12 胸の奥が何だか温かい
町の道路では、ヴァンパイアと化した河童が、水でできた長さ十メートルの刀を軽々と振り回し、ナツは灼熱之槍を持ったまま走り回ってそれを避けていた。長過ぎる水でできた刀は次々と周辺の電柱に命中し、刀が当たった電柱は一瞬で切断されて道路に倒れていった。
ナツは冷静に水の刀の太刀筋を読んで避けていたが、内心では非常に焦っていた。
『客観的に考えて、こんなに長い刀をこのスピードで操られると、全く近づくことができない! リーチの長い高速の攻撃が止むことなく連続していて、術を発動させる隙もない!』
その時、ヴァンパイアと化したじーさんが両掌から発射した直径一メートルの水の塊がナツの背中に命中し、ナツは悲鳴を上げながら正面に向かって空中を吹き飛んだ。ナツの目の前では、邪悪な笑みを浮かべる河童が水の刀を大きく振りかぶって待ち構えていた。
「頭から真っ二つにしてやるぜええええええええーっ!」
ヴァンパイアに支配された河童が、ナツを目がけて水の刀を全力で振り下ろした。ナツは、もの凄いスピードで迫る水の刀を愕然として見つめた。
『空中では刀をかわせない!』
水の刀はナツの頭に迫り、ナツは刀が当たる直前に灼熱之槍を握っている手の感覚に気づくと、灼熱之槍で地面を突いて横に跳び、間一髪で水の刀の斬撃を避けたが、水の刀は地面を突いた灼熱之槍の柄を切断して、そのままアスファルトで覆われた地面深くまで突き刺さった。
ナツは着地した瞬間に、激痛で叫び声を上げた。
「ぐああああああっ!」
ナツの右大腿の外側には、水でできた長さ一メートルの手槍が突き刺さっており、やがて手槍は液状の水に変わると、ナツの右脚を伝って地面に流れ落ちた。ナツが痛みに耐えながら右側に目を向けると、ヴァンパイアと化したじーさんが邪悪な笑みを浮かべながら、ナツに右掌を向けて二十メートル先に立っていた。
『あいつの攻撃か? 客観的に考えて、二対一では全ての攻撃を避け切るのは困難だ! どうすればいい?』
ナツは冷や汗を流して目を見開き、激しく動揺していた。
二体の大ムカデの死骸が横たわる洞窟では、鏡太朗が毒による激痛に耐えながら座り込み、目の前で地面に横たわって眠っている芽衣里の魂を見つめて涙を流し続けていた。鏡太朗の背後では、クロリリィが鏡太朗の後ろ姿を見つめながら、哀しい表情を浮かべて立っていた。
『鏡太朗……。毒で全身に激痛が走ってるはずなのに、そんな時でも、自分のことより他の人間のことが大事なの? 本当にあなたはバカよ……』
鏡太朗を見つめるクロリリィの目には、涙が滲んでいた。
「クロリリィちゃん……」
振り向いた鏡太朗の顔を見た瞬間、クロリリィの息が止まった。鏡太朗の表情には悲しみが満ちており、その両目からは大粒の涙が溢れ続けていた。
『何だろう? 鏡太朗の悲しみを感じて、胸が苦しい……』
クロリリィの目から、一筋の涙が零れた。
『え? 何であたし泣いてるの?』
クロリリィは自然に湧き上がる自分の感情を理解できずに、動揺していた。
鏡太朗は大きな悲しみに全身を打ち震わせ、涙を流し続けながらクロリリィに言った。
「クロリリィちゃん……。俺……、芽衣里ちゃんの壊れた心を元に戻してあげたいよ……。そのためなら、どんな犠牲を払ったっていい……。俺のことなんてどうなったっていいよ……。だから、誰でもいい……、誰か芽衣里ちゃんを助けて欲しい……。助けて……。お願いだから、誰か助けて……。誰か……」
鏡太朗は俯いて拳を握り締め、体を大きく震わせた。
