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妹ですみません  作者: 九重 木春
ー腐女子街道編ー
38/97

10 兄の防衛

 土曜日の朝、予定より早く目が覚めた俺はバックの中身を再確認していた。シートと虫さされ防止のスプレーと日焼け止め、ウェットティッシュもあった方が便利かな、と荷物に追加する。自分から誘ったものの、誰かとピクニックに行くのは初めての経験だ。


 身支度を整えた俺は最後に、買ったばかりの眼鏡を耳に掛けて鏡の前で自分の顔を確認した。そんな変わった気がしないけど、妃さんのアドバイス通り、悠子ちゃんはコレが好きなのだろうか。俺は鏡の前で首を傾げてから階段を降りていった。


 すると、階段の下からトントントンと包丁を使っている音が聞こえてくる。こんなに朝早くから朝食を作ってるのかな。洗面所に向かう途中で、俺はキッチンに顔を出した。


「おはよう、悠子ちゃん、今日の朝食は何かな?」

 隣に周って声を掛けると一瞬だけ俺の方を見て、すぐにまな板に視線を戻してしまう。悠子ちゃんの手元には数個のいなり寿司がまな板の上に並んでいる。


「びっくりさせちゃってごめんね。いなり寿司が朝食なんてめずらしいね」

 こっちを見て欲しくて声を掛けても全くその気配がない。おかしいな、あまり眼鏡の効果を感じられなかった。


「い、いえ、これはピクニック用お弁当に」

「わざわざ作ってくれてるの!?」

「ご迷惑でしたか?」


 休日に悠子ちゃんの手を煩わせるのも悪いと思い、昼食はコンビニで買おうかと考えていたのだ。お弁当は勿論、俺との外出に乗り気になってくれてるのが嬉しい。


「ううん、悠子ちゃんの手料理に勝るものはないよ――その服もとてもよく似合ってる」

 今、悠子ちゃんがエプロンの下に着ている服は、昨夜俺が渡しておいたものだ。ボーダーシャツに白いロングスカート、しかもシャツは俺とお揃いだ。どんな男が悠子ちゃんに目をつけても、ペアルックの俺達を見れば諦めるだろう。


「ど、どうもありがとうございます」

 お礼を言いながらも悠子ちゃんは不自然なまでに俺の方を見ない。悠子ちゃんに好かれたくて眼鏡を掛けたのに、避けられてしまうのでは逆効果だ。 


「ねぇ、さっきから目を合わせてくれないね。コレ、似合ってない?」

 ちらと上目遣いに俺を見た悠子ちゃんの前で、少し下がってきた眼鏡のブリッジを人差し指で持ち上げると、沸騰したやかんのように悠子ちゃんは顔を耳まで真っ赤に染め上げた。


「と、とてもお似合いです。か、かっこいいと思います」

 それは聞こえるか聞こえないかの小さな声だったが、確かに俺の耳には届いた。さっきからずっと俯いていたのは、避けてるんじゃなくて俺のことをかっこいいと思ってくれたから?


「悠子ちゃんが俺の事かっこいいって言ってくれるの、はじめてだね。これから毎日かけようかな」

 眼鏡のおかげとはいえ、悠子ちゃんが俺の容姿を誉めてくれるなんて。俺の心は歓喜に震えた。


「心臓に悪いんで今すぐ外して下さい」

 紅潮した頬を隠すように目を伏せる――その様が尋常じゃなく可愛かった。

 そんな悠子ちゃんを見ていると、本当に毎日掛けたくなる。毎日心臓を震えさせて、俺が悠子ちゃんのことを想うのと同じくらい夢中になって欲しかった。






「てっきり今日は歩きで行くのかと思ってました」

 助手席に座る悠子ちゃんは、手に携帯を握りながらナビを見ている。

 今、俺達が向かっている公園は、以前テレビでやっていて興味を抱いた場所だった。テレビでは芝生の上で寝転ぶ家族やバトミントンをしている子供逹など長閑な光景が広がっていた。胸に抱いたのは、羨望と憧憬。昔の自分なら縁のないものとして映っただろうが、今の自分は違った。一緒に行ってみたいと思える家族がいる。すぐにスマホで場所を検索して、行き方を調べていた。


