エピソード27 昔語り その1
昨日は投稿出来ずすみませんでした。本日、2話投稿致します。
「ペトラ、クラリス様。大丈夫ですか」
「何が起きたの!?」
砂煙の中から現れた、茶色い髪の男と対峙していたペトラとクラリスの下に、焦った様子で戦いを終えたアイリスとアーディルが心配の声をかけながら側にやってきた。
「ええ、大丈夫よ」
クラリスが男から目を話さずに、二人に返事をし、ペトラが
「最大魔力を放ったら、教皇の塔の基礎部分から魔方陣が現れ、その中から初代教皇バルベリトと名乗るこの男が出現した」
警戒心を露にしながら状況を説明した。
「この男とは随分口が悪いな。聖女の器足る聖巫女には些か相応しくない、いや逆に彼女の投影か」
顎に手をやり、小首を傾げて面白いものをみるような表情で男が呟いた。
「初代教皇って、神話の世界の話じゃない」
「偉大なる大魔術師で、聖教会の基礎を創った人」
アイリスとアーディルが、かつての聖女教育で繰り返し教えられた、太古の昔の伝説、神話の話からその名と威光を思い出して、驚きと胡散臭さが混ざった複雑な表情を浮かべた。
「なんだ、伝説になっているのか。ほんの1億年と2千年前のことなのにたいそうなことだ」
男が目を細めてうっそりと笑った。
「はっ!お前、1億2千年前の存在だと言うのか」
ペトラがその途方もない年月を聞いて、鼻で嗤った。
「ああ、そうさ。俺がこの世界を整えた、もう一度彼女と会うために」
男が然も当然と言う口ぶりで答えたことが勘に障ったようで、ペトラが眉間にシワを寄せて
「整えた!?は、こんな腐りきった教団と腐った王族の蔓延る世界でもか!」
大きな叫び声をあげた。
「ああそうさ、腐った教団だろうが何だろうが、人が暮らせているだろう?多少の犠牲はしょうがない」
男は気にもせずに静かに言い返した。
「しょうがない!?しょうがないですって。この教団のあの教皇たちのせいでスタンピートが起きて多くの人が亡くなったのよ」
アーディルが男の言葉に熱くなって言い返した。
「スタンピート。教皇の企てとは魔物から魔力を抽出するやり方だな。もう既にこの世界に聖女召喚を行えるほどの魔力を溜めることが難しくなってしまったからな。先々代の教皇の夢枕に立って俺が教えてやったんだ。そうでなければ、今回の召喚に間に合わなかったからな」
男がにたりと笑みを浮かべてゆったりと答えた。
「な!お前がか!なぜ、わざわざそんなことを告げた?今回の召喚が何だって言うんだ。かつてだって、魔力不足で召喚が叶わない時もあっただろう?」
逆上しているアーディルとは反対に、心底不思議な様子で、冷静にペトラが問いかけた。
「10万だ。10万と2人の聖女を召喚したが、10万の聖女はこの世界を保つのに寄与してくれただろう?お前たちが腐った世界だと罵ろうとも、それでも俺の生きた時代よりは余程暮らしやすい世界のはずだ。彼女のおかげで今があるのだから」
「この瘴気が増え、魔物が跋扈する世界よりも、もっと酷かったと?」
ほの暗い遠い目をして語る男にクラリスが問うた。
「当然だ、何も知らないお前たちに少し昔話をしてやろう」
男が四人の顔を見回しながら答えて、指を鳴らした。
すると、視界に写る情景が変わり、真っ白な何もない空間にいた。
実際に、その空間に居るのか、はたまた魂だけがその空間に誘われたのかは定かでないが、四人、いや離れた塔で教会本部のことを見守っていたタバタもその空間に現れて、五人が顔を揃えると、その白い空間だった場所が、真っ暗な重い瘴気が充満した場所へと変わった。
星も太陽も無い真っ暗な闇に、時折赤い閃光が迸り、それに合わせて、ギャーギャーとした動物か、もしくは魔物のかもしれない鳴き声とも悲鳴とも聞こえる声がどこそこ響き渡っていた。
地はザラザラとした砂地、ゴロゴロとした岩場、ボコボコと怪しい音をたてながら毒々しい泡を噴く沼地、ゴガンッボボンッと言う轟音を上げながら紫の、もしくは血のような赤の、熔岩のような物を激しく噴き出した山地、凡そ人が住めるような場所には程遠い、聖教会の聖典に描かれている地獄と呼ばれる場所の絵にそっくりな場所であった。
荒涼とした地に住まうのは、聖巫女たちが魔物と呼んで屠っていた魔物たちであった。
大きな牙に曲がりくねった角、真っ赤な目をした四つ足の魔物が歩き回り、空飛ぶ魔鳥が群れを成して飛び回っていた。
地に咲くのは毒草と魔植物、その毒を飲む魔虫たち、それを喰らう別の魔虫、魔物の食物連鎖がその世界では自然な営みとして起きていた。
情景が一転して、空からの景色が広がる。
これはエニウェア大陸の全体を空高くから見た情景。
先程の、地獄の情景の場所が大陸の全土を覆っていた。
その中、ほんの一部、米粒ほどの白い土地がポツポツと、大陸の辺縁部に五十に満たないそこが人の住まう場所であった。
人の住まう場所は楽園と、瘴気の充満し魔物が跋扈する土地は地獄と呼び、大事な土地が地獄に飲み込まれないように少ない人々は知恵を出し合い、土地を護った。
限られた土地が瘴気に飲み込まれないように土地の浄化をしながら必死で暮らしていた。
浄化の仕方は、それぞれで、聖なる調べで浄化する地も、聖水によって浄化する地も、聖なる火で浄化する地も、聖なる塩砂で浄化する地も、その地域ごと人々は生きるために必死で購っていた。
それでも地獄はどんどん広がっていって、米粒くらいの人の生活圏を年々飲み込んで行った。
人はそれに購う為、知恵を出し合い試行錯誤した結果、地獄の中心にある深い渓谷から瘴気が溢れ出ていることに気がついて、その瘴気を抑えないと早晩全土が地獄になってしまうという、絶望を知ったのだった。
17時にももう一話投稿致します。




