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戦う聖女さま  作者: 有栖 多于佳


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エピソード22 聖教会

「ペトラ様、聖教国を落とすとは具体的にはどうするんですか?」


タバタが、直ぐにでも転移魔法で聖教会本部へと向かおうと魔術展開をしようとしていたペトラに尋ねると、タバタを見つめながら頷く、他の聖巫女たちが目に入った。


「ああ、その辺りの話は必要か」

チラリと北と西の聖巫女二人に目をやり、ぐわっと目力強めなクラリスが目を見開いて、さも説明必須と言うオーラを出しているのに気づき、ほうっとため息を小さくついた後、


「座ってもらえるか。とりあえず説明をしましょう」

そう答えたのだった。


「さて、我らは聖巫女と言う異世界から召喚されてやってくる聖女の魂の器であるが、聖教会とは一体何を奉っている宗教なのだろうか」

ペトラが聖巫女たちを見回して聞いた。


その問いに当たり前のように答えたのは、最年長である北の聖巫女クラリスだった。


「聖教会はこの世界の創造主である女神様を奉り、その御使いである聖女さまによって、この世界の汚れを祓って頂く、そう言うものでしょう。この世の者なら子供でもそう答えるでしょうね」


然も当然という口ぶりで答えるが、その目はペトラの質問の真意を訝しんでいた。


「そう、ではその女神さまの名は?創造主とは何を創造したのだろう」

また問えば、今度は西の聖巫女アーディルが、


「神の名を問うのは不敬、この世の全てを造られた神様なのだから」

そう答えながらも、何か思い至ったように目を細めてペトラを見た。


「では、数多の聖女さまの初めの方の名は知っている?」

ペトラが南のマルシアとタバタを見ながら聞いたが、二人は困惑気に眉を下げて首を横に振った。


「聖教とは、女神様を奉っている呈で、女神様の偉業などは語られず、聖女さまがこの世の一抹の助けだと大言壮語に言い伝える割りに、その聖女さまの名や伝説が残っているのは、ほんの数名。

普通であれば、初めの聖女様についてなぞ、伝記として語り継がれても良いはずなのに、名も残らず、召喚された経緯も、その後についても秘匿のまま。


さて、もう一度話を戻そう。この世の創造主である女神様は、この世の全てを造られた、であれば、瘴気も女神様が、神が造られた物なのだろう。


それが人に害する為、その御使いである聖女様を使わしたのだ、として、その初めの聖女様の名も経緯も残っていない。


今、教会が必要としているのは千年に一度溜まった瘴気を祓う為の道具足る聖女さまであって、祓った後はまた次の千年の為に魔力を貯めるだけの存在である。


瘴気も無くならず、消えた魔物も徐々に増えるが、それの根本的な解決なぞ考えもせず、信者の幸福も国家の安寧も祈らず、聖女召喚の儀と言う一点で、守られる存在。

本来、弱い側を守る側のはずが、守られる側にいる存在、それが聖教会であるが、それ必要か?と私は常々思ていたのだけれど、スタンピートを起こした、魔物の脅威を生む存在なぞ、悪そのものだと今はそう思う。では問おう、聖教会は宗教であるのか、いや、必要なのか、と」


ペトラの話を聞いていて、かなり序盤から結論はわかっていたが、突きつけられると、本当に必要ないな、とタバタは心底納得した。


「そうですね。聖女教育と言われて押し付けれられてきた修行も、私たちに献身を押し付けるだけのもので、その上、人類滅亡させてしまうような行動を秘密裏にしているなんて、全く必要ないですよね」

マルシアが握った拳に力を込めて、はっきりとそう言った。


「だから、先ずは現在の聖教会の解体を行う。


つまり、具体的に言えば、教皇の盾となっている聖騎士団と、教皇の剣である聖魔術師団を殲滅して、教皇の力の根元を絶つ。


そして、教皇から、もしくは教会が保持し秘匿している過去の記録から、聖教について知り、必要であれば教会は残し、必要無いと判断すれば打ち捨てる。


あ、教皇や枢機卿たちの教会上層部は、本人の存在の善悪によって対応を考えていけばいい、が、まあ、今の教皇については、完全な処罰対象だが」


そう話した。


「では、盾足る聖騎士団は、わたしが。えっと、怪力の戦士なんでしたっけ?じゃあ、身体強化魔法を使って物理で倒したらよろしいかしら?」

南のマルシアがそう言えば、


「では、剣足る魔術師団はわたくしが。暴走愛戦士って難しいわね。魅了魔法でも使って、魔術師を手中に収めたら良いのかしら?」

西のアーディルが続いた。


「私は勿論、教皇を叩く!ぼっこぼこのギッタギタに!」

西のペトラが不敵な笑みを浮かべて答えたのに続き、


「では、わたくしは、えっと霊感戦士ってどう言うことかしら。まあ出来るとしたら、精神魔法で深層心理まで覗いて、末端の神官や修道女に至るまで皆の善悪を見定め判定しましょうかしら」

