリスマ:3 →1
・カルマ :107→107
・魂 :10 →10
●スキルLV:1
●スキルポイント:10【15】
ポイントは結構溜まったけど、一ヶ月という期間を考えると微妙か?
ステータスはそれぞれ変化があったみたいだ。
筋力が一番伸びてるな。
他は、まあ、特に驚くようなところはなさそうだ。
さて、スキルをどうするか。
●武器スキル【11】
▼大剣【1】
▽パッシブスキル
・大剣攻撃力上昇【派生:???】 □□□
…大剣の装備時、攻撃力が10%上がる。
・筋力上昇1【派生:筋力上昇2】 □□
…筋力が10上昇する。
・振り速度上昇1【派生:振り速度上昇2】 ■■
…振り速度が僅かに上昇する。
★振り速度上昇2【派生:振り速度上昇3】□□□
…振り速度が少し上昇する。
▽アクティブスキル
・昇断剣『威力:80』【派生:大昇断剣、???、???】 ■
…轟音と共に昇る大剣。小型の敵は寸断し、大型の敵は打ち上げる。
★大昇断剣『威力:150』【派生:炎大昇断剣、???】 □□□
…轟音と共に昇り、落ちる大剣。上下の二段攻撃。
・波衝斬『威力:40』【派生:???、???】 □□□□
…剣閃を飛ばす。有効範囲は十メートル程度。
●汎用スキル【0】
▼一般【0】
▽パッシブスキル
・物理攻撃抵抗1【派生:物理攻撃抵抗2】 □
…物理攻撃のダメージを1%軽減する。
・属性攻撃抵抗1【派生:属性攻撃抵抗2】 □
…炎、水といった属性攻撃のダメージを1%軽減する。
▽アクティブスキル
・不撓不屈1【派生:不撓不屈2】 □
…5秒だけダメージを10%軽減する。再使用30秒。
・スロースターター【派生:スピードスター】 □
…5秒だけ俊敏性を10%上昇させる。再使用120秒。
▼特殊【0】
▽パッシブスキル
・鑑定1【派生:鑑定2】 □
…物の価値を計る。鑑定成功率はかなり低い。
・聴力【派生:高聴力】 □□
…聴力が上がることで、周囲の状況が少しだけわかる。
・微予感【派生:超予感】 □□□
…第六感を研ぎ澄ませることで、危険を感知することが少しだけできる。
▽アクティブスキル
・???
▼習得済み限定【3】
・十の魂返し【派生:五十の魂返し】 ■■■
…複数の命を持った異質な人間の力。十個の魂を持つ。
一つの魂を補てんするには三時間かかる。
★五十の魂返し【派生:百の魂返し】 □□□□□□□□□□□□□□□
…複数の命を持った異質な人間の力。五十個の魂を持つ。
一つの魂を補てんするには三時間かかる。
現状、スキル習得具合はこんな感じだな。
さて、どの部分を上げるか。
魂返しにはポイントがかなり足りない。
さすがにあと5ポイント貯めるのは厳しいかもしれない。
他の部分にポイントを振った方がいいだろう。
と考えていた時、遠くで何かが聞こえた。
「何だ?」
声? 奇声、か?
いや、動物の鳴き声だろう。
きっとそうだ。
再び、画面に視線を戻した。
だがまた、何かが聞こえる。
声と小さな破裂音。
これは。
まさか、戦闘音、か?
剣戟の音。誰かが戦っている?
