9 何だかもモヤモヤする
薄暗い洞窟の中で、鏡太朗は龍雷の柄を両手で握り、思考を巡らせていた。
『どうしたらいい? どうしたら大ムカデを倒せる? やっぱりいざとなったらお札を剥がすしかないか……』
その時、鏡太朗の脳裏に、昨日もみじが険しい顔で言った言葉が蘇った。
『ぜってーに二度とお札を剥がすなよ! 最終形態に変身したおめぇの強さは、もうあたしたちにどうにかできるレベルじゃねぇ! 今度お札を剥がしたら……、数え切れないほどの大勢の命が失われることになる』
鏡太朗は眉間にシワを寄せた。
『いや、ダメだ! お札を剥がしてしまったら、大ムカデは倒せても彩奏さんと芽衣里ちゃん、クロリリィちゃんが危ない! きっと大ムカデ以上の危険が三人を襲うことになる! お札は絶対に剥がさないで闘うんだ!』
その時、鏡太朗の足の下の地面がもの凄い勢いで持ち上がり、大ムカデが赤黒い柱のように地上十メートルの高さまで姿を現した。
鏡太朗は大ムカデが体を現す直前に地面を転がり、大ムカデを避けていた。
大ムカデのグロテスクな口がある先端部分が空中でカーブを描くと、龍雷の柄を両手で握って身構える鏡太朗に向かって襲いかかった。
「龍雷よ、大ムカデを打てえええええええええええっ!」
地面の上に伸びていた龍雷が跳ね上がると、鏡太朗に向かって一直線に迫る大ムカデの頭部を左側面から強打した。大ムカデの頭部は右に大きく振られたが、何ごともなかったかのように、再び鏡太朗を目がけて襲いかかってきた。
鏡太朗は龍雷を操って大ムカデの頭部を下から強打し、大ムカデの頭部は上に振られた。しかし、大ムカデは何ごともなかったかのように、再び口から鏡太朗に襲いかかった。
『ダメだ! 全然ダメージを与えられない!』
大ムカデの突進と鏡太朗が操る龍雷は、激しい応酬を繰り返した。
『ちくしょう! 膠着状態を突破する糸口が見つからない!』
その時、鏡太朗の背後の地面から大ムカデの尻尾が飛び出して地上十メートルまで姿を現すと、鏡太朗の右脇腹を横に払い、鏡太朗は龍雷の柄を握りしめたまま、苦悶の表情を浮かべて空中を吹き飛んだ。
「うわああああああああああああああああああああああああっ!」
鏡太朗は五十メートル吹き飛んで洞窟の壁に叩きつけられ、間髪を入れずに大ムカデの口が鏡太朗に迫った。
「だああああああああっ!」
鏡太朗は全力で壁を蹴って地面に転がり、大ムカデの頭部が洞窟の壁に激突した。地面に転がっている鏡太朗に向かって、大ムカデの巨大な尻尾が振り下ろされ、鏡太朗は背中を強打されて絶叫した。
「ぐわあああああああああああああああああああああっ!」
鏡太朗が操る龍雷が、鏡太朗を押し潰している大ムカデの巨大なしっぽを払いのけ、鏡太朗はよろよろと立ち上がった。
『大ムカデの攻撃は強烈過ぎる……。こんなのを何度も食らったら、食われる前に死んでしまう……』
鏡太朗の視線の先では、洞窟の地面が大きくめくれ上がっており、百メートルある大ムカデの全身がカーブを描いて地上に姿を現していた。
洞窟の天井の中央付近では、クロリリィが浮遊しながら鏡太朗と大ムカデを見下ろしていた。
『重罪人の鏡太朗が痛めつけられるのは、当然の罰なんだけど……』
クロリリィは複雑な表情を浮かべていた。
『何だろう? 見てると、何だかモヤモヤするのよねーっ! これも病気の症状なのかしら?』
戦闘モードのコアちゃんが、人気が全くない町の上をゆっくり飛んでいた。その右腕にはまふゆ、左腕にはナツを抱えており、背中にはさくらと來華がしがみついていた。四人は意識を集中して町の様子を確認していた。
