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戦う聖女さま  作者: 有栖 多于佳


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エピソード42 そして、繰り返す 後編

あの、時が戻った日の帰り道、恵斗君にうちの家族の崩壊の起点が駅伝の選手に選ばれたことだと告げた。


「え、マジ?メグちゃんのお父さんとうちの担任が!?ウヘェ~」

恵斗君はめちゃくちゃ嫌そうに顔を歪めて吐く真似をした。


「うん。キモいよね、中二で部活の顧問と父との会話を偶々盗み聞きして知るんだけど、それから結構病んじゃって」

私もウヘェ~と同じ顔をしながら、情報を追加した。


「そりゃあ病むわ、況してや思春期に。・・・よし、わかった。兎に角、メグちゃんのお母さんに駅伝の練習参加を認めてもらって、担任と父親が会わないようにすることから始めよう。俺が説得するよ!離婚の調停なんて弁護士なら当然の仕事だったし、俺に任せてよ!」

ランドセルを背負った可愛らしい少年が、ちょっと得意気に顎を上げて言うもんだから、私は肩を揺らして笑ってしまった。


「な、何だよ!信じてないな、てか見上げて言うから信用無いのかな、じゃあこれで良いや」

ちょっと怒った口調でキッと睨んで、次の瞬間、恵斗君は縁石の上に立った。


私と同じ目線になった恵斗君が、

「カッコ悪いけど、そのうち俺の方が大きくなるのは確定だから!今度はメグちゃんと共に過ごすから、俺を信じて」

ランドセル姿に似合わないイケメン発言に、私はカーっと顔に熱が集まって、目をキョロキョロ動かしてしまったけれど、彼は決して見逃してくれなくて、無言で見つめて返事を待っていた。


「うん、あの~、えっと、ありがとう。信じる」

私は消え入りそうな小さな声でそう答えて、チラッと上目使いで彼を見た。


恵斗君はキリリとした厳しい顔のまま、真っ赤になって止まってしまったのだった。


そんなこんなで、玄関先での母vs恵斗&メグミの攻防の後、母の理解を得られて、今回の駅伝は優勝を飾った・・・そして、そこから運命の輪が別方向へと高速回転を始めた。



「あ、パパのじいじからメールだ、え?家に来たのにパパが電話に出ない?え?」

私たちの優勝を、チーム一同と一緒に喜んでいた、応援に来ていた校長始めとした教師陣、出場者の父兄たちの中で母が携帯を見ながら呟いた。


「どうしたの?」

恵斗くんのお母さんが、母に尋ねた。


「いや、うちの旦那、木曜日からインフルエンザにかかっちゃってて、」

「ええ?メグちゃん移らなくて良かったね!?」

母の言葉に恵斗くんのお母さんの言葉が重なった。


「本当にそう。こんなに頑張ってるんだから、出場できないとか許されないじゃない。だから私の実家に避難させていたの。インフルエンザだけど、予防接種もしてたし、軽くて熱もすぐに下がったんだけど、今は自宅待機期間中なんで今日は応援はお休みして、家にお留守番してるはずなのよ。駅伝の結果がどうあれ、メグミの頑張りを祝いたいって旦那の両親が来ることになって、先に家で待ってるって話だったんだけど、おかしいな?出掛けてることはないと思うんだけど、ちょっと電話してきて良いですか?」


「ええ、咲希ちゃんも見てるから大丈夫よ。まだこれから閉会式とその後地方紙の取材もあるって言うから結構時間かかっちゃうもんね、お祖父ちゃんちにもそう伝えておいた方が良いよ!待ってるなら特にね」


