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5 誰もいない町

 ナツとまふゆは、学校の制服を着て住宅街で自転車を漕いでいた。

「まふゆ、さっきから全く人が歩いていない。合理的に考えて、この町で何かが起こっている」

「ああ、あたしもそう思う。今はまず学校へ行って、鏡太朗たちと合流しよう」

 ナツとまふゆは、大きな不安と緊張を感じながら学校へ急いだ。


「鏡太朗ーっ! さくらーっ! 來華ーっ!」

 校舎の生徒用玄関の前に立っていた鏡太朗とさくらと來華が、まふゆの声が聞こえた方に目を向けると、学校の駐輪場に自転車を置いたまふゆとナツが、鏡太朗たちに向かって駆け寄っていた。その駐輪場には、二人の自転車以外に自転車は一台もなかった。

「鏡太朗! 何が起こってるーっ?」

 まふゆがそう訊いた時、鏡太朗とさくらと來華は青ざめた顔で動揺しており、鏡太朗が口を開いた。

「昨日の昼に気づいたんだけど、町に人がいないんだ。今もずっとここで待ってるけど、教職員も、生徒も、誰一人姿を見せなくて、生徒玄関も教職員用の玄関も鍵がかかったままなんだ」

 さくらが横から言った。

河童(かわわらわ)くんや色んな友達に何度もメッセージを送って、電話もしてるけど、メッセージが既読にならないし、誰も電話にも出ないの」

 突然、來華が叫び声を上げた。

「誰かの視線を感じるんじゃーっ!」

 鏡太朗たちは緊張した表情で周囲を警戒した。鏡太朗とまふゆ、ナツは同時に愕然とした顔を見せた。

「こ、この感じは……」

「ああ、間違いないよ、鏡太朗……」

「合理的に考えて、これは……呪いの力……咒靈力(じゅれいりょく)が高まっている」

 鏡太朗とまふゆ、ナツの緊張が高まっていき、三人同時に叫んだ。

「あっちだーっ!」

 鏡太朗とまふゆ、ナツが一斉に視線を向けた先では、軽量鉄骨を大量に積載したトラックが校門の外で宙に浮かんでいた。

「逃げろおおおおおおおおおっ!」

 鏡太朗とまふゆ、ナツが同時に叫び、さくら、來華とともに、その場から散らばるように駆け出した。その瞬間、來華のスカートのポケットから小さな携帯用薬ケースが飛び出して、アスファルトの上に落下した。

「あ、しろっぴーっ!」

 來華は立ち止まり、アスファルトの上の携帯用薬ケースの方を振り返った。その時、トラックの荷台から何十本もの軽量鉄骨が宙に浮き上がると、ロケットのように來華に向かって飛んで来た。

「ライちゃあああああああああん!」

 さくらが來華に抱きついて一緒にアスファルトの上に倒れ、來華をかばうように來華に覆いかぶさった。さくらの背中に何十本もの軽量鉄骨が迫った。

「だあああああああああああああっ!」

 鏡太朗がさくらに命中する寸前の軽量鉄骨の側面に体当りして、軽量鉄骨を吹き飛ばし、軽量鉄骨は離れた場所に落下した。

 同時に、軽量鉄骨がアスファルトに激突する別の音が響き渡り、さっきまでまふゆとナツが立っていた場所に、夥しい数の軽量鉄骨が突き刺さっていた。まふゆとナツは愕然として、自分たちがさっきまでいた場所を見つめながら立ち止まっていた。

 続けざまに、今度は荷台が空になったトラックが、まふゆとナツを目がけて、もの凄い勢いで宙を飛んで来た。

「逃げろ!」

 ナツは愕然とするまふゆを促して、二人一緒にグラウンドに向かって必死に走った。トラックはまふゆとナツを追ってグラウンドの上を飛び、見る見るまふゆとナツのすぐ後ろまで迫った。