「徒歩でもいいけどうちからだと三時間は掛かるよ」

「車でお願いします」


 三時間歩いたら、ピクニックというよりはウォーキングがメインになってしまうだろう。帰ってきたらくたくたに違いない。ちらりと隣を見ると悠子ちゃんはメールを打っている。前より頻度が増えているのは気のせいかな。


「誰とメールしてるの?」

「最近、出来た友達です。共通の趣味で仲良くなったんです」

 悠子ちゃんからはあまり友達の話をしないから気になった。


「へぇ、どんなコ」

「普通ですよ。眼鏡を掛けてて、髪は染めずに真っ黒ですね」

 特徴を聞きながら想像すると悠子ちゃんしか浮かんでこない。


「悠子ちゃんに似てるんだね」

「いえ、そんなに似てません。ヤツの方が背が高いし目付きも悪いですし」

「ヤツ……?」

 もしかして男か? だとしたら警戒対象のブラックリストに追加だ。


「ショ、ショートカットで八重歯が可愛いコです! ほら、運転に集中しないと危ないですよ」

 悠子ちゃんはメールが届いたようで再びメールに集中し始める。――妃さんからは悠子ちゃんは異性が苦手だって聞いている。男ではないはずだ。


 人見知りの悠子ちゃんに出来た新しいお友達だ。ここは喜ぶべきだろう。詳しく聞きたい気持ちを抑えてハンドルを握った。








 公園に着くと、予想以上にチケット売場が混雑していた。もしかしたらどこかでイベントをやっているのかもしれない。俺は園内に入り、あらかじめチェックしていた広場を目指して歩いた。


 芝生を踏みしめて十数メートルはある大木の下に着くと悠子ちゃんと一緒にシートの両端を持って広げた。靴を脱ぎシートに座って周りを見渡すとキャッチボールをする親子や、凧揚げをする子供、犬の散歩をする老夫婦の姿。新緑囲まれた公園には長閑な風景が広がっていた。


 俺がのんびりしている間にも悠子ちゃんはてきぱきと準備を整えてくれている。水筒のお茶を注いで渡してたり、重箱を出したり、本当に気が利くコだ。


「みんな美味しそうだね」

 悠子ちゃんが重箱のフタを開けた瞬間、息を飲んだ。重箱の中には、いなり寿司や、鮭の南蛮漬けや春巻きなど手の凝ったおかずが敷き詰められている。箸を持って、ひとくち食べ始めると箸を進める手が止まらなかった。


 その様子を悠子ちゃんは菩薩のような笑みを浮かべて見ている。何も話さなくても、愛情が伝わってくるようだった。俺は思わず、ポケットからスマホを出して悠子ちゃんを撮影していた。


「勝手に撮らないで下さいっ」

「だって悠子ちゃんが可愛いから」


 今撮らずしていつ撮るの? 俺が聞き返したいくらいだった。夏の日差し遮る木々が風に揺れる度、光がキラキラと悠子ちゃんを照らしている。この綺麗な一瞬一秒を形にして残したかった。


「偶然だな、冴草」

 振ってきた声に、俺と悠子ちゃんは同時に顔を上げた。誰かと思えばこの前貴士と話していた人物、霧谷だった。明るい茶髪にジャラジャラのアクセ、いつも周囲に女を連れていて、いかにもな女好きだ。悠子ちゃんには関わらせたくない。警戒して悠子ちゃんの前に出ようとすると、悠子ちゃんが自らさっと俺の背中に隠れた。


