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4 悪魔の帝国

 クロリリィがサラリーマンの潜在意識を深く潜っていくと、周囲は次第に暗くなっていった。クロリリィがさらに潜り続けると、突然周囲が柔らかな白い光で満たされた空間に変わった。

 その空間はまるで宇宙のように無限に広がっており、大量の黒い雪のようなものが、どこからともなく出現しては、遥か彼方に向かって降っていた。黒い雪のようなものの中には、様々な色の光の粒も混じっており、黒い雪のようなものの中でキラキラと輝きを放ちながら、どこか遠くに向かって降っていった。


 クロリリィは上下左右様々な角度に体の向きを変えながら、空間の中を楽しそうに浮遊していた。

「人間の潜在意識の奥深くにあって、全ての人間が共有しているこの集合的無意識の世界って、無限に広がっていて、重力もなくて、もう一つの宇宙なのよね〜! いつ来ても、こーやって遊泳を楽しんじゃうのよ〜! そして、世界中の人間の潜在意識から、想念や感情、記憶……、色んな心の欠片が降り注いでくる。光り輝く愛や幸せ、喜びの欠片もあるけど、ネガティブな感情や記憶、(よこしま)な思いといった心の闇の欠片の方が圧倒的に多いのは、人間という存在の本質を表していると言うべきかしら?

 そして、ここは心の世界。物理的な距離というものは実在せず、空間を移動する必要がないのよね〜。たとえば、誰かのことを思い浮かべて、その人間の心の中に移動するって決めれば、その瞬間にその人間の潜在意識の世界に移動している。本当に便利なものよね〜! さあ、悪魔の帝国に行くわよ!」


 クロリリィの目の前に、地球のように巨大なエネルギーの塊が出現した。そのエネルギーの塊は、様々な色が散りばめられた半透明の球体で、表面は不規則に揺れ続けていた。

「ここに来るのは何十年振りかしら? ちょっと観光を楽もうかしら?」

 クロリリィは、巨大な半透明のエネルギーの塊の中に突入していった。


 クロリリィは、青い空とウルトラマリンブルーの海を望む南国の島の真っ白い砂浜に立っていた。押し寄せる波の音と、優しい潮風がクロリリィの全身を優しく包んでいった。

「めっちゃきれいーっ! 気分があがるうううううううううううううう〜っ!」

 クロリリィが満面の笑みで叫んだ時、背後で大きな爆発音が聞こえ、強烈な爆風がクロリリィの髪をぐちゃぐちゃにした。

「もーっ! 何なのよーっ!」

 クロリリィは怒って振り返った瞬間、その表情が固まった。


 白い砂浜には爆発でできた直径二メートルの穴が空いており、鳥、象、トラ、ライオン、カエル、猫、エビの頭をした七体の悪魔たちが、爆笑しながら穴を囲んでいた。穴の周囲には、爆発でバラバラになって吹き飛んだ悪魔の残骸が散乱しており、悪魔の残骸は、やがて黒い液体のような状態に変化して飛び上がると、空中の一点で合体して大きな塊になり、その塊は右が馬の頭部、左がカバの頭部になっている双頭の悪魔の姿に変わり、大声で笑い出した。

「ぎゃはははははーっ! 今のはさすがに死ぬかと思ったぜーっ! 悪魔だから死なねーけどな! それにしても、爆発でぶっ飛んだ時はめちゃめちゃ痛かったぜーっ! だが、勝負は俺の勝ちだな! ぎゃはははははーっ!」


 クロリリィは、冷ややかな口調で悪魔たちに話かけた。

「おっちゃんたち……、一体何してるのよ……?」

 クロリリィを見た双頭の悪魔は、親しげな笑顔を見せた。

「おーっ! クロリリィかーっ! お前が帝国に来るとは珍しいじゃないか! 俺たち帝国軍第百七部隊は非番で暇だからよー、爆弾割りをして遊んでたんだ」

「ば、爆弾割り……?」

 クロリリィの表情が凍りついた。

「おうよ! 目隠しをして、こいつらにグルグル空中をぶん回してもらって、目が回って真っ直ぐ歩けない状態になったら、こいつらの声を頼りにバットを振り下ろして、砂浜に置いた爆弾をぶっ叩く遊びさ! 見事、バットが爆弾に命中したら勝ちなのさ。命中した瞬間に、爆発で体がぶっ飛ぶ感覚がたまんねーっ! なあ、お前もやらないか?」

