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「あーあ、こりゃ完全に遅刻だねー」


 丁度自身の斜め上から射し込む日光に目を細めながら、銀髪の女性・シオンは静かにぼやいた。視線は青空の方へと向けられているが、両手は暇そうに、辞書のような分厚い白い表紙の本のページをパラパラと捲っては再び捲ってをくり返している。本日は快晴なり。

 そんな呑気な光景とは裏腹に、何やら彼女の後方からは呻き声のような物が耳に届いた。


「どーしよっかなー。もう間に合わないし、この際ガラに任せようかな。そーだなそーしよう」


 独り言をボソボソと呟きつつ、シオンは思い出したようにちらりと背後を見やる。

 物陰に隠れるように、そして何か白い紐のような物質で拘束されている、軽く十を超えた数の異形がもがいているのが見られた。昨日の千尋が見た黒い動物を象ったものもいれば、赤や緑、水色や黄色等、姿が朧気なカラフルで不安定な固体も見られる。そいつらが全てヴォイドと呼ばれる存在である事を、シオンは知っている。

 そいつらは必死にもがき拘束から逃れようと目論んでいるらしいが、拘束している白い紐以下略はびくともしない。ヴォイドは拘束した本人であろうシオンに対して、力無く睨み付けるだけだった。

 その群れを目で追い大雑把に数えた後に、シオンは呆れたように嘆息し、


「この異常を調べるって事も、勿論あるんだけどさー」


 パタン、と音を立てながら本を閉じる。

 刹那、白い紐は思いきり絞まり、ヴォイドの肉を抉り断つ。拘束されたヴォイドらは、血飛沫を撒き散らしながら次々と絶命していった。

 倒れ伏し、次いで蒸発するように消滅していくヴォイド。まるで最初からそこにいなかったかのように、やがてそこにはヴォイドの痕跡は跡形も無く消えた。


 しかし、それは終わりでもない。

 ヴォイドが消滅した付近から唐突に“空間”が裂けたのだった。瞼のように開いたそこからは、ただただ闇が広がるだけで何も見えない。さながら無しか見られないようなそこから、またもやわらわらとヴォイドが溢れ出て来るのだった。丁度先程絶命した、ヴォイドの数を補うように。

 うんざりしたような表情で、彼女は右耳に手を宛がいながら、


「……シオンより“DSI”へ。彼方町三丁目・Bポイントにて複数体のヴォイド発見。ランクはDからB」


 再び真っ白い本を捲り、


「殲滅を開始する」


 抑揚の無い声で、しかしはっきりと宣言した。



****



「……うわあ、かなりお疲れのようだね」

「いやそれはもう……」


 少女・永井千尋は自身の机に突っ伏していた。

 暖かい拍手に迎えられ自己紹介を終える事が出来たのは良いのだが、自分の席に案内されて座った瞬間に、それまで溜まっては抑えていた緊張がソレをきっかけに爆発し、思わず机に突っ伏してしまっていたのだった。

 ともあれ、良い雰囲気のクラスで良かったと千尋は安心した。後は近所の付き合いも深めていけたらなとも思う。引っ越し後で大切な事の一つだと千尋は判断している。


「あ、一時間目は現国ね。担当はカズキちゃんだからそんなに力まなくても大丈夫だよー」

「あ、良かったー」


 あうーと妙な声を出しながら返事してから、ふと思った。……誰と会話してるんだっけ。

 おそるおそる顔を上げる。気付けば千尋の左の座席で、少女がこちらを見てニカッと笑っていた。

 千尋が多少小柄な体型であるのもあるが、少女の身長はその辺の男子とあまり変わらない……要するに千尋より大きい。このクラスの女子と比べると比較的高い部類だろう。黒髪――というよりは暗い茶色と表現すべきか――で後頭部に纏められた、首の後ろまで伸びるポニーテールが印象的だった。

