ミスカ
青く澄みきった空が視界に広がっている。
雲一つなく、気温も丁度いい。
背中に硬い感触がある。
どうやら寝ているらしかった。
半身を起こす。
周囲には石畳が敷かれていた。
途中から土に変わり、木々が生えている。
正面には聳え立った塔があった。
「ここは? 俺は死んだ、のか?」
だが、死後の世界にしては現実的な光景だった。
それに見覚えがある。
この情景。
ここは、そうか。
神域だ。
半年もの間、リーシュと共に過ごした地。
ということは一連の出来事にはリーシュが関わっている、ということか?
時間逆行なんて芸当ができる存在と考えれば、リーシュの仕業だと考える方が妥当だ。
だが彼女は死んだ。
消えてしまったのだ。
だから、その可能性を無意識の内に除外してしまったらしい。
だが、リーシュは神の一部だ。
俺達人間の常識から逸脱した存在なのだから、常識に捕われないだろう。
ならば生き返ることも可能なのだろうか。
だが、神でさえ死んでしまえば生き返ることは不可能だと、リーシュ自身が言っていたはずだ。
しかし、ここはリーシュの神域と全く一緒だ。
どういうことだ?
疑問に次ぐ、疑問。
浮かんでは俺の心にしこりを残した。
じっとしていても答えは浮かばない。
俺は立ち上がり、塔へと向かった。
中に入ると、俺の知っている内装とは違った。
家具や内壁のデザイン、それに配置が変わっている。
ただ大きな相違点はない。
「誰かいませんか?」
声をかけてみたが返事はない。
勝手に中に入るのは気が引けるが、仕方がない。
俺は室内に足を踏み入れ、二階三階の部屋を探したが誰もいなかった。
誰かが住んでいるのは間違いない。
生活の跡がある。
俺は一階に降りる。
そこにはちょっとしたテラスがあるはずだ。
塔の裏口からテラスに出る。
円形でパラソル付きのテーブルが一つあり、横にはワゴンが並んでいた。
椅子に誰かが座っている。
俺に背中を向けている誰か。
リーシュ――ではない。
髪は金色でややくせっ毛。
肌は雪のように白く、澄んだ色合いだ。
小柄で華奢で薄着。
少女であることは間違いなかった。
俺は少女に近づき、やや戸惑いながらも声をかけた。
「あの」
すると、少女が振り向いた。
少女は高級そうなカップを片手に、俺に横顔を見せた。
目元にホクロがあり、若干ながら鋭い目つきをしている。
碧眼で、目鼻立ちがくっきりしている。
多分、莉依ちゃんと同年齢くらいだろうか。
透明感、というよりは、どこか幻想的な印象が強い女の子だった。
妙な凄味があり、俺は言葉に窮した。
少女は俺をじっと見つめ、カップをソーサーに置くと、立ち上がった。
スタスタと俺の目の前に移動して、そしてまた凝視して来る。
「な、なんだ?」
あまりに無碍な行動に、俺は狼狽した。
というか綺麗な顔立ちをしているから、キョドってしまった。
勘違いしないでよね!
俺は莉依ちゃん一筋なんだから!
ごめんなさい。
俺が何もできずにいると、少女は身を引いて、これみよがしに溜息を洩らした。
「……なんだ、ただの異世界人か」
明らかに落胆した様子の少女を前に、俺は眉根を寄せる。
「ただのって……君は、異世界人を知っている、のか?」
「当然でしょ。ミスカは神様なんだから」
神様?
少女自身のことを言っているんだよな?