「遠慮しとく……。みんなで楽しんで」

 クロリリィは無表情で淡々と答えると、海に向かって飛び立った。

『いくら死なないからって、何ておバカなゲームをしてるのよ!』

 呆れて飛ぶクロリリィの背後で、悪魔たちのはしゃぐ声が響いた。

「次は俺の番だぜーっ! 誰か、もっとでっけぇ爆弾を出現させろーっ!」

 チュドオオオオオオオオオオオーン!

 クロリリィの背後で強烈な爆風を伴う大きな爆発音が炸裂し、悪魔たちが爆笑する声が聞こえた。


 海の上の青空を飛ぶクロリリィの周辺が、突然夜に変わった。そこでは、夜空で煌々と輝く大きな満月が、眼下に広がる満開の桜の花々を幻想的に照らしていた。

「きれい!」

 クロリリィはあまりにも美しい光景に感嘆し、ゆっくりと桜の木が立ち並ぶ草原に着地した。

「ぎゃははははははははははははーっ!」

 クロリリィの背後から大勢の下品な笑い声が響き、クロリリィは怒りの表情で振り返った。

「もう! 今度は一体何なのよーっ?」

 クロリリィの背後には、身長二メートルの細長い体型の悪魔が十体立っており、体全体をうねうねと揺らしながら、頭頂が尖った細長い顔を真っ赤に染めて、楽しそうに爆笑していた。悪魔たちは、赤、青、黄色など、一体ごとに体の色が異なっており、それぞれが片手に様々な種類の酒の瓶を持ち、その酒を時折ラッパ飲みしていた。

 一体の悪魔が大声で言った。

「人間て奴はロクなもんをつくらねーが、この酒だけはすげぇ発明だぜーっ! 悪魔の体には食いもんや飲みもんは必要がなくて、味を楽しむことだけが目的で飲み食いをするが、その中でも酒を飲むことは最高に楽しいぜーっ!」

「そーだ、お前ら知ってるか? 人間界には桜の木を伐って大統領ってエライ奴になった人間がいるらしーぞ!」

「何? この木を伐ったらエラくなれるのか? じゃあ、俺がここにある木を全部伐ってやるぜーっ!」

 黄色い悪魔が舌を長く伸ばしながらその場で一回転すると、半径十メートルの範囲内に生えていた十二本の桜の幹が切断され、草原に倒れていった。同時に、周囲にいた九体の悪魔の胴体も切断され、上半身が草原に落下した。

 黄色い悪魔は、右手に持った一升瓶の日本酒をゴクゴク飲むと、ニヤリと笑った。

「ぎゃはははははーっ! こんだけの桜を伐ったから、大統領は俺のもんだな!」

「ずるいぞーっ! エラくなるのは俺だーっ!」

 胴体を切断された悪魔たちは上半身と下半身をくっつけると、様々な方向に散らばり、争うように長く伸ばした舌で桜の幹を切断していった。


 黄色い悪魔は一升瓶の日本酒をラッパ飲みした後、真っ赤な顔と焦点の定まらない目つきで呟いた。

「この桜って木……、花も、幹も、枝も、全然美しくねーな。よし、俺がとびっきり美しくしてやるぜ」

 黄色い悪魔は口から黄色い光線を吐き出し、黄色い光は倒れた桜の木々を包みながら草原全体に広がった。黄色い光に包まれた桜の幹と枝は、夥しい数のミミズに変わり、桜の花びらはピンク色のナメクジに変化していった。草原を覆う黄色い光が消えた時、地表はうねうねと動くミミズに覆い尽くされており、その上を大量のピンク色のナメクジが這い回り、悪魔たちは地表を覆うミミズの大群の上に寝そべりながら、喜色満面でうねうねと体を揺らしていた。


