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妹ですみません  作者: 九重 木春
-同居に到るまで-
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1 妹の困惑

「あなたのお兄さんになる和泉(いずみ)くんよ。挨拶なさい」

 170㎝はあるだろう身長の頂点を見上げて私は固まった。透けるような亜麻色の髪に、白目に影を落とす長い睫毛、整った鼻筋、薄めの唇は品のいい微笑を象っている。例えるならば物憂げな瞳で図書館の窓際に佇む中性的美青年の義兄に圧倒された私は挨拶も忘れて茫然としていた。


 更に追い討ちを掛けるように目の前の義兄なる人が小市民たる私にふわりと春の日溜まりのような笑顔を見せる。


 うっ、眩しすぎる。


 私のヒットポイントは今確実に半分まで削られた。脳裏では兜を被った謎の爺が『撤退じゃ撤退じゃ~!』と号令を掛けている。


「悠子っ」

 隣に立つ母の声で私はハッと我に返り、びしっと頭を下げた。

「賀村悠子(ゆうこ)です、よろしくお願い致します」

 とその瞬間、無情にも私の眼鏡が勢い余って玄関に落ちる。カシャンと落ちた眼鏡。その音にさぁ~っと血の気が引いた。


 何やってんの、わたし!せっかく噛まずに挨拶出来たのに、何ハンカチ落としてアピールするうざい女子みたいな真似してるんだよ!


「悠子ちゃん、顔上げて」

 顔を上げるタイミングを完全に見失っていた私は神の声を聞いて頭を上げた。


「うっかりさんなんだね。はい、メガネ」

 何故か兄は眼鏡を私の手に渡さず、直接私の耳に掛けた。尋常ならぬ至近距離攻撃にダメージを受けつつ、私は迅速に理想的な答えを導きだす。


「あ、りがとうございます」

「どういたしまして。こちらこそよろしくね、悠子ちゃん」


 よ、よろしくしなきゃならないんですよね。

 だって私たち、これから家族なんだもの。










「このきんぴら、(きさき)さんが作ったんですか」

「いいえ、悠子が作ったのよ」

「とても美味しいよ、悠子ちゃん」

「アリガトウゴザイマス」


「悠子ちゃんの髪は真っ黒で綺麗だね。俺の髪は色素が薄いから羨ましいな」

「アリガトウゴザイマス」


「こらこら、和泉。じろじろ見るのも失礼だぞ。セクハラだぞ。悠子ちゃんもゴメンね。コイツいつもはこうじゃないんだけど」

「緊張してるのよね?和泉くんも。悠子は二週間も前からぬか床準備してたもの」

「え!この漬物も悠子ちゃんが漬けたの!プロみたいだ、スゴいね」

「アリガトウゴザイマス」

 私の前で和やかな家族の会話が繰り広げられている。私の隣には母、母の前には義父、私の前には義兄が座っている。


 おい、母よ。今からでもいいから席替えを所望したい。

 父よ、空気を読んで察してくれまいか。

 そして兄よ、何故お主は私をべた褒めするのだ……。


 私がおだてれば木に登る猿とでも言いたい、のかい?


 その場の空気に堪えられなくなった時、父が兄に声を掛けて「少しだけ席を外すね」とテーブルから離れて行った。私はチャンスとばかり母に泣きついた。


「あの人が本当に私の兄になるの……?」

 母は呆れた顔でびびる私の顔を見ていた。


「怖じ気づいたの?」

「怖じ気づいたよ!」

 なんだよあのハイスペックボーイは!こちとらへっぽこガールなのにニコって笑ってきたよ。宣戦布告か!こっちは無条件降伏を宣言するよ。


「父さんはちょび髭でダンディーでいい人そうだったからいいけど、兄があんな人なんて聞いてないよ!」

「あら、正輝さんの事は気に入ってくれたのね、良かったわ。それと悠子、お兄さんになる人に向かってあんな人って言うのは失礼よ」


「次元が違うよ!あのお兄様は!絶対リア充だよ!私がオタクな腐女子なんてばれたら幻滅されるって!只でさえ母さんがよいしょするせいでハードル上げられてるのに!」


「そうねぇ、和泉くんに好印象を与えられたみたいで良かったじゃないの。それに私は真実しか言ってないわよ。料理が得意なんて素敵なお嬢さんじゃないの。男の子達がいちゃいちゃする漫画が大好きなんですって言っても良かったの?言わないで正解でしょ。和泉くんって女性が苦手みたいで……嫌われなくて安心したわ」


「っ!?何で母さんは私に兄に関しての諸々を教えてくれなかったのさ!?」

 そしたら私も色々対策を練って、心の準備をして、図書館にでも逃げたかもしれない。


「悠子にモデルさんみたいにカッコいい人が兄だって教えたら敵前逃亡する気がしてー、違った?」


 うむ、完全に読まれている。


「スポーツ万能成績優秀、性格穏やかなんて理想的なお兄さんなのに悠子は贅沢ねぇ」


 いえ、普通が一番です。


 冴草悠子(旧姓:賀村悠子)は十三歳の春、不相応な兄が出来ました。































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