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戦う聖女さま  作者: 有栖 多于佳


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エピソード35 サトウメグミの一生 その5

内容に関する法律などはフィクションです。

目覚めたら、そこはまた白い天井とピンクのカーテンに仕切られたベッドの上で、私は長い長い夢を見ていたことを思い出した。


夢の内容は忘れてしまったけれど、私はそこでたくさんの愛を知った、そんな気がした。


オーバードーズした私を見つけたのは祖父だったと言う。

祖父は二階に上がっていく私の背中を見るとなぜか焦燥感に苛まれて、今まで遠慮して開けなかった部屋をノックした。


今さっき上がっていったばかりの孫が返事もしないことが気になって、祖母を呼んで一緒にドアを開けて中に入ると、空の薬袋の中で横たわっている私を見つけて、口に指をいれて薬を吐き出させ、救急搬送して一命を取り留めたと、担当医師から聞かされた。


申し訳無い気持ちが湧いてきて、祖父母に会わせる顔が無かった。


暫く周りはそっとしてくれていたけれど、祖父母が監督者として使命を果たせなかったと気落ちしていると聞いて、余計に申し訳なく思って、退院前に、ソーシャルワーカーに、児童養護施設へ入所したいと伝えた。


学校には施設の子も居て、話は聞いていたし調べたりもしていて、私は家族の中での孤独感が辛いので、他人の中で過ごしたいと希望を述べた。


孫の自殺未遂に心労を重ねた祖母が体調を崩したこともあって、父の年の離れた姉、叔母が嫁いだ先の出生地から離れた県の施設に入所が決まり、叔母が保護監督者になってくれた。


叔母は一緒に住もうとも言ってくれたけれど、親に殺されかけて自殺未遂をするあまり接点のない姪などお荷物だろうと私との窓口になってくれていたソーシャルワーカーさんから上手に断ってもらった。


実子殺害未遂事件を起こした母は、実刑2年を終えて実家へ帰ってきていると教えてもらった。

父は母と離婚をして妹を引き取って暮らしていたらしいが、噂が大きくて前の市には居ずらくなり近隣市の中学勤務となっていたが、祖母の体調不良を理由に実家で暮らすようになったそうだ。


退院して施設に入所した私は、単位制の高校に編入し直して、真面目に勉強した。

生活費と学費は両親が払ってくれているらしいが、私はバイトも始めて自活の道を歩み始めた。


髪は黒く染め直し、ピアスは外した。


荒れ狂っていた心中は、信じられないほど落ち着いていて、もう死の誘惑に流されることもなかった。


日々の生活で辛いこと、落ち込むことが起きた時は、中学のバレー部の主将、友達の映美ちゃんのお姉ちゃんの言葉『筋肉は裏切らない』を思い出して、ランニングを始めた。


頑張って頑張って、毎日を過ごして、自分で自分を褒めて許して、認めて宥めて、私の中の小さな私をゆっくりと愛してあげた。


7つの私、14の私、16の私、今の私。


私が私を慈しんで愛して、愛を恵まれる子、愛と書いてめぐみ、私の中の小さな可哀想な私は、確固とした(めぐみ)に成長していった。


定期的に精神科への通院は続いていたが、自殺未遂の後目覚めてから、まるで奇跡のように精神が落ち着き安定していったことに、主治医は、

「見たことも聞いたことも無い症例だ」

と言って、色々な検査をした。


どの検査でも私の精神は安定していて、普通の女子高生よりもよっぽど老成していると判定された。


努力して頑張ることが得意な私の成績は毎回テストは1番だったので、担任と相談して、今住んでいる県にある国立大学を受験した。


受験勉強も頑張って乗り切り、晴れて大学生になる時に、施設を出て一人暮らしを始めた。

奨学金を得て大学に通い、バイトで生活費を賄った。


そして、ずっとお世話になっているソーシャルワーカーさんにお願いして、私は名字と戸籍を変えた。

私にとって両親とは随分前に切り捨てた者たちで、私にはもう自分の中のどこにでも必要性が見つけられ無かったから。


殺人被害者の私の意見は考慮されて、叔母の嫁ぎ先の佐藤の姓を名乗り自分だけの戸籍を作ることが出来た。

私は、佐藤愛となって、一人で自分の人生を歩み出した。

その道のりは静かで、誰かの悲鳴に心を乱されることも、誰かの為に献身を強要されることも無く、とても快適だった。


大学を卒業して優良地銀に就職した私が語る、過去の自分の話はまるで小説か何かの物語のようで、決して心乱されることは無かった。


彼氏と別れて、成り行きで選挙に出馬して、現職の汚職疑惑といった追い風も吹いて、銀行員時代にお世話になった企業の社長さんやその奥様方の大きな声援のお陰で、31歳でその市で最年少記録となる市長に就任することが出来たのだった。



「おめでとう。これからも俺の言う通りにしていれば、あと1期か2期、市長を経て国会議員へと押し上げてやるから!俺の女になる気は固まったな」


男としては小さめ細身の体躯で、青白い顔をした、都内の有名私大の政経学部卒海外大学院卒の、某国会議員の公設秘書が、赤い舌をチロリと出して唇を舐めてそう言った。


どこかの悪代官のような節回しに、(ケ、小者が!)と心中で悪態をつきながらも、涼しい笑顔を向けて、

「何を仰っているのかわかりませんが。あなた、奥様いらっしゃいますよね?居ないからと言ってあなたの女になる気は全く、全然、これっぽっちもありませんけど」


はっきりと拒絶の意思表示を行った。


その言葉に、ガツンと頭を殴られたような痛々しい顔を向けて、

「え?なぜ?」

と言うので、

「むしろ、なぜ受け入れると思ったのですか?父親と同じ年のあなたを私が選ぶとどうして思った?」

気持ち悪い~と鳥肌が立っている手を擦りながら問うと、

「父性の欠如した女は年上を求めるだろう!頼りがいのある!」

と、声高らかに言い放ったので、


「残念ながらそう言う感情は、私、10代でキチンと昇華してあるんですよ。そんなメンタル弱い子が自分の過去の黒歴史話して歩くと本気で思ってました?もしそうなら話す度に自殺未遂しちゃいますよ。兎に角、わたしはそう言うの全く必要ないんで、金輪際そんな戯れ言言わないでくださいね」


バシッと言って断った。


「お前とのやり取りを文春にリークしてやろうか!?不倫市長って噂になって仕事にならないぞ!?」

とうとう最低なことに脅しまで言い出した相手に向かって、胸のポケットからスマホを出して、


「これ、繋がってますよ。しかも動画通話で、はい、あなたのお顔を今撮しておりますけど。通話の向こうにいる、私の支援者たちがこのやり取りとあなたの顔を見てますよ~」

そう返事方々、撮影をした。


カッとなって掴みかかろうとした瞬間に私の身を引かれ、前に支援者さんたちが立ち塞がってくれた。


「あんた、こんな非道な人だとは思わなかったよ」

「女に無体を働こうなんざ不貞野郎だ!」

「あんたんとこのボスにも今連絡しているからな!」


こうして、秘書さんを紹介してくれた、今は私の後援会長をしてくれている社長さんとその仲間の方々によって、私の貞操の危機は去ったのである。



それから、3年。

前市長の施策を少しずつ変えて、子育てしやすい介護しやすい、疲れたら休んで復活したら頑張って頑張って頑張れる町創りに励んで、市長としての支持率も高めを維持してきた、ある日。



「ステージ4の肺癌で、もう肝臓と骨盤と肩にも転移しています」

長引く咳を気にして受診した呼吸器内科で、無情にも告げられたのは余命宣告だった。

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