いや、聞き間違いかもしれない。
事実、もう聞こえていない。
多分気のせいだ。
気のせい。
俺はじっと、画面を見つめた。
そして半ば無意識に操作する。
・聴力【派生:高聴力】 ■■
…聴力が上がることで、周囲の状況が少しだけわかる。
★高聴力【派生:最高聴力】 □□□□
…聴力がかなり上がることで、周囲の状況がまあまあわかる。
聴力は重要だから。
危険察知ができるし、今後も役に立つからな。
うん、それだけだから。
耳に意識を集中すると、聴覚が鋭敏になる。
聞こえた。
声。無数の足音。羽ばたき。
そして――悲鳴。
これは、この方向は集落の。
でも俺にはもう関係ないことだ。
それに俺が行かなくても、どうにかなるかもしれない。
ネコネ族はかなり鍛練していたし、戦闘もこなせるようだった。
ならば、俺は必要ないだろう。
――俺は操作を続けた。
・微予感【派生:超予感】 ■■■
…第六感を研ぎ澄ませることで、危険を感知することが少しだけできる。
★超予感【派生:超絶予感】 □□□□□□
…第六感をより研ぎ澄ませることで、危険を感知できることが多少できる。
予感は重要だから。
表異世界でも、同じような能力でかなり助かったから。
将来のことを考えてのことだし、必要だ。
うん、必要だな。
直感的に理解した。
危険が迫っている。
この度合。
この胸を締め付けるような重圧。
盗賊や、格下の竜族とは比べ物にならないの危機。
継続的に聞こえる悲鳴、剣戟。
俺は無言を貫き、手を動かす。
・筋力上昇1【派生:筋力上昇2】 ■■
…筋力が10上昇する。
★筋力上昇2【派生:筋力上昇3】□□□
…筋力が15上昇する。
・振り速度上昇1【派生:振り速度上昇2】 ■■
…振り速度が僅かに上昇する。
★振り速度上昇2【派生:振り速度上昇3】■■■
…振り速度が少し上昇する。
★振り速度上昇3【派生:振り速度上昇4】□□□□□
…振り速度が多少上昇する。
これで大剣での攻撃も強化された。
振り速度も上昇。
鍛練のおかげでステータスも上がっている。
一ヶ月前よりも、更に強くなっただろう。
また、化け物に磨きがかかったな。
「くっ」
俺は思わず笑ってしまう。
自嘲したのだ。
化け物なら、化け物らしく。
利己的に生きようじゃないか。
誰も俺の助けを必要としていないだろうからな。
俺は俺だけのために戦おう。
俺の目的を達成するために。
帰るために。
それだけを考えよう。
もう、この世界の人間のことは知らない。
どうでもいい。
もう考えるのも面倒くさい。
だから、それでいい。
もう、どうでも。
「――いいわけ……ないだろ……ッ!」
どうでもいいなんて思っていたら、こんなところにいない。
莉依ちゃんが来てくれた時、嬉しいなんて思わない。
憎んで、恨んで、見殺しにしようなんて思えない。
何もせず、ただ自分のこと考えて生きることができない。
俺は。
わかっていた。
ずっと、俺は誰かのために戦ってきたんだってことを。
俺は自分のためだけに戦えない。
誰かがいれば、守りたい誰かのためならば戦える。
だから、俺は抗い続けて、王にまでなったのだ。
自己顕示欲じゃない。
ただ、みんなを守りたかったからだ。
今の俺は、受け入れられなかったら拗ねているだけ。
反発心を抱いているだけにすぎない。
ああ、だからといって、俺を拒絶した奴らを守ってやる義理はない。
あんな自分のことしか考えず、あまつさえ恩義も何もかも忘れたような奴ら。
どうでもいい。
だけど、俺を擁護してくれた人もいる。
守ろうとしてくれた人もいる。
それが叶わなくとも、行動してくれた。
その彼女達を見捨てることになる。