 ミミズの大群の間から黄色い光の塊が次々と飛び出しては、満月が輝く夜空に向かって飛んでいき、ピンク色、黄色、オレンジなどの様々な色の花火のように炸裂していった。しかし、花火のように見えたのはピンク色、黄色、オレンジなどの蛍光色に光るミミズの大群が放射上に飛び散っていく光景であり、ミミズで埋め尽くされた大地に向かって、カラフルに光るミミズの大群が次々と降り注いでいった。

 黄色以外の悪魔たちは興奮しながら、黄色い悪魔を口々に絶賛した。

「こんなに美しい景色は初めてだぜーっ! 感動したぜーっ!」

「こんな究極の絶景を思いつくなんて、お前ってすげー奴だーっ! 一番エラくなるのはお前だぜーっ!」

 黄色い悪魔も、ミミズと一緒にうねうねと体を揺らしながら、得意満面の笑みをしていた。

「ぎゃははははーっ! 大統領になるのは俺だなーっ! ところでよー、大統領って何だ?」


 クロリリィは満月を背にして夜空に浮かび、うねうね蠢くミミズで埋め尽くされた地表と、嬉々としてその上に寝そべっている酔っぱらいの悪魔たちをげんなりした顔で見つめていた。

「おっちゃんたち……、一体どれだけおバカなのよ?」

 クロリリィは呆れ顔でその場から飛び去った。


 クロリリィが夜空を飛んでいると、突然周囲が朝日の輝く早朝の空に変わり、眼下の光景が、色とりどりのバラの花が一面に咲き誇る美しい庭園に変わった。

「ここは、人間の心の欠片の中にあった記憶の中の情景が、パッチワークのように無数に集まった世界。だから、砂漠を十メートル歩いたら突然一面の雪景色になったり、水平線の彼方に輝く朝日を眺めながら空を高く飛び上がったら、突然雷鳴轟く嵐の夜になったりする。そもそも、ここには揺らめくエネルギーしか存在していないのに、その中にいると、エネルギーは心の欠片の中にある心象通りの現実の世界になる。人間の心の欠片が自然に集まって、こんな不思議なエネルギーの塊になったなんて、本当に驚きよね〜。まあ、悪魔が占拠して、今じゃあ悪魔の帝国になっちゃってるけどね」

 クロリリィは柔和な微笑みを浮かべながらバラ園に降り立ち、ゆっくりと散策を始めた。


「おねぇちゃん!」

 クロリリィは、背後から聞こえた幼い女の子の声の方を振り返った。

 クロリリィの背後には、瑠璃色の長い巻髪を柔らかな風になびかせた八歳くらいの少女が微笑んで立っていた。睫毛が長い少女の大きな目には、青い瞳がサファイヤのように美しく輝き、キトンと呼ばれる古代ギリシャの人々が身にまとっていた白い衣装を着て、背中には一対の白鳥のような翼が生えていた。

「あら、あなた! また会ったわね!」

 クロリリィは少女に親しげな笑顔を見せた。

「おねぇちゃんが帝国に来たから、会いに来たんだよ! おねぇちゃんを思い浮かべて、おねぇちゃんに会うことを決めたら、おねぇちゃんがいるところまで一瞬で移動しちゃった!」

「どうして、あたしが帝国に来たって知ってるの〜?」

「おねぇちゃんは有名だもん、ここに来たらすぐに噂になっちゃうよ。だって、おねぇちゃんって、悪魔史上一番たくさんの魔力を集めた凄い悪魔なんだもん! おねぇちゃんのことは誰でも知ってるよ」

「え〜? あたしってそんなに有名なの? 知らなかった〜! あ、そういえば、悪魔の書で魔力をずっと帝国に送り続けてきたけど、魔力はどのくらい溜まったのかしら?」

「じゃあ、一緒に溜まった魔力を見に行こうよ! 連れて行ってあげる!」

 少女が両手でクロリリィの右手を握ると、一瞬で周囲の光景が変わった。


 クロリリィは、右手で少女の左手を握って宙に浮かんでいた。二人の周囲はどこまでも広がっている漆黒の空間で、クロリリィたちの前方では、太陽のように巨大な白い光の塊が強い輝きを放っていた。

