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解決編 file.3

「まずは小鳥遊薫子さん。

 凶器のリボルバーを息子の青磁くんが持っていることを知れる人物として濃厚です。

 しかし彼女は、プリザーブドフラワーを別荘に持ち込み、ねこ助さんにも贈った人物であることから、誰よりもこの花の特性を理解しています。さらに言えば、計画変更後の標的である青磁くんは、彼女の息子でもあります。二回目の往復時にエアコンを暖房に切り替え、藍色の花を青色に変色させようなどと思うわけがありません。しかも彼女はねこ助さんが暖房を付けないことを確実に知っています。犯人像とは最も遠い人物と言えるでしょう。

 次に神藤理兎子さん。

 彼女は薫子さんの友人でありますが、花への興味は全くなく、ねこ助さんと全く同じ藍色のプリザーブドフラワーを薫子さんから贈られたことも忘れていました。酒宴のときも、変色を知らなかったと答えています。しかし、酒宴の後片付けをしていたときに、ねこ助さんの家の花は変色しないことを薫子さんから聞いています。やや眠かったようですが、会話をしている時点で内容は頭に入っていたことでしょう。よって彼女は二回目の往復時にエアコンを暖房にする理由がなく、犯人ではありません。

 次に小鳥遊青滋くん。

 彼が藍色の花が変色すると勘違いしていたかどうかは、分かっていません。しかし暖房を付けたことから犯人が青色に変色させようとしたことは明白で、彼が犯人ならば、自らを示す青色に変色させようと計画するのは有り得ません。

 それゆえ彼が犯人だと仮定すると、犯行心理におかしな点があります。ダイイング・メッセージの偽装工作は二回行われていました。一回目は犯行時に藍色の花、二回目は未明の往復時に青色の花へ変化させようと犯人は暖房を付けました。青磁君が談話室で花の特性を聞いたとは考えられません。瑞姫ちゃんがドア越しにいましたからね。つまり彼が犯人ならば、最初から花の特性を知っていたことになりますが、それならば暖房を付けるとしても犯行時に、冷房を二回目に付けるのではないでしょうか。

 また、リボルバーが盗まれたことは裏を掻いたとも考えられますが、彼は去年、一度この凶器で発砲したことがあると告白しました。音の大きさは彼が一番良く知っているはずであり、実際に金属音が別荘に届いたことと、無意味な枕の消音をしたことも合わせて、彼が犯人ならリボルバーを凶器には選らばないでしょう。この二点の理由から、彼は犯人像からほど遠いと言えます。

 次に馬場鎌三さん。

 彼は酒宴に参加し、片付けのときにはいなかった人物です。翌日に藍染さんに変色の知識を自慢しようとしていたことからも、藍色のプリザーブドフラワーが変色すると思い込んでいたであろう一人であります。とはいえ彼は、夕食時から酒宴の終盤までねこ助さんを酒宴に誘おうと躍起になっていました。犯人ならば死体の発見は少しでも遅らせたいのが心理ではないでしょうか。

 彼にはあと二つ、理由があります。一つは最初の計画である藍色の花の偽装です。馬場さんは瑛佑さんと格闘してでも、息子の藍染さんを守ろうと必死でした。そんな彼が、計画を変更したとはいえ、息子を偽の犯人に仕立て上げるとは思えません。

 もう一つは金属音の証言です。犯行時刻は前述した通り、金属音のした時刻で確定しています。そして彼は、瑞姫ちゃんよりも先に金属音が聞こえたと発言しました。犯人なら、犯行時刻を確定させることを言うはずがありません。よってこれら諸々の理由により、彼は犯人ではありません。

 次に小鳥遊瑛佑さん。

 彼も酒宴に参加し、片付けのときにはいなかった人物です。馬場さんと同様に、藍色のプリザーブドフラワーが変色すると思い込んでいたであろう一人です。リボルバーが凶器に使用されたことも、家族である青磁君や彼のトランクに接する機会が多かったであろうことから、容疑者としての疑いは濃厚になります。

 しかし彼が犯人の場合、薫子さんと同じで、青色の花は息子を偽の犯人に仕立て上げてしまいます。そして家族の証言とはいえ、二回目の往復の時間帯に薫子さんがアリバイを主張しています。瑛佑さんと薫子さん夫妻が共犯関係にないことは、この事件が単独犯であることで証明済みです。そして彼も妻の薫子さんと同様に、ねこ助さんが暖房を付けないことを知っていました。また、鎌三さんよりは控え目でしたが、ねこ助さんを酒宴に誘おうとしていたことは犯人の心理と矛盾します。

 よって、彼も犯人ではありません。

 次に馬場藍染さん。

 彼は酒宴は途中退場して就寝したはずですが、今日の十一時頃、馬場社長とのやり取りで、彼が花の色が変わることを知っていると判明しました。具体的には半年前に、一階の廊下に置いてあるプリザーブドフラワーと同様の、深緑色から黄緑色に変わる花を薫子さんから貰っていたそうです。つまりこれまでに僕が挙げた数名と同じように、藍色のプリザーブドフラワーも変色すると思い込んでいた可能性は十分にあります。

