表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/183

突然の訪問者 2


 ステータスは見えない。

 警戒しなくては、どんな能力を持っているのか、どれほどの力量なのかわからない。

 まずは、小手調べ。

 慎重を期し、速度優先で一手を選ぶ。

 ロメルの移動速度はそれなりだった。

 目で追える程度だが、それだけで実力はわからない。

 俺は、ロメルの動きを視界に入れたまま、拳を引いた。


「せぇぇいっ!」


 気合いを吐くと同時にロメルは回し蹴りを放った。

 軌道は読めた。

 まずは紙一重で避けて、軽く一撃。

 その後の動きを見て、連撃に繋げる。

 リーシュとの組手で、一対一ならばかなりの経験がある。

 俺はロメルの蹴りを綺麗に避け、踏み出すと同時に拳を突き出した。


「しぃっ!」


 軽い一撃。

 牽制だ。

 ダメージを期待した一手ではない。

 そのつもりだったのだが。


「があああああああああああああああ!?」


 軽く小突いただけでロメルは遥か後方に吹き飛んだ。

 見事に。

 きりもみしなが数十メートル離れて行き、地面を何度か跳ねた。

 そしてようやく止まると、まったく動かなくなってしまう

 俺もリーシュも呆気にとられ、言葉を失った。

 俺は手を突き出した状態で硬直した。

 あまりに予想外だったため、呆気にとられたのだ。

 俺は、緩慢に姿勢を戻して、目を擦った。

 確かに飛んで行っている。

 別に何か能力のようなものがあるわけではなさそうだ。

 もしかして。

 あいつは。


「……滅茶苦茶弱い」

『みたい、だね』


 そう、かなり手加減したのだ。

 というか、軽く当てただけだ。

 なのに、だ。

 遠目で、ロメルが立ち上がる姿が見えた。

 足を痙攣させて、ようやく身体を起こしたが、満身創痍だった。


「や、やるじゃなぁい」


 死にかけ。

 もう限界。

 顔に出ているし、身体中がボロボロ。

 擦り傷切り傷だらけで、たった一撃しか受けていないとは思えない。

 あれで、自分が強いとか、他の人間は弱いとか言っていたのだろうか。

 自分こそ、滅茶苦茶弱いのに、だ。

 俺が強くなり過ぎた?

 確かに、人間の中では俺よりも強い存在は早々いないだろう。

 数値的にも、俺以上のレベルやステータスの人間は見たことがない。

 というか魔物もいない。

 あれ?

 もしかして、俺って神以外なら、最強、なのか?

