エピソード6 嘲笑の聖王妃 救済と断罪 後編
クラリスが王太子妃から王妃になった下りが無かったのでエピソード4、5、6を訂正しました。申し訳ありませんでした。
「前国王、なぜその者たちを娶った?二人とも、と言うか、王宮にいる愛妾たちも皆、魔力値のない女しか居ない。それでは魔力の多い、強い子は産まれない。王としての責務をどう考えている?」
クラリスが抑揚の無い冷たい声で詰問すると、前国王はフンっと鼻を鳴らして
「簡単だ、魔力の多い女が嫌いなんだよ。我が強いのだから、女は可愛げがあれば良い。父もそう言っていたし、祖父もそう言っていた、それに従っただけさ、グエっ」
前国王の顔が床にめり込む程の強い圧がかかり、潰される蛙のような唸り声が上がった。
「ハーパー公爵、そのことを知っていてなぜ奉納魔石を王家に売ってまで利益を得ていたのか説明をしなさい」
クラリスが広間にいる父公爵に問うと、膝を突いた姿勢ながら父は背を伸ばしてはっきりとした声で答えるのだった。
「王家に嫁いだ曾祖母は、二人の王子を産み弟王子を連れて公爵家に帰って来た。
その時の王に、魔力無しの『真実の愛』と宣う愛人が側妃として入内してきて、贅沢三昧をしては王共々惚けて仕事を押し付けるのが許せないからと曾祖母は家族に話したらしい。
王家に嫁ぐには魔力の多い者しか嫁げないと言う規定を破るために、態々北方聖教会とは別の国教会なる組織まで創ってと入念に偽装工作までした王を許せないと。
祖母はハーパー公爵家が北方聖教会を保護し、何れ偽りの王家と我が家が入れ替わりちゃんと統治するようにと遺言を残した。
だから、我らは王家から得た金を北方聖教会へと還流して、その金で聖騎士団の創設や魔力があるが爵位の低い者の保護をして来るべく時に備えた。そうじゃなければ、魔力の有る者に王命を乱発して王宮に囲い、奉納する魔石に魔力を注ぐだけの奴隷として貴重な者達が使われ続けてしまうから。
お前の産みの母がそうだった。元王女のあれも魔力無しだ、国教会での魔力測定の後突然王家の影に秘密裏に拐われ、家族には王女付きの侍女とすると王命を出したが、実際は王女の魔力代わりの奴隷であった。
だから、私と王女との婚姻に託つけて、一緒にハーパー公爵家に侍女として連れて来させてやっと保護したのに、思わぬ茶々が入って、お前を産ませる羽目になってしまったのは、私の不徳の致すところだ」
父が顔を歪めて吐き捨てるように言った。
「それはどういう意味?」
クラリスは問いながら、指を振って父の周りの重力の重りを取り払った。
父公爵は、立ち上がると、姿勢を正してクラリスに頭を下げ、
「私と彼女の子ならば魔力が強い子が産まれるからと、新たな奴隷を置き土産にしろと言う王家の意向だった。だが断固拒否して唯一無二の後継者だと告げた。
諦めの悪い前国王が妹の我が妻の付き人として影を何人も公爵邸へと入れ拐おうと目論んでいた。
だから、王家の息のかかった者が跋扈する本邸から隠すように信用のおける者煮任せて離れに置いて、7つに成や否や北方聖教会での魔力判定を経てやっとのことで、聖教国へと逃がしたのだから。
還俗の知らせに遅れを取って、お前を王家に奪われてしまった時には自分の迂闊さを恨んだものだ。
クラリス、いや、不敬であった。国王陛下、ハーパー公爵家一門はクラリス国王を支持致します」
そうして、紳士の礼を取ったのだった。
その声に、他の貴族たちも声を上げ、
「クラリス国王陛下万歳」
と言う、声が広間に広がった。
そんな中、
「クラリス!お前は私を愛しているんだろう?強がりはよせ。もう側妃など別れる。私にはお前だけだ。お前だけをこれから一生愛し続けると誓おう。
こんな王族などと言う煩わしい血脈の枷などから解き放って、お前の気持ちのままに、私をこのままお前の伴侶としても誰にも文句を言わせない。何せ愛し合う我々の愛の確認行為の結果である、可愛い子供たちが三人もいるんだからな!」
アレンが媚びた笑顔を必死に張り付けて、声の限り這いつくばった格好のまま叫んだ。
「止めてー!止めてよ、気色悪い!私、お前など一度なりとも愛した覚えは無い!
