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戦う聖女さま  作者: 有栖 多于佳


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エピソード34 サトウメグミの一生 その4

フリースクールに通うようになって、夏休み近くなった頃、インターン生が入ってきた。

彼は近隣の大学に通う学生で、教師を目指していると言っていた。


彼を見て、私とその仲間の、当時ギャルと呼ばれる風貌をしていた子らは歓喜した。


悠也君と言う彼は、大学のサッカーサークルにも入っているらしく、背が高くてがっしりしていて、ふんわりパーマを当てた茶色の髪の優男で、のんびりした優しい話し方も好印象で、所謂イケメンの到来に俄然学校に行く気になった。


悠也君の周りを圧強めなギャルが取り囲んでキャイキャイ騒いでいて、それはそれでとても楽しい時間だった。


「話しばかりじゃなくて、勉強をしよう。わからないところを聞いてきて。僕、これでもここでは先生役なんだから」

剰りにギャルが騒ぐのに、他の生徒の親から苦情が入ったらしく、暫くしてから悠也君はそう言った。


そうだろう、そうだろうと、久しくしていなかった勉強に着手したが、中二の時は優等生だったはずの私の勉強スペックは、長い入院と最近の遊び偏重な生活によって、ずいぶんと低い物に成り代わっていた。


それでも他のギャル娘たちよりは、数十倍出来が良いと思われ、友達からは『実はガリ勉だったのか』と言われたが、どんぐりの背比べみたいな低レベルな争いだった。


「悠也君悠也君、二次関数おせーて」

「そこ、中学の時の数学だけど。前に戻ってやってみる?」

「うん」

「エライエライ。上等じゃん。メグちゃん頑張れば伸びるよ。頑張ろう!」

イケメン悠也君に褒められるのは気分が良いし、頑張るのは得意なのよと張り切って出された宿題も、復習もやるようになって、数ヵ月過ぎる頃には中学でやり残していた所は終えて、高校の課程に入るようになった。


クリスマスまでで、悠也君のインターンは終了となると言うことで、私とギャル娘たちはみんなで誰が悠也君の彼女になれるか、とかバカな賭けをして張り切っていた。


最後の日の放課後、通信制だから通学は自由なんだけれど悠也君会いたさに通っている私たちギャル娘たちは、一旦帰ったと見せかけて隠れて順番に告ろうと空き部屋で順番を決めるアミダをしていた。


「く、くそー!私が初っぱなじゃん。悪いなみんな。告る前に私が彼女に決まちゃって」

「いやいや、お前は無いから」

「ナイナイ。ミキサーメグサーぶっぱなしたばっかりじゃん」

「だけど、優しく顔を拭いてくれたよ。あれって愛じゃない?」

「愛じゃなくて業務じゃない?ギャハハ」

「上手いこと言った!ギャハハ」


そんな馬鹿話をしている所に、ガタンとドアが開く音がしたので、思わずみんなで残置物が積み上げられているロッカーの側に隠れた。


「ねえ悠也君お疲れさまぁ~」

「ああお疲れさま」

悠也君と同じ時期にインターンでやって来た女が、悠也君の手を引いて空き教室に入ってきたところだった。


「今日で終わりだね。悠也君大変だったね」

「いや、良い経験させてもらったからね」


「実際の学校じゃここまでひどくは無いと思うんだけどね。悠也君に纏わりついていた女子たち、あからさまで悠也君毎回注意されて可哀想だなぁ~と思ってたんだ」

「まあ、でもみんな頑張っていて、少し勉強にもやる気になってくれたみたいで良かったよ。特にメグちゃん」


盗み聞きしている所で、自分の名前が出てきて胸が踊った。悠也君、認めてくれたんだと嬉しくて、勝ち誇った顔を仲間のギャル娘たちに向けた。

ギャル娘たちは、半目になって、無声で

『チョーシにノルナよ』

と口をパクパクさせていたのが可笑しくて、口を手で覆って笑い声を抑えた。


「メグちゃんね~。悠也君本当にエライよ。突然吐き出した彼女の顔を拭っているのをみた時、君は勇者だと思ったよ。私には無理だわ」


「いや俺も初めてゲロまみれの娘を目の当たりにしてどうしようと思ったけど、悲惨な状況の中に座り込んで呆けている姿に、これから彼女はどうやって生きていくのだろうって、生きていけるのかなって可哀想になったら自然と体が動いたっていうか」

