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3 心の世界と意識の中枢

 深夜の人里離れた小高い山の中腹で、木々の間に伸びる未舗装の山道にイギリス製の高級SUV車が停まっていた。エンジンをかけたままヘッドライトを灯したSUV車の運転席側のドアが開くと、ハンチング帽とレトロなデザインの高級なスーツ、ブーツを身に着けた黑路匿獲(ろじえ)が姿を現し、助手席からは、ウエーブがかかった長い髪をツインテールにして、黒いロリータファッションで身を包んだ黑リリィが外に降りた。二人の正体は悪魔であるが、この時は人間の姿をしていた。


 リリィと黑は、車の左側に広がる林に向かって並んで立った。林の奥の暗闇の中からは、金色や赤、青などに光る無数の目がリリィと黑をじっと見つめていた。

 リリィは自分たちを見つめる無数の目を眺めながら、黑に言った。

「ねぇ、パパ。魔力を奪った後の魔物は、いつもこの場所にリリースしてるけど、どうしてみんなこの場所に居着いてしまうのかしら?」

「人間を食べることを好む魔物は、しばらく経って魔力が回復したら人間を求めてこの場を去るけど、それ以外の魔物は、たくさんの魔物と一緒にいることができるこの場所にいると、きっと身の安全と安らぎを感じるんじゃないかな?」

「林の奥に丸太小屋とか畑をつくって、いつの間にか魔物の村ができちゃったものね」

「私たちは魔物たちに安住の地を与え、魔物たちの魔力が回復したら、それを貰いに来る。これはウィンウィンの関係じゃないかい?」

「そうね。まあ、この魔物たちにはあたしの紋章を刻んでるから、あたしから逃げるなんて不可能なんだけどね〜。どこに行ったって、あたしがその気になれば、いつでも捕まえられるんだけどね〜!」

 暗闇に潜んでリリィたちを見つめる様々な種族の魔物たちの額には、黒い文字で「くろりりぃ」と書かれていた。


 リリィは林の中の暗闇に身を潜める魔物たちに向かって、大声で呼びかけた。

「みんな、前回魔力を貰ってから一年経ったわよ〜っ! みんな十分に魔力を回復したでしょ〜っ? また魔力をいただくわよ〜っ!」

 リリィの左右の肘からコウモリの翼のような形の小さな翼が生え、首の後ろの髪の生え際からは先端がハート形の黒いしっぽが生えて、リリィは悪魔クロリリィの姿に変貌した。

「出でよ、我を導く悪魔の書よ!」

 クロリリィは両手に悪魔の書を出現させると、真ん中のページを開いた。

「悪魔の書よ! この場にいる我が紋章を刻みし魔物たちから、その魔力をことごとく吸い尽くしなさい!」

 暗い林に身を潜めていた様々な種族の魔物たちは、虚ろな目をして棒立ちになると、全身から白い光を放出し、その光は悪魔の書にどんどん吸い込まれていった。

「ふふふっ! 一年に一回こうやって魔物たちから魔力をもらうだけで、人間界に棲む全ての悪魔が、悪魔の帝国から課せられている魔力収集のノルマが達成できるのよね〜。しかも、たった一年で六十年分のノルマ達成! パパとあたしは、この『魔物牧場方式』のスキームを構築したから、めっちゃ楽ができるわよね〜!」

「ここにいる魔物の半分以上は、もみじちゃんが集めてくれた。もみじちゃんに感謝しなくちゃね。でも、自分が倒した魔物が今こうしていることをもみじちゃんが知ったら、きっとびっくりするだろうね」

 黑はクロリリィを見つめながら、目を細めて笑った。

「そうよね〜っ! もみじには感謝の気持ちをい〜っぱい込めて〜、近いうちに思いっ切りイジり倒してくるわ〜っ! もみじにちょっかいをかけるって考えただけで、ワクワクするの〜っ!」

