エピソード10 酷使されていた大王の聖王女 復讐 前編
「これは、酷い!まさかマルシアがここまで酷い扱いをされていたなんて!」
肩書きは大王の養女である王女だが生まれが平民なので修道院での扱いがタバタと同じくらい雑だったマルシアには、年が近いこともあり一緒にいる時間も他の聖乙女より長いため、少しばかり親しい気であった。
適当に手を抜いて聖教会を信用もしていなかったタバタより、聖女教育にも熱心に取り組み、万事控えめなマルシアの方が聖女の器にふさわしいと言う聖教会内の声にも、そうだろうなと納得していたし、その信心深さも尊敬していた。
それが、単に魔法で人格を縛って、リノー派の大神官やアラリコに都合良く使役される奴隷として扱われていたなんて!と、驚きと怒りが沸き起こった。
ーメグ様メグ様、これ、サザランド王国に、主にフエンテ一族に制裁を与えなきゃダメじゃないですかね!
タバタが胸中で聖女へと語りかけていると、
「うううううー、ああ!!」
突然、ソファに座っていたマルシアが頭を抱えて身を丸め、蹲り悲鳴を上げた。
「マルシア!マルシア大丈夫?」
タバタが驚いて立ち上がり、マルシアの側に寄ろうとすると、マルシアは
「ハイ!ハイ!聖女様!」
ガバッと身を起こし、顔をギュインとタバタに向けると手を真っ直ぐ上に伸ばしてタバタへと返事をした。
「あ、あの大丈夫なの?」
タバタがもう一度質問すると、
「大丈夫です。魔力判定の日からのことを脳内で一気に思いだして、余りに酷い扱いに怒りが込み上げてきただけですから!!発言しても良いですか?」
手を上げた姿勢のまま、マルシアが目力強め眼圧強めで大きな声でハキハキと答えた。
「ああ、ええと、マルシア。手は下げて。どうぞ」
先程までと変わって、タバタの中の聖女メグが意識に表れてそう返答した。
「アタシのことを好き放題利用してきたフエンテの奴ら、自称夫と大神官は特に酷い目に仕返ししたいです。後、大王の王女も辞めたいし、フエンテに指示された各島の王子たちと巡礼と言う名の子作りなんて絶対したくないんだけど!」
マルシアがハッキリきっぱり言い切った。
「島巡りの子作り・・・。フエンテに指示された者と。そんな性奴隷みたいなことを歴代の巫女たちはさせられていたのね!
その身の聖魔力を搾り取られ、次々子を産まされて、だから本来は強い癒しの魔力のお陰で長寿が約束されている聖巫女がサザランドでは短命だったのね!
況してや死後も結界として利用しているくせに敬うこともないなんて、絶対に許せない!
マルシア、大王の娘も巡礼もしなくて良いよ。そしてあなたの思う仕返しってどんなものか教えて?」
聖タバタがマルシアに熱い眼差しを向けてそう問うた。
「アタシ、島の両親の下に帰ってただのマルシアに戻って良いんですね!あざーす」
ブンっと風圧強めに頭を下げ、姿勢を正した後、今度は片方の口を上げて歪んだ笑みに冷たい眼差しで遠くを見てから、聖タバタの目を真っ直ぐみて語気を強めて、
「ぶっ飛ばしたいです。ボッコボコにやっつけて、気が済むまで殴り倒したいです、グーで。その後、アタシと歴代の聖巫女にしてきた非道をみんなに知らせて失脚させたい!」
はっきりとそう言ったのだった。
「そう、じゃあガツンとやっちゃいな!その前に修行部屋に行って修行して、身体と心の回復もして」
聖タバタが新たに呪文を唱えた。
ードラゴボシュギョウテイバン、トキトセイシンノヘヤヨ、リニュウアルウゥゥゥ
今度も、何だかそれらしい節回しで手を振り回し、九字を切って跳び跳ね、念を込めたらしい。
すると緑の光が強く大きく輝いて、今いる部屋の床を揺らし、ボワンと言う音がまた鳴り響いた。
マルシアの姿がその場から消え、無事に修行部屋で修行にあたり始めた。
ー聖女さま、今度の修行部屋は前とは違うのですか?
