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妹ですみません  作者: 九重 木春
-波乱の腐女子編-
96/97

コミック二巻発売記念 仲間の徒労 前編


「では今から悠子ちゃんを守り隊による第十回会議を始める」

「はい……」


 とうとうこの会議も二桁に達してしまったか……。


 仲島はとあるファミレスでスーツ姿のイケメンを前に溜息を吐きたくなった。仕事上がりにファミレスに現れた亜麻色の髪に琥珀色の瞳を持つ甘い顔立ちの男は、冗談のような隊を勝手に結成した張本人である。


 まさかこんな長い付き合いになるとは……。


 ――目の前に座る冴草の兄貴と初めて会った時、今のような関係性になるなんてまったく予想していなかった。





 オレが友人である冴草の兄貴と初めて顔を合わしたのは高校二年の時だった。


 当時の最推しジャンル『フライングバッター』の映画が上映しており映画館で思いがけず冴草に会った。映画が始まるまで少しの間、冴草と話していたら熱い視線を感じその先にいたのは見たこともないイケメンだった。


 もしや冴草の知り合いか? と思って聞いてみると冴草にいきなり腕を引っ張られてイケメンの前に強引に連れていかれた。そしてオレを紹介しようとする冴草の言葉を途中で遮った男は驚くべきことを口にしたのである。


「彼氏の、仲島君でしょう。うちの悠子ちゃんがお世話になっているようで」

 初対面のイケメンは、オレが冴草の恋人であると勘違いしているようだったので首を横に振って否定した。


「いや、オレがこいつの彼氏とかあり得ませんから! 友達としてはイイ奴ですけど、異性としてはナイっす」

「何言ってんの、俺の悠子ちゃんがアリエナイとか。こんな可愛い子、地球上に一人しかいないだろ。その目、節穴?」

 壮絶な美形に睨まれて震えたオレは、思わず冴草にイケメンが何者か尋ねると気まずそうな顔で「ゴメン、うちの兄が……」と白状したのである。


 冴草に超ド級のシスコン兄貴がいると判明した瞬間だった。






 このシスコン兄貴に敵視されているのは確実で、正直オレにとってあまり関わりあいたくない人だった。絶対オレとはジャンルが違う人間だし、あの仄暗い目で睨まれるのは勘弁だった。


 しかし、嬉しくないことにその転機を自分で作ってしまったのだ。それは、ある日冴草の兄貴に校門前で待ち伏せされ、ファミレスに連れて行かれたオレが冴草の隠したい秘密について相談された時だった。オレはその相談に親身になって聞いた。


 そして、ついでに今度冴草がネットで知り合った相手と初めて会う話をしていたので気に掛けてやって欲しいと伝えておいたのだ。冴草は見たこともない相手のことを盲目的に信用しているようだったから友人として少し心配だったのだ。


 それが決定打になったのか、オレは冴草の兄貴の信用を得てしまったようで不名誉な隊員の一員とされてしまったのである……。


 隊員になって三年目、オレは冴草と同じ大学に通っており所属サークルも同じ漫研、ということでこうして定期的に隊長に呼び出されて冴草の学校での様子を伝えているのだ……。


 勿論、このことは冴草には秘密だし、ここでの食事の会計は隊長持ちである。






「仲島隊員、報告を」

 キリッとした表情で報告を促れ、オレは鞄から一枚のルーズリーフを出して内容を読み上げた。


「えっと、今週の冴草は英語のテストの点数が悪かったとを愚痴ってました。あとは今週号の『天空にアタック』の萌えポイントをオレと安藤の三人で語り、来週末に安藤と一緒にオンリーに行くって言ってましたね」

「英語は帰ったらオレが教えるとして、安藤さんは前回仲島から報告があったコか。悠子ちゃんから聞いた感じ明るいコみたいだね。仲島はそのオンリーに行かないのか?」

「今回は見送ります。ちょっと予想外にスパコミでお金を使いすぎたので……部活の先輩が紹介してくれたバイトに精を出そうかと」


 『天空にアタック』は熱血バレー漫画で冴草と同様オレも注目している。現在はライバル校との激熱展開の真っ最中で夏コミでは今以上の人気ジャンルに成長するだろう。だからそれまでにお金を貯めておきたい。


「スーパーの品出しなんですけどね、朝早い分時給がいいんですよ。そういや、あの先輩そん時変なこと聞いてきたな」

「変なこと?」

「オレと冴草が付き合ってんじゃないかって。勿論、全否定しておいたんで安心して下さい!」

 自信満々に伝えるとスパコンッと隊長に頭を叩かれた。


「男だろ。その先輩は確実に男だろ!!」

「あ、はい、そうですね」

「そいつは、間違いなく悠子ちゃんを狙っている」

「またそれですか」


 身内贔屓にも程がある。冴草の兄貴が言う程、冴草はモテない。見た目も中身も由緒正しい腐女子らしいヤツなのだ。


 けれどこの人の目には世界で一番可愛く見えるらしい。

 蓼食う虫も好き好きとはまさにこのことだ。


「それ以外考えられない。早急に対策が必要だな」

 そう呟いた隊長はポケットからスマホを出して高速でタップし始めた。何をしているんだろうと覗いてみると灯台で夕日をバックに冴草と隊長が立っている写真が見えた。隊長は後ろから冴草のお腹あたりで両手を組んでいて、冴草は両手で顔を隠している。


 その写真をスワイプさせると同じ場所で背後いる隊長に向かって真っ赤な顔で怒る冴草とにこにこと笑う隊長が映し出された。


 この兄妹、バカップルにしか見えない。


「これも悪くないけど……」

 と隊長は顎に手を当てて、次の写真をオレに見せた。

 赤子を抱っこしている隊長にエプロン姿の冴草がスプーンを差し出して味見をさせてる写真だった。この赤子は偶に冴草の話に出る弟君だろう。


 バカップルを通り越した夫婦感が拭えない……。


「どっちがいいと思う?」

「何の話っすか」

 急に見せつけられた惚気写真にオレの頭は疑問だらけだった。


「だから仲島がそのいけ好かない先輩に見せつける俺と悠子ちゃんのラブラブ写真のことだよ」

「いつの間にそんな話に!?」

「今、さっき俺が決めた。これを見ればどんな男でも自分の出る幕はないと気付くだろう。完璧な作戦だな。どちらも捨てがたいけど灯台の方にしておくか……」

 オレが返事をする前に隊長は見るにも痛い写真をスマホに送りつけてきた。


「ま、任せるって言ったって。先輩に何て言ってこの写真見せろって言うんですか。不自然過ぎるでしょう!」

「俺が兄だとはくれぐれも言うなよ。仲島、俺はお前が仕事の出来る男だと信じている。ん、そろそろ時間だ」

 隊長は左手を上げて腕時計を見た。その仕草がまた様になっている。

 テーブルの上の伝票を持って隊長は立ち上がった。


「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」

「悪いな、弟が保育園で俺を待ってるんだ。次の報告楽しみにしてるぞ」

「え、えぇぇ……」

 そんなこと勝手に任されても困るだけなんだが。


 隊長はレジで会計を済ませて颯爽と去って行く。


 明日はサークルの活動日だから先輩には会えるけどどんな流れでこの写真を見せろと。


 先輩が本当に冴草を狙っているかもわからないのに……?


 あぁ、明日が憂鬱だ。


 オレはファミレスの机に突っ伏して頭を抱えた。

 















活動報告に『腐女子な妹ですみません』コミックス二巻の情報をアップしております!

よろしければご覧くださいませ^^


そして仲島の苦労は続く……

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