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戦う聖女さま  作者: 有栖 多于佳


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エピソード21 聖石と神の助けとなる者 後編

磨かれた大理石のテーブルを挟んで向かい合って座るグスタフを聖タバタはじっと見つめていた。


ーメグ様、珍しいですね。お相手を呼び出すなんて。


ー他の国の聖巫女のパートナーと彼は大きな違いがあるんだよね。


ー北と南の聖巫女のパートナー(屑たち)は除外するのは当然ですけど、西の皇帝とは聖巫女を支える役割を全うしていて、似てますけどね。


ー彼はただ1人聖女の血を引かない、王候貴族でも無く、魔力も無い人なんだよね。


じっと見つめられて落ち着かない様子で視線を泳がせているグスタフは、内心で聖女とタバタが話し合いをしているなんて全く思いもよらない。


「突然呼び立てて、ごめんなさいね。あなたにペトラのことを聞きたくて」

聖タバタの言葉を聞いて、

「そうですか。彼女の願いに関してですか?」

なにか思い当たったようにアッと驚きの表情を見せ、そう返事をした。


「ええ、この世界の大きな転換点に、あなたの意見が知りたいの」


グスタフは、スタンピートの後から自分が国王になった経緯、その間のペトラのことを話し出したのだった。



グスタフは、イースランドの東の果ての村、辺境地区に昔から住む村人だった。

イースランドはほぼ9割の国民が王都とその周辺に住んでいるので、そこから離れれば離れただけ住む人の少ない手付かずな草原であった。


その最果ての地、魔物の住まう大森林を目視できる程度の距離にある村の一つにグスタフ一族が住んでいた。


人の往来もほとんど無い、人口の少ない土地であっても、住めば都、グスタフの祖父も、父も、母の一族も、最果ての地の村で、時に農夫、時に猟師、時に魔物退治の自警団員と一人何役も担って暮らしていた。


断崖に建つ聖教会の神殿と神官が、冠婚葬祭を取り仕切り、病や傷を癒すポーションを授け、遠く離れた王都から物資や情報を運んでくれる、辺境地の拠り所として生活に密着して存在していた。


村では手に入らない薬や調味料など必要な物は各村の村長が取りまとめて、王都に行く神官に頼んで購入して貰ったり、魔物の素材や魔石を王都の聖教会で購入して貰って現金を得たりと、この地では教会が無くてはならない存在であった。


絶壁に建っているその神殿は、波と滴り落ちた地下水で削られた洞窟のようになっていて、その地下に船着き場を持っていて、神官たちは王都との往来を船で行っていた。


それとは別に断崖から海面へ、人一人が通れるほどの幅の長く細い階段も造られていて、村人たちはこちらを利用していた。


今までは神官たちだけが王都へ行っていたのだが、この教会から王都の港を経て聖教国へと持ち出す荷物が多くなってきたので、何人か人足として手伝って欲しいと大神官から依頼を受けて、力自慢の村人たち数人が同乗することになったのは、聖教国からペトラが無理矢理送り返された年、グスタフが18の時であった。


数年間、半年に1度の頻度で王都へ行って聖教国の動力船に荷物を積み変えていたのだが、荷物の量は年々増えて、スタンピートが起きたあの年には毎月のように人足仕事に従事していた。


グスタフも他の村人たちも、その荷が何かと同船している神官に聞くのだが、神官たちは世界の為に魔術で色々創っていて、その道具やら素材やらのやり取りで荷物が増えているんだとか言っていた。


だから、グスタフたちは、田舎者の自分達も世界の為に手伝っているのだと、誇らしい気分で仕事に当たっていた。


蓋を開けたら、教会と王族が共謀して、魔物の魔力を込めて失敗した危険な代物を運ばされていて、あの日、とうとう魔石が孵化して王国中に蔓延って人を襲うスタンピートが起きたのだった。


船で作業していた人足たちは最前列で魔物に襲われ喰われ、グスタフも毒蜂が大きな黒い塊になって襲われ刺され、身体中が爛れて呼吸困難になり、死にかけていた所を、偶々ペトラに助けられて九死に一生を得たのだった。


王族も神官たちも国を捨て聖教国へと逃げてしまい、魔物の恐怖に支配されている時、ペトラが生き残って動ける者、戦える者を集めて、魔物討伐をする自警団を組織して屠って廻った。

グスタフも命の恩人に心酔して、言われるままに、魔物討伐を行ったのだった。


王都の騎士や貴族の生き残りの者よりも辺境で魔物退治を元々していた経験者で、2メーターもある大きな体躯のグスタフは自警団でもペトラに次ぐ実力者となって、彼女の隣で魔物を殺して殺して殺し歩いた。


