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妹ですみません  作者: 九重 木春
ー腐女子街道編ー
29/97

1 妹の警戒

書籍版を読んでいない方への為にご説明をば。

悠子は以下の漫画にハマってます。


野球漫画『フライングバッター』(略してフラバタ)週刊雑誌で大人気連載中‼ 

《あらすじ》

小学生の時に仲違いをした幼馴染と高校の練習試合で再会し、ぶつかりあ

いながらも野球を通してもう一度昔の友情を取り戻していく予定――という

ハートフルなストーリー。


真先飛人(マサキタカト) 受け・野球大好き熱血ボーイ

居城穂積(イシロホヅミ) 攻め・知的温厚メガネ・悠子推しキャラ!

■向井アヤカ 新マネージャー・飛人に急接近中のヒロイン

 「売り切れ……っ」

 

 今日は、指折り数えて楽しみにしていた私の愛する漫画『フライングバッター』オンリーの開催日。フラバタ一色の会場で、私はがくっと肩を落とした。サークルスペースの机には《完売》と書かれた紙がペタリと一枚貼られている。


 これで空振り何冊目よ……。


 今最高潮のジャンルだからだとしても悔しすぎる。私は、唇を噛み締めながらパンフレット片手に他の印をつけたサークルさんの元を目指して歩き出した。


 連載が始まって三年経ってもこの人気、オンリー会場は予想以上の満員御礼だ。原作が面白いのだから当然だろう。今月からはアニメの二期が始まり、本誌の方ではまさかのヒロインの登場で腐女子界では大旋風が吹き荒れている。


 フラバタにヒロインとかいらないから!! 

 これ野球を通した友情漫画でしょ。


 我らがアイドル、飛人が落ち込んでいる所につけ込む新マネージャーに阿鼻叫喚。色んな意味で原作から目が離せない。


 そろそろ、入れ替えの時間だから出ないと。時間ぎりぎりまで会場内をうろついていた私は、ふとめずらしい存在に気付いた。 眼鏡を掛けた一人の腐男子。存在は知ってたけど、実際にいるんだな。相手は私の視線に気付いたのか、チラリとこちらの方を向いた。


う、不躾な目で見て申し訳ございません。

私はサッと腐男子から目を逸らして会場を出て行った。

 






「いっぱい手に入ったのは嬉しいけど、大丈夫かな」


 帰り道の途中、私はコンビニでおにぎりを買って遅い昼食にした。コンビニの中にあるイートインコーナーでもぐもぐおにぎりを食べながら、足元の同人誌がいっぱい入っている手提げ袋を見下ろす。


 念の為に手提げ袋の中身がばれないようにビニール袋に入れ、上からしっかりと大きめの布を掛けてある。そこまでしてちゃんと隠蔽したのにも意味がある。


 ――家に帰った時、兄に中身がバレないようにする為だ。


 オンリーに出掛ける前に兄とした会話を思い出すと気が重くなる。


『悠子ちゃん、その用事は来週じゃ駄目なの?』

『無理です』


『誰とどこに行くの、相手は男じゃないよね?』

『一人で行くんです。絶対についてこないで下さいね』


 いつどこで、私が何をしても私の自由だ。

 更には何故一人で出掛けるのかとまで聞かれ……ぼっちで出掛けて何が悪い! 


 イベントに出掛けるごとに行き先を尋ねられ、段々いい訳が苦しくなってきた。今日も最終的には「俺もついて行く」とか言い出したので、兄の手を振り払って家を飛び出してきたのだ。


 私は兄程、BLオンリーイベントから掛け離れた人はいないと思っている。綺麗な亜麻色の髪に整った目鼻立ち、出会った時は中性的な雰囲気もあったが今は男性的な魅力が増して色気が凄まじいことになっている。あんな人がオンリー会場にいたら間違いなく浮く。


 腐男子も増えてきたとはいえ、リア充の兄は間違いなく二次創作の存在自体を知らない。それを説明する気も私にはなかった。兄がBLに理解があるかどうかさえわからない状況で新たな亀裂を自ら入れるつもりはない!

