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妹ですみません  作者: 九重 木春
-ひとつ屋根の下にて-
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1 妹の当惑

「やっとテスト地獄が終わった……!!」

 期末テストの期間中、漫画断ちをしていた私は喜びを噛み締めていた。学校が終わると即効で帰宅し、早着替え。ダッフルコートにマフラー巻いて、白い息を吐きながら自転車で向かった先は本屋だ。今日買った漫画は一年に一度の発刊の為、待ちに待った発売日だった。


 にやにやしながら家の扉を開けると父が出迎えてくれた。いつもはビシッとキマッている父の服がくたびれている気がして思わず聞いてしまった。


「あの、お疲れですか?ゆっくりしてていいんですよ」

 父は仕事で海外に行くことが多く、家にいる時間が少ない。それでも優しい父は日本に帰って来ると外国の珍しい料理を作ってくれたり、一緒に出掛けてくれたりと家族サービスを怠らないイイ父親なのだ。家にいる時位、肩の力を抜いて休んで欲しい。こういう所が父と兄は似ていて気疲れしていないか心配になってしまう。


「大丈夫、今回は一ヶ月は日本にいれるから。それより今の内にしなきゃいけないことが沢山あるんだよね。ほら、クリスマスツリーも出したんだ。和泉が小さい頃に買ってしまったきりだったからちょっと埃かぶってるけど、箱の中は新品同様だよ。今年は家族水入らずでクリスマスが出来そうだから、楽しみだな」

 父の足元にはツリーとキラキラのオーナメントが沢山入った箱が置いてある。近寄って見てみるとツリーは組み立てると私と同じ位の身長になるようだ。立派なクリスマスツリーに私は少し感動してしまった。今まで母としていたクリスマスにはケーキはあってもクリスマスツリーは存在しなかったのである。


「あの家族水入らずってことはもしかして……」

「和泉も帰って来るよ」


 やっぱり、そうですか。

 夏休みの後も二週間に一度顔を見せるようになった兄は正直距離が近くて怖い。この前も兄が居間で私の愛読書である週刊雑誌を読んでいたものだから目を疑ってしまった。え、うそ、名前も知らないようなファッション雑誌とかじゃなくて?と目を擦ってみても結果は同じで、私の視線に気付いた兄は「この漫画面白いよね」と中でも私のお気に入りの作品を指差した。


 その時私の中に駆け巡ったのは同志としての喜びではなく、恐れだった。私の好きな漫画を知ってるだけだったらまだいい。そこからリア充の兄に私が腐女子であることが芋づる式にバレてしまうのではないかという恐怖!!


 他にも「抹茶プリン好きだよね」と教えた記憶の無い私の情報を入手していたり、苦手な数学と悪戦苦闘していると隣に座って私の耳を犯すように成績優秀な兄が勉強を教えてくれたりと、じわじわと確実に距離を詰めてくるのである。なのにクリスマスも帰って来るのか……、がくっと肩を落としていると父が私の肩を叩いた。


「追い打ちを掛けるようで悪いんだけど、たぶん和泉、悠子ちゃんからプレゼント貰えるのすごーく期待してるだろうから、何か準備しといてやってくれる?簡単なものでいいから」


「え、そ、そんな簡単なものって!?」

 兄に渡すという時点で既にハードモードだ。私が間髪入れずに聞き返すと父は、

「手作りお菓子とかでいいんじゃないかな。あいつこれといった趣味もないから実はプレゼントって難しいんだけどね。今年からはそうでもないかも」

とウィンクした父に私は首を傾げた。それは今年から兄が新しい趣味を見つけたということだろうか。父は基本親切だけれど、時々謎かけのような言葉を口にする。父はそういう言葉遊びを楽しんでいるようだが、まるで解らない私は少し面白くない。


「大丈夫、悠子ちゃんがくれるものならなーんでも喜ぶだろうから。気構えずに、ネ?」

 なら、プレゼントを用意しといてね、なんて言わないで欲しかった。私は恨みがましく父を見上げた。


「あぁ、あと言ってなかったことが」

「……なんですか」


 聞くのが怖い。

 それは予感だったのかもしれない。


「和泉、三学期からはこの家から学校に通うから」

「え?」

 頭が理解するのを拒絶した。


「悠子ちゃんのお兄さんは寮を出て、冬休みからこの家に住む事になります」

「え?」

 父の解りやすい解説にも私はめげなかった。


「だから今、和泉の部屋に置かせて貰ってた機材を移動してる所なんだよね」


 力無くした私は床に落とした新刊にも気付かず絶望した。


 何故、中学から寮生活をしていた兄が今年から、しかも中途半端な二学期に寮を出て我が家に帰って来るのか。実家に帰って来る兄を喜べない私はかなり薄情だろう。いい人なんですけどね、だからこそ疲れる。特に最近は兄の心配性が遺憾なく発揮され私は戸惑いを隠せない。その心配がくすぐったくて困っちゃうではなく、軟禁でもする気ですか?という意味での困っちゃうである。


「じょ、冗談じゃないんですね?」

「冗談だったら良かったのにね。止められなくてゴメンね」


 あいつの本気は断れないんだよ、と小さく笑った父は私よりつらそうで私はそれ以上何も聞けなかった。











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