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戦う聖女さま  作者: 有栖 多于佳


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エピソード15 年上皇后の誤解と推理 前編

「聖女さまにお願いがございます。どうか、ウエス帝国のアッ=ラーイ皇帝陛下へと御慈悲を平に平にお願い申し上げます」


アーディルがソファからスッと横にずれ、床に座り込み手をつき、額を擦り付けて懇願した。


「その為であれば、我が身を、この命を、聖女さまに捧げますので、我が皇族へその尊い血をお与え下さい」

身を震わせながら言葉を重ねるその姿には悲壮感が漂っていた。


「あなたの命を捧げるって言われても、私、魔王じゃないから要らないよ!あと、タバタが聖教会脱会しちゃったしさ、タバタもお宅の皇帝の所にわざわざ嫁ぐ義理も無いでしょうし」

タバタの口から聖女の率直な言葉が返された。


ーええ、メグ様もっと強く拒否して下さいよ!嫌ですよ、人の旦那に手を出すなんて考えたくも無いですよ!


「今、タバタが猛烈に拒否しているから、本人から聞いてみて」

そう言うと聖女は目を瞑り、すぐにカッと目を見開いた。


「アーディル様、嫌ですよ。何で私がわざわざ人の旦那に抱かれなきゃいかんのですか!先に私が聖女さまに願いを聞かれて自由になることを認めて貰ってるんで、お願いされても御免です」

如何にも嫌そうに顔を歪めて、砕けた口調でそう返事を返した。


「!!」

その言葉に弾かれるように顔を上げて、キッとタバタを睨み付けて

「あなた!その口の利き方!大体、なぜ聖女さまに勝手に望みを願ったりしたのです!あなたは器としてその身を捧げる立場だったでしょ?その挙げ句勝手に脱会まで世界に宣言なぞして!」

そう言って強く非難した。


「なに言ってんすか、アーディル様だって、皇帝の妃を願うとか、教会の意向じゃないでしょ、それ帝国の意向ですよね。自身の希望を願ってるんだから、結局同じじゃないっすか」

タバタはぞんざいな口調で顎をシャクってそう言い返した。


「まあ、まあ、まあ、まあ!同じ!同じだなんて、失敬だわ!わたくしは帝国の為に!タバタ失礼よ、訂正なさい」

アーディルは立ち上がって怒りにワナワナ震えながら指を指して声を荒げた。


「アーディル様、人を指差すなどお行儀が悪いですよ、まあ座ってくださいよ。


帝国の為に私があなた様の旦那様と交わることも、子を成すことも、帝国に聖女の血を残すこともそれはあなた様の思い。聖女さまの魂を受け入れて私の魂が消滅するのを受け入れさせられた私が、本心で聖女さまに誰彼の思惑に囚われない自由を願ったのは私の思い。


個人の思いに高低など無いと聖女さまは仰ってますよ。


しかも、本心を聖女さまに問われているのに、あなた様は本心をお隠しになって、聖教会の、()()()()()()()、あの大神官の思惑を述べるなど、逆に、聖女さまに対して失礼なのでは?」


今度は、少しすました顔と言葉で、タバタはアーディルに言い返した。


「!!!」

タバタの言葉に息を飲んだアーディルは指していた手をダランと下げて、目を伏せた。


「座ってアーディルさん、そしてこれを見て頂戴」

タバタからの先程とは違う声色にハッと顔を上げ、その顔を見て、暫く佇んでから、ソファに腰かけて、指指されたテーブルの上に目にやった。



大理石の白乳色のテーブルがボワンと歪んで、そこに黒い闇の中に揺らめくランプに映し出された大小の人影が浮かんでいた。


それは、皇居の裏庭に造られた池の側の東屋で、赤子を抱く男と彼に寄り添い話しかける二人の女児たちの姿だった。


「父様、父様、いつ母様はお戻りになるの?」

「ははさま、どこ、あいたい、アーン」

小さな女児が拙い言葉を話しながら泣き出した。


その声に、男の手に抱えられている乳児がふえーふえーと釣られて鳴き声をあげた。


「ああ、泣かないでおくれ、ハムザよ、ああ、ラフマもとと様の膝へおいで」

泣いている乳児をヨイヨイとあやしながら、もう一人の女児を膝に乗せてその髪を撫で、頬を伝う涙を拭ってやりながら、目を自分の服の袖口をギュッと握っている大きい方の女児に向けた。