「ちくしょおおおおおおおーっ! 逃げられないーっ!」

 まふゆは必死に走りながら、絶望を感じて絶叫した。


「雷の神様あああああああああっ! 俺に力をおおおおおおおおおおおおっ!」

 鏡太朗がそう叫びながら、長さ十二センチに小さくしていた霹靂之大麻(へきれきのおおぬさ)をトラックに向けて投げつけると、回転しながら飛ぶ霹靂之大麻(へきれきのおおぬさ)は一瞬にして電柱の大きさになり、高速回転しながら猛スピードでトラックの右側面に激突し、トラックはグラウンドの中央まで吹き飛んで地面を一回転して動かなくなった。

「た、助かったーっ!」

 まふゆはグラウンドに座り込み、ナツはそこで立ち止まって周囲を見回した。

「もう咒靈力(じゅれいりょく)は感じない……」


「まふゆさん、ナツさん、大丈夫〜っ?」

「まふゆーっ! ナツーッ! 怪我はないかーっ?」

 さくらと來華が心配そうにまふゆとナツに駆け寄り、鏡太朗もグランウンドの上から長さ十二センチの状態に戻った霹靂之大麻(へきれきのおおぬさ)を拾い、周囲を警戒しながらまふゆとナツの許に移動した。

 ナツが緊張した表情で言った。

「今の咒靈力(じゅれいりょく)は何か変だった……。客観的に考えて、今までに出会った奴らとは別の誰かが、俺たちを狙っているとしか思えない」

 鏡太朗が言った。

「昨日は俺が狙われた。今のトラックはまふゆさんとナツさんを狙っていた。一体誰が俺たちを狙ってる? 昨日、もみじさんは呪いの力と同時に魔力も微かに感じたって言っていた」

「呪いの力と魔力……?」

 まふゆがそう呟き、その場にいる誰もが考え込んで無言になった。

 やがて、鏡太朗が口を開いた。

「今はもみじさんのところに行って、もみじさんに相談しよう」

 全員が無言で頷き、鏡太朗の提案に同意した。


 全ての人間の潜在意識の深淵よりもさらに深い心の領域、それは宇宙のように無限に広がる集合的無意識の世界だった。その世界に浮かぶエネルギーの塊の中は、人間の心の欠片の中にあった多様な情景の記憶がパッチワークのように散りばめられており、クロリリィは、その空間の中にある二メートル四方の立方体に取り付けられた扉の奥へと進んでいた。


 クロリリィが立方体の入口から入って抜けた先は、森の中の小高い丘の上だった。丘の頂上には一辺が二メートルの石造りの立方体が設置され、その立方体に取り付けられた扉が内側に開き、クロリリィはその中から姿を現していた。

 クロリリィが背後を振り返ると、立方体の扉が開いている開口部は、その奥にオレンジ色と黄緑色の光がまだらになって揺れ動く空間が広がっていた。

「本当にここって不思議な場所よね〜。この学びの空間は、悪魔の帝国の中に浮かぶ立方体の内側にあるのに、その中に入ると、逆に立方体の中に悪魔の帝国があって、表裏が逆になっちゃうんだから〜。ここに来るのは、三百年振りくらいかしらね〜」


 クロリリィがいる空間は、一辺が二キロメートルの立方体の内側になっており、空間内部に六つある面の一つにクロリリィが立つ丘があり、その周囲は一面が森になっていた。

 森の面の東側の面には朝日が輝く青空が広がっており、南側の面にはエメラルドグリーンの穏やかな海面が垂直に広がり、西側の面は三日月が輝く夜空が広がり、北側の面は波が荒い夜の暗い海面になっていた。

 森の面の上に上下逆さまになって広がる面は荒野になっており、その中央には石を積み上げて造られた古い建造物が建っており、その面積は荒野の半分を占めるほど広大だった。


 クロリリィに続き、腰から下がワニの胴体になっている悪魔が姿を現した。クロリリィは、頭上に広がる建造物を見上げて目を細めて微笑んだ。

「懐かしいわね〜。あたしも生まれてすぐにあそこに閉じ込められて、悪魔の秩序の教育を受けたものだわ〜。卒業するまでに二か月もかかったわよ!」

 それを聞いた腰から下がワニの胴体の悪魔が、驚愕して叫んだ。

「に、二か月でありますかーっ? わ、私は卒業までに十二年もかかりました! やはり士爵の称号を受けるほどのお方は、生まれた時から我々平凡な悪魔とは違うのでありますね!」

