ナハトの村
~王国【フィラン】・ナハトの村~
「全く最近の魔族どもはへたればかりだな」
「へへっ、そうでこざいますな」
ここナハトの村の村長宅で村長のヤッカンタ・ナハトと商人が話をしていた。
ヤッカンタは魔族潰しで有名な人間である。魔族を手に入れては女で人間のような姿なら村の娼館で働かせ、残りの者は力があれば奴隷として村の内外の畑や鉱山で働かせた。更に力が弱く姿が異形な者たちは魔法の練習台として魔法を受け続けた。
そのせいか、ここに住む村人たちは魔法が上手い。更にこの村の近くには魔物が多く存在していてそれらを討伐しては魔物から採れる道具の材料などを手に入れて商人に売って莫大な利益をあげていた。
勿論、そういうのを買い取る商人は殆どが善人である。しかし、今村長の前に座る商人は違う。彼はこの村長に媚を売って他の商人よりも多くの利益をあげていた。
更にこいつは表向きは普通の商人だが、裏では人身売買を行っていた。王国【フィラン】では人身売買は処刑になるほどの重罪である。しかし、王国の目には届かない場所がかなり存在していて人身売買の商人捕縛にはなかなか至らなかった。そもそも誰が行っているのかわからない状態なので手のだしようがなかった。
「しかし、今回はあまり上物はいないな」
村長は前に座る商人に文句を言う。すると商人はヘラヘラ笑いながら答えた。
「へぇ、実は今回は物凄い上物をお持ちしておりますです。はい」
その言葉に村長は不気味に笑いながら商人に目を向ける。
「ほう、この我に見合う魔族がいるのか?」
「へい、見て驚かないでくださいよ。これです!」
商人は隣の部屋の扉を開けて村長に見せる。
そこには一人の少女がいた。真っ赤な髪を腰までたらし、真っ赤な目をこちらに向けている。
更に特徴的なのは頭から生える二本の角である。
「…ふむ、確かに上物だな」
「へぇ、こいつは魔族の中でも一番強いとされる龍人一族の一人です。殆どの魔族が人間の奴隷となっている現在、唯一奴隷にされていない部族が龍人族です。その腕力は岩を簡単に砕き、彼らの放つ魔法はどの魔法よりも洗練されていて強いと言われています」
「よくそんなものを捕らえられたな」
「へい、某は運が良かったですよ。偶々道で倒れていたのを発見したんですよ。最初見たときはそれは驚きましたよ。なんたってあの龍人族なんですから。彼らは群れで行動するため一人出うるなんてことはなかったのでしばらく放置したんですよ。もしかしたら他の龍人族が現れるかもしれないんで。しかし、何時間たっても来ないんでありがたく貰っていったんですよ」
「ひとつ聞くがその間こいつは起きなかったのか?」
「へい、結局起きたのは拾ってから2日後でして、最初はしんでんじゃないかなとも思ったんですよ。でも心臓の音はちゃんと聞こえるし、行きもしていたので生きていると言うことは分かったんですけど」
「成る程、よし、商人。こいつをもらう。どん位するんだ?」
「へぇ、あまり手に入らない分高くなっております。金貨25枚と言ったところでしょう」
この世界は基本は金貨、銀貨、銅貨で売買している。これは【ヘルストム】では当たり前でどこの国でもこの三枚で売買している。
しかし、この時の金貨と銀貨の間はかなり離れていた。銅貨10枚で銀貨一枚なのに対して金貨は銀貨100枚とかなりの差があった。
金貨一枚で大体暫く遊んで暮らしていける値段である。
25枚となれば一生遊んで暮らしていけるかもしれない。
「…すぐには無理だな。迷宮に行って稼がしてみるとしよう」
「わかりました。では稼いだら教えてくだされ。それまではこいつは売りませんので」
そう言って商人は部屋から出ていった。
ヤッカンタは暫くしてから呼び鈴をならした。
すると部屋に男が入ってきた。
身長は2メートルほどでがっしりとした体に忍者のような服を着ている。なお、顔は布が巻かれており目元しか見えない。
「お呼びでしょうか?」
「ああ、村人の中からレベルの高いものを集めて迷宮に行ってこい。ノルマは金貨10枚だ」
「かしこまりました」
男は頭を下げて部屋から出ていった。
「…なんとしても手に入れてやる。あいつみたいなかわいこちゃんは我が愛でてやらんとなぁ」
一人になったヤッカンタは一人薄気味悪い笑みを浮かべるのであった。