 クロリリィは輝くような満面の笑顔を見せた。


 黑が運転する高級SUV車は、山からの帰り道で小さな町に差しかかり、商店街に隣接する交差点で信号待ちのために停車した。深夜の商店街では、ほとんどの店がシャッターを閉めていたが、SUV車の左隣にあるコンビニエンスストアは店内の照明が灯り、助手席に座る人間の姿のリリィが目を向けると、三十歳くらいのスーツ姿のサラリーマンがちょうど店内から出てきた。サラリーマンは右手にビジネスバッグを持ち、左手にはアルコール飲料の缶が数本入ったレジ袋を下げていた。サラリーマンは早足で家路を急ぎ、リリィたちの車から遠ざかっていった。

 リリィは、サラリーマンの後ろ姿を呆れた顔で見つめた。

「もうすぐ夜が明けるというのに、今まで仕事をしてたのかしら? 今日は月曜日なのに、この後仕事に行かないのかしらね?」


 リリィは思いついたように笑顔を見せると、正面の赤信号を見つめている運転席の黑に言った。

「ねぇ、パパ。集合的無意識への出入口を見つけたわ。あのサラリーマンの心から集合的無意識に入って、悪魔の帝国へ行ってくるわね。一昨日の夜に人間界で生まれた新人の悪魔が、どんなにぶっ壊れた困ったちゃんなのかを見物して、その新人ちゃんをちょっとからかってくるわね〜っ!」

「リリィは悪魔の帝国へ行くが好きではないのに、珍しいね」

 リリィは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「伝達事項なんかで招集されるのはまっぴら! 全然面白くないもの! でも、面白いことのために行くのなら別よ〜っ! めっちゃワクワクするの〜っ!」

 リリィは黒い液体のような姿に変身し、SUV車のドアを通り抜けると、空中を飛んでサラリーマンに近づき、その背中に吸い込まれるように消えていった。


 波一つない穏やかな湖が果てしなく広がり、仄かに白く光る何もない空間が湖を覆っていた。その湖の上には、先ほどリリィが見かけたサラリーマンが立っていたが、サラリーマンは眠っているかのような顔で棒立ちになっていた。


 意識がないまま湖水の上に立っているサラリーマンの背中から黒い液体のようなものが飛び出し、その物体は空中で悪魔クロリリィの姿に変化した。クロリリィはサラリーマンと向かい合って宙に浮かび、サラリーマンの姿を見つめ、ニヤリと笑った。


『ちくしょう! もう一か月もあいつから連絡がない。俺たち、このまま自然消滅しちゃうのかよ!』

 クロリリィがいる空間にサラリーマンの声が響くと、空を覆い尽くすほどの大きな映像がクロリリィの頭上に浮かび上がった。

 クロリリィが映像を見上げると、サラリーマンの左手が持っているスマートフォンの画面が見え、その奥にはサラリーマンの膝、ローテーブルとその上に並べられたアルコール飲料の缶があり、さらにその奥にはテレビとカーテンが見えた。スマートフォンの画面に表示されているのはSNSのチャット画面であり、そこにはサラリーマンから相手に返信を求めるメッセージだけが並んでおり、相手からの返信はなかった。


 その頃、サラリーマンは自分が住んでいるアパートの中で、六畳ほどの部屋に置かれた二人がけのソファに座っていた。ソファの正面にはローテーブルがあり、その奥にはテレビが置かれ、それらの右側にはシングルベッドが置かれ、部屋の左側はキッチンと繋がっていた。ローテーブルの上には、先ほどコンビニエンスストアで購入したアルコール飲料の缶が並べられていた。

 サラリーマンは左手でスマートフォンを持ち、右手で操作していたが、やがてスマートフォンを画面を下に向けてローテーブルの上に置くと、アルコール飲料のタブを開けてゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲んだ。サラリーマンは右手にアルコール飲料を持ちながら、険しい表情を浮かべて心の中で叫んだ。