「誰か芽衣里ちゃんを助けてええええええええええええええっ!」
鏡太朗は顔を上げてありったけの力と想いを込めて絶叫すると、その場に崩れ、うつ伏せになって泣き続けた。
鏡太朗を見つめるクロリリィの目からは大粒の涙が溢れ、胸に込み上げる悲しみの感情をこらえて体が小刻みに震えていた。
「芽衣里!」
鏡太朗の上方から声が聞こえ、声の方を見上げた鏡太朗とクロリリィは目を大きく見開いた。二人の視線の先には白い光の粒が浮かんでおり、光の粒は芽衣里の隣まで降りてくると、彩奏の姿に変わった。
「あ、彩奏さん?」
鏡太朗が驚いて叫ぶと、両膝をついて芽衣里の上半身を抱えた彩奏は、鏡太朗に笑顔を向けた。
「あたしだけじゃないよ。見て!」
鏡太朗とクロリリィは彩奏の視線の先に目を向けると、再び驚愕した。大ムカデの死骸から次々と白い光の粒が飛び出しており、白い光の粒は地面の上で人の姿に変わった。鏡太朗の目の前で大ムカデに呑み込まれた全ての幽霊の姿がそこにあり、皆嬉しそうに微笑みを浮かべていた。
「ん……」
芽衣里が眠りから覚めて目を開いた。芽衣里の目の前には、芽衣里の上半身を抱きかかえている彩奏の笑顔があり、芽衣里の目が大きく見開いた。
「彩奏ねーちゃん!」
「芽衣里!」
彩奏と芽衣里は涙を流して抱き合った。二人の頬を濡らす涙は、喜びで煌めいていた。
「い、一体どうなってるの?」
クロリリィは呆然として呟いた。クロリリィの背後に立っている若い女性の幽霊が、クロリリィに言った。
「あたしもよくわからないんだけど……、大ムカデに呑み込まれてからずっと暗闇の中にいて、そこでは体や魂の感覚もなくて、あ、あたし、無になったんだって思ったの。でも、しばらくしたら、突然誰かの叫び声が聞こえたような気がして、声の方から白い光が広がって、気がついたら洞窟の中に戻ってたの」
クロリリィは愕然として、地面に横たわる鏡太朗の姿を見つめた。
『誰かの叫び声? あの時の鏡太朗の叫び声だわ! もしかして……鏡太朗の想いが、大ムカデに吸収されて無になる直前の魂を救い出した……?』
鏡太朗の顔は幸せと喜びで輝き、目からは歓喜の涙が流れ続けていた。
町中では、ヴァンパイアと化した河童が邪悪な顔に喜悦の表情を浮かべ、長さ十メートルの水でできた刀を振り回していた。
「ほらほら、素早く避けないと斬っちゃうぜ」
切断された灼熱之槍の柄を投げ捨てたナツは、大腿から血を流す右脚を引きずりながら、河童が振る水の刀を紙一重で地面に転がって避けていた。河童は、猫がネズミをいたぶるように、ナツが必死に水の刀から逃げ回る様子を楽しんでいた。
転がって水の刀を避け、立ち上がったナツの左側に、ヴァンパイアと化したじーさんが素早く移動して、薄笑いを浮かべながら右掌をナツに向けた。
「これならどうだ?」
じーさんの右掌から水でできた手槍が発射され、ナツの左大腿に突き刺さった。
「ぐわっ!」
ナツは地面に転がり、手槍は液状になってアスファルトの上に水溜りをつくった。ナツは両脚の痛みに耐えながら、両手を使って腹這いになって逃げようとした。
河童は腹を立てて、じーさんに文句を言った。
「せっかく楽しんでたのに、これじゃあ面白くないだろ?」
じーさんも腹を立てて言い返した。
「俺にも楽しませろよ! なあ、もう遊ぶのは終わりにして、こいつの生き血をいただこうぜ」
河童は溜息をついた。
「しょうがないな。まあ、俺も腹ペコだし、そうするか!」
河童は残酷な冷たい笑みを浮かべると、長さ十メートルの水の刀を高く構えた。