ミスカ、という名前らしい少女は、嘆息し明後日の方向を眺めていた。
神様と言えるほどの威厳はないが、どこか現実離れした雰囲気はある。
リーシュや聖神達とは違った世間離れしたような空気が漂っている。
神様、か。
ここはどう見ても神域だし、神がいても不思議はないか。
しかし、見た目はリーシュの神域に似ている。
いや、もしかしたら神域自体が、こういう構造なのかも。
俺はリーシュの神域しか知らないし。
俺が色々と思考を巡らせていると、ミスカは怪訝そうに俺を睨んだ。
「何? あんた、驚かないの?」
「え? 何が?」
「何がって、普通の人間は神様と直接会えるわけがないじゃない。
信じていても、実際に会ったら疑うでしょ。なのに、あんたは信じてる」
「そりゃ一応、会ったことがあるからな」
ミスカは目を見開き、キッと俺を睥睨する。
「あんた、竜神の回し者?」
今度は竜神?
なんだそれは?
「いや、知らないけど。誰だ、それ」
「とぼけてるんじゃないでしょうね?」
ミスカは疑いの目を俺に向ける。
ここまで感情を表に出してしまったらあんまり意味がないような気がするが。
別に負い目はないので、俺は堂々と視線を真っ向から受け止めた。
「……まあいいわ。嘘は吐いてないみたいだし。
ミスカの知ってる限り、あんたは転移したばかりだもの」
「転移? 時間逆行じゃないのか? じゃあ、君が俺をここに連れて来たのか?」
「何を言ってるの? 転移に決まってるでしょ。
それにあんたが突然、転移して来たんでしょう?」
俺は首を捻った。
ミスカも小首を傾げた。
話が食い違っている。
「君が俺をここに連れて来たんじゃ?」
「あんたが勝手に来たんでしょ?」
俺は再び首を捻った。
ミスカも再び小首を傾げた。
やはり話が食い違っている。
だめだ。頭がこんがらがって来た。
何が起こっているのかわからない。
それに、どうやらミスカ自身にも、俺がこの世界に来た原因がわからないらしい。
俺の力じゃないはずだ。
ミスカの力でもない。
ならば別の、何かの力が働いた、ということか?
とにかくその原因は今は置いておくとして、だ。
ここは過去、じゃないのか?
仮にミスカが神ならば、俺が知っているグリュシュナとは違うことになる。
聖神やリーシュ達がいないのだから。
となると、ここはもしかして。
グリュシュナに酷似した世界。
異世界の異世界。
つまり。
『グリュシュナの平行世界』なのか?
世界は可能性と選択の上に成り立っている。
例えば、分かれ道で右に行った世界と左に行った世界。
まったく同じ世界を基盤にしているが、未来は変わっている。
あるいは微妙に違いがある世界だが、非常に似ている世界の場合もある。
折り重なった世界。
つまり。
この世界は、俺が知っているグリュシュナとは同じでありながら別の世界なのでは?
まだ結論を出すには早い。
とにかく事情を聞くしかない。
「お互いに状況をわかっていないみたいだ。とにかく話を聞きたいんだけど」
「……神様に生意気な口を利くわね、あんた」
居丈高な態度のミスカは、俺を不快そうに見ている。
冷静に考えれば、初対面の、しかも神様に対して普通に話してしまっていた。
普通は、もっと敬意を払うべきなのかもしれない。
リーシュとは対等な関係だったからな。
しかし今更、敬語を使うのもな。
というか、年下に見える女の子に敬語か。
何かに目覚めそうだな。
それもいいような。
はっ!?
だめだ!
莉依ちゃんに怒られる!
俺は莉依ちゃん一筋なんだ!
嫌われたら、俺はもう生きていけない!
