【本編完結】エピソード43 大円団
一応地元の進学校に一緒に通いながら、今回は充実した青春時代を謳歌していた私たちだが、将来についての展望に齟齬があって、頻繁に喧嘩をするようになった。
恵斗君は前回と違えて高卒で就職して、直ぐにでも結婚すると言って聞かないのだ。
「もし、また病気になってしまうんだったら、今は折り返し地点だ。俺は、メグと一日でも一時間でも長く一緒に過ごしたいんだよ!大学に通ってる時間なんて無いだろ」
私が彼の考えを理解しないと憤りながら、彼が危惧していることが私が若くして死ぬことだと知って、そうか後18年なんだ、と他人事のように感じて、いやいや、それが理由だったらと、
「もし、前回と同じように病気になるのだったら、前もって検診とか行けば良くない?肺癌ってわかってるんだし」
極めて冷静な返事をした。
「!!!」
彼は思いも由らなかったと、顔で語っていたので、
「地元を離れて、大学生活も一緒に楽しもうよ!旅行に行ったりさ、サークル活動なんてのもやってみたい」
私が前回出来なかったことを指折り数えて上げた所、
「メグのやりたいこと全部やろう!」
そして、前回とは別の大学に一緒に進学し、同じ時をやっぱり二人で過ごして、総合商社に同期入社したのだった。
入社して、研修が終わって直ぐの7月には入籍をして、恵斗君と夫婦になった。
「愛、やっとやっと一緒になれた」
両家の食事会で男泣きに泣いた恵斗君に、
「マジお兄ちゃん暑苦しいから」
「恵斗が重い男でごめんね。呆れないであげてね」
「お前のその執着、俺の遺伝じゃないぞ。じいさんかな?」
馬場本家の家族からは散々な言われようだったけれど、
「良いじゃない。初めまして!って、最初に会ったあの日から、ずっとずっと愛を思ってくれてありがとう。恵斗君のお陰で今があると思うの。末長く仲良くお願いね」
「これまでも本当にお姉ちゃんを守ってくれてありがとう。私の自慢の姉をこれまで通り愛してあげて下さい、お義兄ちゃん!」
私の母と妹は、これまでの恵斗君の真摯な姿を思い出して感謝を述べて、嬉し泣きに泣いていた。
「恵斗君、私を選んでくれて、一緒に居てくれてありがとう。これからもよろしくお願いします」
私は、前回とは全く違うハッピーエンドを迎えたことに万感の思いが込み上げてきて、思わず泣き濡れてしまった。
「いや、まだ俺たち、終わりじゃないから。まだまだ長い結婚生活を続けていくから。子供も孫も、出来たらひ孫まで見るくらい、長く一緒に過ごすから!」
恵斗君が言う長い結婚生活って言葉は、前回病気で終えた人生の年を越えてってことだと私はわかっていたけれど、他の人は知らないから、
「だから恵斗、重いって」
「お兄ちゃん、ひ孫って、気が早すぎだから」
やっぱり恵斗君のお母さんと優香ちゃんに呆れられてしまった。
私が結婚して家を出た後、母は転職をして、問題のある子を療育する教育機関の職についた。
そこで、また運命の輪が廻って、巡り巡って、
「メグミ、サキ、お母さん、結婚しようと思うの」
珍しく母に呼び出されたちょっと立派なレストランで、母の横に座っていたのは、前回の銀行で私を引き上げてくれた、あの懐かしい上司だった。
「初めまして、新井と言います。銀行員をしています」
あの懐かしい、確かな、人を見る目のある、あの上司だった人が、母の新たなパートナーだなんて!