「ど〜せ、おっちゃんは、悪魔の秩序を受け入れるのに散々抵抗したんでしょ? あたしは昔から要領がよかったのよ。さあ、一昨日人間界で生まれた悪魔をあそこに収容してるでしょ? 案内して」

 クロリリィの言葉を聞いた腰から下がワニの胴体の悪魔は、激しく動揺した。

「あ、あの悪魔ですか? お、おやめになった方が……。あれほど凶暴で狂った悪魔の話は聞いたことがありませんよ! 四体の帝国兵が人間界に行ってあの悪魔を連行しようとしましたが、全く手に負えず、二十体の帝国兵が応援して、何とか捕まえてあの中に収容したんですよ! それまでに、悪魔だから死なないとは言え、帝国兵は延べ五十六回も、あの悪魔に体をバラバラにされたんですよ!」

 クロリリィは、腰から下がワニの胴体の悪魔の言葉など全く意に介さず、楽しそうに言った。

「ふ〜ん。ますますどんな悪魔か見てみたくなったわ〜」

「クロリリィ士爵は、あの悪魔と何か関わりがあるのでありますか?」

「ぜ〜んぜんないわよ〜。たまたまあたしが暇になった時にその悪魔が誕生したから、興味を持っただけよ〜。何か面白いことがあるかも〜って。だって、人間界で生まれた悪魔って、みんな個性的で面白いでしょ〜? さあ、案内して」

「わ、わかりました……。でも、気をつけてくださいよ」

 腰から下がワニの胴体の悪魔は、不服そうな態度で上空の建物に向かって飛び立ち、クロリリィは楽しそうな表情でその後に続いた。


 雷鳴轟之(らいめいとどろきの)神社の社務所の前に、神主姿のもみじと制服姿の鏡太朗、さくら、來華、まふゆ、ナツが立っていた。神社の鳥居の外側に続く長い階段の下には、まふゆとナツの自転車が停められていた。

「やっぱ学校にも誰も来ねぇか……。あたしも気になって、現世之可我見(うつしよのかがみ)で……」

 もみじは鏡太朗の顔をチラッと見てから咳払いをすると、急に声を大きくした。

「『公共の場所』を色々と見てみたが、人の姿は全くなかった。この町で一体何が起こってる?」

 全員が俯いたまま黙り込んだ。


 鏡太朗は、ふと來華が右手に携帯用の薬ケースを握っていることに気づいた。

「ライちゃん、それって随分大切みたいだね。さっき『しろっぴー』って言ってたけど、しろっぴーって何?」

 その場にいた全員が、來華が右手に持つ黄色い携帯用の薬ケースに目を向けた。

「これは『ケシカランパパさん』のしろっぴーじゃ」

「ライちゃん、ケセランパサランね……」

 さくらは、來華が嬉しそうな笑顔で言った言葉を引き気味の笑顔で訂正した。

「これは持ってる人に幸せを運んでくれるからって、さくらがわしにくれたんじゃ。しろっぴーには、さくらの想いがこもってるんじゃ。だから、わしはしろっぴーをずっと大切にするんじゃ」

「ライちゃん……」

 さくらは、幸せそうな表情で語る來華の顔を温かい笑顔で見つめた。

「それに、しろっぴーは見た目はただの毛玉じゃが、生き物なんじゃ。そう考えたら、とても可愛くて愛おしいって感じるんじゃ」

 まふゆが興味津々で來華に言った。

「來華ーっ、あたし、ケセランパサランって見たことないのーっ! 見せてーっ、見せてーっ」

「わかったんじゃ。しろっぴーをみんなに見てもらうんじゃ」

 來華が右手に持った携帯用薬ケースを胸の前まで持ち上げた時、ナツがまふゆに向かって無表情で言った。

「まふゆ。ケセランパサランは、一年に二回までしか見てはならないって聞いたことがある。それ以上見てしまったら、幸せを運んでくる効果がなくなるそうだ」

「ら、來華! 見せなくていい! 見せなくていいよ! 來華に来るはずの幸せが逃げたら大変!」

 まふゆは、携帯用薬ケースの蓋を開けようとした來華を慌てて止めた。

 鏡太朗は來華に優しい笑顔を向けた。

「ライちゃんにいっぱい幸せがくるといいね」

「鏡太朗、ありがとう」

 來華も鏡太朗に笑顔を返した。もみじとまふゆも微笑みを浮かべており、ナツも微かに笑みを見せていたが、さくらだけは、少し複雑な表情で來華に向けられた鏡太朗の笑顔を見つめていた。