とにかく腕を組んで俺を見上げている、このロリ神様の機嫌を損なわないようにしなくては。
へそを曲げられて、話したくないと言われたら面倒なことになりそうだ。
俺はミスカを真っ直ぐ見つめ、言った。
「ごめんなさい」
「……謝ってる感じが一切しないけれど、まあいいわ。まずは名乗りなさい」
「俺は日下部虎次」
「ミスカはミスカよ。この世界、グリュシュナの神様。崇め奉りなさいよ」
ミスカは、ふんっ、と鼻を鳴らしてゴミでも見るような視線を俺に向けた。
おいおい、そんな目で見られたら、変な気持ちになるだろ、やめろよ。
俺は胸中を面に出さず、真顔で頷いた。
「で? あんたはどうしてこの世界に転移したのよ。説明しなさい」
状況的に俺から説明するだろうことはわかっていたが、どう説明したものか。
一から十まで話すと長くなるし、ある程度省略して話すか。
というか、神を殺したとか、王様だったとか話しても信じてくれそうにないし。
俺でも、そんな話を誰かにされたら、こめかみを指差して『頭大丈夫?』とか言いたくなるし。言わないけど。
ある程度、かいつまんで話すべきだろう。
俺は、地球から異世界に転移し、さらにこの世界に転移したのだと話した。
異世界の異世界とか、わけがわからない表現になりそうなので、これからは最初に転移した世界を『表異世界』、この世界を『裏異世界』とすることにした。
話し終えると、ミスカは再び嘆息した。
「つまり、ここはあんたがいた異世界に似ている世界だけど、状況は全く違うってことね?」
「ああ、そうなるな」
これだけの情報でもかなり突拍子がない。
信じてくれるかは賭けだが、これでも最低限の情報だ。
嘘を吐いてしまっては、信頼を失う可能性があるし、今後を考えれば正直に話した方がいいと判断した。
英断だったと信じたいところだけど。
ミスカは顔を顰めて、地面を凝視している。
思考中らしい。
しばらくして、ミスカは顔を上げた。
「嘘じゃない、みたいね。
あんたからは普通の異世界人とも、普通の人間とも違うにおいがする。
別の世界の人間、と言われて納得するくらいには変だわ」
「信じてくれて嬉しいような、嬉しくないような……」
「いいわ、この世界と似た異世界から転移したという部分は信じてあげる。
でも、あんたの能力で異世界に転移したなんて信じられないわね……。
仮にそうだとしたら、やっぱりあんたの力でこの世界に転移したんじゃないの?」
「いや、今はその能力はない。普通の人間、というかそれ以下だからな。
だからこの世界に転移した力は、俺のものじゃない、と思う」
ミスカは眉をひそめて、俺に向けて手を翳した。
「確かに、力が歪んでるわ。いえ、これは、欠落している、という表現が正しいわね」
「わかるのか?」
「神を馬鹿にしてる? これくらいわかるわよ」
何がわかって、何がわからないのか、俺にわかるわけがないのに、わかると思われても困るんだけど。
ん? 何言ってんだ、俺。
俺の心情をよそに、ミスカは手を降ろして、更に嘆息した。
「……やっぱり、他の部分は普通の異世界人ね」
「そういえば、異世界人のことを知っているって言ってたな」
「この世界の神様だもの。当たり前よ」
言われれば納得できた。
だが、不思議な点が幾つか浮かぶ。
自然に口が動いた。
「飛行機が墜落して、異世界人が何人か転移してきただろ?」
「飛行機って、あの鉄の塊のことよね?
だったら三年前に転移してきたわね。ミスカは、彼等を転移させてないわよ。
あんたと同じ。勝手にやってきたんだもの」
三年前。やはり時間が経っていたのか。
では、あの時の記憶は一体。
三年前に死んだ俺は、三年間眠っていた、ということか?