確か『立場を弁えろ』だったかしら?お前が初夜に私に言い放ったその言葉をそのまま返すわ。
お前を愛することは今後一切絶対に、何があってもあり得ない!!
お前は私の子供に興味も無かったし、愛の確認行為の結果などでは無い!何せあれはお前が勝手にちゃちゃっと何か動いて残ったのは不快な違和感だけ。お前には愛も感動も思い出も、私には一切無い、何にも無い、全く無い、1ミリも無いから!気持ち悪い!」
アレンの声に食い気味に、ビシッと人差し指を指差して、今まで出したことの無いような、勘高い大きな声で、強く、強く、しっかりきっぱりと否定した。
その声にアレンは顎が外れるほど大きく口を開け、言葉を失い驚愕していた。
クラリスが修行部屋で読み耽った聖女教典の中には、R18指定と書いてある分野も取り揃えられていて、それによってアレンの事柄をとっても深く理解したのである。
この会話中のアレンを見る目には、嫌悪感がありありと乗せられていた。
アレンはクラリスから目を逸らして、キツく唇を噛み締めたのだった。
国王アレンと側妃やその生んだ王女たち、前国王とそ前王妃やその愛人たち、それに連なる王族や外戚の貴族たちは聖騎士団によって捕縛され、その後教会審判によって深海の森追放という厳しい処罰を受けることになった。
王家のお抱え国教会の関係者たちも同じように処理され、ノースランド王国から皆追い出された。
その後、誰一人として行方がわかった者は居なかった。
北方聖教会による魔力判定によって、貴族の各家ごとも多くのいざこざが生まれ、その結果潰れる家がかなり出た。その過程で、勿論、女性にも庶子にも相続を認めた。
それでも継ぐ者の居なかった領地は、王家と北方聖教会の預かりとして、魔力の多い者、見所のある騎士や文官神官から出自を問わず働きによって評価し、時間をかけて叙爵し領主を増やしていった。
改革を進める途中で、聖女教典にあったような、クラリスを信愛する騎士と出会ったり、その関係を深めて良いのかと思い悩んだクラリスが夜な夜な王宮の庭を走り込みしたり、ラッキーハプニングによって想いが通じてあい、王配となった夫に蕩けるような溺愛をされたり、といったラブロマンスも経験した。
統治が落ち着いてきた頃、王宮に魔法研究所を設けて魔道具の製作や魔術の研究を積極的に押し進めて深化させ、井戸や川の浄化、大気の浄化に魔物の退治など、王国の瘴気に関わる問題を少しづつ自分たちの手で模索し解決に導いていくことになるのだが、それにはクラリスの子孫たちの時間も含めた長い長い年月を必要としたのだった。
さて、時間は戻って、クラリスが消えて戻って来るまで僅か3時間ほど。
ーメグ様、修行部屋ってそんな短い時間で良いんですか?
タバタが心の中で問いかけると、
ーええ、聖女教典が言うには、時間の流れが違うから1日で1年分の時間が過ぎるそうで、3時間で45日ほど経過することになるんだよね。更に少しだけ、重力の付加もかけているから、温泉につかったり、岩盤浴で汗をかいたり、聖女教典を読んだりしているだけで、体力と筋力がつく特典付き!聖女教典にはドアマットヒロインのざまあをたくさん揃えてあるから、それを読むことで、気力も精神力も鍛えられるのよ。まあ結局、悩んだら走れ、困ったらスクワットってことだよね。
ーメグ様の言ういつもの標語?は、私にはちょっとわからないですけど、修行部屋には私もとっても行きたいです。
ーそうね、その内ね。
こうして、心身の修行したクラリス改め聖クラリスによって、ノースランド王国の建国以来止められていた時計の針がゆっくりと動き出したのだった。