「さあ、約束通り、首を刎ねてお前の生き血を飲み干してやるぜ」
『ダメだ! もう逃げられない!』
ナツは、逃れることができない死が目前に迫っていることを悟った。
「確かに魔力の結界があったわ!」
洞窟の中では、クロリリィが天井に空いた穴からゆっくりと降下しており、穴の中に入って確認した結果を地上の鏡太朗たちに伝えていた。
地面の上では、鏡太朗は毒による激痛で顔を歪めながら横たわっており、その周囲には芽衣里と彩奏、他の幽霊たちが立ち、クロリリィを見上げながら落胆の表情を浮かべていた。
芽衣里は振り返ると、後ろから自分を抱きかかえている彩奏の顔を見上げた。
「彩奏ねーちゃん、あたしたち、ずっとここから出られないの?」
彩奏は困った顔をして、芽衣里に返す言葉を探していた。
「出られるわよ」
地面に降りたクロリリィがそう言うと、その場にいる誰もが驚きの表情を見せた。クロリリィは笑顔で続けた。
「この洞窟は魔力の壁で囲まれてるのよ。壁は土の中にあって、露出してるのは天井の穴の部分だけ。まあ、あなたたちの目では、見えないでしょーけど。そして、魔力の効果は魂だけの存在、つまりあなたたちが壁を通り抜けられないというものみたいね。その証拠に、あたしは普通に壁を抜けることができたわ。あたしは瞬間移動ができるけど、きっとあなたたちを連れて行こうとしても、あなたたちは絶対にここから出られない。あなたたちがここから出るためには、魔力の壁をなくすしかない」
彩奏たちは不安そうな表情を浮かべて、クロリリィの話を聞いていた。起き上がることができない鏡太朗も、毒がもたらす激痛に耐えながら、クロリリィの話を真剣に聞いていた。
クロリリィは、彩奏たちの背後で地面に横たわって自分を見つめる鏡太朗に視線を向けながら、温かい笑顔を見せた。
「まあ、あたしに任せることね」
そう言うと、クロリリィは再び天井の穴に向かって上昇していった。
『あたしって、一体何をやってるのかしら? 人間を助ける? このあたしが? いつものあたしなら、人間たちを期待させて、それを裏切って、その時の人間の落胆や悲しみや怒りを見て楽しむところだけど……』
クロリリィの心に鏡太朗の記憶が蘇った。
記憶の中の鏡太朗は地面に座り込み、横たわって眠る芽衣里の魂を見つめていた。鏡太朗はクロリリィの方を振り返ると、悲しみに打ちのめされた顔で涙を流していた。
その顔を思い出した瞬間、クロリリィは胸が締めつけられるように感じ、思わず胸に右手を当てた。
『鏡太朗を見てると、全然そんな気にならない。本当にあたしって、病気にかかったのかしら〜?』
クロリリィは天井の穴に二メートルほど進入した。クロリリィが見上げる何もない空間は、クロリリィの目には白い光の壁が穴を塞いでいるのが見えていた。クロリリィは右手に黒マジックを出現させると、光の壁に『くろりりぃ』と書いた。
「さあ、魔力の結界にあたしの紋章を刻んだわ。出でよ、我を導く悪魔の書よ!」
クロリリィは両手に悪魔の書を出現させると、真ん中のページを開いた。
「悪魔の書よ! この魔力の結界の魔力をことごとく吸い尽くしなさい!」
洞窟中の土の中から白い光が現れて洞窟の中を満たしていった。その光は鏡太朗や彩奏たちの目にも映り、鏡太朗たちは驚きの表情で周囲を満たしていく白い光を見つめた。
やがて、全ての白い光はクロリリィの悪魔の書に吸い込まれ、洞窟は元の薄暗い状態に戻った。
クロリリィは穴から出ると、笑顔を浮かべて地面まで降下し、地面に横たわる鏡太朗の隣に立った。
