エピソード5 嘲笑の聖王妃 救済と断罪 前編
ークラリス、あなたの願いを聞きました。その願いを叶える為に、必要なことをあなたに授けましょう。
あなたに、と言うかここにいる皆は、幼少期から清貧であれと教会の教義を押し付けられ、人格を無視され続けて、自己肯定感が著しく低くされて自己犠牲を無自覚に強制されている。
その結果、クラリスは何の説明もなく今まで誰かの命令に従って来て、自分の感情すら持たないようにされてきた、この状態は異常です、それはわかる?
「はい。なぜと思っても口にも出せず我慢する内になぜとも考えなくなっていった事はわかりますから」
ーそう、それは子供を産んだ後、少なくともハーパー公爵の支援によって環境が整ったから感じたのでしょ?その時どう思った?
「子供を産んだことで初めて自分が人として存在していると認められた、そう思いました。そう思った時喜びより、なぜ今までは存在を無視されなければならなかったのかと悲しくも思いました」
ーそう、そこで感情が芽生えたのね。わかりました。あなたの希望が叶う為には、ズバリ、圧倒的に気力体力筋肉が足りません。なので、あなたはこれから私が与える場所で修行を行いなさい。そうすれば自ずと悩みは解消し願いは叶うでしょう。
「しゅ、修行、ですか。修行とは」
クラリスの問いかけには答えず、突然呪文が唱えられた。
ードラゴボシュギョウテイバン、トキトセイシンノヘヤヨ、ケンザイセヨウォォォ
聖タバタが何かそれらしい節回しで手を振り回し、九字を切って跳び跳ねた。何やら念を込めているらしい。
すると緑の光が強く大きく輝いて、今いる部屋の床を揺らし、ボワンと言う音が下から響いた。
ソファに座っている巫女達は頭を抱えて蹲るが、揺れが収まると聖タバタを見つめた。
「この下に修行の場を創りました。そこで先ずはクラリス、修行なさい。本来であれば、その部屋は室温が50度からマイナス50度まで不規則に変化し、重力も10倍な真っ白な空間が広く広がっているだけと教典にはありますが、如何せん、それでは入って直ぐにクラリスは死んでしまうでしょう。
まあ、聖魔力を私と繋げたことで、生命維持の分の魔力が私から一方的に流れて行きますから実際は死なないと思いますが、過酷過ぎて余計に自己肯定感が低くなっても大変です。
なので、私が女性用にアレンジしてあります。20度の室温と25%の湿度、アルカリ源泉の温泉に岩盤浴も用意してありますし、休憩処では美容茶や果実酢ドリンクやスムージが用意してあるので自由に飲んで下さいね。
修行部屋についたら修行用の胴着に着替えて、掲げてある注意書に沿って過ごしてください。中にいる間、数多く取り揃えたあなたと似た状況が書かれた聖女教典をしっかり読んで、自分の状況と比較して見てください。そうすれば、自ずと道は開かれるでしょう。さあ、クラリスお行きなさい」
そう言って、聖タバタが軽く指を振ると、クラリスの姿が消えたのだった。
ノースランド王国の王宮の広間には王国中の貴族が集まっていて、北方聖教会の神官たちを引き連れたクラリスが王族と対峙するのを固唾を呑んで見つめていた。
「クラリス王妃、無事であったか」
「クラリスよ、良く戻った!」
前国王がそう声をかけ、国王の夫アレンが喜色満面で弾んだ声を上げた。
「あなた方に発言の許可を与えて居ない、控えなさい」
クラリスは威厳ある声でそう告げると手を上げた。
すると、部屋の空気が重くなり、皆立っていることが出来なくなって床に膝を尽かされた。
どころか、まだまだ見えない力に押さえつけられて、額が床に押し付けられた。
「な、何の真似だ!」
国王アレンが怒りの声を上げた。
クラリスは今度は手をゆっくり振ると、目の前に居た王族たちと自分の位置が入れ替わり、クラリスは壇上に立った。
広間の床に押し付けられていた王族や貴族の面々は、少し押さえつける力が緩んだようで顔を上げてクラリスの姿を見た。
クラリスが立つ壇上の前には、北方聖教会の神官と聖騎士団が守るように侍っていた。
「今を持って、ノースランド王国の国王となる。なぜなら、私が一番魔力が多く、強いから。その上、血統であっても私は正統なノースランド王家の血を色濃く継いでいる。私の王位に意義を持つものは、王国から速やかに去れば良い。深海の森に住むのなら、許可を与えましょう」
その声が冷たく響いた。
「な、何を言っているんだ、お前は王妃であって、お前が国王など、」
アレンが血走った目で睨みつけて叫ぶのを遮って、
「お前には一滴も王家の血は流れていない。勿論、お前の子供たちも。
しかもお前たち王族と言われている者で魔力の有る者など前国王以外居ない、お前、魔力無しでしょう。一度も魔力奉納をせず、王家に寄生するだけの穀潰し。
魔力の無いものは貴族であっても家を継げないこのノースランド王国で、お前が王族のしかも国王で居られる訳が無いでしょう。自分でわかっていて偽証するのは国に対する裏切りです」
えええ、はああ?と言う戸惑いの悲鳴がそこここから響いた。
「ここにいる王族と貴族の者たち、北方聖教会の正式な魔力検査を今から受けなさい。ノースランド国教会の検査は偽証であると既に判明している。この検査で親子関係もはっきりするから、まずはお前で今からやって見せましょう」
そう言うクラリスの言葉を受けて、複数人の神官たちがアレンの前に大きな鏡を掲げて、その顔を映した。
「ステータスオープン」
一人の老齢の神官が大仰な様子で聖女から授けられし呪文を唱えると、神官の掲げている大きな鏡に映っている顔の横に文字が現れた。
[アレン・ノースランド 職業 国王(罷免され現在無職) HP 1 MP 0]
性格 横柄 傲慢
特技 早○(自主規制)子沢山
備考 母の側妃と護衛騎士の子なので元々魔力が無い
「な、なんだこれは!嘘だ、嘘だ!俺は前国王である父の血を引く生まれながらの由緒正しい王族だ!」
アレンは顔色を紙のように白くしながら、そう叫ぶ声に被せるように、
「嘘よ!そんなの嘘、お前騙したわね!」
「何よ、自分だって子供が出来なかった癖に、私に無理難題を押し付けて。しょうがなかったのよ!産まなきゃ私の立場が無くなっちゃうんだもの」
アレンの前で重力に押さえつけられている前王妃と前国王の側妃が口汚く言い争いだしたのだった。




