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妹ですみません  作者: 九重 木春
-同居に到るまで-
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番外編1 友人の認識

 珍しいな、と思ったのが最初だった。友人が漫画を読んでいる所なんて同室のオレは一度も目撃したことがなかったのである。今時、漫画も読まない高校生なんて絶滅危惧種だろう。しかし友人の冴草和泉はその絶滅危惧種のひとりだった。中等部から四年の付き合いになるが彼は漫画だけならず娯楽というものがとても少ない。言い換えれば趣味といえるものがないのだ。


 和泉は生意気な妹曰く、植物園で優雅に紅茶を飲む美青年風の美形である。それはオレも認める。中学生にして元カノが百人いると言われても信じてしまいそうな程の美少年だったのだ。だから和泉に初めて会った時、コイツは女の敵だと思った。


 しかし話してみれば人当たりもいいし、色々高スペックな割に嫌みがない。共学であれば校内一のモテ男になれただろう。けれど忘れてはならない。ここは人里離れた男子校。簡単に彼女が作れるような環境ではない。


「ほんとこの学校は潤いがないよなぁ。ゲーセンに行くのだって一苦労だし、なんと言っても女の子がいない。女の子がいないんだぞ!!」

「二回も言わなくても聞こえてる」


「大事なことだから何回でも言いたい」

「貴士にとってつまらない学校でも女がいないってだけで俺にとっては天国だけどな。意外と寮がある男子校って少ないから貴重なんだぞ」


「えっ、お前ってもしかしてホ」

「違う、女が嫌いなだけだ」

 それ、どこが違うのよ。

 オレは思わず身の危険を感じた。いくら美形と言えども男はお断りだ。


「そうか、そうか、貴史そんなに俺の苦労が知りたいのか、特別に教えてやろう」

 和泉は怒る時でも笑顔だった。


 話は和泉の幼稚園時代から始まり小学校卒業までの出来事だったが内容が濃い濃い。幼児だった頃からモテモテだった和泉を幼稚園児が取り合うだけに止まらず保母さんや他のママさんまで参加してキャットファイトってどういうこと?父と離婚した継母に誘拐されたり、入院すれば看護婦に襲われ、常に痴漢ブザーが手放せないって普通じゃない。女って怖い。体がぶるりと震え上がった。


「女は感情的な生き物だ。理性を手放すと何をしでかすか解らない。それでいて被害妄想も甚だしい。自分の犯罪を認めず俺が悪いと責める。女に触られると鳥肌が立って吐き気も覚えるこの俺に誘惑されたなんて世迷言を口にする。女と目があっただけで運命だとストーカーされ、同性には妬まれてまともに友人一人作れなかった俺が女を嫌いになるのは当然だと思わないか?そうだろう?」


 オレは冷や汗を流しながらこくこくと頷くしかなかった。やばい、こいつが優しいヤツだと思って油断していた。オレは触れてはならない逆鱗に触れてしまったらしい。《女》は和泉にとっての敵であり、トラウマスイッチ。もう二度と押したくない。






 その和泉に変化が現れてきた。それは和泉の父親の三回目の再婚がきっかけだった。女嫌いの和泉に妹が出来たのだ。しかも三歳下の思春期真っ盛り。その情報だけで和泉は拒否反応を示していたのに顔合わせの後、寮に帰ってきた和泉が言ったのだ。


「新しい母親、今までにないタイプだった。

 妹もいいコで、……なんか俺には勿体ないかも」

 あの和泉が女を褒めた、だと!!それだけでオレは驚きだった。


「よ、良かったな」

 とりあえず一緒に喜んでやると和泉はこくんと頷いた。





 それからも驚きの連続で先月は《女》の住む実家へ和泉が帰省したのだ。この四年間一度も夏休みに実家に帰ったことのなかったあの和泉が!妹の好きなお菓子を手土産に!雑誌から飛び出てきたモデルの如く颯爽と寮から出て行ったのである。


 和泉から聞く限り妹ちゃんは家庭的な普通の女の子だった。ポストカード以外の写真もちらっと見せて貰ったけど、特に美人という訳でもなく、特徴をあげるなら髪が長いのと小学生のような身長位だろう。不細工とは言わないけど、和泉が可愛いと言う程プリティにも見えない。そんな妹に和泉は今夢中なのである。


 だから和泉が漫画を読んでるのを見てオレはピンと来た。これは妹ちゃんが関わっているに違いないと。


「その漫画、妹ちゃんが好きなの?」

「そうみたい。俺の前では遠慮して読んだりしてなかったんだけど、HDDに録画したアニメが沢山入ってて毎週予約がしてあったから。原作集めてみた」

 それは和泉にその漫画が好きだと知られたくなかったんじゃ……と思いつつ口には出さない。妹が好きだというだけで五十巻弱をポンと買う和泉には驚きを通り越して脱帽である。


「お前、ほんと妹ちゃん好きなのな。女嫌いのくせに」

「悠子ちゃんは家族であって《女》じゃないから。妹は兄が守ってあげるべきでしょう。大切に、大切にしてあげるんだ」


 とろけそうなほど甘い笑顔に俺は思わず目を逸らした。これは和泉の妹限定の笑みだ。オレなんぞが見ていい代物ではない。


 暇つぶしに俺も読もうかな、と思って積んである漫画に手を伸ばすと本の山の一番下に浴衣を着た女の写真が見えた。なんだこの薄い本は。もしかしてグラビアか、と思ってドキドキしながら引き抜いてみる。


 『浴衣の着付け入門~今時の素敵な着こなし教えます~』という期待はずれの本が出てきた。実はこれもエロ本の一種だったりするんだろうか、とめくってみると題名を裏切らない内容だった。熱心に漫画を読む和泉に間違って買ったのか聞いてみると首を振られた。


「悠子ちゃん浴衣は持ってるけど着付けが出来ないって言ってたから、覚えようと思って。俺が出来れば妃さんがいなくても浴衣が着れるし。来年の夏が楽しみだな」


 努力の方向が間違っているような気がしなくもない。年頃の女の子が男に着替えさせられる事を許容すると思ってんのか。美形なら許されるのか。いやらしい方向にしか想像が働かないオレの心の疚しさ故か。爽やかに笑う和泉を横目にオレは妹への認識の違いを考えさせられるのだった。
















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