「結界はなくなったわ。外に出られるわよ」
幽霊たちは一斉に歓声を上げた。
「二人ともありがとう!」
幽霊たちはクロリリィと鏡太朗に満面の笑みでお礼を言うと、白い光の粒になって上昇し、天井の土を通り抜けて消えていった。
彩奏は鏡太朗とクロリリィの顔を交互に見つめ、その笑顔に涙を浮かべた。
「本当にありがとう! 言葉じゃ伝えられないほど二人には感謝してるよ! この感謝の気持ちは一生……じゃなかった、永遠に忘れない!」
芽衣里は膝をつくと、仰向けに寝ている鏡太朗の右手を両手で握ろうとしたが、芽衣里の両手は鏡太朗の右手を通り抜けた。芽衣里は悲しそうな表情に涙を浮かべ、声を詰まらせながら鏡太朗に言った。
「あたしたちのせいで、こんなにボロボロになって……、毒にもやられて苦しんで……、本当にごめんなさい……」
鏡太朗は芽衣里に優しい微笑みを向けた。
「芽衣里ちゃんのせいじゃないよ。俺は芽衣里ちゃんが泣いていた時、本当に悲しかった。でも、芽衣里ちゃんが笑ってくれた時は、本当に嬉しかったんだ。俺の人生の中でも、とびっきりの幸せな気持ちだったんだよ。そんな大きな幸せをもらえて、芽衣里ちゃんには心から感謝してるよ。俺に幸せを贈ってくれてありがとう」
芽衣里は涙を流しながら、笑顔で鏡太朗に抱きついた。しかし、芽衣里の体は鏡太朗の体を通り抜けた。
鏡太朗は驚いた笑顔を見せた。
「今、芽衣里ちゃんの温もりを感じたよ!」
クロリリィは嬉しそうな微笑みを浮かべながら、そんな鏡太朗と芽衣里の姿を見つめていた。芽衣里は立ち上がると、クロリリィに抱きついた。芽衣里の体は、クロリリィの体を通り抜けることがなく、芽衣里は力いっぱいクロリリィを抱き締めると、幸せいっぱいの笑顔に涙を浮かべた。
「クロリリィねーちゃん、ありがとう!」
クロリリィは芽衣里に抱きしめられながら、面食らった顔をしていた。
『何だろう? 胸の奥が何だか温かい……』
芽衣里は彩奏の隣まで走っていくと、鏡太朗とクロリリィに向かって叫んだ。
「ありがとう、鏡太朗にーちゃん! クロリリィねーちゃん! 二人とも大好きーっ!」
芽衣里はそう言い残すと、彩奏と一緒に白い光の粒に姿を変え、天井の穴から空高く飛んで行った。
「本当によかった……。クロリリィちゃん、本当にありがとう! 全部クロリリィちゃんのお陰だよ」
クロリリィは鏡太朗に顔を向けた瞬間、時が止まったように感じた。涙を浮かべて幸せそうに笑う鏡太朗の顔は、包み込むような優しさが溢れていた。
言葉を失ってただ鏡太朗を見つめるクロリリィの頬は、いつの間にか赤く染まっていた。
「誰だあああああっ? 俺の結界を破りやがったのはあああああああああっ?」
突如として、洞窟中を揺るがすような太い声が天井から響き渡り、驚いた鏡太朗とクロリリィが天井の穴に目を向けると、直径五メートルの穴から人間に似た形の巨大な魔物がゆっくりと降下していた。
緊張の表情の鏡太朗と、平然とした表情のクロリリィが注視する中、魔物は地面に降り立った。鏡太朗は魔物の姿を見て愕然とした。
人間の男性に似た容貌の巨大な魔物は、平安時代中期の貴族が着用していた直衣に似た白い服を着用し、赤い髪の毛を束ねて黒い烏帽子をかぶり、足には浅沓と呼ばれる木製の黒い履物を履き、右手には神楽笛に似た横笛を持っていた。その身長は十メートル近くあり、人間のような顔は目の部分が窪んで穴になっており、二つの眼球はオレンジ色の光の尾を引きながら、魔物の体の周囲を飛び回っていた。
