エピソード26 聖教会戦 VS 嘆きの聖石と、
ペトラは教皇の間に居る7人の枢機卿たちを見回し、覇気によって重圧をかけた。
枢機卿たちはその重みに頭をテーブルに押し付けられ、潰される恐怖にぶるぶると震えていた。
『ノウマク サンマンダバサラ ダンセンダマカロシャダトワタヤ ウンタラタカンマンウンタラタカンマンウンタラタカンマンヤー』
と小さく口吟むと、人差し指を向けて
「北の枢機卿、お前は国教会の者か。お前、聖教会の主祭神の名を答えよ」
と問うた。
「ああ、あ、あああ、あ、女神様、最初の、あ!ガッ」
その者はビシッと立ち上がったものの、涎を口の両端からダラダラ垂らしながら意味を持たない言葉を吐いて、急に意識を失ってバタンと椅子と共に倒れた。
「じゃあ、南のフエンテ一族のお前、お前に答えてもらおうか」
同じように、人差し指を指すと、声もあげずに『ガッ』と息を詰まらせてまた気絶した。
その様子を見ていた5人みな同じように白目を向き泡を吹いて倒れた。
ここまで、ペトラは覇気で圧をかけたのと、真実を語る精神干渉の呪文を唱えただけであるが、教皇以外は何もせずとも戦闘不能となった。
「あ、ああわあわわ、あ、あお、お、お前、」
教皇はその状況を見て、同じように喃語を繰り返していたが、意識を必死でペトラへと向けた。
「お前耐えれるのか、お前には聞きたいことが山のようにある、意識を保てよ。お前、女神の名はなぜ神職者が答えられない。なあ、聖教会とは何だ!?何のために存在している?教えてくれ」
ペトラがグッと拳を握りしめて、改めて問いかけた。
「女神女神の名、名を下々が、語ること、禁じられ、て、いる。この世界を、創られた、女神さ、ま、聖教会、魔力あ、集め、存在。やって来る時、待つ、て、る」
教皇は顔中をダラダラと脂汗まみれにして、苦しそうにしながらもどうにか答えた。
「魔力を集めて聖女を召喚するためだけの組織なのか」
ペトラが更に問いただすと、
「が、がが、そ、うだ。来ると、きを、待つ、魔力をあつめ、る、お前、たち、に、価値は無い。人も、くにも、生も。死だけが、与え、ガッ!!」
教皇は金髪碧眼の大男だが、太って醜いガマ蛙のような容姿をしていて、目蓋も脂肪で重そうに垂れていたが、その小さな目を更に窄めて、侮った顔をした。
その顔をみた瞬間、『殺す!』と脳裏に文字が浮かんで、ペトラは握っていた拳をその弛んだ二重顎に打ち込んだ。
ガッボグッと言う、骨が壊れる大きな音がして、教皇が舌をダランと出して失神してしまった。
「ペトラそこまでよワンパンでお仕舞い。殺してはダメよ。それにこれじゃ何も聞けないじゃない」
横からクラリスが現れて、ペトラの手首を掴んで止めた。
「あ!しまった。あの人を侮ったような目を見たら堪らず打ち据えてしまった!」
気絶した枢機卿たちと教皇を見回して、流石に罰が悪い顔をしたペトラが言い訳をした。
「まあしょうがないわ、とりあえず、この部屋と奥、隠し部屋を探索しましょう。そう言えば、女神様の名を聞いた枢機卿が、さいしょのって言ってたのはどう言う意味かしら?」
クラリスは離れた場所から風魔法を使って、ペトラと枢機卿、教皇のやり取りを聞き取っていた。
「そうか。調べよう」
そう言って、二人で手分けをして探索魔法を駆使しながら、聖典や秘匿文書を探して回った。
しかし、どれだけ探しても聖教会に関することは、聖女教育で使っていた教材の経典ほどの物しか無く、その代わりに、各国の王候貴族と取り交わしてきた、歴代から現教皇までの悪事の証拠や賄賂の覚書、不等に搾取してきた聖教国の税金や裏金帳簿などをたくさん手に入れることは出来た。
「本当に、どうしようも無い組織ね。人も国も生も意味が無い、魔力を集めるだけの存在って教皇自身が言ってるんだもの。死だけを与え待っている、ねえ。録でも無い!えい!!」
クラリスが先程の教皇の言葉を思い出して、ムカつき直したようで、火炎魔法を放って教皇の身を焼いた。
教皇の無駄に立派な神官服は焼け落ち、髪も髭もチリヂリになった情けない姿を晒していた。
「くそ、くそ、くそ!聖女とは何だ!この世界にとって聖女とはどんな存在だ。聖教会が与えるのが死ならば、神とは死神なのか!」
情けない姿の教皇を前に、ペトラが強く強く拳を握りしめ歯を食い縛った。
ギリリと強い歯軋りの音を響かせ、目を怒りに染めていた。
「聖女を召喚するため、魔力を集める団体、そんな物の為に、何年、何百年、何千年も、この世界に生きる者は搾取され続けてきたのか!