 こんな時なのに悠子ちゃんの行動にジーンと感動してしまった。俺の背中が安全だと思ってくれているんだね……。


「冴草がこんな所にくるなんて意外、二人で仲良くデート中?」

「霧谷の方こそ。わざわざ俺に声を掛けなくても良かったのに」


 ぜひとも無視して欲しかった。安里の時といい、何故俺と悠子ちゃんがデートしている時に限って邪魔者が現れるのか。自分の運の悪さを呪いたい。


「またまたオレ達友達だろ。ミステリアスな冴草の普段の姿が見れるなんて貴重過ぎて目が離せないって。今あっちの会場で肉フェスやってんだけど、後ろのコも連れて一緒に行かないか」

「遠慮しておく、霧谷達だけで楽しんできなよ」


 誰が行くか。悠子ちゃんも俺の背中の服を引っ張って「行きたくない」と無言で訴えていた。


「冷たいなぁ。オレはもっと冴草と親しくなりたいんだけど」

 女好きの癖にそう言う趣味なのかと疑ってしまう。思わず顔面に張り付けていた笑みが引き攣った。すると、悠子ちゃんが俺の脇から顔を出して果敢に霧谷を睨みつけていた。


 気持ちは嬉しいけど、霧谷の興味を引いてしまうから出てこないで!


「うわぁ、予想以上。顔はすっぴん、ダサイ眼鏡の根暗系? ってかこのコいくつよ。まぁ、身体はまったくの子供って訳でもなさそうだけど」

 霧谷はニヤニヤと下卑た笑いを浮かべて悠子ちゃんを見下ろしている。俺の妹をそういう目で見るとはいい度胸だ。


 心配になって後ろを振り向くと悠子ちゃんは俯き眉に皺を寄せて今にも泣きそうな顔をしていた。その顔を見た瞬間――怒りは爆発した。俺は立ち上がって、ぐぃっと首が苦しくなるくらい強く、霧谷の胸ぐらを掴んだ。


「霧谷、俺のことは何とでも言っていいけど、彼女のことを悪く言うのは誰であろうと許さない」

「何、マジになってんだよ」


 こののらりくらりと交わそうとする態度が前から気にくわなかった。大学の入学式から馴れ馴れしく声を掛けて来て、俺を女を引き寄せる道具として傍に置こうとする見え透いた我欲。深く関わりあいになりたくなかったから適当にあしらっていたが、もう耐えられなかった。


「冴草にはもっといい女を俺が紹介してやるよ。だからさ、今度」

「今後一切俺に関わるな。――お前の裏口入学も整形のことも、暴露されたくないならな」


 途中で言葉を遮り、ボソリと霧谷の耳に切り札を突きつけると、ヤツの顔はさぁぁっと青ざめていった。


「っんでそのこと!」

「隼人、まだ~?」


 霧谷の後ろで待つ女がこちらの様子に手を振っていた。

「早く行ったら? それとも、そんなにばらして欲しいわけ」


 ちっと舌打ちして、霧谷は俺達の傍から離れていく。前もって霧谷の情報を集めておいて良かった。


 俺の周りをうろつくだけならまだしも、貴士の所まで行って俺の手作り弁当の彼女が誰なのか聞きに行った時点で俺的にはアウトだった。


 俺は夏休みに入る前に霧谷の友人に近づいたり、パソコンでヤツのツイッターを確認して情報収集に励んだ。霧谷は敵が多い人間で霧谷の悪評はポロポロと出てきた。手間は掛かったが、悠子ちゃんのことを思えば力が入った。他にも色々言ってどん底まで突き落としてやりたかったが我慢した。悠子ちゃんの前で醜い喧嘩を繰り広げたくない。