「なんだか胸の奥が苦しくて、焦燥感を感じるんじゃ」
來華が硬い表情を浮かべながら、唐突にさくらに向かって言った。さくらは不安を浮かべて來華に訊いた。
「ライちゃん、それって魔物の気配を感じたの? それとも……」
さくらは朝死川村を探している時に、來華が鏡太朗の命の危機を感じ取ったことを思い出した。
『まさか、鏡ちゃんに危険が……? でも、どうしてあの時、ライちゃんは鏡ちゃんの危機を胸の痛みで感じたの?』
來華は思い詰めた表情を浮かべていた。
『よくわからんが、鏡太朗に危険が迫っているように感じるんじゃ。鏡太朗、無事でいてくれ。しろっぴー、わしに幸せを運んでこなくてもいいから、鏡太朗を守って欲しいんじゃ!』
來華は真剣な思いを込めて、心の中でしろっぴーに語りかけた。
「え? 何じゃ?」
來華が突然驚いた様子を見せ、さくらが不思議そうに來華に訊いた。
「ライちゃん、どうしたの?」
來華はスカートのポケットから携帯用薬ケースを右手で取り出し、じっと見つめながらさくらに言った。
「いや、何かわしの思いが、しろっぴーに伝わったような気がしたんじゃ。言葉じゃ上手く説明できないんじゃが、しろっぴーと心が触れ合ったように感じたんじゃ」
さくらは微笑みながら來華に言った。
「きっとライちゃんの思いは、しろっぴーに伝わるんだよ! 幸せを感じることって、人によって違うでしょ? 幸せを運んでくれるってことは、ライちゃんがどんなことに幸せを感じるかが、しろっぴーにはわかるんだよ」
さくらの脳裏に、微笑んで見つめ合う鏡太朗と來華の姿が浮かんだ。さくらは思わず右手を胸に当てた。
『鏡ちゃんとライちゃんが二人で楽しそうにしていると、胸が痛い……。でも、誰かの心を自分の思い通りにしたいって願うことは、絶対に間違ってる。いつか、鏡ちゃんとライちゃん、そしてあたしも、みんながそれぞれの幸せを感じながら笑って過ごせる日が絶対に来る! 今はそれを信じるんだ!』
來華はすがるような眼差しで、右手の中の携帯用薬ケースを見つめた。
『しろっぴー、お願いじゃ! 鏡太朗を守ってくれ!』
携帯用薬ケースの中では、しろっぴーの白い毛が風もないのに揺れ動いていた。
薄暗い廃校の廊下では、満面の笑顔のメイド服のジルが、仰向けに倒れているもみじの隣にしゃがみ込んでおり、その後ろにはドレス姿のルージとスノンが冷笑を浮かべて立っていた。
もみじは絶望に沈んた表情をしていたが、突然あることを思い出し、ジルに訊いた。
「そ、そうだ! おめぇら、鏡太朗をどうしたんだ? あいつに何をした?」
ジルは不思議そうな顔を浮かべながら、右手人差し指を下顎に当てて呑気に答えた。
「きょ〜たろ〜? 誰なのそれはぁ〜? どんな人間のことなのかなぁ〜?」
『ダメだ。きっと、こいつらは人間の名前なんて、いちいち覚えていないに違いねぇ! そうだ! 鏡太朗のことを思い浮かべれば、こいつらにも伝わるはずだ! 鏡太朗……、鏡太朗……』
もみじは膨大な記憶の中から鏡太朗の記憶を探し、回想しようとした。
『も、も、もみじさん! き、昨日はあんなこと言ってたけど、ま、ま、まさか、俺のプライベートを、の、覗いているんじゃあーっ?』
もみじのSUV車の助手席で、動揺した鏡太朗が顔を赤らめて叫んでいる記憶がもみじの中で蘇った。
『な、何でこんな時に、こ、こんな場面を思い出すんだよ? べ、別の記憶だ! 別のことを思い出せ!』
動揺するもみじの記憶の中では、鏡太朗が腹部にお札を貼ったまま、自宅の浴室の前の脱衣室でボクサーパンツ一枚の姿になっており、その光景が現世之可我見に映し出されていた。