自棄になれない。自棄になれるような段階ではなくなっている。
表異世界の経験が俺を縛り、俺を無理やりに立ち上がらせる。
だが感情だけで行動するようなことは、もうない。
色々な出来事が俺を制止し、突き動かす。
だけど。
俺はもう、すでに走り出していた。
みんなを守らなくては。
危険が迫っている。
俺の胸中ではざわざわとした感覚が充満しつつある。
俺は足を動かしながら、手元を動かした。
●改良
▼改型
・感知型【攻撃力:C 防御力:C 速度:D 特殊:千里眼】
…剣から音波を発生させ、周囲の状況を感知できる。
広範囲の状況を把握できるが、それ以外の能力は並程度。
隠密行動などをする時には、非常に有効。
▽必要竜魂【小竜魂:80 中竜魂:3】
俺は大剣に竜魂を捧げる。
やり方は、改良ボタンを押すだけだ。
すると、大剣は煌々と輝き始める。
おおげさな変形音のおまけつきだった。
光が収まると、大剣の姿が見えた。
元の無骨な見目とは違い、精錬された形。
おうとつはほとんどなく、丸みを帯びている。
殆どの箇所が曲線を描いているような、そんな剣だった。
僅かに重くなっている。
長さはそのままのようだ。
俺は感知型へと改良した大剣を構え、意識を集中した。
千里眼。
スキルの使用と同じような感じで、能力を発動してみると、簡単にできた。
視界が広がる。
思い通りに視界が伸び、広がり、狭まる。
聴覚も思いのままだった。ただし感知範囲は森の内部だけに留まる。
四方十数キロ程度。それなりに使えそうだ。
俺は周囲を探索し、集落付近に意識を移ろわせる。
声が、音が、徐々に大きくなる。
ネコネ族達が竜族と戦っている。
数十のネコネ族に対し、竜族の数が圧倒している。
飛竜と緑竜人。
ここら辺一体で、見かける竜族達だった。
「怯むな! 逃げるな! もう逃げ場はない!」
気勢を上げ、鼓舞しているのはニースだった。
近くでディーネも戦闘に参加している様子だった。
ネコネ族の練度は高いため、竜族にも引けを取らない。
人間達はどこだ?
俺の視点が集落へ近づくに連れ、竜族の姿が少なくなる。
まだ、襲われて間もないらしい。
集落内には女性や子供達がいた。
ネコネ族達は家屋に避難しているが、人間達は外にいる。
避難場所がないため、しょうがない。
人間のすぐ傍には結城さんと莉依ちゃんが立っている。
誰もが不安そうにしているが、逃げ場もない。
怯え、何もできずにひたすらに震えている。
結城さんは彼等を守るために待機しているのだろうか。
「ど、どうして、もう、なんでこんなことになってるんだ!」
「も、もういやだ! どうして俺達ばかりがこんな」
「怖い、怖いよぉ、怖いぃっ!」
泣き叫ぶ人々。
結局、彼等は変わっていない。
変わろうともしなかったようだ。
現状を憂い、ただ嘆くだけの人達の中で、誰かが言った。
「あ、あいつ、あの化け物を呼び戻せばいいじゃないか!」
「そ、そうだ! そうじゃないか! あいつがいれば竜族なんてどうにかなるだろ!
化け物と化け物を戦わせれば、丁度いい!」
俺のことを言ってるみたいだな。
もう、あいつらのずる賢さは知っているし情もないから、別にいいけど。
本当にクズだな、こいつら。
変わらない。
言っている奴は、結城さんを調達係にした奴らだったからだ。
さすがにこの言葉に賛同する人間は少なかった。
みんな、恐怖に怯えていたが、何も言わなかった。
奴等の言葉に、結城さんが何か言おうとした。
しかしその前に、莉依ちゃんが先導して叫んだ男の眼前に移動した。
明らかに、彼女は睨んでいた。
拳を握りしめ、怒りに打ち震えていた。
「な、なんだよ」