さすがにそれはおかしいだろう。
とりあえずもう少し情報が欲しい。
どう質問をすれば答えを得られるだろうか。
俺でさえ、俺の状況はわかっていないのに。
しかし、三年前も現在も、結城さんも莉依ちゃんもいた。
若干、俺の記憶との齟齬はあったが、基本的には歴史をなぞっているようだった。
でもここは過去じゃない。平行世界だ。
同じような、世界。
そこまで考えて、俺は大きな疑問を抱いた。
あまりに荒唐無稽で、おかしな疑問だった。
しかし、俺は口に出さずにはいられなかった。
「俺は、いたか?」
この世界に、俺はいたのか。
ここが平行世界ならば、結城さんや莉依ちゃんがいるのならば『俺もいた』はずだ。
いない世界もあるかもしれないが、いた可能性も高い。
そう思っての質問だったが、ミスカは訝しげな顔をする。
「似たような世界でも、あんたはいないでしょ」
「いや、科学的にというか、量子力学的に平行世界っていうのは、あらゆる可能性の世界であって、あー、なんて言えばいいのか」
「何言ってんの……?」
考えてみれば、今まで異世界に転移して現地の誰かに科学の説明なんてしたことがない。
現代科学のことなんて俺も大して知らないし、というか量子力学なんて高校で習わないだろ。
知ってても、実証しているわけでもなし。
いや、でも状況証拠的に、俺がいるかもしれないんだから、俺がいたかと聞いてもおかしくはないわけで。
「とにかく、飛行機に俺がいたのか、わかるのか?」
「知らないわよ。人間のことなんて逐一覚えているわけがないでしょ」
神と言えど、すべての人間を把握はしていないらしい。
だが、ある程度の情報は手に入れた。
仮定しよう。
まず前提。
飛行機、まるごとの転移はミスカの仕業ではない。
表異世界での転移は俺の力によるものだった。
ならば、裏異世界での転移もこの世界の俺の力によるものだったのではないか、と考えるのが妥当だ。
しかし、裏異世界の俺はいない。あるいは生きていない。
そして、転移したばかりの時の記憶が俺にはある。
もしかしたら、だ。
あれは裏異世界の俺の記憶だったのではないだろうか。
つまり、飛行機ごと転移させた裏異世界の俺は、転移後に死んでしまった。
だから、この世界に、もう一人の俺はいないのではないか?
あれほど明瞭な記憶だ。夢とは思えない。
つまりこの世界は『俺が死んでしまった世界』でもあるのかもしれない。
ただ、俺が転移した時、『俺は制服姿だったし、座席に座っていた』のだ。
転移しただけならば違和感がある。まるで普通に飛行機に乗っていたかのようだった。
時間逆行と転移の条件が重なっている状態に思えた。
リーシュの力による時間逆行は、魂、意志の移動だけだった。
つまり、俺の肉体は移動できなかったのだ。
時間逆行の条件であれば、俺が制服姿で血塗れだったという状況の説明はつく。
この世界の俺は死んで、俺の魂だけが転移した、ということだろう。
ただ、その場合は少し事情が違うけど、まあ、リーシュの能力である時間逆行の概要を前提に考えると、ありえないことではないだろう。
実際、時間という観点で考えれば、三年前になるのだから、その部分での違和感はない。
だが、実際は裏異世界への転移だった。
その上『テレホスフィアを身に着けていた』のだ。
この部分では制服姿だった、飛行機の座席に座っていたという点と相違する。
時間逆行と転移の力が重なったような結果が生まれているのだ。
それに聖神はいないみたいだし、あの化け物もいる。
竜神という聞きなれない言葉もあった。
だったらまったく一緒の世界の『俺が死んだ未来』というわけでもないらしい。
ミスカの言葉通り、ここは異世界の異世界、つまり裏異世界という考えは正しいようだ。
少しはわかってきた。
とりあえず、現状でわかるのはこれくらいだろうか。
転移に関してはミスカもわかっていないようだし、情報を得られそうにはない。
俺自身で調査するしかない、か。
「何よ急に黙って」
「いや、悪い。なんでもない」
「……あんたね、敬語使いなさいよ。私は神様なのよ」
明らかに不機嫌そうにミスカは言ったが、俺は首を横に振った。