『ちくしょう、何で返事がないんだよ! もう、今日は一日やけ酒だ!』


 その様子はサラリーマンの目に映る映像として、クロリリィがいる空間に映し出され、クロリリィは楽しそうな笑みを浮かべて見上げていた。 

「あら〜っ。悪魔の帝国へ行く出入口として、このおっちゃんの意識の中に侵入したけど、なかなか面白そうな状況じゃない? あ〜っ、おっちゃんが飲んでいるおさけの匂いと味を感じるわ〜っ。このアルコールってやつの匂いと味って、どうも苦手なのよね〜」

 クロリリィの周囲の空間に、サラリーマンと若い女性が楽しそうに話をしている光景や、一緒にドライブをしている光景などが出現した。

「あら〜っ。どうして人間って、過去の出来事なんてものに執着して、時々こうやって思い出すのかしらね〜。このおっちゃんにとっては幸せだった思い出なんでしょ〜けど、もう二度と戻ってこない幻に過ぎないのに」

 クロリリィは、周囲の空間に映し出されているサラリーマンが回想している記憶を冷ややかな目で見つめた。


 クロリリィは、正面で湖水の上に立つサラリーマンの頬をペチペチと軽く叩きながら、全く反応がなく目を閉じているサラリーマンに楽しそうな笑顔で言った。

「ここはおっちゃんの意識の世界。おっちゃんが五感で感じていること、考えていること、思うこと、思い出していること、感情……、おっちゃんが今意識に浮かべていることは、ここにいると全部筒抜けなのよ。でも……、おっちゃんの姿をしたこの『意識の中枢』が無表情で全く反応がないのを見ると、無性にこの顔を苦しみで歪ませたくなるのよね〜」

 クロリリィの笑顔の中の目が、冷たい光を放った。


 クロリリィは足下の湖水を見つめた。サラリーマンの姿をした意識の中枢の足の裏からは、銀色に光る無数の糸が湖の深い部分に向かって伸びており、その中の一本が強く光り輝いていた。クロリリィは強く光る糸を見ながらニヤリと笑った。

「湖のように見える意識の下に広がる潜在意識の世界には、今までの人生で経験した全ての記憶、感情、思考……、おっちゃんの個人情報がぜ〜んぶ保存されているのよ。この光るエネルギーの糸『アカコード』は、潜在意識の中で枝分かれを繰り返してあらゆる記憶と繋がっているの。そして、強く光っているこのアカコードは、おっちゃんの意識の中枢と今盛んにデータのやり取りをしている特定の記憶と繋がっている。ちょっと、その記憶を覗いてみようかしら?」

 クロリリィは楽しそうに笑いながら湖の中に飛び込んだが、湖水のように見えたものは飛沫を上げることも、波打つこともなく、静かなままだった。


 クロリリィは強く光り輝くアカコードの伸びる先に向かって、湖水のように見える空間を深く潜っていった。その空間には、様々な大きさで色とりどりの風船のようなエネルギーの塊が揺らめいていており、その塊には枝分かれを繰り返したアカコードが繋がっていた。エネルギーの塊は、似た色同士でくっつき合ってぶどうの房のようになっているものが沢山あった。

 クロリリィはエネルギーの塊の間を縫って、空を自由に飛ぶように潜在意識の世界を深く潜り続けた。

『記憶や感情、思考……、全ては心のエネルギーの塊として潜在意識の中に存在している。そして、近い波動を持つ塊は引き寄せ合ってぶどうの房のようになっている……。人間の意識は、ぶどうの房みたいになったネガティブな記憶の集合体とデータのやり取りを始めると、ネガティブな記憶と感情の想起に連続して襲われ続けて、いつまでも苦しみ続ける沼に堕ちるのよ。このおっちゃんの意識の中枢が盛んにデータ通信をしている記憶も、どでかいネガティブな記憶の集合体になっていれば、めっちゃ面白いんだけどね〜』