 クロリリィは、腰から下がワニの胴体の悪魔の後に続いて、石で造られた壁と天井、床に囲われた長い廊下を歩いていた。幅と高さが五メートルほどの廊下は、後方にも前方にも長く伸びており、クロリリィたちが歩いていると、その前後十メートルの天井が白く光って廊下を照らし、それ以外の場所は真っ暗だった。廊下の両側の壁には、二十メートル間隔で鉄製の扉が取り付けられており、扉の向こう側からは得体の知れない唸り声や叫び声が聞こえていた。

「懐かしいわね〜。あたしも二か月間、この扉の向こうの部屋に閉じ込められてたものよ〜。一日の半分は指導役の悪魔が部屋に来て、帝国兵が何体も威嚇する中でマンツーマンの教育を受けたものだわ〜。本当にサイアクな時間だったわよ!」

「この建物は、壁も、天井も、床も、扉も、全部皇帝ザギャリーザ様の強力な霊力でつくられておりますので、誰も通り抜けることはできないのです」

「そうだったわ〜。今の人間界でこんなことやったら、人権蹂躙で大問題になるわよ。本当に悪魔って、考え方が悪魔よね〜」 


 腰から下がワニの胴体の悪魔が、ある扉の前で立ち止まった。その扉の向こう側は静まり返っていた。

「クロリリィ士爵。ここでございます」

 腰から下がワニの胴体の悪魔は、緊張した表情で深呼吸すると、一思いに扉を開き、中に入りながら部屋の奥に向かって声をかけ、クロリリィも後に続いて中に入った。

「これから高位の方が見えられる! 失礼がないように……」

 二十メートル四方で高さ五メートルの薄暗い部屋の奥から、腰から下がワニの胴体の悪魔とクロリリィに向かって、それぞれ三十数本のナイフのような鋭い刃物が長く伸びた。

「ぎゃあああああああああああああああっ!」

 腰から下がワニの胴体の悪魔の全身が刃物で串刺しとなり、あまりの激痛で絶叫した。

 クロリリィに迫った三十数本の刃物は全て廊下の壁に当たっており、そこにはクロリリィの姿がなかった。


「初対面なのに、歓迎してくれるじゃない?」

 いつの間にかクロリリィは部屋の奥に立っており、笑みを浮かべるその目には、冷たい光が宿っていた。

 クロリリィの目の前には、一体の悪魔が背中を向けて立っており、背後から聞こえたクロリリィの声に驚いて振り返った。その悪魔は体が水色のガラスでできており、青いガラスでできたキトンを身にまとっていた。その姿形は瑠璃切子とそっくりで、背中には銀色の翼が一対生えていたが、左右の翼にそれぞれ三十数枚ある羽根の一枚一枚が鋭い刃物でできていた。

「殺す! みんな殺す! あははははははーっ!」

 ガラスの悪魔がそう叫びながら狂ったように笑うと、左右の翼の羽根が長く伸びて空中でカーブを描き、クロリリィに迫った。


 その時、ガラスの悪魔の目に映るクロリリィの悠然と立つ姿が、突然斜めに傾いた。いつの間にか、ガラスの悪魔の体は、右胸の下から左腰にかけて斜めに切断されており、ガラスの悪魔は驚愕の表情を浮かべたまま上半身が滑り落ち、クロリリィに迫っていた六十数本の刃物の羽根は、上半身に引きずられるように軌道を変えて空を切った。

「言い忘れたけどね〜、ここに移動するついでに、あんたのことを斬っちゃったのよね〜! あらゆるものを切断するこの翼でね!」

 クロリリィは屈託のない笑顔で笑いながら両手を上げると、両肘に生えている長さ十五センチほどのコウモリのような翼が、一瞬にして長さが十倍になり、再び長さ十五センチに戻った。


