現実
「あれは……」
「……」
ナハトの村に戻ってきた時、中心部にある広場に人だかりが出来ていた。それを見たリナは一瞬固まり俺の背に隠れた。一体何だ? と思ったが人の隙間から見えた光景を見てリナの不自然な動きの理由に納得した。
「はっはっはっ! 素晴らしいぞ! もっとだ! もっとやれ!」
人だかりの中心には三人の男女がいた。男はでっぷりと太り高級そうな服を身に纏っている。対する女性二人はそれとは真反対の姿をしている。×字に組まれた木材に両手両足を縛られた猫耳と尻尾を付けた女性がおりボロボロの姿でしかも裸で拘束されている。もう一人の女性は角を生やし鱗で覆われた尻尾をはやしている。こちらも恥部を隠せるだけの布しか身に着けていない。
明らかに奴隷とその主人だ。そして人間とは思えない二人の女性は明らかに魔族だろう。恐らく何か主人の気に入らない事をして奴隷同士を使って粛清なり罰を与えていると言った所か。リナに聞かされていたとは言え胸糞悪い見世物だ。
「さぁ! 泣き叫べ! 貴様のような愚図にはそれがお似合いだ!」
「……」
醜い男は鱗の女性が猫耳の女性に攻撃を行うたびに喜びの声を上げ、見ている周囲の人々も歓声を上げた。これの何が面白いのだろうか。俺としては吐き気を感じてしまう。
「……」
「……リナ、気持ちは分かるが一旦離れるぞ」
「魔王様……」
今にも飛び出しそうになっているリナの肩に手を置きその場を離れる。後ろを向いた後も主人と思われる醜い男の声が何時までも響いてきた。
「ナハトの村ってのはあんなのが受け入れられているのか……」
宿に戻った俺はそこの窓から広場の様子を見ながらそう言った。拘束されている方は獣人と呼ばれる獣の特徴を持った種族でもう片方は龍人族という、魔族の中でも今も奴隷にならずに抵抗したり隠れ住んでいる種族らしい。龍人族は最強らしく実際に拘束されているとは言え獣人の女性を殴る蹴るの暴行を加えている。見るからに一撃一撃が重く普通の人間なら一撃を喰らうだけで即死しそうな威力を誇っている。
「……ナハトの村だけではありません。人間たちは私達をあんな風に理不尽に扱っています」
「……戦争に負けたからと言って随分と酷い扱いだ」
「人間は今やこの世界の頂点に君臨しています。私達はそれを崩したかったのです」
「こうして初めて見る事で理解と納得が出来た。確かにあんな扱いがデフォルトならば反抗するのはある意味では仕方ないな」
心の中で何処か考えていた旅行気分の慢心は今消えたと言っていい。魔族の現実を見せられた今となっては彼らを助けたいという気持ちが溢れてくる。
「……リナ。迷宮に潜りレベルを上げ力を付ける。そして、お前の仲間を呼べ」
「え?」
「魔族による最初の反抗。それをこの村に決めた。奴隷となった魔族を開放するぞ」
「っ! はい!」
俺の頃場にリナは目を見開き驚いたが大きな声で返事をした。俺もレベルを上げて強く成らないとな。今のままでも強いかもしれないがやはり多人数を相手に出来るくらいには実力を上げていきたい。村をどうやって落とし、奴隷となった魔族を開放するかも考えておかないとな。これからは忙しくなりそうだ。