「すみません、じゃあちょっとお願いします」

そんなやり取りをしてるのを、私は勝利に浮かれながらも目の端で捉えていた。


閉会式、そして地方局のニュース番組と地方新聞の取材をみんなで緊張しながら受けた。

主な取材は、駅伝団のリーダーの六年生が受けていたんだけれど、恵斗君は区間賞も過去最高記録で受賞したので、取材されていた。


さすが、中身はアラフォーの弁護士先生、とても小学五年生とは思えないやり取りに取材していたマスコミの人たちも驚いた顔をして質問をしていた。

そんなやり取りを私は内心ニヤニヤしながら見ていたので、母の戻りが遅いことなぞ、全く気にしていなかった。


「メグちゃんのママ、何かあったのかな?ちょっと見てくるよ。優香、咲希ちゃんから目を離さないでね。パパ見ててよ、ちょっと探してくるから」

恵斗君のお母さんがその場を離れたけれど、取材も終わった後もなかなか戻って来なくて、一同解散した後、恵斗君のお父さんが、


「何かあったのかな?取り合えずうちの車に戻るか」

と言って駐車場へと歩き始めた所に、固い顔をした恵斗君のお母さんが戻って来た。


「メグちゃん、咲希ちゃん、お母さん、ちょっとご用事で戻られたからこのまま一緒にうちへ帰ろう。お昼も一緒に食べて、うちで待ってよう、ね?」

普段ならとっても嬉しい提案なのに、あまりに恵斗君のお母さんの顔が厳しくて、私は返事に躊躇してしまった。


けれど、咲希は頓着無くて、

「ええ、まだ優香ちゃんと遊べるの~!嬉しい」

そう言って優香ちゃんの腕に引っ付いて笑っていた。


「うちに帰ったらこの前買ってもらったボードゲームやろう!」

「ボードゲームって何?」

「サイコロ振って遊ぶんだよ、私が教えてあげる」

「わーい!」

二人が遊びの相談をしている横で、恵斗君の両親は目で何かを語り合っていた。


恵斗君家でドライブスルーで買ったマックをお昼に食べて、子供たちは二階の優香ちゃんの部屋でグラグラタワーやジェンガをして遊んだ。


「一旦ここで休憩しよう、俺ジュース持ってくるよ!メグちゃん手伝って」

ジェンガが崩れたのを合図に、恵斗君が声をかけてきた。

「うん、良いよ」

「お兄ちゃん、私カルピス」

「咲希も~」

「わかった、メグちゃん来て」


下の階に足音を忍ばせて静かに降りていった。


「信じられないよ!担任が、児童の父兄となんて!しかも自宅に!!」

「シッ!声が大きいよ。聞こえたらどうするのよ」

「ああ、ごめんごめん。いやしかし、考えられないよ」

「私もよ、洋子さん駐車場で泣いていてお父さんが急変したのかと私、勘違いして、声かけちゃったのよ」

「そりゃあかけるよ。インフルエンザで寝てるって聞いてれば、普通なんかあったかと思うよ」

「それが、家に女連れ込んでるなんて、それを両方の両親に見られるなんて、」

「修羅場じゃん、何だろうね、ホテル代ケチったのかな?」

「もう、ふざけないでよ。でも本当に、自宅になんて信じられないわ」


リビングのドアに耳をつけて恵斗君と二人、息を殺して話を盗み聞きしていると、信じられない内容が入ってきた。


ビックリして、ええ~と声を出してしまうのを恵斗君の手で口を覆われて、急いで飲み込んだ。

恵斗君と二人、目と目で合図仕合って、そっと玄関から外に出た。


「今の話、信じられない!」

「わー、キッショ。メグちゃんのお父さんだけど、ごめん。悪口しか出てこないわ」


恵斗君と家を出て、彼についてしばらく歩いて、小さな地区の避難所を兼ねた公園で、私は目を見開き震えながら言葉を絞り出し、恵斗君も心底嫌そうな声音で言い捨てた。


「これからどうなるんだろう」

ブランコに揺られながら、ポツリと私が独り語ちると、恵斗君もブランコを漕ぎながら、


「前の時、俺の母親は『恵斗の担任の先生、駅伝の練習に顔を出すだけで見もしないで帰っちゃって何しに来てるんだか』って言ってたんだ。メグちゃんのお父さんに会う為に来てたんだろうね」

大きなため息と共に言った。


「あの時はお母さんの目を気にして、当然外で会ってたんだろうね。今回はお母さんが居ないことを良いことに、態々自宅に上げるなんて信じられない蛮行だわ」

私は胸に込み上げてくる泥々とした気持ちを吐き出すように言い捨てて顔を覆った。


暫く二人で黙ってブランコを漕いで居たところに、

「あ~お姉ちゃんいたー!」

「お兄ちゃん、カルピス取ってくるって言ったのに公園行くなら声かけてよね!」

咲希と手を繋いでプンプンと怒っている優香ちゃんがやって来た。


「あ、ごめん。忘れてた!」

「もう、本当にいい加減なんだから~」

優香ちゃんにプンスカ怒られて頭を掻いて謝った恵斗君が面白くて、私は少し笑った。


結局、その日は母と恵斗君のお母さんでやり取りをしたみたいで、恵斗君のお家に泊めてもらうことになって、何も知らない咲希は目をキラキラさせてはしゃいで喜んでいるのを見て、私の心は大いに癒され落ち着いたのだった。


次の日の昼過ぎに母が大きな箱一杯のケーキを持って、恵斗君のお家にお礼と私たちの引き取りに来て、

「お世話になってしまって、申し訳ありませんでした。ありがとうございました」

目を腫らせた顔で頭を下げていた。


「気にしないで!うちも賑やかで楽しかったから!色々あって先送りにされちゃったけど、昨日はメグちゃんたち駅伝チームは優勝したお目出度い日なんだから、称えてあげてね!」