 しかし、彼が犯人だとすると、説明の難しい犯行心理が生まれてしまいます。再三になりますが、なぜ二回目の往復時に暖房を付けたのか、です。青磁くんと似た除外理由ですね。これまでに明かされた犯人像では、偽の犯人を藍色の花による藍染さんから、青色の花による青磁くんに変更しています。以前から花の特性を知る彼が犯人ならば、犯行時にそれを行えばよく、二回目に暖房に切り替える必要はありません。二回目の往復理由が、忘れ物や手掛かりの隠蔽であっても、犯行時から暖房にしなかった理由にはなりません。死亡推定時刻を曖昧にする計画だったとしても、犯行時に冷房にして推定時刻を均すことは、元からの計画にしては杜撰だと言えます。これらのことから、彼も犯人ではありません。

 最後に小鳥遊瑞姫ちゃん。

 彼女が犯人だとは感情的にも考えにくいですが、一応。理由は神藤さんと同じで、酒宴の片付けのときに居たことです。つまり藍色のプリザーブドフラワーが変色しないことを聞いていたからです。今更ですが、酒宴の終わりから解散まで、別の誰かが盗み聞いてはいなかったことは話の流れで証明出来ます。さて、中学生だから論理的な行動が必ずしも取れるとは思えない――、兄の青磁とはそんなに仲が良くなさそうだった――。そういう意見が出るのなら、もう一つのシンプルな理由を話しましょう。犯人は当初の計画では、藍染くんを犯人にしようとしていました。彼女が犯人なら、好意を持っている藍染くんを犯人にしようとはしないはずです。これなら、彼女が中学生だろうと小学生だろうと、成り立つと思いませんか? よって、彼女も犯人ではありません」

 わたしは全身の肌が粟立ち、顔が火照るのを感じた。

「確かにそうね」

 神藤女医が小さく笑む。目聡い彼女には気付かれていたのかと思ったら、他の人達もほぼ同じような反応を見せていた。

 ああもう、穴があったら入って冬眠したい。

 ……あれ。森岡くんの推理だと、残っているのはあと一人しかいないことになる。

 当然のように、森岡くんはその話をした。

「僕は僕が犯人ではないことを知っていますし、客観的な証拠や証言をから、僕が犯人ではないことは証明できます。ただ、それを自分自身でしてしまうと、あらぬ疑いを持たれそうです。出来ることなら、僕以外の方から僕が犯人でない理由を挙げてもらえれば、同様に疑いは晴れるのですが」

 そうは言われても、ここまで森岡くんが述べてきたような合理的に思える除外理由を言える人はいるのだろうか。

 すると神藤女医が厳かに、「私が話しましょう」とそれを引き受けた。

「森岡君は偶然この島に流れ着いた人物であり、私達とは縁もゆかりもない他人、と失礼ながら言わせていただきます。当然のことながら、ねこ助さんとも初対面だったでしょう。そして漂着時には所々に怪我を負い、意識不明だったことは、介抱をした私が確かめています。とはいえそれらが、全て以前から恨みを抱いていたねこ助さんに近づくための大掛かりな演技だという可能性は、否めません。死人に口なしですので」

「そこまで疑いますか……」と託したはずの森岡くんは苦笑気味だった。

 女医はあくまでも真剣に、

「銃の所在も、実は親密だったねこ助さんから聞いていれば、隠し場所の見当を付けられます。

 しかし……彼が犯人ではないと言える理由が一つだけあります。瑞姫ちゃんが見た人影の証言では、「()()()()()()()()()()()()()()()」と言っていました。森岡君が右腕の骨折を偽ってはおらず、実際に骨折していることは私が保証します。つまり、両腕でオールを漕ぐことの出来ない森岡君は犯人ではありません」

 父が鹿爪らしい表情で手を挙げた。

「そのオールの件も、偽装の線を追うことは出来ないんですか? 夜は輪郭さえ朧気という話なので、手元も見えないはずです。オールの持ち手を紐などでしっかりと結び、片腕で漕ぐことは不可能ではないと思えますが。……少年から随分と細かな理屈を聞かされましたからね。重箱の隅をつつくような発言であることはご理解頂きたい」

「構いません」

 と、神藤女医は凛とした佇まいで答える。

「小島までの往復路は、ご存じの通り廊下の窓から斜めに覗かなければ見えません。さらには未明の時間帯には輪郭さえ曖昧な姿です。それを見られることまで考慮して、森岡君が両手で漕いでいるように見せ掛ける偽装を行うでしょうか」

「……なるほど。しないでしょうね」

 父は納得したように引き下がった。

 森岡くんは場が静まり返ったことを確認すると、おもむろに立ち上がった。

「さて、僕も犯人候補から除外されたことで、いよいよ容疑者がいなくなってしまいました」

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