 白い光に照らされたクロリリィは、目を丸くして巨大な光の塊を見つめた。

「何十年も前に見たときは、魔力の塊はもっと小さかったわ……。もう、こんなに大きくなってたなんて……」

「皇帝ザギャリーザ様は、これだけ魔力が集まったから、もうすぐ人間界を地獄に変えるだけの使い魔軍団をつくれるって仰ってたわ! 全ての人間たちがいつも苦しみ続ける世界がもうすぐ来るのよ! とーっても楽しみーっ!」

「そ、そう……」

 クロリリィは少し寂しそうな顔を見せ、それに気づいた少女はクロリリィに訊いた。

「どうしたの、おねぇちゃん? なんだか寂しそう」

「そ、そお? 民間の悪魔には魔力を帝国に納める義務があるから魔力を集めて、他の悪魔よりもたくさん魔力を納めるとたくさんの悪魔に褒められて、悪魔の階級も上がって、それが嬉しくていっぱい魔力を集めてきたんだけどね、最近考えることがあるの。人間界が、全ての人間が苦しみ続ける地獄に変わったら、最初は面白く感じるかもしれないけど……、すぐにそれに飽きちゃってつまらない世界になるんじゃないかって。今のまま、人間の活動や心にちょっかいを出して人間を苦しめた方が、色んなことが起こって毎日が楽しいんじゃないかってね」

 少女は、寂しそうに語るクロリリィの横顔を不思議そうな顔で見つめた。クロリリィは気を取り直したように、笑顔で話題を変えた。

「でも、ずっと人間界で暮らしてると、この世界ってやっぱり不思議に感じちゃう〜! だって、集めた魔力を溜めておくこの空間と、この魔力の塊って、悪魔の帝国になっているエネルギーの塊よりも遥かに巨大なのに、それが悪魔の帝国の中の一部分に過ぎないんだもの!」

「ここは物理的な制限がない心の世界だもん、当たり前だよ。この世界では、人間界と同じように物質でできていて、物理的な移動が必要な空間は『学びの空間』だけだもん。おねぇちゃんも、生まれてすぐにそこに連れて行かれて、悪魔の教育を受けたんでしょ?」

 クロリリィがげんなりした顔で答えた。

「そう、パパが悪魔の子どもをつくるために帝国に来て、あたしは帝国で生まれたけど、すぐに帝国兵が来て『学びの空間』に連行されたのよ! あそこにいた時間は、あたしの生涯で唯一全然面白いことがなかった黒歴史なんだから! スパルタで悪魔の秩序を叩き込まれて、サイアクな体験だったわーっ! しかも、あの空間は絶対に逃げられないようになってて、本当にイヤになっちゃう!」

 不機嫌そうに文句を言うクロリリィに向かって、少女が笑顔で言った。

「あの空間は、皇帝ザギャリーザ様が強力な霊力でつくった特別な場所だから、心で決めただけで移動したり、思念体になって空間を囲む壁を通り抜けることはできないんだよ」

「あなた、色んなことを知ってるわね! そういえば、あなたって何度も会ってるけど、名前も何者かも知らないわ! あなたって何者なの?」

「あたし? あたしは皇帝ザギャリーザ様の身の回りのお世話をする従者だよ」

「えええええええええええええええええええーっ! ほとんどの悪魔が姿すら見たことがない皇帝ザギャリーザ様のお付きの悪魔ーっ? あんたって、めっちゃエラいんじゃないーっ!」