クロリリィは目の前の魔物の姿には全く動じておらず、呑気に笑みを浮かべながら呟いた。
「見たこともない魔物ね〜。出でよ、我を導く悪魔の書よ!」
クロリリィは両手の中に古びた大きな革表紙の本を出現させると、真ん中のページを開いた。
「悪魔の書よ! この魔物の魔力レベルを我に解き明かしなさい!」
クロリリィが持つ悪魔の書の右のページに目の前の魔物の絵が浮き上がり、その絵の上に『八千億』という数字が浮かび上がった。
「魔力レベルが八千億クロウリー? そんなメチャクチャな魔力量は見たことないわ! この前もみじと契約して魔力をもらった霊術天狗って魔物の一万体分に相当するわよ! こんな魔物が存在するなんて!」
魔物の周囲を飛び回っていた二つの眼球が、大ムカデ二体の死骸の近くまでそれぞれ飛んで行くと、死骸をじっと見つめ、魔物は洞窟を揺るがすような大声で怒声を上げた。
「俺の大ムカデを殺したのは誰だあああああっ? お前たちかああああああっ?」
二つの眼球は鏡太朗とクロリリィの目前で滞空し、その赤い瞳が鏡太朗とクロリリィを射るような眼光で凝視した。
鏡太朗は毒による全身の痛みに耐えてヨロヨロと立ち上がると、大きな緊張と不安を感じながら、魔物に向かって叫んだ。
「大ムカデを殺したのは俺だーっ! あんたは大ムカデとどんな関係だーっ?」
魔物は鏡太朗の問いかけには答えず、手にしていた横笛を奏で始めた。すると、洞窟の中の空気が笛の音色に合わせて振動し、鏡太朗とクロリリィの目の前に十八人の若い男女が突然姿を現した。
「ど、どこなんだ? ここは?」
「あれ? 俺、さっきまで大学に向かって歩いてたんだけど……? 何で突然こんな場所に?」
「きゃーっ! 何あれ! 怪物よーっ!」
十八人の男女は、自分たちがいつの間にか洞窟の中に移動していたことに驚き、目の前の巨大な魔物の姿に恐れおののいた。
魔物の二つの眼球は十八人の男女を見定めるかのように、横に移動して視線を順に送り、魔物本体の口が大音量の声を発した。
「俺は姿を見えなくして人間が大勢いる場所へ行き、お前たちをこの笛の旋律に変えて捕獲したのだ。これからお前たちは、食われるためだけに存在するのだ!」
十八人の男女は顔色を失い、あまりの恐怖に体が硬直していた。一人の女性が恐る恐る魔物に訊いた。
「あ……、あたしたちを……た、食べるの……?」
女性がそう言った直後、魔物の眼球の一つが女性の顔の真正面に移動し、女性の一メートル前に滞空した。目の前でじっと自分を見つめる巨大な眼球に恐怖した女性は、腰が抜けたようにその場に座り込み、体をガタガタと震わせた。
魔物は一体の大ムカデの死骸のそばまで歩いて行くと、大ムカデの頭を右手で鷲掴みにした。魔物の指は大ムカデの硬い体に突き刺さり、魔物は右手で大ムカデの体を軽々と持ち上げると、周囲に響き渡る雷鳴のような大声を発した。
「お前たちはこの大ムカデの餌だ! そして俺はこの大ムカデを食らうのさ!」
魔物は大ムカデの頭にかじりつくと、簡単にその一部を食いちぎり、バリバリと音を立てて咀嚼した。その光景を見た若者たちは、ますます顔から血の気が引いていき、腰を抜かして座り込んだ。
「お前が……、お前が芽衣里ちゃんや彩奏さんたちを苦しめていたのかーっ!」
魔物の言葉を聞いた鏡太朗は、燃え上がるような怒りに突き動かされて魔物を睨んだ。激しい怒りに満ちたその目には涙が滲み、今にも爆発しそうな沸き立つ怒りで全身が激しく打ち震えていた。