 そんな少女はやおら立ち上がりながら、何やら芝居掛かった立ち振舞いで続ける。


「で、アンタは誰だと思ってるでしょ?」

「え、えと」

「オーケーオーケー、言わなくても大丈夫。そう、何事もまずは自己紹介からだね」


 何だこの娘と千尋が軽く呆然とする中、不意に少女は手を差し出した。


「あたしは東雲梓。ヨロシクね、千尋」

「あ、よろしく……しののめ、さん?」

「あ、いーよいーよ梓で。あたしも千尋って呼ぶから」


 あははと笑いながら言う相手の態度に対して、馴れ馴れしいとまでは思わなかった。千尋から見れば悪い人じゃない、澄んだ目をしているから。この梓と名乗った少女は、ちょっと変わった娘なのだろう、きっと。と判断してみる。

 ……変わった人が多くないかこのクラス。


 何はさておき、千尋は差し出された手を握り、


「よろしく、梓」

「うんうん。困った事があったらあたしに言って。特にヴォイド関係なら、すぐに協力するから」

「あはは、ありがと」


 ブンブンと握った手を振りながら――正しくは振られながら――千尋は梓の言葉をふと反復した。聞き逃すのにはマズイ、結構重要な事を梓はさらっと言ってのけた気がするのだが。

 ……先程、梓の口から出た“ヴォイド”の単語。


「ヴォイド関係、て?」

「え? あ、そーか言ってないよね確かに。あたしさ、リアル・ウィザーズなんだ」

「……はい?」

「だからリアル・ウィザーズ。略してリアウィザ」


 梓のちょっとしたボケにも反応出来ず、千尋は思わず固まってしまった。同い年で……しかも女子が、リアル・ウィザーズ?

 覚えている限りの知識を引っ張ってみる。リアル・ウィザーズは“マギア”なるデバイスを使う事で、擬似的にマジシャンズと同じ力を使う事が出来る人の総称。マギアには適性があり使える人と使えない人がいて、適性検査を受けて全てパスする事がリアル・ウィザーズとなる条件。16歳以上から使用が可能だけれども、基本的に日が出ている間のヴォイドの討伐を義務付けられている。

 ……聞くだけでも解る、凄く危険な役割。


「あのさ千尋。一応言っとくけどね、案外女子でもリアウィザの子はいるよ?」

「嘘ッ!?」

「いやそんなおっかなびっくりされても」


 何やら梓は梓で千尋の反応に驚いている様子だったが、それを尻目に千尋は尚更混乱してしまっていた。こんな危険な役割に子供、しかも女子が担って問題は無いのか。というかここではソレが当たり前なのか。16歳から支給されると聞いていたけど、本当に持つ人がいたのか。そういえば昨日助けてくれた彼も、そう歳は変わらない気がしたけれど。

 千尋の様子を何と無く汲み取ったのか、梓は「ああ」と声を漏らして、


「大丈夫大丈夫、特にホントにヘマしなきゃ怪我はしないし、付き添いのマジシャンズの人もメッチャ強いし」

「でも……」

「それに」


 千尋の抗議は、ほぼ無理矢理止められる。梓から眼前に何かを突き出されていたからだ。

 じっくりと観察するまでも無く、何かの正体が解る……カード型デバイス・マギア。千尋が“おまもり”と称して持つソレとの差異は、千尋の物は白いラインが刻まれているのに対し、梓の物は黄色いラインが刻まれているという本当に些細なものだった。

 やおら梓はソレを持つ手を戻し、ヒラヒラと振りながら、


「一回傷付いただけで弱音吐く程、あたしは柔じゃないよ」


 ――不敵な笑みを浮かべた。

 何と無く察した。恐らく、梓にも彼女なりの思いがあって戦っているのだろうと。それを聞く術は千尋には無いが、彼女を止める理由も無い。

 曇りがちだった千尋の表情が、漸く明るさを取り戻してきた。納得とまではいかないが、彼女ならきっと大丈夫なのだろうという、根拠も何も無い結論で締める事と相成った。


「……似てるなあ」

「ん? 何が?」

「いや、こっちの話」


 ふと千尋の顔を見て呟いた梓。何の事だろうと思案してみるも、やはり初対面だからか、当然だが梓の事は何も知らない。けど、梓とならきっと仲良くなれる。互いの心の内を言い合えるような仲になりたい。ふと千尋はそう決めたのだった。

