エピソード7 酷使されていた大王の聖王女 その1
ーさて、次はどなたのお話を聞かせてもらおうかな。
聖タバタの目が自然とクラリスと同じソファの端に座っている年若い聖巫女を捕らえた。
ー彼女にしようかな。彼女はどなた?
南の海洋王国サザランドの大王の娘です。ま、娘と言っても養女ですけど。サザランドはこの聖教国の南側に位置していますが、大陸にある土地はほんの僅かで、領地の殆どが海に点在する多くの島々から成る合衆国で、光属性の女児、聖巫女が誕生した島が次の女児が生まれるまでの首都になり、その島を治める王がサザランド合衆国の大王となる、そういう決まりだそうです。
各島々独自の文化や言い伝えを大切にしていて独自のルールで統治されていて、大王が取り扱うのは大陸各国との外交と貿易、各島間調整などを行うのみ。宗教一切、聖女関連や聖教国関係などは大王家はノータッチで、聖教国とのやり取りもありません。
何せサザランドには聖教会はあれど直轄支部は無く、かつての聖女に指名されたというフエンテ一族がサザ聖神殿として聖女関係を仕切り聖教国との調整一切を取り仕切ることになっているのですから。
聖教国とは一年毎交互に使節団が行き来していて、取り分け仲が悪いと言うわけではないのですが、サザ独自の信仰として、かつての聖女が祈ったことで涌き出た清水の泉を大切にご神体としていて、その泉に魔石を浸けておき、そこに聖巫女が光魔法をかけることで泉が聖水となりその結果聖魔石となるのです。
この聖なる泉を守り、聖巫女を守護するのが代々フエンテ一族なのです。
そしてサザランド王国において聖巫女はみなフエンテ一族へと嫁ぎ、その聖巫女の子を、先ずは大王家の嫡子とし次の子をフエンテ族へと。
そうやって長く聖巫女の血を繋いできたのでフエンテ族の者は魔力が多く、その結果教会の支部はなくとも聖教国へと渡った神官はその後何人も聖教国教皇となり。フエンテ一族は現在では聖教における名家なのです。
ーへえ、サザランドでは政教分離してるんだ、面白い。まあ、彼女の話を聞かせてもらおう。
「サザランド合衆国の大王の娘、マルシア王女、あなたについて教えてもらえる?」
聖タバタがマルシアにそう声をかけた。
「聖女さま、仰せのままに」
マルシアは一度目をあわせた、目を閉じて祈りの姿勢をとった。
艶やかな濃い茶の髪にヘーゼルナッツ色にグリーンの虹彩が入った綺麗な目の少女だった。
聖タバタから緑の光が触手のようにマルシアへと伸び彼女の額に触れると、マルシアを黄緑の光が薄膜のように覆った。
ーマルシア、聞こえる?あなたについて知りたいの。その為にあなたの心を見せてもらえる?あなたの希望を聞かせてもらえる?
マルシアの脳裏に黒髪のメガネ姿の女性が浮かび、真剣な眼差しでそう聞いた。
はい、聖女さま。どうぞ私の全てをご覧ください。ただ、私は大王の娘と言っても、出は平民でたまたま光属性であった為慣習に基づいて大王の養女として聖教国の修道院へと送られただけで、とてもクラリス様のような生まれながらの貴族様という訳ではありません。
ですから、クラリス様のような深く国の政を憂う気持ちも持っていません。申し訳ありません。
マルシアの心の声を聞きながら、聖タバタは目の前で固く目を瞑り祈りながらも小刻みに震えているマルシアを目にして、哀しい気持ちになるのだった。
ーあなたも聖教国で生育されている間に随分自己肯定感を削られてしまったのですね、マルシア大丈夫ですよ。あなたは巫女に選ばれただけで、国を憂うのは大王や各島の王たち、それから長く神殿をしきってきたフエンテ一族であって、あなたがそれを行う立場に無いのですから、気にすることなど無いのです。
あ、あら?あなた、何かの枷を嵌められているわ、この術式はあなたの意識を縛って術者に従わせるもの。こんなもので人格を歪めるなんて、かつての聖女さまがお許しになっても現在の聖女の私は赦しませんよ。こんなもの、壊れてしまいなさい。
ガチャリと重い鍵が開いたような音がマルシアの脳裏に響いた。
すると、マルシアは重くのし掛かられていたような重圧が消え身体が軽くなったようだった。
ーではマルシアの記憶を見せてもらうわね。
マルシアを包む黄緑の光がいっそう強くなって、一度パッと大きく輝いたのだった。




