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妹ですみません  作者: 九重 木春
ー腐女子街道編ー
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14 兄の衝撃

 今月のカレンダーで唯一赤丸がついている日、俺は朝から悠子ちゃんを探していた。

 現在は朝の六時、いつもならリビングのテーブルの上でチラシを広げている時間だが、姿が見えなかった。


 もしやと思い、靴を確認しに行くといつも履いているスニーカーが消えている。赤丸の日は朝から出掛ける傾向があったが、こんなに早くはなかった。俺が頭の中でぐるぐる考えていると、


「あら和泉君、どうしたのこんな所で」

 豊を抱いた妃さんが後ろから声をかけてきた。


「悠子ちゃんが朝早くから出掛けちゃったみたいで」

「あぁ、あのコ半年に一度、早朝から出掛ける用事があるのよ。日が沈む前には帰ってくるから大丈夫よ」

 半年に一度、早朝から出掛ける場所、お墓参りとか? 


「妃さん、悠子ちゃんがどこに行ってるかは教えてくれないんですね」

「あのコの了承もなく言えないわね」

 妃さんが許可するような場所だから危険な場所ではないのだろうけど気にせずにはいられなかった。


「抜けてる所もあるけど悠子だってもう高校生なんだから信用してあげて」

 そういうつもりではないのだ。悠子ちゃんの周りが信用出来ない。

 高校生だからこそ狙う輩だっているだろう。


「女の子の成長は早いの、あんまり子供扱いしてるとしっぺ返しをくらうわよ」

 豊をだっこしながらリビングへと入っていく妃さんの姿を俺は見ている事しか出来なかった。








 外からゴロゴロと雷の音が鳴り始め、部屋の窓から空を見上げた。つい数分前まで明るかった空は雨雲に覆われている。


 悠子ちゃん大丈夫かな……。


 早朝から出掛けている悠子ちゃんはまだ帰ってきていない。以前、悠子ちゃんの携帯に何度も連絡して怖がられてしまった経験があるので大人しく待つしかない。


 その時、ガチャと家の扉が開く音がして俺は急いで部屋を出て玄関に向かった。

 玄関に着くと、悠子ちゃんは膝に手をついて肩で息をしている状態だった。


「走って帰ってきたの?」

「は、はい、傘持ってなかったんで」


 小さなリュックを背負った悠子ちゃんの隣には、五十センチ程の高さのカートが置いてった。てっきりどこかにお買い物に行ったのかと思っていたけど、カートを持って出掛けたってことは友達と日帰り旅行にでも行ってきたのかな。


 朝も早かったし今日一日で色んな所を回ってきたんだろう。出掛けた場所とか気になるけど、いつもより疲れてるみたいだし今日は聞かないでおこう。


「今日は動き回って疲れたでしょう。部屋でゆっくり休みな」

 そう声を掛けると何故か悠子ちゃんは驚いているようだった。


「い、和泉さん今日は家にいたんですか?」

「特に用事もなかったし、日中三十五度だよ。出る気になれなくて」

 いつも俺ばかり悠子ちゃんのことを考えている気がしたから、俺の私生活を気にしてくれると嬉しくなる。


「雨が降ってくる前に帰って来れてよかったね」

「はい、駅を下りたらいきなり夕立直前でしたからね。あと五分違ったらずぶ濡れになって、死んでも死に切れませんでしたよ!」


 そんなに雨に濡れたくなかったのか……。

 でも雨で服が透けたりしたら確かに危険だな。悠子ちゃんの言うことはもっともだ。


「和泉さん、お風呂ってもう沸いてますか」

「うん、夕飯も出来てるから」


 お風呂の後に頂きますね、と悠子ちゃんは両手でカートを持ち上げて階段を上っていった。







 家族で夕飯を食べた後、俺は風呂に入っていた。湯舟に浸かって、先程の悠子ちゃんの様子を思い返す。夕飯の時、悠子ちゃんは始終笑顔だった。予想するに今日はとても楽しい日帰り旅行だったのだ。


 絶景を見たりその土地ならではの名物料理食べたりして満喫してきたに違いない。

 ……悠子ちゃんと一緒に出掛けたお友達が羨ましい。


 去年の箱根みたいに俺も悠子ちゃんとまたどこかに旅行したいな。

 どこに行くか、一度考え始めると候補地が頭に沢山浮かんできた。


 俺はその後も小一時間、風呂に浸かったまま旅行先について考えを巡らしていた。

 

 熱くなってきた俺は風呂から出てタオルで頭を拭いた。パジャマに着替えて水分補給した後、階段を上っていくと悠子ちゃんの部屋から話し声が聞こえてきた。


 夜の十時、遅い時間だが大方越田と電話しているのだろう。

 そして自分の部屋の扉に手を掛けた時、信じられない言葉を耳にした。


「一刻も早く結婚して欲しい……私も好き……」

 幻聴か? 

 しかし俺が悠子ちゃんの声を聞き間違えるはずがない。


「でもあの時間だけじゃ短すぎる。出来れば部屋に泊まりたかったなぁ」

 今度はその声がはっきり聞こえた。

 盛り上がっているようで段々声が大きくなっているようだった。


 電話相手は越田なんだよね!?と今すぐ扉を開けて問い質したくなる。


「行く! 予約は私がしておくから任して」

 泊まりたい部屋の予約ということは、どこかの旅館やホテルということだろうか。


「仲島も私と同じ気持ちなんて嬉しいよ……」

 仲島新――それは二ヶ月前に悠子ちゃんにラブレターを出して、マイブラックリストに名を連ねた男!!


「続きはまた今度にとっておく。電話待ってるね」

 悠子ちゃんの仲島への親しげな声を耳にして、衝撃のあまり言葉を失った。


 何てことだ……。

 悠子ちゃんは俺には秘密で男と逢瀬を交わし付き合っていたのだ。


 しかも一刻も早く結婚して欲しいって……悠子ちゃんの方から積極的に迫っていた。あのラブレターから二ヵ月程でどれだけの急スピードで二人の仲は進展したんだ。


 ――現実を認めたくない。 


 ガーンガーンガーンと頭の中で絶望の鐘の音が鳴り響いている。

 俺は悠子ちゃんの部屋の扉の前で茫然自失し、その場で立ち尽くした。










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