『ま、まずい! よ、よりによって、こ、こんな時にこんな記憶が!』
床の上に仰向けで倒れているもみじは、顔を真っ赤にして慌てふためいた。
記憶の中の鏡太朗は、ボクサーパンツのゴムに両手の指をかけた。
「きゃあああああああああああああああああああああっ!」
ジルが顔を真っ赤にして悲鳴を上げると、あたふたと激しく狼狽した。
「あ、あ、あ、あんた、な、何て記憶を見せるのよぉ〜! こ、こ、こんなものをジルちゃんに見せるなんてぇ〜、へ、へ、へんた〜いっ!」
ジルが顔を真っ赤にして叫ぶと、もみじは真っ赤な顔でしどろもどろになって答えた。
「こ、こ、これは、じ、事故ってヤツだ! 鏡太朗のお札の状態が気になって様子を見ようと思ったら、ぐ、偶然こんな場面を見ちまったんだ! そ、それに、あたしは肝心なところは見てねぇ!」
「何、訳わかんないこと言ってるのよぉ〜? そもそも、『肝心なところ』って何のことよぉ〜っ? こ、このへんた〜いっ!」
ジルは右掌でもみじの頭のてっぺんを叩き、もみじはもの凄い勢いで吹き飛び、廊下の突き当りの壁に激突して床に落下した。
「こんな変態なんてぇ〜、ジルちゃんが眷属にして健全な魂に体を支配させてあげる〜っ!」
ジルはもみじの隣に瞬間移動し、床に転がるもみじの右腕を両手で持ち上げると、その手首に向かって二本の牙が並ぶ口を大きく開いた。もみじの視界の中では、もみじの手首にジルの二本の牙が突き刺さろうとしていた。
「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
もみじの全身から衝撃波が放射され、その衝撃波は爆弾の爆発のように天井や壁を吹き飛ばした。
ルージとスノンは驚愕してもみじが放射する衝撃波を見つめ、その隣にジルが愕然とした表情で瞬間移動した。
「今のは危なかったわぁ〜っ! あいつ、ぜ〜んぜん攻撃のことなんて考えてなかったのにぃ〜っ、突然あ〜んな凄いのが出てきたのぉ〜!」
スノンが冷や汗を流して答えた。
「恐らく、ジルに噛みつかれる寸前に、頭で考えることなく、自己防衛本能で反射的にあれが出たのだろう」
「こうなりゃ、この衝撃波に限界を超えた霊力を込めてぶっ放してやるぜえええええええええええええええええっ!」
渾身の力を込めて叫んだもみじの体中から血が噴き出し、衝撃波はもみじの前方に向かって集中し、見る見る勢いを増していきながら、廊下の天井や壁、床を粉砕して廊下の奥へ進んで行った。一階の壁と鉄筋が粉砕されていくと、校舎の二階部分が崩れ始めた。
「まずい! 仕方がない、二階に逃げるぜ!」
ルージが自分たちに迫る衝撃波を睨んでそう言うと、三体のヴァンパイアは崩れ始めている二階の廊下に瞬間移動した。二階の廊下は、窓から差す日の光によって明るくなっていた。
「逃がすかああああああああああああああああああああっ!」
もみじが体から血を噴き出しながら上体を反らすと、衝撃波は廊下の天井を粉砕しながら斜め上に向かって伸びて行った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
衝撃波が消えた時、もみじは全身血だらけで息を切らしていた。
もみじのいる校舎のグラウンド側の壁が、大きく傾き始めた。
「や、やべぇ! 校舎が崩れる! 古より雷を司りし天翔迅雷之命よ! その御力を宿し給え! 一条之稲妻ああああああっ!」
もみじは右掌から放射した雷で廊下の窓とそれを塞ぐベニヤ板を吹き飛ばすと、そこから外に飛び出し、グラウンドまで全力疾走した。その直後、もみじの背後で轟音が響き、校舎のグラウンド側の外壁や屋根が崩れ落ちていった。