「あった!」

 周囲が暗くなった潜在意識の深い空間の中で、クロリリィは銀色に強く光り輝くアカコードと繋がっているバラ色と黒がまだらになったエネルギーの塊を見つけた。そのエネルギーの塊はソフトボールのような大きさで、大小様々な大きさのバラ色のエネルギーの塊とくっつき合ってぶどうの房のようになっていたが、バラ色と黒のまだらの塊から他の塊に向かって黒い色が広がりつつあり、徐々に房全体が黒く変色しているようだった。

 バラ色と黒のまだらのエネルギーの塊のすぐ近くには、たくさんのどす黒いエネルギーの塊が浮かんでおり、バラ色と黒のまだらの塊に引き寄せられてゆっくりと近づいていた。それらのどす黒い塊は、黒い雪のようなものを潜在意識の底に向かって放出していた。

「ふふふっ。ネガティブな心のエネルギーの欠片をたくさん放出しているわね。これは潜在意識の底にある全ての人間の心と繋がっている領域『集合的無意識』に到達して、新しい悪魔を生み出すエレメントになるのよ。ふふふっ、あたしたち悪魔はおっちゃんたち人間が生み出しているんだから〜、あたしたちが人間に何をしても因果応報ってものなのよ〜」

 クロリリィはバラ色と黒のまだらのエネルギーの塊に右手を当てると、目を瞑った。

「さあ、おっちゃんの意識が囚われている記憶を観せてもらうわよ。ふふふっ」


 クロリリィの脳裏に、サラリーマンが恋人と幸せに過ごしている記憶が走馬灯のように次々と浮かび、続けてふたりが口喧嘩をしている記憶、サラリーマンがSNSで恋人に謝罪のメッセージを何度も送り、返信がなくて落ち込んでいる記憶が浮かんだ。

 クロリリィは楽しそうに笑いながら、潜在意識の中を上昇していった。

「よくあるつまんない記憶ね〜。恋愛なんて、一時の感情と思い込みでしかない幻なのに、そんなもので一喜一憂する人間って、本当におバカな生き物よね〜っ! まあ、悪魔が人間を苦しめるための有効なツールにはなるけれど。さあ、あたしが、おっちゃんのよくある平凡な苦しみを面白く盛り上げてあげるわよ。あたしがつくった偽の記憶でね。ふふふっ」

 クロリリィは楽しそうに笑いながら、湖面のように見える潜在意識の世界と意識の世界の境界付近まで上昇すると、右手にゴルフボール大の黒いエネルギーの塊を出現させ、真上に見えるサラリーマンの意識の中枢の足の裏から伸びるたくさんのアカコードの中の強く輝きを放つ一本に、その塊を貼り付けた。

「さあ、これからが面白くなるわ〜っ! ワクワクするわね〜っ!」

 クロリリィは満面の笑みで、潜在意識の世界から飛び出した。


 意識の世界に戻ったクロリリィが上に目を向けると、上空に映し出されているサラリーマンが見ている光景が揺らめいていた。

「何だか意識が混沌としてきたわ〜。この映像と合わせて考えると、飲めないお酒を飲んで眠ってしまう直前というところかしらね」


 上空に見える映像が消えるとともに、サラリーマンの意識の中枢が目を開いた。

「絶好のタイミングで眠っちゃったのね〜。さあ、これからおっちゃんが見る夢は、あたしが原作、脚本、演出、監督をした傑作なんだから楽しんでね〜」

 楽しくてたまらないといった表情のクロリリィが見つめる前で、サラリーマンの意識の中枢は目を開いたまま、湖のような潜在意識の世界に沈んでいった。


 クロリリィが潜在意識の世界に潜ると、サラリーマンの意識の中枢は、クロリリィがつくった黒いエネルギーの塊の中に吸い込まれるように消えていき、クロリリィもニヤニヤしながら黒いエネルギーの塊の中に入っていった。


