魔王に転生しました。
~人間族・王国~
「うむぅ」
ここは人間族の王国【フィラン】王都・シマニアにある王の城である。現在玉座の間では国王以下数名の者達がいた。
「何故こうなった?」
そう言うのは現在のフィラン王国国王のトレストロ・フィランである。60を越える老齢だが、若い頃は剣を持って自ら敵陣に突っ込んでいくような王であった。そんな彼は現在シワが増えてきた自分の顔を手でおおって呟いている。彼がこうなったのは先程聞いた報告のせいであった。
『魔王を名乗るものが現れ魔族を率いて各地の村や街を占領しています。既に1つの街と3つの村が魔王軍によって奪われました』
しかも1月もかからずに行ったのであるから頭を抱えずにはいられなかった。
「何故だ、何故こんなことに…」
国王は恨み言を呟き続けた。
~一月前・とある洞窟~
「これでいいんだな?」
「ええ、この魔方陣で魔王様がこちらにこれるはずよ」
薄暗い洞窟で数名の男女が地面に描いた魔方陣の端にそれぞれ立っていた。姿としてはそれぞれが異形と呼べる姿である。
彼らは”魔族”と呼ばれるものたちである。彼らは”人間族”との戦争に負け奴隷として今を生きていた。しかし、その”魔族”の中には”人間族”から再び独立しようとするものたちがいた。それが彼らである。しかし、”魔族”は一度大敗を期しているためどう頑張っても戦力が足らなかった。
そこで彼らのとった行動は別世界より魔王の素質を持ったものをこの世界に召還するというものであった。そして一発で成功させるために彼らは”人間族”に見つからないように隠れながら召還用の魔方陣の構築を急いでいた。
今日はその召還の日である。
「もう一度確認するわよ?魔王の素質を持つものは極めて少ない。”魔族”にだけ絞っていれば絶望的ね。だから例え人間だろうと昆虫や鳥だろうと召還したものを魔王にする。異論はないわね?」
リーダーと思われる少女がここにいる「魔族」に声をかける。声をかけられた「魔族」すべてがうなずいた。それを見た少女は少し微笑んで言う。
「それじゃ始めるわよ」
そう言うと少女は魔方陣に手をかざし魔力を注いでいく。他の「魔族」も同じく魔力を注いでいく。この魔方陣は魔力を注ぐことにより発動する魔方陣である。魔力の質にもよるが注げば注ぐほど魔方陣の効果も上がってくる。
この魔方陣を稼働されるのに必要な魔力は500。これは消して少なくない量である。普通の人間の魔力量は250、魔族でも300~500と人一人分の魔力量で動くのだ。しかもこれはあくまで稼働されるのに必要な魔力で、維持して使うのには更に魔力が必要であった。
ここにいる「魔族」は15人。平均400程度の魔力を持つ彼らでも長い時間を魔力を注いでいては死んでしまう。彼らはそこまでして独立を願ったのだ。
「ここは…駄目ね。次」
リーダーの少女はあらゆる世界を見ながら魔王の素質を持ったものを探していた。既に世界を5つのぞいたが残念ながら魔王の素質を持つものはいなかった。
「ここにもいない。…ここも…」
「くっ!リナ様っ!急いでください!もう魔力が空になりそうです!」
一人の男が叫ぶ。彼はこの中の誰よりも魔力量が少なかった。それでも300と人間よりも多いが。
「ごめんなさい!あと少し待って!必ず見つけるから!」
リナと呼ばれた少女は叫びながら探していく。
開始から約1時間。既に彼らの魔力は限界だった。
「っ!見つけた!」
しかし、奇跡が起きた。52こめの世界で遂に魔王の素質を持ったものを見つけたのだ。
「彼をこうして…よし!転生!」
そう叫んで一気に魔力を注ぐ。すると魔方陣が光だし強烈な光にみんなが目をつむる。
「…成功したのか?」
彼らが目を開けた先には、
「…どこだここは?」
一人の人間が立っていた。
「…やった」
「皆!成功だ!やったぞ!」
彼らは口々に叫んでいる。それもそうだろう。これで「魔族」が救われるかもしれないのだから。
「…いったいなんなんだ?」
転生させられた人間は訳がわからず一人首をかしげていた。