「それはお互いのためにやめておこう」
そう、変な気持ちになっちゃうからね。
ほんと。
マジで。
「お互いのためって、意味がわかんないんだけど」
「世の中には知らない方がいいこともあるんだ」
俺もよくわかっていないけど、いいんだ。
こういうのは勢いだから。
勢いを失ったら、老いるのが人間だから。
俺の真っ直ぐな視線を受けて、ミスカは不満そうにしていたが、面倒臭くなったのか、溜息を洩らした。
「いいわよ、ミスカは寛大だから」
ミスカは、ない胸を見せつけるようにのけ反った。
お願いだから、そのままの君でいて欲しい。
言ったら殺されそうなので、何も言わない。
「なあ、元の世界に帰る方法はないのか?」
「ないわね。
今のミスカには力がないし、あんたがどうやって転移したのかもわからないもの」
「今の、ってことは、力を取り戻せばできるのか?」
もしもそうなら、希望はある。
転移の原因がわからずとも、帰ることができるのならば問題はない。
「…………できなくもないわね。けれど、無理よ」
「どうして?」
「竜神に奪われたから」
ミスカは苦虫を潰したような顔をする。
そこはかとなく顔色が悪い。
俺は僅かに戸惑ったが、更に問いかけた。
「竜神ってのは何なんだ?」
「そうね、あんたは異世界から来たばかりだから、知らないのね。
あんたが戦った、あの青い化け物。あれが竜人。ミスカの敵。
そして人間を滅ぼそうとしている竜族の神が竜神よ。
奴に……奴らに力を奪われたから。今のミスカには大した力はないわ」
「それって」
俺は不穏な空気を感じた。
一部ではあるが、街や都市の状況を見た。
退廃的なあの景観を。
ミスカは、ぎゅっと拳を握りながら言った。
「この世界は滅亡寸前なの。ミスカも、その内に殺される。
竜人達によってね。人類も、抵抗できなくなってる。もう終わりだわ」
感じとってはいた。
エインツェルとリーンガムの状況を見て、もしかしたらこの世界は危機的状況に陥っているのではないかと思っていた。
だが、神と名乗る少女の口から聞いたことで、現実味を帯びてしまう。
修羅場をくぐり、未曾有の危機と対峙し、すべてを乗り越えた俺だからわかる。
彼女は嘘を言っていない。事実を言っている。
この世界、裏異世界は滅びつつある。
竜族、竜神という存在に人々は滅亡させられる。
そして神であるミスカには奴らに対抗する力もないことを知った。
俺はこの世界に深い関連はない。
だが、この世界に結城さんや莉依ちゃんがいることを知ってしまった。
俺が知っている、俺を知っている彼女達じゃない。
だが、だからと言って見捨てられるのか?
俺は、別人だからといって、別の世界の彼女達だからと、放っておいて、自分の世界に帰れるのか?
……無理だ。
できない。
結城さんを、莉依ちゃんを見捨てるなんてできない。
例え、俺を知らなくても、関わりがなくても。
俺は二人を知っているのだから。
結城さんであり、莉依ちゃんであることには変わりがないのだから。
俺はミスカを見た。
今までのような傲慢な態度とは違い、どこか弱弱しい姿だった。
「一体、どうしてそんなことにな――」
疑問を口にしようとした瞬間、俺は強い眩暈を覚える。
身体を支えきれずに、膝を地面に着いた。
「な、にが……」
「夢での繋がりが薄くなってるわ……。
今のミスカの力だと、あんたの夢に干渉するしかなかったから」
ミスカは俺の目の前で膝を曲げて、俺に視線を合わせる。
そして額に手を添えると、緩慢に目を閉じた。
身体全体に広がっていた、妙なもやもやが薄れていくような気がする。
僅かに気持ち悪さが和らいだ。
「ぐちゃぐちゃになってた力は綺麗にしてあげたわ。これで少しは違うはず」
意味はよくわからなかった。
だが不利益なことではないと確信していた。
俺は地面に倒れる。
まただ。
また、こんな無力な状態になってしまう。
何もわからず、何もできず。
そして終わるのか。
ふと、俺は視線を上げた。
そこには、自嘲気味に笑うミスカがいた。
「ふふふ、そうよね……期待した、ミスカが馬鹿だったわ」
その言葉を最後に。
俺は瞳を閉じた。