子供でありながら、ここまで集団の中で、多大な貢献をしている少女。
彼女の行動に男もたじろいだ。
傍から見るだけでも、小柄な体に見合わない重圧があった。
莉依ちゃんは口を開いたが声にはならない。
その時、叫び声が集落近くで響いた。
俺は集落入口から、再びニース達がいる前線へ視点を移動させる。
中型の飛竜だけでなく、今度は大型の青い竜の姿が見えた。
二足歩行で、体躯は巨大。
全身を硬い鱗で覆われている。
木々をも超える身長で、腕を振れば大木もなぎ倒せそうだった。
足元でネコネ族が攻撃しているが、鱗に弾かれて傷を与えられない。
尻尾を振るだけでネコネ族は吹き飛ばされ、息絶えた。
矢も剣も奴には効かない。
だが、ネコネ族には他の武器はないらしく、愚直に攻撃するしかない。
やがて。
「む、無理だ、あんなの、た、倒せない!」
ネコネ族達は気づいた。
青い竜を殺すことは不可能だということに。
その一言を切っ掛けに、ネコネ族達の間に絶望的な空気が漂う。
覇気はなくなり、戦意を喪失している。
「に、逃げるな! 逃げても追いつかれ狩られるだけだ!」
ニースが檄を飛ばすが、恐怖に魅入られたネコネ族達には届かない。
「あああああっ!」
「ぎぃぃぃいっ!」
「し、死に、たくない……がっ」
大型竜の登場により、一気に劣勢に追い込まれる。
ネコネ族の男達がどんどん死に絶える。
はっきり言って、ネコネ族達は気に食わない。
人間の大半も気に入らない。
でも。
無残に殺される光景を見て、ざまあみろなんて思えない。
みんなの行動の根幹には、生存欲求がある。
判断は納得いかないし、身勝手だ。
けど。
俺が、力なく、抗う心も持たなかったとしたら。
彼等のようにならなかったと言えるだろうか。
断言はできない。たらればの話は終わりがない。
だったら、今できることを、やるべきことを全力でするだけだ。
無駄な感情は、今は必要ない。
目的を達成するために必要なことだけ考える。
俺は走った。
凄惨な光景は続いている。
ネコネ族達が死に絶える中、竜族達は集落に押し寄せる。
人間達も襲われていく。
建物に隠れていても、家ごと焼かれる。
「や、やめてくれっ!」
「助けて!」
死ぬ。殺される。切り裂かれる。
結城さんが必死で、戦い、守ろうとしている。
だが、子供と女性が多い集団の中で、男達を守ることは遅れている。
必然的に。
「し、じにだくぅ、な、ぃ」
男達は死んでいく。
俺を非難し、身勝手な行動をとり続けた男達は、竜族の爪に貫かれ、食われていた。
「だずげぇでぇ」
他の男達も同じだった。
「ひ、ひいいぃっ!」
真っ先に逃げようとした男達だったが、それは間違った選択だった。
逃げる獲物がいれば、ハンターは追うものだからだ。
それが功を奏したのか、結城さん達に向かう竜族は少なかった。
集落を守っていた一部のネコネ族達と協力し撃退している。
これならもう少し耐えれる。
早く。
早く!
出発が遅れたことを、今更に後悔した。
切迫した状況。
速度はこれが限界。
全力で駆けているが、全滅する前に辿り着けるか。
急げ。
もっと、早く。
「くっ、そ! 一体、どうすれば……っ」
ニースは傷だらけだった。
同胞達が死に絶える中、ニースは必死で戦っている。
集落では結城さん達も必死で戦っている。
莉依ちゃんは怪我人を治療している。
人間の男はほとんど死んでいた。
女性や子供は、逃げようとしているが、周囲はもう囲まれている。
ネコネ族の男達も少なくなっていく。
ネコネ族が集落の防衛に戦力を避ければ、事態は好転するかもしれない。
だが、攻め入ろうとしている大型の竜やその隊が危険だ。
