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妹ですみません  作者: 九重 木春
-同居に到るまで-
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9 妹の後悔

 兄に腕を触られて泣くとか、自意識過剰にも程がある。私は何故あの時、不覚にも泣いてしまったんだろう。……こうやって後悔するって解っていたのに。


 私は今まで当たり障りのない人付き合いしかしてこなかった。その反動が大波になって襲ってきたのである。私は部屋に篭って重いため息を吐いた。手と腕が接触しただけだ。まるで私は肩を触られただけでセクハラを訴えるOLやぶつかっただけで痴漢だと訴える女子高生のようではないか。


 さ、最悪だ。

 冷静になった私は泣いた日の翌日、重い足で兄に謝りに行った。


「昨日はすみませんでした。私が過剰反応しただけなので気にしないで下さい」


 てへぺろ出来るような可愛い妹じゃなくてすみません。

 兄は私の謝罪に対して半信半疑のようだった。いつもみたいな一点の曇りもないビューティフルスマイルではなく、眉間に皺を寄せた笑みが心に痛い。兄は自分の言い方もキツかったし、勝手に触ったりしてごめんね、と謝ってくれた。

 当然だ、と思う気持ちがない訳でもないが怒りを持続させるのも疲れるものなのだ。私は心に蟠りを抱えたまま許すことにした。




 あれから私は他人に怯える幼児の如く、兄に気を遣われております。


「布団干すの大変でしょう、俺がやるよ」と横から布団を奪われ、

「はい、最近は危ないから使って貰えると嬉しいな」と虫刺されのスプレーと防犯ブザーを渡され、

「悠子ちゃんの許可なく触ったりしない。だからそんなに怯えないで」と一日一回謝罪される。

 許可すれば触るつもりなんですか、果たしてドコに?怖くて聞き返せない。


 近づいても逃げやしない公園の鳩の方がまだ人慣れしているというものである。美兄が本気で私を口説いてると思ってんのか!全部新しい家族への気遣いに決まってるだろ!



 兄が来てからというもの、二人分の食事、洗濯、掃除、全て私が担っている。兄は度々手伝うよと申し出てくれるのだが、私は頑なに断っている。この人に恩を作りたくない。只でさえこちらはオタクで立場が悪いというのに、家事においても主導権を握られたら立ち直れん。


 今なら子供たちが夏休みになると逆に休めなくなる専業主婦の気持ちがよく解る。井戸端会議にも参加できるだろう。育ち盛りだからね、適当なものは出せないし。今晩のおかずは何にしようかしら。ウチの人、何でも美味しいって褒めてくれるから困っちゃうのよね。って惚気か!!


 兄が私に歩み寄ろうとしてくれてるのは伝わってくる。テレビも好きなのを見ていいよ、と譲ってくれるし、もっと楽にしていいからとも言ってくれる。


 でもね、それは貴方には見せたくない姿なんですよ。普段の私はNHKじゃなくてアニメだし、ソファーで寝っ転がりながら同人誌読むようなコなんです。貴方が世間で言う理想的な兄である以上、私もその努力に見合う妹でありたいのだ。兄が私に本当の姿を偽って接しているとまでは言わないが、私よりは世渡り上手で容姿も目立つから苦労も多いと思う。それでいていつも笑顔で優しいのだ。それこそ私から「もっと楽にしていいですよ」と言いたい。だけど兄はそれを望んでいないだろう。きっとだから私たち兄妹は平行線を辿るのだ。




 目覚ましの頭を叩いてアラームを止める。時計の針は朝の五時を指している。私はのそっとベットから下りて服に着替え始める。その間、なるべく物音は立てない。兄が起きてしまうからだ。


 兄と暮らし始めて数日が経った。すると当然冷蔵庫の中身は段々寂しくなっていき、私は焦った。買い物に出掛けねばならない。しかし兄に見つかれば高確率で「俺も一緒に行くよ」と言われる、そして私は丸め込まれる。私に自由はないのか。


 そう思った時、解決策が浮かんだのである。早朝に出れば兄にばれずに出掛けられるのではなかろうか。しかも日中に出るより断然涼しい。一石二鳥ではないか!


 24時間営業のスーパーの存在に感謝し、財布とエコバックを手にした私は静かに部屋の扉を閉めた。











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