人を信じるのはいけないこと?
俺は何のために生きているのだろうか。死にたくて、死にたくてたまらない。このままいなくなったら、どんなに楽なのだろう。今までの人生をなかったことにしたい。君ならどうするだろうか。
月曜日の朝は酷く体が重い。これから一週間学校に行くと思うと気分がふさぐ。出来ることなら学校なんて辞めてしまいたい。重い足を一つ一つ持ち上げていく。
俺は高校一年生、全く取り柄がないと言っていいくらい何もない。成績は赤点ばかり。
授業中はひたすら空想をしているため、先生の話は聞いていない。常に日常生活は同じことの繰り返しである。差ほどの大きな問題が起きない限り、変わらない。
「おはよう、渡辺くん」
「ああ…おはよう…」
同じクラスの笹本さんは何故だか、いつも毎朝挨拶をしてくる。誰に対しても優しい為、実は八方美人なのではないかと疑ってしまう。
ようやく苦痛な日常から一時的に解放される!!
帰りの支度を済ませ、帰ろうとした時、背後から話しかけられた。
「おい、渡辺。お前に話があんだけど」
「何」
「笹本が体育館倉庫に来てください、待ってますって言ってたんだけど。もしかして告白じゃね?」
告白?まさか。大して話したことないのに。
ところが、体育館に着いてみると誰もいない。体育館倉庫だけが点灯されていた。様子をうかがいながら、倉庫に入ってみたが誰もいない。
「誰もいないじゃないか」
「――――!」
ドアがいきなりバタン!と閉まり、同時に明かりが消えた。
「マジ騙されてやんの」
「普通、引っかからないでしょー」
「笹本のこと好きなんじゃね?」
外からざわざわ話し声が聞こえてきた。俺に話しかけてきた奴とグルだったらしい。
騙されたのか――
「こいつ友達いなさそうだよな」
「いなさそうなんじゃなくて、いないんだよ」
やめろ。
「何で学校来てんの?お前の居場所はねぇんだよ。」
「その前に何で生きてんのかだろ?必要のない人間は死ねばいいのに」
「さっさと消えろよ。笹本に近づくな。もし近づいたら、ただではすまさないからな」
もう嫌だ。消えていなくなりたい。何でこんな目に合わなきゃならないんだ。俺が何をしたというんだ。普通に生きていて何が悪いんだ。神様は人間に同じ試練を与えると言うけれど、こんなに不平等だと思ったことがない。
俺の日常は壊れていく。
さてどうしようか。
体育館倉庫に閉じ込められてしまった俺はどうやってここから抜け出そうか考えていた。
①誰かが助けがくるのを待つ
②自力でここから抜け出す
③諦めて寝る
④秘密の抜け穴があるかもしれない
①と④はあるわけがない。わざわざ体育館倉庫に来る人などいない滅多にいない。④は言うまでもない。残るは②と③だが、俺の中では早くも諦めてしまっている。面倒くさいし、頑張れるほどのやる気もないからだ。このまま寝てしまえば、朝になって扉も開くだろう。
「ガサッ」
「!」
何だ今の音は…人がいるとても言うのか。しかし、後ろを振り返っても誰もいない。気のせいか…?
体育館倉庫の中は静かすぎて妙に気持ちが悪い。風が吹いてきたのだろうかと外を見ても、木々が揺れている様子はない。
ドンドンドン!