 

 ここであんまりゆっくりもしていられない。小腹が埋まった私はゴミを丸めて、立ち上がった。帰ったら夕飯も作らなきゃならないし、何と言っても早く家に帰って同人誌が読みたい。手の中のゴミをポイッとゴミ箱に捨て、私は幸せの重みを手に家路を目指した。








「た、ただいまー」


 聞こえないくらいの小さな声で、私はそろりと中を覗きながら玄関の扉を開けた。出来れば兄に見つからずに、部屋に戻りたい。


「おかえり、悠子ちゃん!」

「ぎゃあっ」


 三十センチも開けていないのに、兄が抱き着いてきた。忠犬のごとく扉の前で待機してたんですか!? 私は伸ばされた両腕をするりとすり抜けて家の中へ進入した。


「悠子ちゃんがいないから寂しかったんだよ。――で、どこに行ってたの?」


 最後の質問だけ、兄の声のトーンが下がる。帰ってきて早々、また同じ争いを繰り返さなければならないの……。オンリーに行って来たとは口が裂けても言えないのでいい加減諦めて欲しい。


「ほ、本屋ですよ。都会の本屋は品揃えがとてもいいんです」

「先週はCD屋さん、今週は本屋、どちらも俺が一緒に行っても良かったよね」

「良くないです」


 先週はキャラソンの発売日だったからアニメ専門ショップまで行ってきたのだ。やっぱり買うなら特典付きでしょう。


「私は子供じゃないんです。一人で出掛けたっていいじゃないですか……」

「悠子ちゃんに限っては子供とか大人とか関係ない。むしろ年を重ねるごとに気を付けて貰わないと」


 それはつまり、この状況は改善される予定はないということですね。数年後の私は、外出が出来るのだろうか。以前、監禁は勘弁して下さいとお願いしたこと、忘れてないですよね……? 私は鎖で繋がれた未来を想像して身震いした。


「本、随分沢山買ったんだね。重そうだから荷物、俺が持つよ」


 颯爽と兄が玄関に置いた荷物に手を伸ばそうする。

 やめぃっ、私はひしっと手提げ袋を胸に抱きしめた。


「大丈夫です。まったく、全然重くないですから! 和泉さんは手を出さないで下さい」


 内心、冷や汗をたらたら流しながら、全力で首を振る。いくら厚意であっても、兄に任せられる代物ではない。私は固まっている兄を置いて、胸の中にお宝を抱きしめながら階段を駆け上がった。自室の扉を開けて、すぐさまガチャリと部屋の鍵を閉める。


 部屋の床に手提げ袋を置いて、私は大きなため息をついた。危なかった、兄の心配性がどんどん悪化してるよ。私は腐女子だけど、品行方正な女子高生のつもりだ。もしかして信用がないのかな。


 去年、高校生になり私が総菜屋のバイトを始めると話した時も兄はかなりうるさかった。「不特定多数の男が関わる仕事じゃないよね?」って。私が萌え喫茶で働くとでも思ってるのか。


 私自身、異性と関わるのは苦手なので接客業は最初に除外している。だから、総菜屋のキッチンという私にとって理想的な仕事の募集の貼り紙を見つけた時、すぐに応募した。その後面接も受かっていた所に、兄の反対があったから危うく辞めさせられそうになったけど、そこは母の協力を得て何とかバイトを始めることが出来た。


 お金がないと、趣味の幅がかなり制限される。

 こうしてオンリーで同人誌を沢山買えたのも、全部バイトのおかげだ!


 私は早速、手提げ袋の重装備を解いて中から薄い本を取り出した。ふふふ、これから私の至福タイムの始まりだ。私はベッドの上に寝っ転がって、夢中で本を読み始めるのだった。

















一応、以下に簡単なフラバタの現在の状況説明。


【現在のあらすじ】

 強化合宿で生活を共にし、そこで誤解は何とか解けたものの

 長年仲違いしていた為ぎくしゃくしている飛人と穂積。


 そんな中、高校二年生になり、飛人の所属する野球部に新入生の

 マネージャーが入部する。部員達には可愛い上に仕事が出来るの

 で大人気!――しかし、飛人はそれ所ではなかった。


 今まで経験したことのないスランプに陥ってしまったのだ。


 まったく打てなくなってしまった飛人に色々アドバイスしたり、

 励まし支えてくれる新マネージャー、アヤカ。

 野球第一で女に興味のなかった飛人も段々心を開いていく。

 (そして、腐女子は悲しみに打ちひしがれるorz)




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