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妹ですみません  作者: 九重 木春
ー腐女子街道編ー
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6 兄の確認


「それはただの手紙です」

「見れば解るよ。具体的に言おうか? 男からのラブレターだよね、って俺は聞いてるんだけど」

 悠子ちゃんの鞄から手紙を手に持って確認すると悠子ちゃんの顔色が悪くなっていく。

 俺に見せたくない手紙という自覚はある訳だ。


 ――俺はいつか、こういう輩が現れると思っていたのだ。

 悠子ちゃんは自分を平凡だと思っているようだけど、一体どこが?

 俺からすればどこもかしこも可愛い。


 流れるような艶やかな黒髪に、子鹿のようなつぶらな瞳、照れるとすぐに赤くなるふっくらとした頬、小さな柔らかな手や桜貝のような綺麗な爪、と挙げれば切りがない。


 更に悠子ちゃんが学力と家の近さで決めた高校の制服が可愛いこと――襟元は高校の制服にしては珍しく、セーラー服ぽくなっていて胸元には紺色のリボン、短めの白いベストは悠子ちゃんの細い腰をキュッと見せていて思わず抱き寄せたくなる。スカートは中学の頃より少しだけ短く、俺にはその三センチが三十センチにも感じた。悠子ちゃんは白く滑らかな足を無防備に晒してはならないのだ。


 そんな魅力だらけの悠子ちゃんだから、警戒を怠らないように日夜注意を払っている――にも関わらず、湧いて出てきた。きっとこの《仲島》は俺という兄がいることを知らないのだろう。


 いい度胸だ、このラブレターは俺への挑戦状として受け取った。


「ラ、ララブレター!? 何を仰ってるんですか」

「じゃあ何て書いてあるの」

 ぎゅっと豊を抱きしめる悠子ちゃんが一歩二歩と後ずさっていく。


「それを言うのは相手にも失礼でしょう」

「ふぅん、その男のこと庇うんだ」

 俺は後退していく悠子ちゃんに近づいて、壁際まで追いつめた。


「え、いや、そうではないですけど」

「なら言ってもいいよね。悠子ちゃんがその男を守る義理なんかこれっぽちもない。教えてくれるつもりがないなら、俺が悠子ちゃんの高校まで行って手紙の男に直接内容を聞きに行ってもいいんだよ」


 悠子ちゃんは俺に出来る限り高校には来て欲しくないようで、文化祭や体育祭に来るなら他人のふりをするように頼まれている。俺は人の目を引くから、内気な悠子ちゃんはそれが嫌なんだろうけど、今は緊急事態だ。半ば脅すように伝えると、悠子ちゃんは観念したように重い口を開いた。


「明日の昼休み校舎裏にて待つって……」

「絶対告白されるよ。行ったら襲われるからやめておこうね」


 俺の経験上、百パーセントの確率でそれしかあり得ない。悠子ちゃんのように小柄な女の子が男に勝てるはずがない。その場でパクリと頂かれてしまうかもしれない……やはり俺が行って撃退するしかないような気がした。


「そもそも私は初めから行く気はありませんよ」

 その一言で俺の中に立ちこめていた暗雲は一瞬で消え去った。


「ほ、本当に?」

「行きません」


「良かったぁ」

 俺は豊ごと悠子ちゃんを胸に抱きしめた。


「和泉さん、大袈裟です」

「悠子ちゃんは彼氏なんか作らなくていいよ、ずっとウチにいてね」

 せっかく俺の妹になったのに、他の男に取られたくない。日本では女性は十六歳から結婚出来てしまうのだ。そんなのいくらなんでも早すぎる。法律で最低三十歳くらいからに改正して欲しい。


 ――それでも、俺は悠子ちゃんをよその家にやる気は砂の欠片一粒ほどもないんだけども。悠子ちゃんは少なからず結婚願望があるみたいだから心配なのだ。


 いいんだよ、一生ウチにいてくれて。誰も結婚しないからって文句は言わないからね。俺は悠子ちゃんを抱きしめて、その温もりに縋った。









 豊をベビーベッドに寝かせて、悠子ちゃんは学校鞄を置きに部屋へ戻って行った。俺は机の上でお茶を飲んでいる妃さんの前に座って尋ねた。


「あの、妃さんは悠子ちゃんの男性の好みって知ってますか?」

「何で知りたいのかしら」

 ずずっとお茶を啜りながら答えた妃さんの返しに、一瞬言葉に詰まったが俺は正直に答えた。


「もっと、悠子ちゃんに俺を好きになって欲しくて……」

「和泉君はそのままでも悠子は嫌いにはなったりはしないわよ」


 妃さんのフォローに力なく首を振った。 俺は悠子ちゃんに好かれている自信がない。俺の容姿は初対面の悠子ちゃんを青ざめさせてしまう程好みではないようだし、この前もしつこいと手を振り払われた。さっきだって豊をだっこして両手が塞がってたから抵抗されなかっただけだ。


「悠子は私との二人生活が長かったから異性への免疫がない上に苦手意識が強いの。だから他の男の人に比べれば悠子は和泉君に甘えてる方じゃないかしら」


 人見知りだとは思ってたけど異性が苦手だったのか。それはつまり俺に限らず他の男も警戒してくれるということ。しかも母親の妃さんから見て、俺は悠子ちゃんに心を許して貰えている方のようだ。――だとしたら嬉しい。


「それに、私も仕事であまり一緒にいてあげられなかったし、誰かに構って貰うのに慣れていないのよ。だからびっくりさせないようにゆっくり時間を掛けて近づいてあげてね」

「はい……」


 焦らず、ゆっくり、それが結構難しい。


「ふふっ、じゃあもうひとつだけ。悠子は、眼鏡を掛けた知性的な男の人に弱いわよ。私の亡くなった元旦那が眼鏡を掛けた優しい人だったから……写真を見て育ったし無意識の内に刷り込まれてるのかもしれないわね」

 そういえば悠子ちゃんの好きな居城穂積も眼鏡を掛けている。

 なるほど、とても参考になる。


「へぇ、そうだったんですね。ありがとうございます! 今度試してみますね」

 妃さんにびしっと頭を下げて、俺は部屋に戻った。クローゼットの小物入れを開けて中を確認すると、サングラスはあるが眼鏡が無い。


 よし! 明日買いに行こう。


 俺は本棚からファッション雑誌を取り出して、ベッドを背もたれに座った。眼鏡とひとくちにいっても種類が沢山ある為、店に行く前に研究しておく。そうして悠子ちゃんの好きな眼鏡はどんなものなのか考えてる内に、時間はあっという間に過ぎていくのだった。











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