 ……思った所で、どうせならリアル・ウィザーズ、略してリアウィザである彼女に色々質問してみようと考えた。改めてヴォイド等の状況を思い知ったのが遅かったからとはいえ、今の千尋には情報が少なすぎる。一時間目を知らせるチャイムが鳴ったが、先生が来るまでなら問題無いだろう。


「あのさ、少し色々と質問しても良い?」

「あ、いーよいーよ。梓先生に何でも聞きなっさい」


 ……少し調子に乗りやすい質なのかもしれない。話し掛けてものの数分で、梓がどういう性格なのか解った気がした。解った気になった、の誤りかもしれないが。


「さっきのマギアの色、何か意味あるの?」

「……あ、そこから?」

「え」

「あ、ゴメン別に馬鹿にする気は無かったんだ」


 どうやらかなりの基本的事項らしい。早速墓穴を掘ってしまった。

 失笑されるるかと思いきや思いの外、梓はちょっと必死になって謝ってきた、というか現在進行形で謝っている。やっぱり根は凄く良い娘なんだなと、千尋は思わず柔らかい笑みを溢した。


「本当に何も知らなくってさ、知ってる限りで良いから色々と教えてほしいんだ」

「あ、うん。あたしで良ければ喜んで」


 喜んでとまで言って応じてくれた梓に深く感謝する。初めて会話するクラスメートが良い人で助かった。

 梓はガサゴソとノートと色ペンを取り出して、適当に開いたページにササッと書き込んでいた。千尋がその様子を眺める中、書き込みながら梓は語り出す。


「まずこの、色。これは使用する魔法の属性を表してるんだって」

「属性?」

「そ。炎・風・氷・雷の四種類。マギアの適性検査が通ったと同時に、自分と一番相性の良い属性が使えるんだって」

「あ、複数は使えないんだ」

「そこまで技術は進んでいないみたい。ちなみにあたしのは黄色だから、雷属性」

「……この属性には、何か意味があるの?」

「あるある。それぞれ強弱関係があってね、ヴォイドを討伐する時に凄く関わるんだ」


 ノートに描かれたイラスト、特に(のようなモノ)を強調しているのを見やりながら、千尋は少しずつ納得していった。マギアの色は属性を示しているとなると、他にあと三色あるのだろう。三竦みならぬ四竦みのようなものか。違うかもしれないが。

 ……しかしこれがヴォイドの討伐に関わるとは、よもやヴォイド自身にも属性、もしくはそれに関係する何かが存在するのだろうか。


「ヴォイドにも属性はあるよー」


 まるで心を読んだかのような梓の発言に、千尋は思わずビクッと身体を強張らせてしまった。何だ今のは読心術かナニかか。

 梓はクスクス笑いながら、


「だからさー、もしヴォイドが雷属性の苦手な氷属性だったらさ、苦戦確実でさー」

「え、それって大丈夫なの、怪我しない?」

「それを未然に防ぐ為に、リアウィザは基本フォーマンセル活動なんだ」

「……ふぉーまんせる?」

「要するに四人一組。ほら、どんな属性が相手でも適切に対処出来るでしょ」


 成る程、と声に出して納得する。どんなヴォイドが襲い掛かってきても、少なくともそれぞれの属性を持つ四人がいれば柔軟に対応出来るのだろう。恐らくこちら側の被害を最小限に抑える為の処置か、はたまた効率故か。

 彼女は基本四人一組と言っていたが、そうすると少なくとも他にリアウィザが三人もいる事になる。雷の彼女と、他三人。


「梓と組んでるグループって、誰がいるの?」

「ん? あ、そーだね。千尋の交流も深める為に紹介してこーか。おーい委員長」

「呼んだか」

「うわひぃッ!?」


 千尋の背後から、低い少年の声が唐突に聞こえた。あまりにも予想外の所から返事をしてくるとは思わず、千尋は素っ頓狂な声を上げてしまった。梓も梓で張本人が至近距離にいるとは思わず、暫し固まっていたのだが。

