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妹ですみません  作者: 九重 木春
-同居に到るまで-
6/97

6 兄の前兆

 クレリックシャツにデニム、ネイビーのベストに白のクロップドパンツ、いや、チョークストライプのパンツも捨てがたい。Vネックに眼鏡を差すのも有りか。ベットの上に服をセットして悩んでいると、背後から貴士に頭を殴られた。


「お前は何を着ても好青年だよ!何だ、これからデートか!自慢か!」

「いや、実家に帰るんだけど。貴士に言ってなかったか?」


「聞いてた、が俺は実家に着ていく服を迷ったことはない」

「父さんだけなら気にしないけど、母と妹の目もあるし……」

 服装に対して、女性の目は存外に厳しい。

 妹にとって自慢の兄でありたいという男心が貴士には解らないのだろうか。


「もっとフランクにいけよ、家族なんだろ」

 フランクに?出来るか!!

 親しげに肩でも抱いたものなら、妹は完全に俺を危険人物と見なす。只でさえ電話に出た妹は俺の帰省を延期して欲しい様子で警戒している。


 顔合わせの時には出来得る限り優しく接したつもりだ。何が悪かったのか見当がつかない。


「父さんには懐いてるのに……」

 一緒に海に行くくらいだ。その上、葉書に映った妹は男物のカーディガンを羽織っていた。あれはきっと父の物だ。どういう状況で父が妹に貸したのか。濡れたのか、透けたのか。何で髪を解く必要性があったのか。あの紙ぺら一枚で沢山の憶測が頭の中を飛び交った。


「もしかして、妹ちゃんに嫌われてんの」

「違う」

 違う筈、だ。


「即答したって説得力ないぞ。俺から言わせりゃ妹に媚びなんか売る必要ないだろ。何度妹の被害を被ったか……。何でアイツがこぼしたジュースの代わりにケーキを買わされなきゃならない。『扉の前に立ってたアニキが悪い』って俺は立ってることさえ否定される謂れなんかない!!この前なんか街で歩いてたら妹の彼氏に間違われて一方的に殴られたんだぞ!!その男が妹の彼氏だったらしいんだが、万が一俺が妹の、美弥って言うんだけどな。美弥の彼氏だったとしても浮気してんのは美弥だろ。俺が殴られるのはマジで納得がいかなかった。『私みたいな美少女の彼氏に思われたんだからいいじゃない、名誉の勲章だって!』って何様だよ。その彼氏とはすぐ別れたらしいしな。俺のたんこぶの方があいつらの交際期間より長かったぜ」


「……災難だったな」

 同じ妹でも雲泥の差だ。悠子ちゃんは料理上手で控え目な性格をしている。つぶらな瞳が小鹿の様で愛らしく、化粧っ気のない素肌は綺麗で健康的だ。腕の中にすっぽり納まるような小ささも魅力のひとつだと思う。貴士の生意気な妹よりウチの妹の方が絶対に可愛い。

 だから俺は妹の為だったら喜んでケーキも買うし、妹の彼氏とやらが俺を妹の浮気相手として勘違いして来たら、その誤解を解かずに再起不能になるまで男を潰してやる。


 だってそうだろ、妹の隣にいる男が家族だと知りもしないで殴りかかってくる輩なんてDV男に決まってる。そう考えると妹には男と付き合う前に、俺に申告して貰わないと。その男が危険なヤツなのか、俺が見極める必要がある。悠子ちゃんは体も小さいし、暴力なんか振るわれたらひとたまりもないだろう


「そういえば貴士はロールケーキの美味しい店って知ってるか?」

「なんだよ、藪から棒に」

「妹の好物みたいで。お土産にね」

 貴士は俺の発言にこれ見よがしの長い溜息を吐いた。


「ぜったい、弱味握られてんだろ!」

「失礼な、俺の悠子ちゃんに対する純粋な好意だよ」

 これを純粋と呼ばずしてなんと言うのか。

 一生懸命なあのコを真綿のような優しさで包みたいと思うのは自然な流れで、それは悠子ちゃんの兄になった俺にしか解らない事。


「お前のそれは既に純粋ではない気がする」

「あぁ、いいんだよ。それで」


 この気持ちを誰かと共有するつもりはない。













この後、貴士はちゃんとお店を教えてくれます。

ちなみに貴士は姉もいる女系家族。

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