タバタが内心で問いかけると、
ークラリスの居る修行部屋にフィットネスジムを併設しました。そこでマルシアはボクササイズを修行として行うことができますし、聖女教典も増やしました。心身共に強くなってマルシアの本懐を遂げて欲しいです。
リノー派の神殿に、マルシアを先頭にサザランド大王と臣下の聖騎士たちが雪崩れ込んだ。
「な、なにを。いや、聖王女マルシアか、良く戻った」
フエンテ一族の長で大神官が、醜く太った体をのそのそと起こし、広く豪奢な寝室の大きな寝台で自分に纏わりつく裸体の複数人の女を乱暴に払いながら、訝しげにそう声をかけた。
マルシアは全身に黄緑色の光を強く纏い、真っ直ぐに右手を上げて大きく振った。
すると、場面は一転し、神殿がボフンっという破裂音と共に吹っ飛んで土台のみとなった。
大広間に、四隅にロープが張られた舞台が用意され、その上にマルシアと半裸の大神官二人が立っていた。
その周りにはフエンテ一族の者とそれに連なる者たちが、強い重力で膝を床に突いた姿で舞台を取り囲むように集められていた。
その中に、マルシアの夫であるアラリコ枢機卿の姿もあった。
「今まで、散々アタシの人格を契約魔法で縛り、魔力を搾取し、奴隷のように使役したな!この酬いは聖女さまの名においてお前たちフエンテ一族にきっちりと返してやるからな!先ずはお前だ、大神官!この金髪豚野郎が!」
マルシアの雄叫びに続いて、どこからかカンと言う金属音が大きく響き渡った。
マルシアは粗末な神官服を腹辺りで紐で止め、乗馬用のズボンにブーツを履いていて、手には赤い手袋をはめていた。
大神官は、半裸に短いズボンと手に赤い手袋をはめてマルシアに向かいあった。
「なにを戯けたことを。エイ!」
手袋を投げ捨て、魔力を込めた指先をマルシアに向けて使役魔法を再度かけようとしたが、何も変化は起きなかった。
「お前、使役魔法がいつまでも使える訳無いだろう。もう魔方陣は消し飛んだのだから!フン、向かって来ないなら、こちらから行くぞ!」
そう言うとマルシアはファイティングポーズから素早く大神官へと足を進め、ワンツーワンツーと左右の拳を大神官の顔に打ち込んだ。
「グオハッ!ゲホッ!」
殴られた大神官はロープ際まで連打を受け追い込まれた所で、マルシアが放った重たいパンチが腹に決まったことで、蹲り身を捩って嗚咽た。
はあはあと涎と鼻水を垂れ流しながら見上げた聖マルシアは、その目に怒りの炎をメラメラ燃やしているのが見えて、大神官は恐れと先程殴られた痛みでぶるぶると身を震わせた。
「ま、マルシア、いや、聖王女マルシアさ、さま。どうかご慈悲を!」
大神官はそのまま額を四角い舞台のマットに擦り付けてそう願った。
「大神官、あなた、自分が、そしてフエンテ一族が長らく聖巫女たちにしてきたことを理解しているの?」
マルシアは平坦な声色でそう問いかけた。
「は、ハイ。それはもう深く、深く反省しています。契約魔法でその人格を縛って使役してきたこと、我ら一族に都合良く利用してきたこと、ここに深くお詫び申し上げます。どうか聖女さまのご慈悲を」
大袈裟に嘆き平伏して、この場をやり過ごそうと大神官がチラッと突いた両手の間からマルシアを窺うと、
表情の見えない顔をしたマルシアが、
「そう、これからは奴隷のように聖巫女を使役しないと悔い改めると誓える?」
と聞いてきたので、しめしめ結局平民の世間知らずの愚か者めが!と心の中で悪態をつくも、そうは思わせない懴悔の仕草で答えた。
「そうですか、ではお立ちなさい」
マルシアがそう即したのを聞いて、打たれた腹を庇いながらヨロヨロと立ち上がると顔を上げた。
暫くなにも言わずジッと見ていたマルシアがすごい早さで一歩を詰めて右の拳を大神官の顎に打ち込んだ。
「アガ!グホッ!」
大神官は高く宙を舞って白目を剥いてマットに倒れた。
「だが断る!フンっお前らに与える慈悲などあるか!馬鹿者が。お前たち一族はもうすでに死んでいる!」
ビシっと拳を付き出して、倒れた大神官にそう言うと、四角い舞台を取り囲むフエンテ一族の者たちを見回して、
「次の相手はお前だ!」
マルシアを拐って無理矢理契約魔法した夫アラリコを見つけて大声を上げたのだった。