やっとのことで平穏が訪れた頃、しれっと王都へと戻ってきた王家と教会関係者を捕らえて、吐かせて処刑して、この大惨事に一応の終息をみた。


すると、今まで軍神か戦女神かといったカリスマ性で自警団を取りまとめていたペトラが、イースランドの国の解体を主張するようになった。


「おい、ペトラさまよ。そりゃ、どういうことだ?」


「どういうとは?好きに生きれば良いさ。何をしてくれる訳でも無い領主になぞ従う必要が無いのだから、各々自分の生業をして、好きなところで、好きに暮らせば良い。どこにいたとて、瘴気も魔物も、脅威があると知ったのだから、その脅威の中で暮らしていくしかないのだから」


ペトラは至極真剣な顔つきでそう宣った。


「いや、そんなペトラさま俺たちを見捨てるのかよ」

「私は自分の領地は今までのように統治するぞ」

「また魔物が出たらどうすんだ」

「ペトラさま、聖巫女な癖に逃げるのか」

ペトラに従っていた自警団の者が口々に文句を言い出した。


「見捨てるとか聖巫女の義務とか知ったことか。統治したければ、従う領民がいるのなら統治すれば良いし、魔物が出たら自分達で対処したら良い。今までしてきたじゃないか」

ペトラの宣言に、従ってきた者たちの目に失望が拡がっていった。


「ペトラさま、じゃああんたはこの後どうするのさ」

グスタフがみんなを代表して質問すると、


「聖教国を落とす!そして、聖女の器に私がなる。聖女の力を最大限に活用したら、この世界から瘴気を完璧に抹消出来るはず。出来なくても、瘴気とは何かを知ることが出来れば、異世界から聖女の魂を呼ぶ必要も無くなりその儀式の為に、魔力を奉納すると言う義務が無くなる。


そうすれば、王候貴族、教会関係者が()()()()()などと言う偽善的な義務が必要無くなるだろう、そうして、自分達で生活を向上させていけば良い。


だいたい問題を誰かに押し付けて、押し付ける役が私服を肥やす今の姿は、全く正しく無い。正しくない、間違っているものは正さねばならない!」


仁王立ちで拳を握りしめて『正さねばならない!』と強く言いきる姿は、溢れ蠢く魔物をなんの迷いもなく屠って歩いた、あの神々しい姿を彷彿させた。


「そうは言っても、聖教国を一人で落とすってのは無理じゃないか」

「あと数年で聖女召喚の儀の時期になる、その秘技は聖教国しか行えないんじゃなかったか」

「もし、ペトラさまが本当に聖教国を落としたとして、秘技が失われたら二度と聖女召喚が叶わないんじゃないか」

「それじゃ、瘴気に飲み込まれて人類滅亡してしまう!」

やはり、自警団の者たちが心配ごとを口々に言い出したが、


「私は全属性持ちな上に魔力量は教皇倪下よりも余程多い、負けるはずが無いじゃない。


秘技については使役魔法で教皇を縛って聞き出せば問題無いし、もし聖女が来なかったら来なかったでそれはもうしょうがない。


それで瘴気に飲み込まれて人類滅亡してしまるのなら、それももう、しょうがないじゃない」


腕組みをしながら、うんうんと頷きつつ、達観した顔でそう告げた。


ペトラはすっかり正義の道筋を自分で決めて、その結果を受け入れる腹が決まっているようではあるが、それを受け入れられるほど、聞いている者たちは覚悟を持てない。


みんな恐ろしく重い空気の中チラチラとお互いの顔を見合い、何かものを言いたい雰囲気ながら、ペトラの発言が正論すぎて言葉が出なかった。


「そうは言っても、生き残った者の中には年寄り子供、病人怪我人なんかの弱い者も多く居る。それを放り出して突き進むのは、果たして正しいのか」

そんな空気を裂くように、グスタフが落ち着いた声でペトラに聞いた。


「正しいだろう、このままで居ても何も変わらないなら、進むべきじゃないか」

ペトラは躊躇も無くそう答えたが、


「いや、正しくない。もうほんの少しで聖女召喚が行われ、瘴気が消え魔物も居なくなる。平和な時代がき来てから聖教国を落としても遅くないだろう。リスクは少ないほど苦しむ人が減るんだから」

グスタフが正論で言い返した。


「!!!」

「「『!!!!』」」

ペトラも周囲の人々も、グスタフの言い分に納得して驚き、声を失った。


これが切っ掛けでグスタフが中心に、つまりイースランド国王となって国を再建していったのだった。


「とまあ、こんな感じですが、聖女さま。ペトラさまは、聖女さまに願ったのでしょうか、この世の全ての魔力と引き換えに魔物と瘴気の無い世界の構築を」

グスタフが聖タバタに質問すると、


「そうね。彼女はそう願って、それは可能だと私も思う。

聖教会も魔力に重きを置いた価値観も無くし、異世界の聖女に頼るこの間違った、歪な世界を造り変えようと、そんな願いを聞かして貰ったのだけれど、これはイースランドだけの問題じゃ無いでしょ?世界中の問題で。