その代償が死!
搾取された後に死を与えるだと!
誰だ、こんな馬鹿げた悍ましいことを考えたヤツは!」
ペトラはイースランドで光属性の子が生まれず、何も悪いことをしていないのに、離縁されたり身分を剥奪されたりしていた者たちを思いだして立腹し、自分の身の自由を奪われ献身を強要されて聖女の器足れと教育をされたのに、教会への従順さが足りないと言う自分たちの利益の為に聖女になる機会をも取り上げられ、その上で押し付けられただけの婚約者に、侮られ、蔑まれて、人前で婚約破棄宣言という恥までかかされた屈辱を思いだし、その後に聖教会の不始末で多くの国民を死なせた、この不条理な秩序を考えた教会を呪った。
バチバチバチ、ゴゴゴゴゴゴ!!!
渾身の力を込めた雷撃を教会本部の建物に直撃させ、建物は轟音と共に崩壊、しかも教皇の塔は木っ端微塵に崩れ去った。
クラリスとペトラは浮遊魔法で先程まで床だった場所に浮かんでいた。
「ペトラ気持ちはわかるけど、やり過ぎよ。あの者共でも裁きの場に引きずり出す為には殺してはダメよ」
クラリスは、ペトラが憤って魔法をぶっぱなす直前に、教皇たちをアーディルの亜空間へと瞬間的に放り込んだのだった。
「聖教会など、解散だ。聖教国も別の国にしてしまおう」
ペトラが周囲の瓦礫の山のその向こうに見える家の屋根を見ながらそう言った。
「そうね、では一旦アーディルたちと合流しましょう」
そうクラリスが答えた瞬間、赤い魔力の放射が教皇の塔だった場所の瓦礫の隙間から始まった。
「クラリス、」
ペトラが声をかけ、瞬間的に展開した結界の中にクラリスを引っ張り込んだ。
瞬間、魔方陣が幾重にも展開されて、大きく光輝き、何千発もの猛烈な爆発を起こした。
「っく、」
「はっ!」
ペトラの結界が破られそうになった所に、クラリスが魔力を注いで凌いだ。
「このままでは魔力切れになってしまう」
「聖女さまの魔力が尽きると言うの!これってなんなの!?」
爆風を、爆発の熱を、聖女の魔力を注いで注いで、なんとか耐えていたが、無尽蔵に思えていた聖女から付与された魔力が引き抜かれて行く感覚に戸惑いを感じた。
そして、やっとのことで爆発が止まり、砂煙の中から男が現れたのだった。
身体の大きな男が手をグッと握りしめて独り語ちた。
「聖女の魔力だ。やっと、やっと会える、お前にまた会える」
「な!何者?」
「お前は誰だ!これは一体どう言うことだ」
ペトラとクラリスが口々に叫んだ。
茶色い髪の男は二人をじっとりと見つめて、
「ああ、お前たち聖女の器だな。やっと本当の聖女を、いや、この世界の創造主たる女神をお迎えすることが出来た。お前が聖女の魔力を注いだことで俺の封印も解けて、溜めていた魔力のおかげで元の姿に戻れた。礼をしよう」
そんなことを言い出した。
「は?え?あなた、だから誰なのよ!」
「お前何者で、誰なんだ!」
男の言葉を理解できない二人が、次々に騒ぐが、次の瞬間クラリスが使役魔法を唱えて、拘束しようとした。
「なるほど、懐かしい魔力だ。だがこれくらいでは、俺は縛れない」
フンと鼻息一つで、魔法を解除されたが、悪意は感じない。
「三度問う。お前は何者ぞ!」
ペトラが強い精神魔法を男の回りに幾重にも展開させながら聞いた。
「止めとけ、聖女の魔力の無駄使いだ。俺は、ケイト=バルベリト。お前たちの嫌っている聖教会を創った初代の教皇だ」
男がふてぶてしい笑顔で名乗りをあげた。
「!」
二人は声も出せずに驚いた。
「お前たちが探していた、こんな腐った、馬鹿げた教会を創ったバカ野郎が俺だ。俺は、初代の聖女を、俺の女神ともう一度会うために、自分の肉体を贄とし、魂を呪いとしてこの場に閉じ込めて、聖女が帰って来る日を待ってたのだ。そこで見ているんだろう?俺を呼んでくれ聖女よ!」
男は空に向かって叫びながら慟哭したのだった。