「殺す! お前を殺す! そして鏡太朗を殺す!」

 ガラスの悪魔は上半身と下半身が切断されたまま、刃物の羽根を長く伸ばしてカニの脚のように動かし、上半身を右に移動させながら次々と刃物の羽根を伸ばしてクロリリィを狙い、クロリリィは笑いながら床や壁、天井を駆け回って刃物の連続攻撃をかわした。

「ちょっと何〜っ? その鏡太朗って人間は、あんたに何したのーっ?」

「助けてくれた。命懸けで守ってくれた。幸せをくれた」

 クロリリィは刃物の連続攻撃をかわしながら、表情を固まらせた。

「は? じゃあ、なんで鏡太朗って奴を憎んでるのよ?」

「憎んでない。鏡太朗のことが大好き」

「はぁ? じゃあ何で鏡太朗って奴を殺すのよ?」

「鏡太朗が死んだら、悲しい。悲しくてたまらない」

 ガラスの悪魔は、キラキラ輝く透明なガラスの涙をポロポロと零した。

「はぁ〜? 死んだら悲しいのに、何で鏡太朗って奴を殺すのよーっ?」

「鏡太朗が死んだら悲し過ぎるから殺す」

「はぁあああああ〜? あんた、意味不明過ぎるわよ!」

「みんな殺す! 生きてるから殺す! 鏡太朗を殺す! 大好きだから殺す! 死んだら悲しいから殺す! あははははははははーっ! 鏡太たろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 ガラスの悪魔はガラスの涙を流しながら狂ったように笑い、鏡太朗の名前を叫びながら、その上半身と下半身に見る見る無数のヒビが走っていった。

 

 腰から下がワニの胴体になっている悪魔が、ガラスの悪魔の羽根で全身串刺しにされた体を復元して、ほっと一息ついていた。

「あーっ、めっちゃ痛かったぜ! 死ぬかと思った。悪魔だから死なないけどね。やっぱ、傷一つない健康な体が最高だああああああああああっ!」

 ガラスの悪魔の全身が突然破裂して、ガラスの破片と刃物の羽根が部屋中に飛び散った。

「ぎゃああああああああああああああああああああああっ!」

 腰から下がワニの胴体の悪魔は、ガラスの破片と刃物の羽根が体中に突き刺さり、再び激痛で悲鳴を上げた。ガラスの破片と刃物の羽根は、部屋の床一面に散乱していた。

 クロリリィは鉄の扉の陰から顔を出すと、ほっと胸を撫で下ろした。

「今のは危なかったわーっ! この扉の後ろに移動してなかったら、今頃めっちゃ痛い思いをしてた。あのおっちゃん……、めっちゃ痛そーっ!」

 クロリリィは身震いをすると、腰から下がワニの胴体の悪魔に恐る恐る声をかけた。

「ちょっと、おっちゃん大丈夫〜?」

 腰から下がワニの胴体の悪魔は、ガラスの破片だらけの顔をゆっくりクロリリィに向けると、大粒の涙をポロポロと零した。

「痛くて死にそうです〜。悪魔だから死なないけどね。この悪魔をここまで連行する時、こいつは帝国兵を次々とこの羽根で串刺しにして、バラバラにして、最後にはこんな風に自爆して、帝国兵全員の全身をガラスの破片と羽根でぶっ刺したそうです。こいつは生まれたばかりで、自分の体を物質から思念体に変えるのがまだ上手くできなくて、すぐには再生できなかったから、帝国兵はこのガラスの破片と羽根を全部かき集めてこの部屋に放り込んだんです。そして、こいつはこの部屋の中で時間をかけて再生したんです。

 実は、私も再生するのが苦手で……、私が再生するまで少しお待ちいただけないでしょうか?」

「わかったわよ、待っててあげる。そう言えば、この悪魔の名前を聞かなかったわ〜」

「この悪魔は、帝国兵に『キルコ』と名乗ったそうです」

「キルコね。覚えておくわ」

 クロリリィは、部屋いっぱいに飛び散っているガラスの破片と刃物の羽根に向かって言った。

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