「サルマ、大丈夫だ。とと様が、聖女さまにお願いするから心配しないでおくれ。


明日は、この足、義足だけでなく本当の足を、供物として祭壇に捧げて、かか様の帰還を願うよ。それでもダメなら次の日は、この耳を捧げ、目を捧げ、それでもダメなら、とと様の命を捧げてでもかか様を取り戻すから、お前は妹弟を頼むよ」

磨かれたテーブルに映って、幼子相手にとんでもなく物騒なことを頼んでいる美丈夫が居た。


「ふ、ふえーん、あーん、わー」

その言葉にサルマも顔を歪ませて目から涙を溢れさせ、号泣し始めた。

その声に他の二人も釣られて大泣きし始め、子供の鳴き声の大合唱となった。

「ああ、サルマ、ラフマ、ハムザ、不甲斐ないとと様を許せ、グッ」

子供たちの泣き声に成す統べなく、膝に抱く女児の髪に顔を埋めて、その男も泣き出した。


映された永遠のような四人の泣く姿を見て、アーディルがグッと眉間に力を入れた。


「アーディルさん、出産したばかりなのでしょう?体調は大丈夫なの?と言うか、聖女の血を引く子たちは既にいるじゃない」

聖タバタがそう言った。


「子を成し、減ってしまった皇族を増やすのはわたくしに課せられた使命ですから。それとは別に、陛下には聖女さまの愛が必要なのです」

アーディルがそう言うと、


「聖女さまの愛を求められても、タバタが嫌だって言ってるし、無理だよ。それにあなた、使命とかじゃなく彼を愛しているのでしょう?そのまま愛し続けてあげたらいいじゃない」


「わたくしは、前皇帝の妃だった義母にもあたる者ですよ。年上のわたしなど、すぐに子を成す必要の為の偽りの妃。しかもその力は聖女さまの足元にも及びません。もし、深く愛してくださったのなら、陛下の足が治るやも知れない」


「それは無理だと知っているのでしょう?聖女は女神では無いのです。


人ですから、死からも病からも逃げれません。同じように、欠損した身体は戻らないし、思考上で明確にならなければ病も治癒しません。喉が痛い、胸が苦しいと言うものを癒すことは出来ても、病を得た心臓を新しくすることは出来ないのです。


そんなことが出来てしまったら、不老不死にもなれましょうが、それは神の領域。あなたが出来る聖魔法と大差ないことは、本当はわかっているのでしょう?」


真っ直ぐ向けられた目は、アーディルの心の内を見透かすようで、アーディルは聖タバタから目を反らした。


「大体、足、耳、目って捧げられても困ります。あの義足だって、私が貰ってもしょうがないでしょ。

あと、あなたたち、命を捧げすぎじゃない?私は曲がりなりとも聖女なのでしょう?


人の身体の部位や命を捧げられて願いを叶えると思われているのなら、それは聖女ではなく悪魔では?

聖女の器を捧げるって考えも、根底は同じでしょ?他人の命を代償にして願いを叶えるなんて、悪魔崇拝のようで、とても不謹慎だと思うのよ」


聖タバタは、大いに憤慨して、厳しい目をアーディルに向けた。


ー本当ですよ!清貧と献身を()()()()()()聖巫女たちには言いつけて、自分達は全くそんな気もなくて!むしろ教会関係者(あいつら)が悪魔その者ですよ!


内心でタバタも大いに毒ついていた。


「まあ、兎に角、足やら耳をフライングで切り落とさない内に、あなたたち夫婦は話し合いなさい!」


そう言うと聖タバタがもう既に身体に馴染んだ、何だかそれらしい節回しで手を振り回し、九字を切って跳び跳ね、念を込めて呪文を唱えた。


ードラゴボシュギョウテイバン、トキトセイシンノヘヤ、マンキツコシツエディショオーーーォン


すると緑の光が強く大きく輝いて、今いる部屋の床を揺らし、ボワンと言う音がまたまた鳴り響き、アーディルと東屋にいたラーイが消えた。


そして、二人はマン喫のカップルシートで向かい合って座って、見つめ合ていた。


ーあ、子供は乳母たちの所へと転送させて、寝かせつけておくように啓示しておいたし、あのサルマにラーイが言った供物の話も夢ってことにしといたから、ゆっくりきっちり話し合いなさいよ!


アーディルとラーイの脳裏に黒髪眼鏡の女の姿が浮かんでそう言って消えた。


コクンと頷いて、どちらとも無くそっと手を伸ばして、抱き締めあったのだった。



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