「きゃああああああああああああ〜っ! た、太陽の光がぁ〜っ!」
ジルの悲鳴を聞いたもみじが校舎の上を見上げると、背中から大きなコウモリの翼を生やしたジルが滞空しており、日の光を浴びて悶え苦しんでいた。
「日の光がああああああああああああっ!」
「ちくしょおおおおおおっ! 太陽光線を浴びてしまったああああああっ!」
スノンとルージもコウモリの翼を生やして、ジルの隣で滞空して苦しんでいた。
もみじは太陽の光で苦しむ三体のヴァンパイアを見て、ほっとした表情を浮かべていた。
『偶然がきっかけとは言え、助かったぜ。ヴァンパイアは日の光に弱いって伝説は本当だったみてぇだな』
ジルが涙を浮かべながら、苦し気に叫んだ。
「日の光を浴びたらぁ〜っ、ジルちゃんの真っ白なお肌にシミができちゃう〜!」
ジルの叫びを聞いたもみじの表情が固まった。もみじはヴァンパイアたちに向かって言った。
「おい! おめぇら、ちょっと待て!」
ジルは泣きながら叫び声を上げた。
「待てないよぉ〜っ! これ以上紫外線を浴びたら、ジルちゃんの真っ白なお肌が修復できないダメージを受けちゃう〜っ!」
「太陽の光が弱点って、そんな理由かよおおおおおおおおっ? そんなくだらねぇこと、伝説に残すんじゃねぇえええええええええええええっ!」
もみじはヴァンパイアたちに向かって思わず叫んだ。
「あれは!」
スノンは日の光に苦しみながら、前面が崩れた校舎の隣に建つ鉄筋コンクリート製の物置を見つけた。五メートル四方の物置には、錆びたスチール製のドアと、ベニヤ板で塞がれた窓が二つ付いていた。
「あの中に避難するのだ!」
三体のヴァンパイアの姿が一瞬で消え、物置の中に移動した。
もみじは緊張した表情で、警戒しながら物置に近づいていった。
『あたしは日差しの中にいるから、あいつらは襲って来ねぇと思うが、油断はできねぇ!』
もみじが接近する物置の中から、ジルの声が聞こえた。
「えぇ〜っ? ジルちゃん、そんなの嫌だよぉ〜っ!」
続いて、ルージの声が聞こえてきた。
「仕方ないだろ? オレとスノンはこんなドレスを着てるんだぞ。軽装のジルが一番の適任なんだよ。一瞬だけだ。一瞬我慢するだけだ」
もみじはジルたちの声を聞き、不安と緊張を感じていた。
「こいつら、一体何の話をしてやがる?」
「もぉ〜っ! しょうがないなぁ〜っ!」
もみじのすぐ後ろからジルの声が聞こえ、もみじの表情が凍りついた。瞬間移動で背後に移動したジルが、もみじが振り返るよりも先に、もみじの右首筋に噛みついた。
「うわああああああああああああああああああっ!」
もみじが叫び声を上げて振り返った時には、ジルの姿はすでに消えていた。物置の中からジルの声が聞こえた。
「ジルちゃんはここだよぉ〜っ! もう手遅れだよぉ〜っ! 君の魂は眠りについて、新しい魂がその体を支配するんだよぉ〜っ!」
もみじは両目を見開いて愕然とした。
「な、何だと……? うっ!」
もみじは体の内部に衝撃を感じて短い呻き声を上げ、その直後に頭を力なく前に垂らし、立ったまま身動きをしなくなった。
「さあ、目覚めよ」
物置の中からスノンの命令が聞こえ、もみじは顔を上げた。その顔は邪悪さを感じさせる別人のような表情に変貌しており、ニヤリと笑った口には、上顎から二本の牙が生えていた。
戦闘モードのコアちゃんが左右の腕でナツとまふゆを抱え、背中にさくらと來華を乗せて、町の上空三十メートルをゆっくり飛行していた。
突然、二本の強烈な放水がコアちゃんに向かって伸びると、放水はコアちゃんの右脇と右腰に命中した。
「うわあああああああああああああああっ!」