北のクラリスが頬に手を当てて小首を傾げてそう言った。


聖女の器であるタバタは、

「皆さま、ペトラ様の戦隊案に乗ってあげるなんて、お優しいのですね。ペトラ様、私は誰に何をしたらいいのでしょうか」

ペトラに向かってそう聞くと、


「え?タバタあなたは既に聖教会を脱会したのでしょう?ここでその成り行きを、聖女さまと一緒に見てたらいいんじゃない?それで、聖教国を落とせたら、聖女さまには瘴気と魔物の根絶をお願いしたい。魔力の消滅と引き換えに」

そう答えた。


「「「魔力と引き換えに!!」」」

ペトラの申し出に、始めは頷いていた他の巫女たちも、その対価が魔力の消滅だと聞いて驚きと非難の声をあげた。


「魔力の消滅は困るわ、国の防衛や運営は魔力有りきで構築してあるもの、混乱してしまうわ」

と、強い口調でクラリスが言えば、

「スタンピートからの復興もまだ終わらない我が帝国も、今魔力が無くなれば立ちいかない」

と、アーディルも眉間にシワを寄せて続いた。


「私は、元々魔力無しだったので魔法が無くても良いんですけど、病気や怪我の治療なんか急に出来なくなったらやはり困る人も出てくると思うのですよ」

マルシアは控えめながらも、否定の言葉を吐いた。


ペトラは小首を傾げて3名を眺めて、そうしてぽつりと

「聖巫女たちがグスタフや自警団の者たちと同じことを言うなんて。いや、瘴気も魔物も消えても尚、魔力を必要だと言うのだからより魔力偏重になっている」

ブツブツと呟いた。


そのやりとりに、タバタの意識から表層に現れた聖女が、

「急な変化は混乱を生むとグスタフが言っていたでしょう?聖教国を落としたとしても、北の国も南の国も王家の断罪は終えていないし、西の帝国も東の国も復興には長い時間がかかるでしょう。変化は緩やかにと私も考えてます。

グスタフが言うには、次の聖女召喚を行わないとなれば、その千年の時間の中で、徐々に魔力から他の何かに置き換えて行けば、5百年位で魔力が無くなった世界にも慣れるのではないかと言ってましたし、私もその位長い時間が必要だと思いますよ」

そう言い含めた。


「では、聖女さまは瘴気と魔物を根絶してくれないと言うことですか」

聖女の言葉にもペトラが不満気にそう聞いてきたので、


「だいたい、瘴気とは何か、聖教会からそれを知ることが出来れば、聖女の力は必要なくなるのでは?あなたたちに必要なのは正しい情報でしょう」

聖タバタが、神の啓示のように重々しく告げた。


「そうですわ。それを知り、私たちがどうするか解決策を考えず聖女さまに頼るのならば、今の聖教会となんら変わらない。それでは意味が無いでしょ」

聖タバタの言葉を受けて、クラリスがペトラに向かってそう言って聞かせると、ようやくペトラは深く考える素振りを見せた後、大きく頷いて、


「そう、その通りでした。間違いを正す、それには私たちは知らねばならない」

そう言って聖巫女たちを見回して、みな頷くと、ペトラが転移魔法を素早く展開し、聖教会の本部へと向かったのだった。


ーメグ様、私はここにいて良いんですかね。


「皆さんが良いと言うのだから良いのでしょう。しっかりと見届けましょう、最後の聖女として」

タバタの問に、はっきりと答えたのだった。


ー皆さま、ペトラ様の名付けた二つ名に合わせて作戦を考えていましたけど、ペトラ様は頭脳・指揮官と言うより狂戦士のようでしたけど良いんですかね。


「良いんですよ。彼女の実力を誰も疑ってないのだから、タバタもそうでしょう?」


ーはい。聖女の器として、魔力量やら属性で選ぶのなら、ペトラ様の他は無いと思ってました。けれど、教会に与しない、言うことを聞かせられないことから、外されたのです。魔力量の少ない、私が選ばれたのは使役魔法で利用しやすかったから、たぶんそれだけですよね。


タバタが自嘲気味にそう言った。


「その冷静な諦めと反骨心が私を召喚して、使役魔法を退けたのだから、それはそれで教会にとっては都合が悪くタバタにとっては好運な召喚であって、まさに世界がこの状況を選んだのですよ」


聖女は慰めるでもなく言葉を溢して、二人、この世の成り行きを静かに見続けようと思い至ったのだった。

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