エピソード2 嘲笑の聖王妃 その1
「タバタ!あなた、タバタのままなの?聖女さまの召喚は失敗したの!?」
魔方陣の北に位置していた女が立ち上がって詰め寄りながら叫んだ。
その声は悲鳴のようで、良く見ればその身体はブルブルと震えていた。
ータバタ、こちらは誰?と言うかこの四方の四人は何?
彼女たちは、聖教国を取り囲む東西南北の国から派遣された光属性の巫女様たちです。
そして、こちらの方は北のノースランド王国王妃であらせられるクラリス王妃殿下です。
ーへえ、王妃様なんだ、きっと若いでしょうに。王様とはずいぶん年が離れているの?て言うか王妃様が乙女?
いいえ、ノースランド国王陛下とは同じ年と伺っています。クラリス殿下は三十路と伺いましたが。乙女は器の者だけですから、皆様婚姻されていますし、お子様もいらっしゃるそうですよ。光属性を次世代に引き継ぐ使命がありますから。私以外は皆様貴族の方々ですし政略結婚だとか。
ーえっと、16才の光属性の少女が器って設定なんだよね。
光属性の者はたいそう稀少ですから、各国の聖女の器たる巫女の年を揃えるのは先ず無理だそうで。皆様は幼少期は修道院で過ごされた後、嫁いで行かれたそうですよ。光属性の平民である私が見つかった9年前に一斉に。皆様やんごとない身分の方々ですからね。
「タバタ、タバタ、聞いているの?早く返事をなさい!」
詰め寄ったクラリスがタバタに触れようとしたその時、バチッと小さな電気が走った。
その反動で被っていたベールがずり落ち、目映いばかりの金髪に彫りの深い美形が露になった。
「きゃっ、痛っ、な、なに?」
クラリスは衝撃のあった右手を庇い擦ると、目を剥いてタバタを見つめた。
「無理に触れないでね。この子に結界魔法をかけてあるから、不用意に触れると今みたいに弾かれちゃうよ」
ゆっくりと身体をクラリスの方に向けて、真っ直ぐに目を見てそう告げたタバタの姿に、クラリスは今までには無かった畏怖を感じた。
「はっ、せ、聖女さま!ご無礼を申し訳ありません」
クラリスが膝をついて頭を垂れ、祈りの姿勢を取った。
それを見て、それ以外の3名も同じ姿勢をとり、従順の態度を示した。
「いや、いい、楽にして。さて早速だけれど聞いて欲しい。先ほどの宣言のように、私はタバタの意識を消さないし教会に与しない。タバタも同じ考えだから、脱会を宣言した。
それを受けてあなた達はどうしたいのか教えて。
タバタ本人だけでなく、この塔にも結界がかけてあるから誰も手出しは出来ないでしょう。
あなた方にも各々の立場も考えもあると思うけれど、先ずは本心を聞かせて欲しい。国へ帰りたいならそれでもいいし、希望があれば最大限考慮します」
そう言うと、タバタ改め聖タバタは手を振り、大きな大理石のテーブルを消し去り、ベージュの布張りのソファーとティテーブルのセットを出して、その二人がけの一方に座った。
「さあ、どうぞ。さあ、さあ腰かけて」
明らかに風貌はタバタなのに、自信に溢れた堂々とした振るまいに自然と従わされて、クラリスは向い合わせの三人がけのソファーに座った。
他の二人は、角の一人がけに其々座ったので、残されたもう一人はクラリスのソファに一つ間を空けて座り、みな聖タバタを見つめた。
その視線の先に居るのは見目形はタバタであっても、以前の全てを諦めていた無気力なタバタでは無かった。
「聖女さま、聖女さまは先ほどタバタを消さないと仰いましたが、わたくしにはとてもタバタだとは思えないのです。お名前を伺っても」
クラリスが丁寧な口調で尋ねてたが、
「残念、タバタの意識はきちんと残っているし、私の名前で私の意識を縛り使役する魔法を、あなたに使わせることは出来ないな」
そう言うと、三人の魔力を無効化した。
「な、な、」
「身体を巡っていた魔力が滞っているのがわかるかな?これで、魔法が使えるのは私だけ。
変な考えを起こさないようにね。過去の聖女も反抗的な子は魔法で縛ったんでしょ?
あなたに教皇がもしもの時にと指示していたのね。
私はタバタの記憶は全て共有しているからね、意向は筒抜けだと思って頂戴。
さあさあ、ここからはあなた達の本心を見せて貰える?私はあなた達を知りたい」
聖タバタが三人を見回した。
クラリスは姿勢を正して、
「余分なことを致しました、聖女さまにお詫び申し上げます。わたしくしもタバタと同じ聖女の器として暮らして参りました。どうぞ、聖女さまの御心のままに」
クラリスはそう言うと、その蒼い瞳の奥に隠してきた、今日までの悲しい自身の軌跡をタバタに覗かせたのだった。