「そうだよ、驚いた? 凄いでしょーっ! そういえば、おねぇちゃんはどんな用事で帝国に来たの?」

「あ、そーだ! あたしは『学びの空間』に行って、一昨日人間界で生まれた悪魔を見物してからかってくるんだった! じゃあ、あなた、また会いましょうね。バイバイ」

「おねぇちゃん、また遊びに来てねーっ」

 少女の目の前からクロリリィの姿が一瞬で消えた。


 クロリリィは、オレンジ色と黄緑色の光がまだらになって揺れ動く空間に浮遊していた。

 目の前には三体の悪魔が浮かんでおり、一体目は、上半身が屈強な人間の男性の裸体の姿で、腰から下が四本脚のワニの胴体になっている悪魔、二体目は、石が集まってできた人間のような形の体で、体中の石の隙間から火が噴き出している悪魔、三体目は西洋騎士の甲冑を身につけ、体には首と頭部がなく、右手に長剣、左手に盾を持ち、その盾の中央に邪悪そうな人間の顔がついている悪魔だった。三体の悪魔は、一辺が二メートルの石でできた立方体を囲むように浮遊していた。


 クロリリィが現れたことに気づいた甲冑の悪魔が、盾についている顔でクロリリィを恫喝した。

「誰だ、貴様はーっ? ここは新しく誕生した悪魔や、問題を起こした悪魔が教育を受ける特別な空間『学びの空間』だ! 特別に認められた悪魔しか立ち入ることが許されない場所なのだ! さっさと立ち去れ! ぶった斬るぞ!」

 クロリリィは悪魔の怒鳴り声など全く気にすることなく、笑顔で言った。

「あら? あたしはその特別に認められた悪魔なのよ。出でよ、我を導く悪魔の書よ! あたしの身分証明をおっちゃんたちに示して!」

 クロリリィが右手を上げると、その手に悪魔の書が現れ、三体の悪魔は悪魔の書が開いているページを覗き込んだ。光を放つそのページを見た三体の悪魔は目を丸くして、口々に驚きの声を上げた。

「クロリリィ士爵? 士爵といえば、帝国に多大な貢献をした民間悪魔に与えられる民間悪魔の最上位階級だぞ!」

「俺は千年以上生きてるが、士爵に会ったのは初めてだ!」

「クロリリィ……? まさか、三百歳の若さにして、悪魔史上もっとも多くの魔力を集めて帝国に納めたという……あのクロリリィ……?」

 すっかり動揺している三体の悪魔に向かって、クロリリィはニッコリと笑顔を見せた。

「あたしはこの空間に入っても問題ないわよね? 誰か中を案内してくれないかしら〜? この空間に入ったら、心で決めただけで移動することができなくなっちゃうから〜」

「わ、わかりました、クロリリィ士爵! 自分がご案内させていただきます! どうぞ、この中へ」

 腰から下がワニの胴体になっている悪魔は、慌ててクロリリィにそう言うと、背後の立方体の一面に取り付けられている扉を開き、クロリリィに中に入るよう促した。


 クロリリィは悪魔の書を消し去り、開いた扉の前まで飛んでいくと、甲冑姿の悪魔の方を振り返って笑顔を見せた。

「そうだ! これを返しておくわ」

 クロリリィはそう言うと、左手に持っていた甲冑姿の悪魔の右手を放り投げた。

「お、俺の右手! い、いつの間に? うわああああっ! いてぇええええっ! 今頃斬られた痛みを感じるぞーっ!」

 甲冑姿の悪魔は、盾についた顔を激痛で歪ませながら叫び声を上げ、その目の前に浮遊している右手は長剣を握ったまま、手首を切断されていた。

「おっちゃんが、あたしをぶった斬るなんて言うから悪いのよ〜。あたしは痛いことが大嫌いなの。痛い思いをする前に、おっちゃんの右手を斬らせてもらったわ。悪魔なんだから、すぐに治せるでしょ〜? じゃあね〜」

 クロリリィは甲冑姿の悪魔に笑顔でそう言うと、扉が開いた立方体の出入口の中に消えていき、腰から下がワニの胴体の悪魔がクロリリィの後に続いた。

 

 甲冑姿の悪魔は、切断された右手と長剣を黒い液体のような状態にして手首に引き寄せ、黒い液体は元の右手と長剣に戻った。

 その隣では、石が集まってできた悪魔が呆然とした表情を浮かべていた。

「い、今のクロリリィ士爵の動き……、全く見えなかった……」

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