他国にも他の聖巫女にもそれぞれ思いがあって、今直ぐにと言うのは難しい、と、私はそう思うのよ。あなたは、魔力の無い聖女の血を引かない者として、魔法の無い世界をどう思う?」


「俺にとっては、魔法なんて日常に一つも無くて、病や怪我は煎じ薬で何とかするし、大事の時には神殿で治療薬を貰う人もいるけど、それは高価で俺の家では使わない。


魔物だって、怪我を承知で剣と槍で脳天をカチ割って倒すし、毒に侵されても毒消草を煎じて解毒する、解毒が出来なきゃ死んじまうだけで、村の男の死因に必ずそれがある。


ただ、魔物と瘴気があって普通の辺境暮らしだったけど、無いならそれに越したこたあないし、魔法が使えればそりゃそれで便利だ。


だから、特別大掛かりな変化を俺は望んじゃ居ない。

ペトラさまみたく難しく考えても良いけどさ、やっぱ人や国にはそれぞれ柵があるからさ、もし魔法を無くすにしても、これからの千年の猶予期間の間、いや半分の五百年くらいの時間の中でゆっくり変化していった方が良いんじゃないかな?急な変化はみんな戸惑う」


真っ直ぐ真剣な顔つきで、ちょっと訛った言葉使いで、そう答えたのだった。


ー聖女さま、グスタフさんってめちゃくちゃちゃんと考えてる人ですね。ペトラさまの考えも分かるんだけど、一気に全部を塗り替えるのなんて無理ですよ。それを分かって貰えないのかな?


タバタが内心でグスタフを絶賛している時に、聖タバタはグスタフに

「その話を先程いた修行部屋(満喫)で、西の聖巫女と皇帝も入れて話して貰える?それで、時間がきたら、もう一度話し合いましょう」

そう告げて、指を振って下の部屋へと送った。


修行部屋のカラオケ部屋に西の二人とペトラと四人で入り、教会と王家が魔物を使役して魔力抽出していたが不安定な魔石が孵化したことからスタンピートが起こった話しをした。

聖タバタとも聖域で話して、自分と聖女の意見が同じだったことも話して、三人の意見を聞いた。


そうこうしていると、終了時間となって、戻った聖域では、北と南の聖巫女も既に待っていたのだが、その部屋は大きな鏡(プロジェクター)とホワイトボードのある会議室であった。

進行役の聖タバタが声をかけた。


「西のお二人と東のお二人は隣同士にお掛けください。今から、ペトラさまからの提案を審議します」



鏡には、西と東で起こったスタンピートの状況が大きな鏡(プロジェクター)に映し出された。


北と南の聖巫女二人は、知らなかった酷い有り様に口に手を当てて驚き、眉を潜めた。

「聖教会は、聖騎士や神官の派遣をしなかったの!?」

「王族が国を捨てて逃げるなんて!」

そんな囁き声があがった。


次に、ペトラとグスタフが乗り込んだ東の端の神殿の地下室の状況が映された。

コカトリスの鳴き声に呼応して、魔方陣が光、魔石から魔物が孵化する様子も、黒紫に変色した魔石の状況も、それを処分していくペトラと自警団の姿も映された。


「!!!!」

「聖教会の仕業だったなんて!」

「魔力奉納用の魔力を魔物から抽出するなんて!」

「このせいで多くの人が亡くなるなんて!」

聖巫女たちの怒りのボルテージがグングン上がっていく。


すると、ペトラがスクッと立ち上がって、自身の指先を振って、大きな鏡(プロジェクター)聖女教典(美戦隊マンガ)を映し出した。


「私たちはまごうこと無き(サラ)であるから美戦隊聖羅(サラせんし)に相応しい。


聖女の器足る聖タバタは、ドジで泣き虫な愛と正義のリーダー聖 月(サラルーナ)、聖クラリスは霊感戦士聖 火星(サラマーラ)、聖マルシアは怪力戦士聖 木星(サラユピテル)、聖アーディルは暴走愛戦士聖 金星(サラ メロシェン)


そして私はこの戦隊の頭脳であり、指揮官の聖 水星(サララトシュ)として、あなた方戦士たちを率いて本当の悪を打ち落とす、敵は聖教国に在り、


聖女に代わって聖巫女の粛清(お仕置き)よ!」



ペトラが映した戦闘シーン(アニメ)を一同がみた後、何やらキメポーズの練習をして、忘れる前にと一路聖教国にある聖教会本部へ向かおうと意見が一致した。


この世界の大掃除がこれから始まるのだった。





ラーイとグスタフは聖タバタによって、強制帰国させられました。

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