 いやいや、待て待て。

 レベルがかなり有利なのは知っている。

 だが、能力にも強さは関係している。

 過剰な数値の差があれば、最早関係ないかもしれないが。

 ロメルは、痙攣を続けたまま構えた。

 軽く押せば倒れそうなほどだ。


『まだやる気らしいね』

「あ、ああ、どうしたもんか」

『殺っちゃえば? 勝たないと国を奪われるんだし』

「弱い者いじめみたいで気が進まない。必要がないなら殺したくはないからな」

『……うーん、でも。オレの声が聞こえることは気になる。

 姿も見えてるかもだし。なんか気味が悪いんだよね』


 確かにそこは気になる。だからこそ警戒したという部分もあるのだ。

 だが、実際、奴は弱い。

 殺すつもりはないが、屈服させ、負けを認めさせる必要はある。

 杞憂かもしれないが、早く決着をつけた方がいいだろう。

 何かがあるようには見えないが。

 ロメルは再び地を蹴り、俺へと向かって来る。

 やはり遅い。普通だ。ちょっと早いけど普通レベル。


「りゃあああ!」


 俺は困惑しながらも、ロメルの攻撃を避ける。

 ロメルは諦めもせずに、何度も俺へ攻撃を仕掛け続ける。

 なるほど、確かに練度は高い。

 普通の人間ならば一撃で倒せるだろうし、もしかしたら20000程度のレベルはあるかもしれない。

 つまり勇者レベル。

 かなり強いのは間違いない。

 だが、俺のレベルは99999。

 グリーンドラゴンでも余裕で勝てるくらいだ。

 恐らく最上位ドラゴンでも、だ。

 リーシュとの修行で強くなり過ぎた。

 そういうことだろうか。


「くっ、早い!」


 遅い。

 目を瞑っても避けられる。

 極大感知があれば、五感の一つでも残っていれば、十分だ。

 実力差があれば尚のこと。

 それほどにロメルと俺には隔たりがある。

 俺が軽く蹴ると、ロメルは再び遥か彼方へと飛んで行った。


「あぐっ!?」


 顔面から地面に着地した姿が、憐れに思えた。

 だが、こいつはオーガスの勇王。

 非常にも自国の兵士達を処罰した本人なのだ。

 だが……俺も変わらない。

 俺の手も血で染まっている。

 だから糾弾するつもりも、正義感をぶつけるつもりもない。

 無益な殺しはしない。

 無駄に傷つけることもしない。 

 そんな、甘い考えは……間違っていた。

 ロメルはまた立ち上がる。今度は先ほどよりも、早かったように思えた。

 俺は違和感を覚え始める。

 拳を握って開き、脚を動かして調子を確かめる。

 快調、だとは思うが。


『力加減間違った? なんか、さっきより元気になってない?』

「……多少強めに打ったはずなんだけどな」


 殺さないようにするあまり、力を抜き過ぎたのか。

 そう思った俺は、少し強めに力を込めた。


「いくぞっ!」


 やはりおかしい。

 ロメルは最初の一撃で瀕死だったはずだ。

 なのに、まだ俊敏に動いている。

 それに。

 ――早くなってきている?

 ロメルの動きは格段に良くなっている。

 たった数十秒の間に。

 もしかして俺の動きを記憶して、対応しているのかと思った。

 だが、それは違う。

 ロメルの動きは相変わらず単調だったのだ。

 避けようと思ったら簡単に避けられる。

 単純に『身のこなしだけが』異常に良くなっている。

 時間が進む毎に、別人のように早く、鋭く、力強くなっているのだ。

 しかも……奴の傷は癒えている。

 切り傷も擦り傷も何もなくなり、綺麗な肌になっていた。

 こいつ、もしかして。

 俺はロメルの意識を刈り取る勢いで、拳を振るった。

 が。


「ふっ!」

「避けた!?」


 ロメルは俺の動きを読んでいたのか、それとも反射的に避けたのか。

 華麗に回避し、俺の懐に飛び込んできた。

 あまりに見事だったため、俺は対応ができない。


「もらった!」


 ロメルは歓喜と共に、腰の入った突きを、俺の脇腹に向ける。

 暴風を生みながら、衝撃が俺を襲う。

 ステータスの差は健在のはず。

 当たってもダメージはない。

 そう思っていたが、ロメルの手が触れた瞬間、俺の身体は空中へ浮かんだ。


「がっ!」


 喘いで痛みを感じる。

 馬鹿な。

 最初の一撃、その際に力量の差は顕著だった。

 追いつけないほどに差があったはずだ。

 たった、二分程度。

 その間に、追いついたと言うのか。

 俺が半年かけて積み重ねた鍛練を、たった二分で?

 あり得ない。

 これは何かの間違いだ。

 俺の時間を否定されたような気がして、俺は心の中で現実を疑った。

 だが、ロメルの攻撃は続く。


「まだまだ!」


 俺は両手を交差させ、防御に回る。

 一撃一撃が急所を狙っており、重い。

 徐々に加速し、最初は目に見えていた動きが、段々と視界に入らなくなる。

 俺は反射的に極大感知を発動。

 ロメルの動きに必死についていった。


「くっ! どうなってんだ……くそっ!」


 俺は舌打ちをしながらも必死で身を守った。

 極大感知でもギリギリの攻防になりつつあった。

 これは何の冗談だ。

 これがこいつの力?