「その銀行、隣の隣の県の地銀だよね?どうやって知り合ったの?」
私が二人の馴れ初めを聞くと、母の勤めている教育機関の支部が近隣に増えているらしく、その地域交流懇親会で知り合ったんだとか。
10才も年下の男性と再婚だなんて考えられないと、母は何度も断ったそうなんだけれど、すっぽんのように諦めないガッツのある新井さんは、断られてもへこたれず、求婚を重ねて承諾をもぎ取った、と、どこか誇らしげな顔で私と咲希に話したのだった。
高校生の咲希の気持ちを母は気にして、心配していたみたいだけれど、咲希はあっけらかんと、
「ええ~何度も求婚を重ねるとか、お母さん良かったね~一身に愛される方が女は幸せなんだよ~」
と、ませた口を聞いて、母の慶事を祝福した。
「そんなこと、誰から聞いたの?」
赤い顔をして、母が咲希に問うと、
「聞いたんじゃない、ずっと間近で見てたもん。おねえちゃんとこ、そうじゃん。私もそう言う人と運命の出会いを期待してるんだ。お母さん一人残して大学に行くの心配だったから、これで安心して行けるわ」
うんうんと頷きながら返事をする咲希を見て、大人になったんだな、と母と目と目で会話をしたのだった。
新井さんと結婚して、母は前回私が市長をしていた地方都市に移り住んで、運命の不思議さを強く感じた。
「肺に影があります」
時が経ち、私は二人の子を持つ親となり、商社を辞めて恵斗君の転勤に家族で一緒にあちらこちらへ引っ越して歩いていた。
三十を越えて、去年の検診では問題なしだった肺に影がみつかり、精密検査をしたところ、癌であることが確定した。
やっぱり享年は越えられないのか、と医師の宣告に、絶望の淵に立たされた気分に陥ったけれど、隣に夫の恵斗君が居てくれて、
『大丈夫だきっと大丈夫だから』と暗示のように繰り返して支えてくれたことで、前回とは違って、生き延びようと強く思った。
結果的に、癌の発見が早かったことで、初期のうちに内視鏡で手術をして、取りきることが出来て、抗がん剤の予備的投与を経て寛解することが出来たのだった。
病気を克服し、私が36歳の誕生日を迎えた日、恵斗君と11歳と9歳の娘と共に祝った席で、恵斗君がまた大袈裟に泣いて私の無事を喜んでくれた。
「恵斗君、今回は涙脆いんだもん」
口では可愛くないことを言いながらも、彼のその姿に、私も涙がポロポロ溢れて、娘たちがポカンとするほどの、大泣き笑いを夫婦でしたのだった。
「もう、ママたち泣きすぎじゃない?優香ちゃんにLINEで送っちゃおうっと」
と言って、上の娘が恵斗君のスマホで私たちの泣き顔を動画に撮って家族のグループLINEにアップした。
直ぐに、wwwと草が生えて、笑顔のスタンプが義両親や咲希、母と新井さんから連打された。
それを見て、また泣けてきて、大いに泣きながら、ああ~幸せって続くんだな~としみじみと思った。
前の人生とは違って、今回は独りで戦うことも無く、常に横に恵斗君が居てくれたことに、心からの感謝をした。
大学卒業後、外資系の金融機関に就職した咲希が、チェコ出身の彼氏グスタフ君を連れて帰ってきたのは、もう少し後のお話。
恵斗君が結婚当初に話していた通り、比較的早く結婚した私たちは、晩年孫と初ひ孫を抱くことが出来て、
「今回は、俺を愛が送ってくれよ。俺を独り残して行くなよ」
そんなことを、繰り返し何度も何度も言っていた彼は、冬晴れの青空の中を真っ直ぐに昇っていく煙と一緒にこの世を去ったのだった。
恵斗君、私を愛してくれてありがとう。
もうすぐ、私もあなたの元に向かいますから、その時は枕元へとお迎えに来てね。
毎晩寝る前に、彼に話しかけ続けて、ある日の夜半過ぎにとうとう私の願いが叶い、光の存在になっていた彼がやってきて、彼に手を引かれて親しい親族の夢枕で一方的に挨拶廻りをした後、キラキラと輝く光の粒になって、私の魂はパッと消えて、私の数奇な一生を終えたのだった。
この後、番外編を数編お届けして完結致します。
先ずは、この物語の屑の代名詞アレンです。
お楽しみに。




