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妹ですみません  作者: 九重 木春
-ひとつ屋根の下にて-
19/97

5 妹の準備

 兄は私を監禁こそしなかったが、冬休みが終わるまで看病と言う名の監視は続いた。ベットサイドに座り、私の手を握る兄に「私は末期の患者か!」とツッコミたくなったのも一度や二度ではない。


 両親の前で食事を「あ~ん」されたり、薬を飲めばよく出来ましたと言わんばかりに頭を撫でられ、お手てを繋いで部屋に強制収容ですよ。母はそんな兄を微笑ましげに眺め、父には謝られた。もう風邪引きたくないと心底思った冬休みだった。



 始業式を終えて一週間が立ち、久しぶりの部活動日。部室の扉を開けると中から暖かな冬の日差しが差し込み、私は目を細めた。どうやら一番のりのようだ。


 定位置の椅子に座り、愛読書を鞄の中から取り出す。二十年前の女漫画だけど、読み応えがあって面白い。つくづくアナログの良さを見直す時代になったと思っている。


「お、かむちゃんもう来てたんだ」

「明けましておめでとう、麻紀ちゃん」

「なんか今更だけどあけおめー」


 新学期が始まったものの、麻紀ちゃんとはクラスが違うので会えなかったのだ。麻紀ちゃんは机に鞄を置いて、私の向かいの席に座った。


「ねぇ先週号見た?かむちゃんの好きな漫画の原画展やるみたいだね」

「勿論見た」


 そして舐めるように読んだ。前売り券を買えばノベルティーとしてクリアファイルが貰え、ライバルの誕生秘話も明かされるらしい。原作ファンとしては見逃せない。


「で、行くんでしょ?」

「うん、今週末に行くんだけど……」


 でもひとつ問題がある。


「兄と、一緒に」

「え~!?オタイベントにお兄様と!」


 フッ、私も予想してなかったさ。


『良かったら一緒に行かない?』って誘われたのが三次元映画だったら断ってた。

 でもまさか兄が原画展の前売り券を手に、私を誘ってくれるなんて思いもしないじゃないか!!

 兄、エスパー?私誰にも行くなんて言ってなかったのに。


「かむちゃん、もしかして自分からお兄様に腐女子だって打ち明けたの!?」

「まさか。その秘密だけは守り通す所存です」

「じゃあ何で」

「それは私にも解らない。だが、しかし兄の情報収集能力は半端ないのだけは解る」


 夏休みの私は完璧一般女子の振舞いだったと思う。

 兄が予想以上の厚意の塊だったので油断してしまったのかもしれない。


「とりあえず一緒に行くのはもう決定事項だからいいんだけど、何を着ていけばいいものか。兄は普段着もハイセンスクォリティだからね。その兄と一緒に街へ出る下民の身にもなって欲しい……」


 美容院、服屋、化粧品売場に行くのが罰ゲームの私に!

 美兄の隣を歩かせるというのか。


「あ、もしかしてその新しいシュシュはお兄様からのプレゼント?」

「クリスマスにね。よく解ったね」

「だってそれブランド物だよ」


 クリスマスプレゼントに貰ったちょっとビーズが付いてるシンプルデザインのシュシュ。

 麻紀ちゃんが言うには四千円位するらしい。

 キラッとしたビーズは恐らくスワロフスキーって……。

 もう気軽に付けて歩けない。


「じゃあいっそお兄様に服を選んで貰いなよ」

 なんと恐ろしいことをおっしゃる。

「麻紀ちゃん、私さ、本当に服に関しては自信ないんだよね」

「別にそんな大げさに捉えなくても。候補の服を二、三着見繕って、組み合わせだけお任せしちゃえば?」


 まぁ、それくらいなら私にも出来そうだ。

 自分で選んでたら無駄に悩む時間が長引くだけだろう。

 麻紀ちゃんの提案に私は感謝した。











「今度はこっちを着てみて。下はデニムよりコーデュロイにしようか」


 はい、と兄に服を手渡され部屋の扉を閉められる。


(何がどうしてこうなった……!?)


 私は着替えながら首を傾げた。学校から帰ってきた兄を捕まえ、両手に持った服のどちらがいいかと聞けば兄は急に不機嫌になった。


「何処の誰とデートするつもり?」


 兄は私の両肩に手を置いて問い詰めてきた。

 

(ひ~目が怖いよー)


 前回で学んだけど兄は淡々と怒るタイプだ。

 口調は穏やかでも目つきは鋭く、声は一段と低くなる。


「日曜日にって誘ってくれたのは和泉さんですよね?」


 デートじゃないし。

 貴方が一緒じゃなければ普段着だって構わないんですよ、わ・た・し・は!!

 はっ!もしや誘った事自体忘れたとか?ならば話を蒸し返さなければ良かった。


「お、俺と出掛ける時に着る服の事を相談しに来てくれたの?」

 こくんと頷けば、肩から離れた手が私を抱き締めようとしたので咄嗟に離れた。


「えっと、服だったよね。俺はワンピースの方が好きだな。……珍しいね、あんまり私服でスカート穿いたところ見たことなかったから」


 そりゃそうだ。これは私のオンリースカート。

 勇気がなくてまだ着た事が無い。


「これはこの前、お父さんがくれたんです」

「やっぱりこっちのキュロットにしよう」


 意見がころころ変わる人だな。


「はぁ、別にそれでもいいですけど」


「コートはダウンよりダッフルがいいけど寒いよね。マフラー巻いてタイツの上に靴下穿けば何とかなるかな。明るい色のトップスって持ってる?悠子ちゃんの他の服も見せて欲しいな」


 という流れで、私の部屋でお着替えタイムになった。


 始めは部屋に入れるつもりなかったんだけどなぁ。何度も服を持ってリビングと自室を行き来する内に面倒臭くなってしまったのだ。本棚と下着の引き出しだけは触らないようにお願いして、あとは兄に任せた。


「う~ん、色はいいけど丈が合わないから没」

「あんまり柄物が無いから俺のマフラーでもいいかも。

 このボンボンが付いた帽子すごい可愛い!かぶってみて」

「ブーツが欲しいな。最初は慣れないだろうけど、暖かいから悠子ちゃんも気に入ると思うし」


 ぶつぶつと私の服を選ぶ兄は本当に楽しそうで見ていて飽きない。私の少ないタンスの中身でよくここまで考え付くものだ。尊敬する。


「悠子ちゃん平気?疲れてない?」

「この位でへばったりしません。和泉さんは本当に服が好きなんですね」


「好きと言うよりある程度統一感がないと気になるんだ。体型とのバランスとか肌の色によっても似合う色って違うし。でも自分のより悠子ちゃんのコーディネート考える方が断然楽しいな」

「そうですか?私は服に興味がないんで正直考えるのが面倒です」


 制服だけで過ごせたらどんなに楽なことか。

 好きで私服校を選ぶ人の気が知れない。


「なら今度から外出する時は俺が服を選んでもいい?」

「あー、どうぞどうぞ」


 その方が時間も省けて気が楽だ。兄チョイスの服を着ている内に私のファッションセンスも多少は磨かれるだろう。腕を組んでベットに並べた服を吟味する兄を見て私は平凡な幸せに浸った。


















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