 こんな人間がいるはずがない。

 リーシュが見えたことも何か関係しているはず。

 甘かった。

 油断するべきではなかった。

 こいつは敵なのだ。

 温情をかけるべきではない。

 余力を残さず、全力で殺すべきなのだ。

 俺は脚部だけを兵装に変え、全力でロメルを蹴り上げた。


「ぎっ!」


 だが、ロメルは咄嗟に回避し、俺から距離をとる。


「うおっと!」


 俺もリーシュも驚愕に我を忘れた。

 兵装は単純に膂力だけではない。

 速度も尋常ではない。

 俺自身でさえ、目で終える速度ではないし、感知もできない。

 リーシュも、本気の俺と戦えば、かなり苦労していたはずだ。

 それは兵装時の能力が、邪神であるリーシュと拮抗している部分があるからだ。

 それを、こいつは避けた。

 人の身で。


「お、まえは……何者、なんだ」


 思わず聞いてしまう。

 敵であるのに、聞かずにはいられなかったのだ。

 ロメルは肩を竦めた。


「後で教えてあげるよ。だからその前に、本気で戦ってくれ。

 じゃないと後悔する。僕も君もね」


 色々と知っていることはわかった。

 だが今は話す気はないらしい。

 油断すべきではない。

 そう判断した俺は、力を温存することも、手加減することもやめた。


「死ぬかもしれないぞ」

「その覚悟があるからここにいるんだ。それに、君にも言えることだろ?」


 俺は死なない。

 500の命があるからだ。

 それはロメルも知っているはずだ。


「命が複数『500』もあっても、ね」


 俺は虚を突かれて、動揺した。

 殺されても死なないことを知られているとはわかっている。

 だが、明確な数がわかるはずがない。

 それを知っているのは、俺とリーシュだけなのだから。

 俺の動揺をついてか、ロメルは一瞬で距離を詰める。

 同時に。

 死を連想した。

 俺は反射的に全身を兵装化した。

 衝撃。

 痛痒。

 気づけば、俺は宙を舞っていた。


「な、に……!?」


 兵装化していなければ死んでいた。

 腹部の兵装部分は破壊されて、肌が露出している。

 俺は狼狽しつつも、ロメルに向かい、兵装の尾を伸ばす。

 それ以外の部分は兵装を解除した。

 ステータス、レベル減少のデメリットがあるので常時使用することはできないからだ。

 伸縮自由の、正に生物の尻尾のような構造だ。

 剣のように鋭く、敵を寸断する。


「面白いね!」


 蛇のようにしなる尻尾を、ロメルは悠々と避けた。

 地を這い、宙を縦横無尽に動く蛇腹を、ロメルは楽しげな顔をしながら避け続ける。

 いつまでも伸びるわけではない。

 それに、このままでは無駄に力を使う。

 そう判断した俺は、尻尾を消失させ、脚部を変異させる。

 兵装の力を使い、ロメルへ向かい跳躍する。


「来なよ!」


 ロメルが受けて立つとばかりに腰を落とした。

 俺は拳を全力で握り、振り降ろす。

 目標はロメルの顔面。

 だが奴は避けずに、俺の拳を両手で止めた。


「なっ!?」

「くぅぅっ……き、きついな、これは」


 言いながらもロメルは俺の腕を押し返そうと力を込める。

 あれだけの速度と兵装化による力、その相乗効果を相殺したのだ。

 やはり、人間ではない。

 俺と同じ、もしかするとそれ以上の能力がある。

 時を戻す能力も、俺はリーシュから借りているが、戦いで使うようなものではない。

 なぜなら戻せる時間が限られているし、一度未来を見て、過去に戻り再び対応しようにも、瞬間的で有用性は低いからだ。

 対価が釣り合っていない。

 俺はロメルから離れて、再び構える。

 間髪入れずに、跳躍し、近くまで移動。

 目の前で兵装化の力と、シルフィードの風を利用し、宙で方向転換し、ロメルの後ろに回り込む。


「へ?」


 そのまま、背中を全力で蹴ると、ロメルはのけ反りながら地面をゴロゴロと転がった。

 追いかけて追撃を試みるが、ロメルは途中で地面に両手をついて、腕の力だけで宙に浮かび上がる。

 跳躍したロメルを追ったが、すでに体勢を整えており、俺を迎え撃つ準備をしていた。