「あ!そうですね。今日、お祝いしないとね。メグミおめでとう」

母がパチクリと目を瞬かせた後、私の顔を見つめて、笑顔を見せたのだった。


結局、その後、母の実家へと連れられて行って、祖父母と共に夕食で駅伝の勝利を祝われた。

父の居ない食卓なのに、私も咲希もそのことに一言も触れないことに祖父が顔を強張らせ、祖母はキッチンの奥へと入って行ってしまった。


お祝いのケーキを食べて、咲希が眠くなる前に、母が咲希を膝に乗せて私に向かい合って話し出した。

「突然のことでメグミも驚くと思うんだけれど、お母さんとお父さん、別れることになったの」

母は、泣きそうな顔に口許だけの笑みを無理矢理浮かべて言い出した。


「お父さんと別れるって何?」

私が返事をするより先に、咲希が体を捩って母を見ながら問い返した。

「一緒に住まないってこと。あの家からママとメグとサキが出て行くの」

「じゃあ、どこに住むの?」

「取り合えずは、このお祖父ちゃんちに引っ越して、春休みの間に引っ越しをしようと思う」

母が実家を出ると言うことに私は驚いた。


「三人でやっていこうと思うんだけど、どうかな?」

母が私を見て、決定じゃなくて聞いてくれたのが意外で、

「良いよ。お母さんが居れば良い。私は今まで以上にお母さんを手伝うし、咲希も手伝ってくれるでしょ?」

そんな言葉がスルリと口から出ていた。


「うん、咲希もお手伝いするよ!」

咲希はピシッと手を伸ばして上げてそう答えたので、

「その言い方、優香ちゃんみたい!」

私は、昨日一日、恵斗君の家で見た兄妹のやり取りを思い出して笑いながら言った。


「あのね、お父さんのことなんだけど、」

母が戸惑いながら言い出した言葉に、

「お母さん無理しなくて良いよ。落ち着いたら、私たちが大きくなってからでも良い」

そう言葉を被せて終わらせた。


「メグミ~・・・」

母は、咲希をギュッと片手で抱き締め、もう片方の手で私の肩を抱いて声を殺して泣いていた。

私は前の時も今回も母が子供の前で泣いたのを初めて見て、心底驚いた。

心底驚いて、不意にもらい泣きをしてしまったのか、ボタボタと涙の粒を溢した。

溢れた涙が咲希の頬に当たったことに顔を上げて、泣いている母と姉を見た咲希が、

「泣かないで、泣かないで。ママ、お姉ちゃん泣かないでぇ~」

と涙を拭いながら次第に泣き出して、結局三人でオイオイと泣いた。


詳しい話は聞かなかったけれど、春休み中に離婚が成立したみたいだった。

離婚に至る母の葛藤や悩みを気にかけてくれたのは、恵斗君のお母さんだったみたいで、春休みのある日、恵斗君と優香ちゃんと一緒に、引っ越したアパートにやって来て、


「洋子さん、頑張った。でもこれからも頑張ってよ。一人じゃないよ、私も手伝うから、遠慮無く言ってきてね!」

と、ドアを開けた母に飛び付いて抱き締めながら言っていた。


母が祖父母の家を出たのが意外で、そのことだけは引っ越し前に母に尋ねたのだけど、

「同じ町内だと居にくいからね」

と言うのを聞いて、父はあの家に住む気なんだなと知ってゲンナリした。

「それはそうだね」

私は引っ越し後、転校も覚悟したけれど、

「そんなことしたら、メグの大事なお友達に叱られちゃうわよ~」

と、母に珍しく軽口を叩いたので、顔を見つめてしまった。


見つめた先にあった母は、すっかり憑き物が落ちたような清々しい顔をしていて、随分長い時間を父の不倫に悩まされて来たんだろうな、と母を慮った。


なんせ私の中身は36歳なので、今の母とほぼ同年代で、まだ幼い娘と思春期の入口の娘を抱えて将来を憂い、不倫する夫に憤り、将来を悲観する気持ちに共感が出来るので、つくづく離婚して良かったと思った。


母方の祖父は元教育長だったので、父と担任の不貞をその人脈でキッチリと落とし前をつけて二人は教師を辞めて、其々の学校を去った。


結局、父はローンの残債を抱えたまま家を去り、父の実家へと戻った。

父方の祖父母は、最後に一度だけ会いたいと会う機会を持って、ごめんごめんと私たち姉妹に泣いて謝って来た。

祖父母が訪ねて、自宅の父母の寝室で真っ最中だった父と担任を見つけてしまい、霰もない姿を目にした祖父母が不憫で、何も悪いと思えない私は、


「お祖父ちゃんお祖母ちゃんが謝ることなんて無い。お祖父ちゃんお祖母ちゃんのこと、大好きだから」

前回の分のお詫び分も込めて、心からそう言った。


祖父母は私を抱き締めて、大事な孫たちだから!と何度も呟いた。

私と咲希と祖父母との関係は、祖父母が亡くなるまで細く長くこの後続くことになるのだが。


小学校の卒業式を終えて、私と恵斗君は同じ地元の中学へと進学した。


「サッカーより大事なものがあるってもう知っているから。俺は、メグと楽しい青春時代をワチャワチャ過ごして、一日でも早く結婚したいから」

そんなおませなことを恵斗君が躊躇無く言うようになって、宣言通り、中学のサッカー部の応援に行ったり遠足や修学旅行の思い出を一緒に作ったり、同じ高校へ進学したりした。


その頃には、私たちは誰もが認める公認の仲になった。


私は前回と全く違う、16才のクリスマスを恵斗君と過ごし、前回の絶望は霧散したのだった。





本日19時で本編完結致します。

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