奴らが集落に入れば、すぐに殲滅される。
それをわかっているからか、ニースは大型竜達の足止めをしていた。
攻撃は通らない。だが、ひたすらに邪魔をすれば奴も無視はできない。
見るに、知能はそれほど高くないらしい。
そのため、ネコネ族達に攻撃を受けると、一々、立ち止まり対応している。
そのおかげで、何とか生き長らえている状態だ。
「どうすれば、どうすれば、いいんだ!」
「誰か、助けて!」
「誰か……誰かっ……お願い……」
誰もが助けを呼んでいる。
だが援軍は来ない。
少しずつ絶望が侵食して来る。
誰もが。
もうだめだ、そういう顔をしていた。
大型竜が集落目前に移動している。
限界だった。
他の竜族も続々と集落内へと足を踏み入れる。
必死の抵抗もむなしく。
集落は青や緑で埋まり、内部も染まりつつある。
「もう、終わり、だぁ……。みんな死ぬんだぁ……」
誰もが諦めつつあった。
死体の山。
血の雨。
諦観が満ちる中。
竜族達の猛攻は続く。
家は燃え、人は死に、平和だった面影はなくなっている。
大型竜が広場に到達。
対応に迫られ、大型竜以外の竜族と戦うネコネ族達。
だが、彼等の顔にはもう希望はなかった。
大型竜が人間達の前に立った。
怯える人々の中、竜の前に立つ人影があった。
莉依ちゃんだ。
勝ち気な視線を竜へ向けていた。
身体は震え、瞳は濡れている。
でも、目は逸らさない。
逃げない。
彼女だけが絶望の中で、立ち向かおうとしている。
でも、それも限界だった。
目の前の絶望はそれほどに圧倒的だったのだろう。
莉依ちゃんの足は震え、立っていれらないほどになる。
それでも、莉依ちゃんは大型竜を睨んだ。
唇を僅かに動かす。
「…………ぁ」
僅かに声が出た。
だがそれを聞いている存在は俺だけだった。
俺の千里眼と高聴力によって、すべては見え、すべては聞こえていた。
結城さんは他の竜族と戦っている。
莉依ちゃんのことには気づいているが、何もできない。
「に、逃げて、莉依ちゃん!」
結城さんの言葉は莉依ちゃんには届いていない。
「……………ん」
莉依ちゃんの口から僅かに言葉が生まれる。
涙を流し、恐れに耐えるためにズボンの裾をぎゅっと握った。
顔に決意が見える。
瞳に光が生まれ始める。
感情がなかった彼女に、生まれた衝動。
少しずつ、莉依ちゃんの表情に生気が滲む。
大型竜が巨大な腕を掲げる。
悲鳴が上がる。
もう終わりだ。
誰もがそう言っていた。
莉依ちゃんは、勇敢にも大型竜に対峙し続ける。
「く……べ…ん」
大型竜が腕を振り降ろした。
莉依ちゃんに向け。
押し潰される直前。
俺は確かに聞いた。
「くさかべ、さんッ! た、すけ、てッ!!!!」
莉依ちゃんの叫びと共に、轟音が集落内を満たす。
地面が揺れ、誰もがその一撃での死を覚悟した。
が。
「呼んだ?」
俺は大型竜の一撃を剣で受け止めていた。
全身が引きちぎれそうだ。
骨も肉も限界だと訴えかけてくる。
だが、俺はそれを限界だと認めない。
全力で走ったせいか、息も弾んでいる。
体力もかなり削られた。
それでも。
俺は莉依ちゃんを庇いつつ、大剣で竜の腕を抑えつける。
「く、さかべ、さ、ん」
「ああ、来たよ。ここにいる」
「あ、あぁ……ううっ……日下部、さん……」
嗚咽が漏れている。
無感情で、無表情だった莉依ちゃんが。
泣いて、俺を見上げている。
肩口に振り返り、莉依ちゃんを一瞥した俺はすぐに、正面に向き直る。
「大丈夫。俺が、守るから。そう言っただろ?」
そう。
約束したんだ。
俺は最初からそう言っていた。
莉依ちゃんや結城さんを守るために、俺はここにいるんだから。
他の人間?