 悠子ちゃんの前でしゃがんでその顔を覗くと、その表情はくしゃくしゃに歪んでいて見ている方がつらくなる。


「俺の知り合いがゴメンね……、今日はもう帰る?」

 悠子ちゃんは俯きながら横にかぶり振った。


「あいつの言ったことは、気にしなくていいからね!」

「でもあの人が言ったことは本当です」

 ずっと黙っていた悠子ちゃんが口を開いて俺は耳を傾けた。


「お化粧ひとつしてなくて、根暗で、ダサくて、私だってそんなことはわかってるんです。和泉さんと歩いてても不釣り合いって目で見られるし、身長差もあるから後ろ姿は完璧に大人と子供でしょうよ」

 最初は怒っていた声が段々小さくなって元気がなくなっていく。霧谷の戯れ言に悠子ちゃんが胸を痛める必要など、どこにもないのに。


「悠子ちゃん、俺はね、他人の目は気にしないようにしてる。どんな容姿でもさ、自分の好きな相手に好きになって貰えなきゃ意味がないよね」

 悠子ちゃんに少しでも好かれたくて眼鏡を掛けた自分なんてまさにその典型だろう。


「逆に言えば嫌いな相手に何を言われても痛くも痒くもない。悠子ちゃんは霧谷に好かれたかったの?」

「……いえ、まったく」

 即答する悠子ちゃんに力説を続けた。


「でしょう、肌が綺麗なんだからメイクは必要ないし、内気でも悠子ちゃんの性格は暗くなんかないよ。悠子ちゃんの掛けてる眼鏡だって普通だ。悠子ちゃんは容姿に自信がないみたいだけど、他人の言葉で傷ついたりしないで俺を信じて。俺が追いつけないくらい、日に日に素敵なコになってるんだから」

「そんなこと思ってるの、和泉さんだけですって」

「うん、俺だけがわかっていればいいって思ってくれない?」


 他人の目なんて気にしないで、俺の前でだけ色んな悠子ちゃんを見せてほしい。悠子ちゃんの魅力を知ってるのは俺だけでいいのだ。皆が知ってしまったら、恐ろしくて俺は彼女を抱きしめて離せなくなる。誰にも、とられたくなかった。


「悠子ちゃん、顔真っ赤だよ」

「……暑いだけですよ」


 照れ隠しだってバレバレで、こんなに可愛いのにね。


 すぐに信じて貰えるとは思っていない。出会った頃から言い続けていても悠子ちゃんのコンプレックスは取り払えていないのだ。


 恐らく悠子ちゃんの容姿を悪し様に言う輩がいたんだろうとは、考えている。男が苦手というのもそこからきているのかもしれない。俺が傍にいたら守ってあげたかった。

  

「ほら、悠子ちゃんが作ってくれたお弁当食べたいから一緒に食べよう」

 シートの上に座って箸を握る。せっかく悠子ちゃんが作ってくれたのだ。残すなんて言語道断。

 俺がぱくりとおかずを食べると悠子ちゃんは眦に溜まった涙を手の甲で拭って小さな笑みを零した。

 









 次の日は、悠子ちゃんが友達の家にテスト勉強しに行く日だった。俺は悠子ちゃんが家を出る前に昨日のことを謝った。悠子ちゃんと青空の下でピクニックを楽しみたかったのに、霧谷が水を差したせいで空気を悪くしてしまった。


「気にしないで下さい! また日を改めてピクニックしましょうね」

 申し訳ない気持ちでいっぱいの俺に、悠子ちゃんは優しく声をかけてくれた。次こそは邪魔が入らないようにしたい。


 悠子ちゃんを見送った後、ソファに座って昨日の悠子ちゃんの表情や仕草を思い出した。眼鏡を掛けた俺を誉めてくれたり、朝ペアルックに気付いて俺の服を凝視していた悠子ちゃん、俺にお茶を注いだコップやお箸を渡してくれて甲斐甲斐しかった。――傷ついた時の表情は忘れたくても忘れられない。