 黒いエネルギーの塊の中は、深夜の商店街になっており、クロリリィが空に浮かんで商店街を見下ろすと、仕事帰りにアルコール飲料を購入してコンビニエンスストアから出てくるサラリーマンの意識の中枢を見かけた。


 サラリーマンの意識の中枢は、足早に家路を歩きながら、頭の中で恋人のことを考えていた。

『何で連絡をしてこないんだ? まさか、あいつには他に男が? いや、俺は本気で嫌われているんじゃないか?』

 サラリーマンの意識の中枢は、突然目を見開いて足を止めた。

『い、いや、そういえば、こんなことがあった……』

 サラリーマンの意識の中枢の脳裏に、クロリリィがつくった偽の記憶が蘇った。その記憶は、サラリーマンが彼女の家に行った時、彼女が冷蔵庫の扉を閉める瞬間、扉の隙間から若い男性の頭部と右手が冷蔵庫の中にあるのが見えたというものだった。


『あ、あれは確かに人間の体の一部だった……。はっ、そ、そういえば……』

 サラリーマンの意識の中枢の中で、別の偽の記憶が蘇った。彼女と一緒に街中を歩いている時、突然のビル風で彼女のセミロングの髪が大きくなびき、髪の隙間から頭皮にある不気味に笑う口が一瞬見えた。

『あ、あのとき一瞬見えたものは……? あ、あいつは人間じゃないのか……? 妖怪……、いや、異星人かも……。うわああああああああああああああっ!』

 見る見る顔から血の気が引いていったサラリーマンの意識の中枢は、持っていたビジネスバッグとアルコール飲料が入ったレジ袋を思わず手放した。


「今まで連絡しなくて、ごめんねぇ〜」

 背後から恋人の声が聞こえ、サラリーマンの意識の中枢は、振り返った瞬間、恐怖で表情を凍りつかせた。

「だって、人間の姿に変身ができなくなっちゃったの〜」

 サラリーマンの意識の中枢の視線の先では、サラリーマンの恋人が狂気を感じさせる笑みを浮かべ、セミロングの髪の隙間からたくさんの不気味な口を覗かせ、左右の手で握った出刃包丁を振り回しながら走って近づいていた。

 サラリーマンの意識の中枢は、恐怖のあまり全身が凍りついたように身動きできず、恋人はその三メートル手前で立ち止まると、表情から狂気が消えて爽やかな微笑みを浮かべた。

「あなたのことが大好きなの……」

 恋人の髪の間にあるたくさんの不気味な口が、エコーがかかったような声で続けた。

「……食べちゃいたいくらいにねぇええええええっ!」

 恋人は再び狂気で歪んだ笑みを見せると、サラリーマンの意識の中枢に向けて左右の出刃包丁を振りかぶった。

「ぎゃああああああああっ! 助けてえええええええええええっ!」


 サラリーマンの意識の中枢は絶叫しながら逃げ出し、恋人は狂気に満ちた笑みを浮かべ、出刃包丁を両手で振り回しながらサラリーマンの意識の中枢を追って駆け出した。

 サラリーマンの意識の中枢の背後から「待って〜っ!」という大人数の声が響き、サラリーマンの意識の中枢は、恐る恐る背後を振り返って目を見張った。

 自分を追ってくる恋人の背後には、同じ姿をした恋人が二十人おり、髪の間にあるたくさんの不気味な口から「待って〜っ!」と叫び声を上げ、狂ったように笑いながら左右の手で持った出刃包丁を振り回して迫っていた。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!」


 その様子を見たクロリリィは両手で腹を抱えて笑い、必死に逃げるサラリーマンの意識の中枢の背中に向かって叫んだ。

「この夢の世界っていうのは、バーチャル空間で実体がないのよ〜っ! VRのホラーゲームをしてるのと同じだから、目一杯楽しんでね〜! さあ、これで心置きなく悪魔の帝国に行けるわねっ!」

 クロリリィは満面の笑みで黒いエネルギーの塊から飛び出すと、潜在意識の世界を深く深く潜っていった。 

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