まただ!やっぱり誰かいるのか。
「誰か助けて下さい!」
今度ははっきりと声が聞こえた為、声の聞こえる方に行ってみるとその声は跳び箱の中から聞こえていた。
恐る恐る一番上の跳び箱を持ちあげ、二つ目…三つ目…五つ目と跳び箱をどかしていった。
「すみません、助けて下さってありがとうございます。誰かが助けてくれるなんて思ってもみなかったです。神様っているんですね」
すると跳び箱から女の子が外へ出てきた。彼女は少し声が高く、背の低い色白い少女だった。髪の毛は腰の長さまであり、二つ縛りをしていた。また礼儀正しく、いかにも騙されやすそうな雰囲気を醸し出していた。
「⑤だったのか…」
「?」
「いやこっちの話。ところで、こんなところで何してたの?」
「かくれんぼをしてるんです。なかなか誰も見つけて貰えないんで、隠れる場所を捜そうと思ってたんですよ。跳び箱の中に入ったのはいいですが、出られなくなってしまって困ってたんです。本当に助かりました」
今時、かくれんぼをする高校生なんているかよ。しかも現在進行形ってまだ、かくれんぼしてると思ってるのか。普通騙されていると気がつくだろ。
「ありがとうございます。それでは次の隠れ場所を捜さなきゃいけないので」
待て待て。いくらなんでも引き留めざるを得なかった。
「本気でかくれんぼしてるとでも思ってるか?」
彼女は何の疑いもなく「はい、もちろんですよ」とにこやかに笑った。
「高校生でかくれんぼする人がいるわけないだろ。騙されてんだよ」
「騙されているですか?」
「それに捜す場所はないぞ。何しろここから出られないからな」
「どうしてですか?」
「倉くん、今日もありがとう」
彼女は元気がなさそうに言う。
「家ではいいが、外で『くん』付けはやめろ」
「どうして?」
「そりゃあ、そんなことはどうでもいいんだよ。そんなことより腹減った。昼からなんも食ってねぇ」
彼女は不安と罪悪感を感じていた。自分の行為が周りに迷惑をかけているのではないかと、手を煩わせてしまっている。かくれんぼをしている際も本当は騙されていることをうすうす感じていた。でも、もしかしたら自分のことを見つけてくれるかもしれない。そう信じていたからだ。
人を信じることはいけないことなのかな。
俺は二度とあんな目には遭いたくない。人を信用しても碌なことがないことを実感した。
そういえばあの子の名前なんていうのだろう。俺と同じ同学年だろうか。
手紙を見た途端、俺は笑いながら「本当馬鹿だろ」と内心思いつつ、心の中はとても嬉しく思った。
「こんな人もいるんだな」
その手紙には一言
『今度かくれんぼしませんか?』と書かれていた。
「鍵がかかってて出られないから。これはもう、一晩ここに泊るしかないな」
「それなら大丈夫ですよ。私、以前にもかくれんぼしたことがあって出られなくなったことがあるんです。でも、この通信機のおかげで出られることができました」
……今日だけじゃなかったのかよ。少しは学習能力身につけろよ。
「倉くんが持っておくように言われたので、いつも持ち歩いているんです。結構便利なんですよ。よく迷子になったりするので、私には必需品ですね」
便利すぎじゃないか!通信機を持っている人なんて、警察官や自衛隊くらいだ。持たされているということは、それほど心配されているんだろうな。それにしても本当に助かった。一晩ここで泊る羽目になっていたのだから。
「助かった、ありがとう」
「いえいえ、私も助けられた身ですから」
2時間後にようやく倉庫から出ることができ、その頃には外は真っ暗になっていた。
「倉くん、ごめんね。かくれんぼをしてたんだけど、出られなくなっちゃって…」
「慣れてる。それよりお前こいつに手出さなかっただろうな?」
彼女のお兄さんと思われる人が話しかけてきた。身長は175センチほどで普通男性の並み程度、そして髪の毛を長く金髪に染め、耳には何個ものピアスをつけていた。まるでホストクラブで働いているような。
「はい?」
「手をださなかったのか聞いてんだよ。さっさと答えろ」
「いえ、そんなことはしていません」
兄からしたら妹のことを心配する気持ちはわかるが、口調が悪い。上から目線といい、偉そうな口調ぶりは気に障る。もう少し言い方というものがあると思う。
「あ、あのね、私が跳び箱の中から出られなくなっていたら助けてくれたんだよ。」
彼女が弁明してくれたおかげで何とか絡まれずに済んだ。
「そうか。さっさと帰るぞ」
「うん、あ、ちょっと待って」
彼女は俺の方へ来て、俺の掌に紙の切りはしを渡してきた。
そして一言「ありがとうございます」と言って帰っていった。
昔に書いたお話しのようです。
すっかり忘れていました。
小説を書くのは初めてじゃなかったです。