 ヤツさえ現れなければあの表情が曇ることはなかったのだ。あれだけ脅せば霧谷は近寄ってはこないと思うが、逆恨みして怒りの矛先が他に向かったら困る。昨日の今日だが不安に思い悠子ちゃんの所在を確認する。


 スマホで悠子ちゃんの携帯に電話を掛けるとすぐに悠子ちゃんは電話に出てくれた。


「悠子ちゃん、今、越田さんの家? テスト勉強は捗ってる?」

 俺は悠子ちゃんの前では、一応越田をさん付けしている。悠子ちゃんには怖がられたくないし、良い兄でいたいから口調もきつくならないように心掛けている。


『はい! 私と麻紀ちゃんは得意分野が違うんでばっちり助け合ってますよ』

「良かった、そこに越田さんがいるなら変わってくれる?」

『えっ、麻紀ちゃんにですか』


 悠子ちゃんは俺が越田を好ましく思っていないのを知っているから、驚いているようだ。俺も極力越田とは口をききたくない。


 初めて越田と会話をしたのは三年前の電話だった。悠子ちゃんが友達に脅されて利用されているのではないかと心配して、掛け続けた電話に出たのが越田だった。


――もしもし、越田と申します。はい、……はい、あぁ、こんな遅くまで悠子ちゃんに何をしているかって、ナニですよ、ナニ。女性の口からそんな事言わせるんですか、二人っきりですることなんかひとつしかありませんよ。悠子ちゃんは今日が初めてだから戸惑ってましたけど、私が手取り足取り教えてあげましたから、もう慣れたものですよ――


 あの時の会話は思い出すだけでも腹立たしい。


 純情可憐な悠子ちゃんにナニをさせたのか、真剣に心配したのだ。越田の家から帰ってきた悠子ちゃんに「麻紀ちゃんの宿題を手伝ってたんですよ」と言われた時は心底安心した。


 実際会った時も意味不明の発言を連発しながら荒い息を吐くという謎の持病を発症するし。しかも悠子ちゃんはそんな越田の背中を優しく撫でるし……。


 悠子ちゃんは友達の越田をとても好いているのだ。

 

 憎きライバル的な存在である越田とは話したくはないが、今は仕方がない。その場が越田の家で、確かに越田が傍にいる事を確認しておきたかった。


『もしもし、越田です。お久しぶりですね、お兄様』

 このソプラノ声でお兄様と呼ばれると俄然気分が下がる。


「そこは間違いなくお前の家だな、越田」

『はい、沢山の素敵な男性に囲まれてますけど、確かに我が家です』

 こいつは、いつも電話に出るとこの調子だ。最初は騙されたが三年も経てば俺も学ぶ。


「その手には乗らないぞ。悠子ちゃんは男が苦手だからな、自ら男だらけの家には行かない。悠子ちゃんがそこにいるとわかればいいんだ。じゃあな、明るい内に帰せよ」

『相変わらずのヤンデレ……好きなんですけど、かむちゃんが苦しむのは見たくないんですよね』

 普段のふざけた様子のない声色に眉を潜めた。


「悠子ちゃんが、苦しむ?」

『かむちゃんに近づくもの、何でもかんでも排除して孤立させたりしないで下さいね』

「……悠子ちゃんがそう言ったのか」

『いいえ、個人的にそう思っただけです。私はかむちゃんのことが大好きなんで、お兄様に何を言われても気にしませんがぜひ今後の参考に』


「何が言いたい」

『妹の幸せを祈るのもお兄様の役目なんじゃないですか』

「っ」


 越田の台詞が痛烈に突き刺さった。悠子ちゃんの幸せを祈る……?


 それは神や他人の手に悠子ちゃんを委ねるということであって、俺の望むところではない。悠子ちゃんは俺の手で幸せにするのだ。そう言い返そうとした瞬間、通話は既に切れていた。


 悠子ちゃんは何に苦しんでいるのか。

 昨日の霧谷のこと……?


 答えはわからないまま時間だけが過ぎていった。












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