コアちゃんは悲鳴を上げて左側に吹き飛び、ナツとまふゆ、さくら、來華も悲鳴を上げた。コアちゃんの右側からは、強烈な放水が襲い続け、コアちゃんはバランスを失って左斜めに落下していき、コアちゃんの眼前にアスファルトの道路が迫った。
「コアちゃん様が、さくらたちを守ってみせるぜぇえええええええええっ!」
コアちゃんは道路に激突する寸前に、ナツとまふゆを街路樹の上に放り投げると、一瞬にして等身大のコアラのぬいぐるみの姿に変わった。コアちゃんにしがみついていたさくらと來華は空中に放り出されたが、コアちゃんは体を反転させて仰向けになると、再び戦闘モードになって大きくなり、さくらとライカを左右の手で掴んで街路樹に放り投げた。その瞬間、コアちゃんは背中から道路に激突し、苦悶の声を上げた。
「ぐわああああああああああああっ!」
「コアちゃん!」
さくらは街路樹の枝に掴まりながらコアちゃんの名前を叫ぶと、道路に飛び降りてコアちゃんに向かって駆け出した。
「コアちゃん、大丈夫ーっ?」
コアちゃんは、顔を上げてさくらに笑顔を見せた。
「ぎゃはははーっ! さくら、コアちゃん様はこんなことくらいじゃあ……」
その時、二本の強烈な放水がコアちゃんの顔面に命中し、コアちゃんは遠くに吹き飛んでいった。
「コアちゃん!」
來華とナツ、まふゆもさくらの許に駆けつけ、四人は警戒して周囲を見渡した。
「な? 何じゃと……」
來華が何かを見つけ、愕然とした。さくらたちが來華が見つめる先に目を向けると、緑色のカッパに変身した河童とそのじーさんが、五十メートル先に立っていた。河童は青い上下のスウェット、じーさんは紺のポロシャツに白いパンツを身につけていた。
まふゆは驚いて河童に向かって叫んだ。
「どーしたっていうんだよ、河童ーっ? どーしてあたしたちを攻撃するんだよーっ?」
「いや、まふゆ。河童たちは、何かに体を乗っ取られているんじゃ。人間の目じゃと、この距離では見えないかもしれんが、わしには河童たちの顔つきが別人になっていて、口から二本の牙が生えているのがはっきり見えるんじゃ」
眉を寄せてそう言った來華の目には、クチバシのように突き出た黄色い口から二本の牙が伸びている河童とじーさんの邪悪な薄笑いを浮かべる顔が、はっきりと見えていた。
戦闘モードのコアちゃんがさくらの隣まで飛んで来て着地すると、さくらは心配そうに声をかけた。
「コアちゃん、大丈夫?」
「ぎゃはははーっ! あんなのコアちゃん様にはどうってことないぜ!」
コアちゃんは元気溌剌な笑顔で答えた。
河童は満足そうな顔で、じーさんに言った。
「人間界には人間しかいないと思っていたが、俺たちは強靭な魔物の体を手に入れられてツイてるぜ。しかも、この体が持っている能力を読み取ったら、魔力でさっきみたいなことができるんだからな」
じーさんもニヤリとして言った。
「ああ、まったくだ。特殊能力を持たない人間の体だったら、頑丈で力がちょっと強いだけの最下級眷属になるところだったぜ。あいつらのようにな」
「そ、そんな……。嘘でしょ……?」
まふゆは周囲を見渡して愕然とした。数え切れないほどの老若男女の町の住民たちが、あらゆる道から自分たちに向かって歩いて集まっていた。
「こ、この人たち……、みんな……」
動揺しているまふゆの隣で、ナツが冷や汗を流しながら冷静に言った。
「ああ、こいつら全員から魔力を感じる。客観的に考えて、町の住民全員が魔物になったんだ」
まふゆたちに向かって歩く町の住民たちは、子どもや赤ちゃんまでが邪悪な表情で笑みを浮かべており、その口には二本の牙が伸びていた。