 突き、蹴り、肘、頭突き、膝、踵。様々な動きを組み込み、俺は連撃を続けた。

 呼吸をする暇もない程に。

 双方、人間を遥かに凌駕する力量。

 常人のように体力が枯渇したり、呼吸が途絶えたり、痛みで動けなくなったりしない。

 化け物同士の戦いは、周囲の岩場や都市の防壁を巻き込み始める。

 俺はそれに気づいたが、その隙を狙われた。


「よそ見は感心しないな!」

「ぐあっ!」


 頬に走る重い痛み。

 ぐっと歯を食いしばり意識を保って、即座に打ち返す。


「くぅっ!」


 ロメルの表情が歪む。

 俺の拳もロメルの顔面に打ち込まれた。

 互いに回避しつつも、打撃が当たり始める。

 動きを止めて打ち合っているわけでもないのに。

 攻撃を意識しているからか、回避が間に合わない。

 やがて、殴り合いになり、打撃が当たる度に周囲に衝撃波が走った。

 風を揺らし、岩や土を跳ねる。

 瞬間瞬間で、拳を兵装化し、攻撃を連ねる。

 ロメルの傷は、戦闘開始当初は完治していた。

 だが次第に再生の速度が間に合わなくなっていく。

 互いに血だらけ。

 痣だらけ。

 血飛沫が宙を染める。

 痛みを感じつつも、俺は攻撃を続けた。

 ロメルの顔も苦痛にゆがんでいる。

 だが止めない。

 終わらない。

 互いの、死力は尽きることがない。


「があああああああああああ!」

「らあああああああああああ!」


 因縁があるかと言われれば、曖昧な返答しかできない。

 ロメルに恨みは、さしてないのだ。

 オーガス勇国軍の侵攻は、ハイアス和国の人達を殺すはずだった。

 だが実際には、自国の人間に被害はなかったのだ。

 むしろ俺が殺した。

 オーガス軍の兵を。

 後悔はしていない。

 恨みはない、というだけ。

 それでも、俺は高揚していたように思えた。

 拮抗した強さを持つ男の存在に。


 どこか、虚しさを覚えていたのだ。

 戦えば勝てるという自信。

 死に慣れ、死に重ねて得た力でも、使う機会がなければ意味はない。

 王として日々を過ごす時間も悪くはないと思っていた。

 戦うことが好きだとは思っていなかった。

 はずだった。

 けれど、やはり力を試すことを、俺は望んでいたのだろうか。

 拳と拳がぶつかり合い、弾けて、同時に俺とロメルは後方へと吹き飛んだ。

 かなりの手傷を負った。

 それはお互いに変わらない。

 ロメルの傷も、治らなくなっている。

 もしかしたらある程度の傷しか再生しないのか。

 俺もボロボロだ。

 死んではいないが、一度の死で決着すると考えれば、互いに五分だろう。

 息を荒げて、胸を上下させた。

 ロメルも汗だくになりながら、血で濡れた口元を拭った。


「は、はは、は、や、やるね、やっぱり、強い、君は。

 今まで出会った人間の中で、一番強い。俺の思った通りだ」

「……おまえも、な。強すぎる」

「それは、光栄だね……けど、もう、そろそろ終わりにしようか」

「ああ、そうだな。俺もそうしたいと思ってたところだ」


 これ以上、戦いの余波が広がれば、都市に影響が出る。

 まだ防壁は健在だが、その内、崩壊するかもしれない。

 それほどに、俺達の戦いは苛烈さを増していた。

 俺は腰を落とし構える。

 ロメルも構えた。

 そして。

 同時に疾走し。


「ぬぅぅうぅあああっ!」


 俺は全身を兵装化し、すべての力を拳に集約した。

 ロメルも全力で、拳を振るった。

 互いの顔に拳が埋まる。

 衝撃。

 弾けた。

 閃光が走り。

 視界が白く染まり。

 痛みも感じず、麻痺した感覚の中で。

 戦いは決着を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同時連載中。下のタイトルをクリックで作品ページに飛べます。
『マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-』

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