知ったことか。
わざわざ守る義理はもうない。
けど、莉依ちゃん達を守るついでに、勝手に助かるということならば、俺の知るところではない。
一先ず。
強引に。
『大型竜の腕を弾いた』。
「グギャッ!?」
わかりやすいほどに、大型竜は驚き、動揺している。
後ろに下がりながら、倒れないように態勢を整えていた。
これは、予想以上に強くなっているみたいだ。
全員の視線が俺に集まる。
竜族も、人間も、ネコネ族も、全員が俺を見ていた。
様々な感情が見える。
竜族からは負の感情が。
人間やネコネ族からは、動揺と期待、そして恐怖。
いいさ。
それでいい。
化け物だと思ってもいい。
俺は、おまえ達に認められるためにここにいるんじゃない。
俺の仲間を、友人を助けるためにここにいるんだから。
見ていろ。
化け物の戦いを。
勝手に期待して、勝手に恐怖していろ。
俺は構わず、俺のしたいことをする。
まずは。
とりあえず、目の前のデカブツをどうにかしないといけないな。
「おい、おまえ」
俺は大型竜に向かって剣を伸ばす。
「ギャッ?」
「そう、おまえだよ、おまえ」
大型竜は俺の言うことに首をかしげている。
敵に声をかけられたことがないんだろうか。
戸惑っている様子だった。
「他の連中と戦ってもつまらないだろ。俺とやろうか」
「ギャギャ?」
「ああ? なんだわかってないのか。じゃあ、これで」
俺は大剣を無造作に振った。
振り上げ、踏み出し、振り降ろす。
一太刀には三行程が必要だ
だが、周りからは俺がすべてを一息で行ったように見えただろう。
単純に、それは一連の流れの速度が著しく早いだけだ。
大型竜は反応出来ず、棒立ちだった。
俺の攻撃は大型竜の足に直撃した。
甲高い金属音が響いた。
大型竜の鱗は高い硬度を誇る。
だが。
「ギャアアア!!」
竜は吠えた。
俺の一撃は、大型竜の足を切り裂いたのだ。
寸断は無理だったが、相当な深手は負わせた。
大型竜は痛みに悶えて、更に一歩後方へ下がる。
その拍子に、竜族を二体ほど踏み殺していたが、本人は気づいていない。
俺は大剣を肩に担いで、再び竜に言う。
「伝わったか? 俺がおまえの敵だ」
「グ、ギギィッ!」
瞳の色が変わった。赤く染まり、激情を体現している。
竜族は怒りを感じると、文字通り目の色が変わる。
わかりやすい奴らだ。現状ではありがたい。
「ニース! 結城さん!」
入口付近で、他の竜族と戦いながらも、俺の動向を見守っていた二人に声をかけた。
「な、なんだ!?」
「なに!?」
同時に声が聞こえ、俺は二人に言う。
「俺がこいつを引き受ける! おまえ達は他の竜族をどうにかしろ!」
一瞬の間隔の後、気勢が上がる。
「き、聞こえただろう! 同胞達! 戦え! クサカベが来てくれたぞ!」
「みんな! 日下部君が戦ってくれてる! あたし達も頑張ろう!」
ニースと結城さんの声を聞き、人々の顔に生気が生まれた。
まったく現金なものだ。
だが、それくらい感化されやすい方が、今はいいだろう。
竜族の数は多いが、個々の戦闘能力は高くはない。
もちろん普通の人間では戦えない。
だが、鍛練をしたネコネ族や、結城さんが協力すれば対抗できるだろう。
それに怪我をしても、莉依ちゃんが治してくれる。
死ねば終わりだが、怪我の状態なら何とかできるはずだ。
「莉依ちゃん、下がって。怪我人を頼む」
棒立ちして、俺を見上げていた莉依ちゃんに声をかける。
すると、莉依ちゃんは我に返り、慌てて離れて行った。
「き、気を付け、て」
まだ覚束ない言葉遣いだけど、表情も言葉も普通の女の子のように見えた。
過去に、莉依ちゃんに何があったのか俺にはわからない。
きっと辛い目にあったんだろう。
だけど、彼女は変わった。
己の力で、限界を乗り越えたのだ。
じゃあ、次は俺の番だろう。
「来いよ、デカブツ」
まずはこいつを殺すとしよう。
俺が剣を噛めると、大型竜は咆哮して襲いかかってきた。