 少しして硬直から解けたものの、梓は若干要領を得ない様子だった。


「……あっれー? いつもなら読書に耽ってて席に着いてる筈なのに」

「ちょっと用があったから席を立ったら、急に呼ばれたから返事した訳だが」


 あっけらかんと言うその人は、千尋が恐る恐る振り返ってみると確かに少年だった。背は梓と同じか少し高いくらいか、短く切り揃えられた髪と彼が身に付けている黒ぶち眼鏡が、やけに真面目そうな印象を受けた。実際委員長と呼ばれていた程だから、やっぱり真面目なのかもしれない。千尋の先入観による判断でもあるが、きっとそうに違いない。

 ……なんだか睨むようにこちらを見てきていて、正直ちょっと怖かった。


「えーと……そうそう。千尋、彼がフォーマンセルの一人。委員長は風属性なんだよね?」

「ああ。旋風宏明だ。一応このクラスの学級委員長も務めている。宜しく、転校生……永井だったか?」

「は、はい。よろしくお願いします」


 何故だか解らないが、ついつい敬語になってしまう。

 まだ彼について解説しようと梓が口を開いたが、宏明こと委員長は「用があるから」と一蹴して、付き合う事は無く教室から出て行ってしまった。


「……なんだろ、あの人ちょっと怖かった」

「え? いやー委員長は確かに厳しいけど、思う程そんなに怖くないよ。大丈夫大丈夫」

「ずっと睨まれてた気がするんだけど」

「それはアレだね、単純に眼鏡の度が合ってないだけだ」

「え。そんな理由?」

「最近“眼鏡買い換えたいなー”とか言ってたしね。少なくとも初対面の相手を睨むような人じゃないよ、委員長は」


 取りあえず気に食わないから睨まれた訳じゃ無さそうなので、千尋は一先ず安心した。いきなり知らない人から因縁を付けられるのは真っ平御免だ。それは千尋以外も同じだろうが。

 しかし彼もリアウィザの一人と言っていたが、一目見れば“戦い”には縁の無さそうな人だった。何事も見た目で判断してはいけないとはこの事なのか。


「これであたしが雷、委員長が風ね」

「あとは炎と氷……」

「氷とは俺の事さッ!」

「うわひゃあ!?」


 またもや背後から、やけにテンションの高い少年の声が響く。まさか同じパターンで来るとは思わず、千尋は再び妙な声を上げながら反応してしまった。

 なんだ今度は一体誰だと内心呟きながら振り返ると、そこには先程の委員長とは真逆の少年が立っていた。というより相手が少年だと判断する前に、茶色に染めた上にワックスでハリネズミのように逆立たせた髪が先に目が入った。見た目からしてかなり派手だったので、ついつい凝視してしまう。

 早い話、この少年は真面目とは逆、チャラいという表現が正しいと判断出来る様相だ。制服もだらしない格好だったりと、千尋からすればあまり好印象とは言えない少年だった。


「やあ、待たせたね可愛い転校生」

「呼んでないから帰れ氷川」

「おいおい梓ちゃん!? いきなりそんな事言うのは流石に失礼だろ!? いくら俺が寛容でもキズは付くぜ!?」

「アンタは千尋には刺激が強すぎるの、というか懲りないねホント」

「え、ちょ……え?」


 ちょっと待て。

 ……まさか、彼もリアウィザなのだというのか?


「……凄く残念なんだけど、コイツもリアウィザなの」

「ヨロシク永井さん! 否、千尋ちゃん!」


 何故だか千尋の両手は、彼の掌に優しく包まれていた。

 なんだこの展開。


「俺がリアル・ウィザーズの一人、氷川啓輔。気軽に“啓輔くん♪”て呼んでくれ!」

「え、ヤです」

「いやちょっと待って即答!?」

「や、ホントすっごいグッジョブだよ千尋」


 千尋がすすすと少年・氷川啓輔から離れたのが信じられなかったのか、というかわりかしショックだったのか、啓輔はゆっくりと項垂れる。千尋には梓のサムズアップが凄く輝いて見えた。