悠也君がふわふわな髪をちょっと揺らしながら小首を傾げてそう言った。


「君には良いサンプルだもんな。これから社会活動家として活動していくのに、彼女のような虐待児でトラウマ持ちを立ち直らせたって良い実績になるもんね。数年活動して、若いリーダーとして政界に出てくんでしょ?そう言うお家だもんね」

インターン女が、然もわかってますよ~って顔つきでうんうんと頷いていた。


「サンプルって言い方!彼女とかああいう娘の居場所って必要でしょ?社会が求めてるんだよ。そのお手伝い出来たらなと思っているのを、穿った言い方されると困るなあ」

今まで見た中で一番黒い笑顔で、悠也君が女におどけた返答をしていた。


その笑顔は、私の首を絞めて殺そうとしていた母と同じ表情で、私の身がブルブルと震え出したのを周りの娘たちが抱き締めて、抑えてくれて、耳元で、

「ダイジョウブ。あんな奴ら、やっつけようぜ」

と、囁いてきた。


右手と左手を其々が強く握ってくれて、もう一人は背中から抱き締めてくれた。


そのお陰か、震えはピタッと止まって、はあはあと過呼吸になっていた息も落ち着いてきた。


みんなが顔を見合わせ頷きあって、バッと立ち上がった。


その音に、悠也君と女が一斉に後ろを見て、目を見開いて止まった。


「あ~ら、乃亜先生。陰キャの女神だけでは飽き足らずイケメン悠也先生まで毒牙にかけようと必死っすな~本命は悠也君かな?お調べしちゃってストーカー!粘着!こっコワー」


「『うんうん、わかってるよ。私はあなたの本心をわかってるからね。私だけはあなたの味方だよ☆』キャピキャピ!だっけかー」


「必死、わー必死っすなー悠也君毒牙に仕留めたくて必死っすなー」


「悠也君もさーうんうんわかるよ俺だけは理解者だよ~イケメン面、自分で白状しちゃうとか痛いからー」


「隠してぇー本性は墓の中まで隠しててぇー」


「ヤリメンのがわかりやすくて、腕組み彼氏面よりまだ増し説まであり得るー腕組み彼氏面は無いわー」


「お二人共お似合いだよ、地獄に落ちろクソ野郎!ガッテム」


私とギャル娘たちは、息つく間も無く罵倒とハンドサインを繰り広げて、鼻息荒く部屋を出ていくのだった。


帰り道、ジングルベルの調べが街に響いているのを聞きながら、私たちは笑いあって、尽きない悪口を言い合いながら、またね、と手を振って家路へと帰った。


♪ごめんね素直じゃフフンて~


無意識に鼻唄を口ずさみながら階段をトントンと軽快に上がって行って、その晩は祖父母が申し訳程度のクリスマスパーティーを開いてくれて、フライドチキンを頬張り、三人でケーキを静かに食べた。


「おじいちゃん、おばあちゃんありがとう」

初めて祖父母の顔を見てお礼を言った。


「メグちゃん」

「めぐみ、お礼なんて必要ない。孫なんだから当たり前だ」

祖母は名を呼んで静かに涙を流し、祖父は目をしぱしぱさせながら、言葉を絞り出した。



その夜、私は貰っていた精神薬を全錠飲んだ。


死は私を優しく呼び寄せ、私の安寧が其処にあると囁く。


私を思って手を繋いでくれて、背中を抱き締めてくれた友人たちも、不肖の孫を心配してくれている祖父母の存在も、理解していて尚、私は死の誘惑に購えずに、深く深く眠るのだった。


(ダレカ ダレカ ワタシヲ モトメテ)


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