 この啓輔という少年、チャラいというよりかプレイボーイである気がする。チャラくてプレイボーイとか質が悪いように思えるのは自分だけだろうかと、千尋は暫し思考した。しかし予想していたより悪い人じゃなさそうだ。こんな人がリアウィザなのかと、ぶっちゃけ未だに信じられなかったりするが。

 しかし気を取り直したように顔を上げ、


「……うん、そんなツンなトコにもますます気に入った。そう、俺は君に恋したぜHey!」

「ごめんなさい」

「またすっごい即答だね!?」


 騒がしいなこの人。初対面での印象が、別の意味で崩れつつある気がする。

 梓と二人で白けた目でじぃっと啓輔を見やる。流石にそれが効いたのか、彼は漸く観念したかのように両腕を上げた。


「解った、解った……今日は潔く退くとしよう。さあ、行くよ梓ちゃん」

「いってら。そして帰ってくるな」

「いや違うよ真面目な話! 先生も来ないしヒロも戻ってないし、流石に解るでしょ!?」

「……あ」


 梓も中々過激な発言を連発するなと千尋がぼんやり思っていた時、唐突に梓が慌ただしく懐から、黄色いラインの刻まれたカード・マギアを取り出す。やおらその黄色いラインが淡く輝くと、マギアの表面から水色のディスプレイのようなモノが投影された。何か文字だか地図のようなモノが映し出されているが、よく見えない。

 マギアってあんな機能もあるんだなと、案外多機能なソレに少し関心を持つ中、梓は啓輔の意図を理解したのか真面目な表情になり、いそいそとマギアを懐にしまう。


「ごめん千尋。今日はあたし達が当番なんだわ。ちょっと行ってくる」

「え? う、うん」


 当番……て、何だ?

 首を傾げながらの返事になってしまったが、相手は特に気にした様子も無く、梓と啓輔は教室から飛び出すかのように出て行った。

 ……と思ったら、唐突に梓が戻って来た。何故だか少し顔を引きつらせている。驚く千尋を尻目に梓はつかつかと歩みを進め、やがて目的らしき席の前で止まる。


 その席には、一人の少年が机に突っ伏して寝ていた。距離の関係で聞こえはしないが、見る限り寝息を立てているかもしれない、そこそこ深い眠りに入っている状態だ。


「起きろ」

「ふごっ」


 梓は予備動作を一切省いて、少年の後頭部を思いきり殴った。


「……いやいやいや」


 いきなりナニしてんですかあの娘は。

 思わず声を掛けようとした千尋だったが、それより一足早く、ごわごわとした茶髪をかきむしりながら、少年が気だるそうにむくりと立ち上がった所だった。


「……いきなりナニしてくれんだお前」


 まるで千尋の心の呟きを代弁したかのように、少年はゆっくりと口を開く。

 ……彼とは初見の筈だが、どういう事かその声には、千尋は聞き覚えがあった。それも一週間や二週間も前ではない、多分もっと最近……。


「アレだよアレ、アンタの好きなヤツが来たよ」

「少なくとも好きじゃねーよ」

「ほら急ぐよ。アンタだって思いきり拳振るいたいんじゃないの?」

「低血圧なんだから朝はマジで勘弁してくれ……」


 嫌々ながらも仕方なさそうに、少年は首をゆっくりと回す。やはりまだ眠いのか、大あくびをしているのが見られた。

 ……そうだ、やっぱりそうだ。見間違いじゃない、彼とは一度会っている。それも、昨日。


「行くよ達哉」

「へーい」


 やはりというべきか。

 振り返った彼のその顔は見紛う事の無い、昨日ヴォイドと遭遇した時に現れた、

 炎属性のプログレスを持つ少年その人だった。



今回紹介された属性なるものは、ファンタジー物でよく取り上げられる四大元素とはあえて一致させず、独自設定の四属性としました。

かつて書いていた二次で全く同じ属性を設定してたから、この際流用しちゃおう! というのが主な理由なのですが。

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